古菲の修行に付き合うようになって数日が経った。
滝に打たれたり、鬼ごっこを繰り返したり、後は突きをやるだけで『気』の訓練になるかと少し疑問だったが徐々に『気』の量は増えている。
最初の方は彼女も半信半疑だったみたいだが、強くなっていることが実感できたことで次第にその疑念は薄れていったみたいだ。
良かった。これで効果無かったらごめんってレベルじゃないしな……。
原作であった、修行方法がそのまま適用できたみたいで助かった。
今後もこういうふうに彼女で実験していくことになるが、秋雨先生も弟子は実験するものとか言ってた気がするし構わないだろう。
目に見えて増えていることがわかるほどの『気』の量によって底上げされた、地の力。強くならないわけがない。
それに予想外の効果もあった。もちろんいい方向に。
鬼ごっこのおかげか、彼女の瞬動術の使い方が上手くなっているのだ。
特に成長がいちじるしいのは『入り』の部分だろう。
瞬動術は直線的に動くため、それが相手から読まれやすい。
そのため瞬動術に入るための地面を蹴る動作『入り』の部分はできるだけ静かに行う必要がある。
その動作がほぼ無音に近づいているのだ。
特に俺は技を見てから避けたり、受けたりするタイプなのでその初動を消さなければどっちに動くかすぐにバレてしまい、逃げられなくなる。
おそらくその技術だけならば他の武道四天王である『忍者』長瀬楓に迫っていると言っても過言ではない。
あの忍者は忍者というだけあってそういった、気配の消し方、動作の静かさには一日の長がある。
それに近づいているというだけでも成長のほどが見える。
こんなに簡単に技術が向上するのだろうかとも思ったがもともと中国拳法には活歩や弓歩、虚歩など様々な歩法が存在している。
彼女は今までに習得した部分を発展させているにすぎないのだろう。
だから数日程度で効果が出たのだ。
また、瞬動術の『掴み』の部分に関しても歩法の応用や八極拳の基本である震脚によってそのまま攻撃することを可能にしている。
つまり瞬動術によって発生したエネルギーを震脚によりロスすることなく、そのまま相手にぶつけるのだ。
これだけで一種の必殺技である。
しかも別の歩法と組み合わせることでフェイントも入れられる。
実用性ありすぎじゃねえか、これ。
こんなもの戦闘力53万がなければ相手にしたくない。
まあ相手からしたら53万と戦うだけで悪夢な気がするがそれは気にしない。
………
あれ?これ俺要らなくね?そのまま修練を積み重ねてればいずれ辿りつけたんじゃ……
まあ、それは気にしない方向で行こう。スランプに入ってたらしいしそういった基礎の部分に目が行かなかっただけだろう。
しかし、こんな簡単に強くなれるものなのか?
つくづく思うが漫画の修行って万能だな。
色々と疑問に思うこともあるが彼女の修行は割とうまく行っている。
そして今日も彼女の修行に付き合っている訳だ。
「1021、1022、1023……」
いつも通り滝行や鬼ごっこを終え、突きの練習に入っていた。
例の感謝の1万回とは言わないが気を整え、構えて突くと言う動作を繰り返させている。
さすがに念のない世界で感謝の1万回やったとしても制約と誓約なんてものはないし、そもそもああいった能力が発現しないと思うので祈りの動作についてはやらせていない。
また放課後から1万回もやってたらそれだけで日が暮れてしまうので回数もその時によってまばらだ。
滝行や鬼ごっこによる疲れ具合も見ながら適当に回数を調整している。
……っとそろそろかな?
この辺でいいだろうということで終わりの合図をする。
「古菲、その辺で終わりな」
「ん?まだ1000回位しかやってないアルよ?今日はこれで終わりアルか?」
「いや、そろそろ気の量も増えてきたしアレができるんじゃないかと思ってな」
そう言って以前から考えてたことを教えることにする。
すなわち気の抑制と開放だ。
説明しよう、気の抑制と開放とはドラゴンボールに出てくる気をコントロールする技術のことで、気を抑えることによって無駄なロスを減らし、また開放することによって適宜最大戦闘力によって戦えるようになる技法のことだ!
俺も気を抑える方に関しては結構お世話になっている。
まだまだ不完全で気を消すレベルまでは行っていないがそれでも人が死なないレベルにまでは修める事ができた。
これがなければ多分地球滅んでただろうな……
また開放の方についてはそんなに使えるわけではないが抑える訓練の一環で何度か試している。
そのたびに麻帆良に謎のクレーターが出来たり地震が起こったりしているがその辺は割愛する。
いつもごまかしてくれる認識阻害の結界さん本当に有難うございます。
アレなかったらどうなってたことやら……
と嫌な過去に遠い目になりそうになるがそれはおいておく。
「というわけで、古菲には気の抑制と開放を覚えてもらう」
「何がというわけなのネ?気の抑制?開放?なにアルかそれは」
そう聞かれたので簡単に気を自在にコントロールするための技術だと答える。
「気をコントロールアルか……確かにそれは必要そうネ。でどうやるアル?」
ん?どうやるって適当にこう、ぐぐっと抑えて、はああああああってやれば……
ってあれ?理論的にどうやってるんだっけ?
なんとか説明しようと唸るが特に思いつかない。
小一時間、頭を捻るが出てきた言葉は、
「なんか適当にやればできる」
そんな本当に理論もへったくれもないような言葉だった。
一瞬空気が凍るが、呆れたような感じで返された。
「師父は直感型だとは思っていたけれどまさかこれほどとは……せめて手本だけでも見せて欲しいネ」
あれ?今師匠としての威厳がどっかに飛んでったような……まあ気にしない。
で、手本ね。それならできるな。
「じゃあ、今から手本見せるから……ってちょっとストップ」
と流れにつられて一瞬開放しそうになったが慌てて止める。
いや今開放したら地震がどうとかクレーターがどうとか言ったばっかじゃん。
さすがにここでやるのは……
「どうしたアル?しないアルか?」
そうワクワクと急かすように聞いてくる。
………
ここでやめるのはなにか申し訳ない気がするがこれも世界平和のため、心を鬼にしてその言葉を口にする。
「キョウノシュギョウハオワリアルネ。カエッテユックリヤスムヨウニー」
なんか色々と台無しな気がするがなりふり構っていられない。
世界のためなんだ。わかってくれ。
そう言ってそろそろとその場を立ち去ろうとするが後ろからガッと腕を掴まれた。
「ま、まつアル。いきなり終わりなんてそんなのないネ。今手本見せてくれるって言ったアル」
そう言って少し泣きそうな顔でこっちを見てくる。
い、胃が痛い。
そういう顔されると弱いのわかっててやってるのか?
彼女はきっと将来男を泣かせる悪女になる(俺調べ)
まあ多分流されるのは俺だけだろうけど。
はあ、仕方ない……
「わかったよ。見せてやるからとりあえず離れろ。掴まれたままだと危ないからな」
そう言って掴まれた腕を離すように言う。
掴みっぱなしだとおそらく巻き込んで吹っ飛ぶ。
だからこれは当然のことだ。
それを納得したのだろう。笑顔になって腕を離す。
……やるか。
そう意を決すると俺は構え気を開放するようなモーションを取る。
これだけはやりたくなかったんだがなあ……
そして気を貯める"フリ"をしながら足に力を込める。
次の瞬間、俺の姿はその場から消えていた。
つまりこれは戦略的撤退!地球のためだ許せ弟子よ!
まあ身も蓋もないい方をすると逃げた。
さすが戦闘力53万逃げ足だって早いぜ!
あーあ、次あったときどうしようか……