俺の戦闘力は53万らしい   作:センチメンタル小室

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第14話

その場には二人の男が立っていた。

一人は赤い鉢巻をした道着をきた男。

もう一人は上半身裸のレスラーのような男である。

お互いに立ち会い、今か今かと闘いの時を待つ。

そして、その刹那闘いの合図がなされお互いに間合いを取った。

その闘いは一見地味なところから始まった。

お互い、牽制にフェイントとしてパンチのモーションを繰り返す。

間合いに入ってきた相手を反撃するための準備のようなものだ。

また、両者とも間合いを細かく変化しながら相手の様子をうかがう。

だがそんな様子に焦れたのかレスラーの男が急に間合いを詰めた。

それが悪かったのか相手の屈んだ状態からのキックが刺さる。

そしてそれにつなぐ軽いジャブ。

そこからは完全に道着をきた男の独壇場だった。

ついで、強烈な足払いがレスラーの男に入り動きがとれなくなったところを相手の回転キックが決まり男は倒れた。

そんな男を見て道着の男は挑発するようなポーズを取る。

起き上がってこいよ。まだ闘いは終わっていないだろう?という合図だろうか。

それに答えるようにレスラーの男は起き上がるがそれは悪手だった。

起き上がったところにまた道着の男のコンボが入る。

屈み中パンチから屈み中キックが入りそして男は腰のあたりで気を貯める。

まるでそれはドラゴンボールのかめはめ波さながらで威力は高く完全に相手のペースに飲まれていたレスラーの男に避けるすべはなかった。

気弾は放たれ男にあたりそれで勝負は終わった。

そして画面には"KO"の文字が表示された。

 

 

 

 

―――。

エヴァはゆっくりとゲームのコントローラーを地面においた。

 

「なんで貴様と格ゲーなんぞやらねばならんのだ!」

 

「いや、暇だったし……」

 

そう簡単に言う。

今日は休日だということで修業はお休みだ。

余り根詰めてやっても怪我とかするだけだしな。

それに、あんな別れ方してちょっと顔合わせづらいしちょうどよかった。

 

「暇だったからではないわ!ゲームがしたいならゲームセンターでもいけばいいだろう!」

 

「ゲーセン金かかるしそれに余裕で100連勝できるからつまんない」

 

最初の頃はゲーセンとかいったりしてたが簡単に勝てるのでつまらなくて行くのをやめてしまった。

反射神経の関係か1F単位で操作できるのでTASをやっている気分なのだ。

究極的に言えば格闘ゲームというものはじゃんけんである。

もし互いに1F単位で操作できるのであればそういうものに行き着いてしまう。

相手の動きを読み相手の攻撃のフレームより早い攻撃、もしくは強い攻撃を出しコンボをつないでダメージを与える。

極めきった者にとってはそういうゲームだ。

だがそんな人間そうそういるわけはなく、その辺のゲーセンなら勝てることが確定しているヌルゲーだ。

そんなもの俺tueeeeeがしたいなら楽しいだろうがすぐに飽きる。

というわけで同じく1F単位で操作できる達人クラスのエヴァのところで遊んでいるわけだ。

 

「私は暇ではないのだ!昨日言っただろう!やることがあると。暇ならばジジィと囲碁なり将棋なりしていろ!」

 

ああ、そういえばそうだったな。吸血して力を蓄えるんだったか。

なんか過去編とか更新が半年ほど遅れていたため、忘れ……うっ……頭が……

アーナンモナカッタ、メタ視点からの電波を受信したような気がしたが別にそんなことはなかった。

 

「嫌だよ。学園長超つええし」

 

偶に学園長と囲碁とか将棋とか打ったり指したりするがいまだに勝ったことがない。

あいつ初手天元とか矢倉打ってくるんだぜ、わけわかんねえよ。

 

「それにどうせやることって夜だろ?じゃあエヴァも暇じゃん。だからさ、ちょっとくらい、いいじゃん」

 

「ふん!これだから貴様は……」

 

そういいながらも彼女はまた次のゲームを始めようとする。

何?これがツンデレ?嫌だと言いながらも実は内心楽しんでるエヴァにゃんかわいい。

そんなことを考えているとエヴァがこちらを睨んでいるのが見えた。

 

「何か不愉快なことを考えているように感じたのだが?」

 

そう凍えるような目をしている。

言ったら追い出されそうだし適当にごまかしながら、またゲームに戻った。

 

 

 

 

 

 

―――。

 

「それで……いいのか?」

 

と、何戦かしていると唐突にエヴァが聞いてきた。

 

「ん?何が?」

 

心当りがないのでそう適当に返す。

 

「ダイオラマ球のことだ。アレを教えるということは『こちら側』に巻き込むことだろう?」

 

……。

そういえばそうじゃん……

ってこれ普通にまずくね?

いや別にオコジョにされる心配はしていない。

と言うかされそうになったら普通に逃げられる。

でも……。

と、動揺したのかコンボをミスる。

そのミスを見逃すエヴァではなかった。

そのままエヴァのターンになり、そのままコンボは続き、HPを10割持っていかれた。

そして、コントローラーを床に置きながら呆れた顔で話す。

 

「貴様、何も考えていなかったのか?」

 

はい。何も考えてませんでした。

結構、楽観的に考えてましたごめんなさい。

 

「お前がそういうやつだということは分かっていたが……少しは考えろ」

 

そう苦言を漏らす。

いや、普段から何も考えてないわけじゃないよ?

世界が滅ばないようにとか原作通り(ハッピーエンド)で終わるようにとかくらいは考えてる。

ただずっと考えていると……

いやこれ以上はやめておこう。

何か深みに嵌りそうだ。

 

「で?どうするつもりだ?」

 

どうするも何も教えることは確定してるし。

後のことは別になんとかなるだろうとも思っている。

 

「まあ、なんとかなるでしょ。先生方には何か言われそうだけど」

 

そう、楽観的に答えた。

それを聞いてエヴァは何かを思案するように頭を抱えている。

 

「まあ、貴様がそれでいいなら別にいい。(自覚がないのか?こいつは…)」

 

ん?最後の方なんかボソリとつぶやいてたみたいだけどなんだ?

それを聞こうとすると―――、

 

「マスター」

 

それは後ろから聞こえた声で遮られた。

 

「どうした?茶々丸」

 

その声に答えるようにエヴァは

 

「お茶の準備が出来ました。万さんもよろしければどうぞ」

 

現れたのは、耳のあたりに特徴的な突起物が付いた緑髪の女性だった。

―――絡繰茶々丸、超鈴音と葉加瀬聡美によって作られた魔術と科学の融合したロボットであり、エヴァンジェリンとドール契約を交わした魔法使いの従者(ミニステルマギ)である。

ふと、魔術と科学が交差する時、物語が始まるとか言っておきながら、魔術と科学とか関係なく異能ならば全部物理的にぶん殴って解決する『とある』主人公よりよっぽど交差してる存在だなと思った。

いや別にあの作品嫌いなわけじゃないよ?ホントダヨ?フリーザ様ウソツカナイ。

 

「では、ご相伴にあずかります」

 

何なのでお茶をいただくことにした。

茶々丸さんの入れるお茶とかお菓子とかうまいしな。

しかし、なんというか、茶々丸さん相手には、かしこまってしまう。

大人みたいな雰囲気というか、お姉さん?みたいな雰囲気のせいだろうか。

え?エヴァ?アレのどこに敬語使う要素あるんだよ。

初対面から最悪だぞ。

容姿もロリだしな!

そんな思考が漏れだしていたのか睨みつけるようにエヴァはこちらを見ている。

 

「なにか言ったか?」

 

イエナニモ。

 

「まあ、いい。さっきの話はここまでだ。で、ダイオラマ球を借りるのはいつにするんだ?」

 

「ん、ああ。なら明日で。早い方がいいだろうしな」

 

「そうか、ならそれでいいだろう。では明日の昼に来るといい」

 

そう答えるとエヴァはそのままウッドデッキの方に歩いて行った。

何だったんだろうか?

そんなに気にすることでもないか。

そう結論づけると俺もそれについて行き、入れられたお茶の席に座った。

そして、しばらくワイワイと話をしていたら日も暮れてきたので今日はお開きとなった。

まあ、お茶会では特に特筆するようなことは無かった。

いつも通りケーキを肴に茶をしばいておしまいだ。

ただ、ふと目についた時に見えるエヴァの表情が印象的だった。

まるで何かを憐れむような、懐かしむような表情で。

なんとなくムカついた。


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