俺の戦闘力は53万らしい   作:センチメンタル小室

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第10話

私がヤツと出会ったのは私が一番荒れている時期だった。

あいつは卒業の頃には迎えに来ると言ったのに来なかった。

そしてあいつが来なかったことでまた同じように中学をやり直すことになったのだ。

あいつが光の中に生きてみろというからなんとなく中学を過ごし、知り合いと呼べるような奴も何人か出来た。

学校に入ったことは無かったので色々と初めての体験もあってまあ色々と楽しかったが、やり直したことによって不都合が出ないように私の事を知っている者達の記憶はリセットされた。

600年近くは生きている。だから誰かを失うことは何度もあったがこんな風に裏切られ、そして何も残らないような経験は初めてだった。

それでも、こんなことをされてもあいつのことは忘れられず嫌いになれないのだから、つくづく救えない。

惚れた弱みというやつだろうか、だからといって許せるわけではない。

あいつにあったら思う存分ぶちまけてやろう。

それくらい許されるはずだ。

今ならそう言えるがその時はそんな風には思えなかった。

裏切られた苦しみと、全てが無に帰した喪失感と、やりきれないあいつへの思いでずっと苛立っていた。

そんな4月のある日の事だった。

何やら新入りが来るらしい。そうジジイから聞いた。

なんでも莫大な量の気の力を持ち、そしてそれをコントロール出来ないゆえに麻帆良に送られてくるらしい。

そういうよくある話だった。

たとえ一般人であっても強大な魔力を持って生まれてくることはある。今回はそれが気だったという話だろう。

それを保護という名目で受け入れるのも麻帆良の役割の一つだ。

現にこの麻帆良では気に目覚めた一般人というものは多数存在する。

そして今夜その顔合わせのために臨時の集会を開くから来いとの事だった。

だがそんな気を知っているだけの一般人に対して魔法の事、すなわち裏まで話すのは不可思議に思い聞いてみた。

曰く、あいつの、すなわちサウザンドマスターの魔力を気で換算した場合のおよそ数十倍、底が見えないためもしかしたら数百倍にも及ぶ、気の量を持っているらしい。

流石にそんな奴に対して裏を隠す意味は無いというか知ってないと逆に不味いということで教えるらしい。

その時はアホかと冗談か何かだと思っていたため特に気にすることもなくその集会を無視しようとも思ったが、まあ特にすることもなく暇だったので出てみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

―――

夜になり、いつも通り住んでいるログハウスを出て、麻帆良の世界樹前の公園に行こうとしている途中だった。

強者ゆえの嗅覚というもの、そんなものが不意に働いた。

また、不死の吸血鬼になったが故に生物としての生存本能は薄れているはずなのに命の危険を感じた。

そしてそれは麻帆良の中心、世界樹に近づく程に強くなっている。

まるで龍の巣の中に踏み入ろうとしているような感じだった。

どうやらジジイの言っていたことは冗談ではなかったらしい。

ほんの少し冷や汗が流れる。

だが、まあ見てみないことには話は始まらない。

そのまま集会所の方に向かうとちらほらと魔法生徒や魔法先生、まあ普段この麻帆良の警備員をしている者達が見えてきた。

どうやらもう大体の人間が集まっているようだ。

こちらの姿を確認したのか視線といくつかの敵意のようなものが感じられる。

もともと私は600万ドルもの賞金をかけられている賞金首だった。

『正義の魔法使い』とやらにはそれが気に入らないんだろう。

まあ、いつものことなので気にしてはいないが苛立っているせいか煩わしく感じる。

早くしろと思いながら突っ立っていると世界樹の前にジジィが現れ、話し始めた。

 

「うむ。大体集まったようじゃの。では、今から臨時の集会を始める。今日集まってもらったのは先に説明してあるが我々に新しい仲間が増えたことについてじゃ。五三君来なさい」

 

そう言ってジジィがその新入りらしい人物を近くに呼ぶ。

すると人混みの中から一人の少年が現れた。

そして、その少年を見たことでそこにいる全員がどよめき始める。

その少年の見た目はおよそ小学生くらいで10歳にも満たないような幼子だったのだから。

しかもそれだけではない。

この麻帆良において普段から警備をしているようなある一定より上の強者なら気づいただろう。

彼から漏れだす気の量の大きさに。

 

「ありえない」

 

そう誰かがつぶやく。

確かにありえないような気の量だ。

あんなもの存在自体がおかしい。

まあそんなバグみたいな奴らのことを何人か知っていたためあれくらいならなんとかなるかと思った。

まだアレは小学生くらいのただのガキだ。

聞いた話ではつい最近まで一般人だったみたいだし戦闘経験はほぼ無いに等しい。

やりようはある。

アレなら少しくらいちょっかいをかけてもいいだろう。

まあ憂さ晴らしだ。

不運だとは思うが犬に噛まれたとでも思ってくれ。

私はそんな良からぬことを考えていた。

後の自分からすればやめておけと全力で止められそうなことだったがその時の自分は色々とおかしかったのだろう。

気分も荒れていたしちょうどいい玩具が出来たなと思っていた。

 

「静かに。では五三君、自己紹介を頼む」

 

そうジジィが言うとあたりは静かになり、そして彼が話し始める。

 

「あ、今ご紹介に預かりました、五三です。フルネームは『五三 万』、53万って書いて五三です。なんか気の量が多いらしく普通の生活が困難ってことでこの麻帆良に来ました。迷惑をかけることも沢山あると思いますがよろしくお願いします」

 

そう、彼は簡潔に自己紹介を終えた。

パチパチと拍手が鳴る。

 

「うむ。まあ今回は彼の自己紹介とその顔合わせだけじゃ。彼は魔法は使えないので誰か他の魔法先生に師事するというわけではないが何らかの形で警備等についてもらうことがあると思う。その際にでも戦い方、身の振り方などを教えてやってくれ。では、いつも通り警備の方を頼む。解散じゃ」

 

そしてジジィが言い集会は終わった。

そのまま幾人かの先生、生徒は警備の方に向かっていく。

あのガキはジジィに連れられて寮の方へ帰っていった。

まあ、今日のところは顔を見る程度でいいか。

次の停電の日―――なぜだか分からないが停電の日には魔力がある程度戻る。その日にでもやつを襲うとしよう。

そうして悪い笑みを浮かべながら私はログハウスへ帰った。


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