ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

62 / 68
   博士とコガネと少女と機械

 

 悲報。背中から沢山の義手を生やした老人が、アクティブである。

 

 

「ほおう……ほおう?」

 

『いや、オレなんでこんな観察されてんの?』

 

『ご勘弁ください、メタビーさま。マスターは娘子のように可愛がっておられるユウダチさんの新作に、興味がお有りなのでしょう』

 

「うるさいわい、コガネ! だいたい、個体識別のための文句はどうしたんじゃ!」

 

『さっきユウダチさんが来る前に解除してたじゃないですか……。無機質で嫌だって仰って』

 

「むむむ……!」

 

 

 フユーンの内部に入り、迷路のように入り組んだ通路を抜け。その操縦席に到達したまで良かったのだが……眼前にヘベレケ博士が現れてから、終始こんな調子なのである。

 どうやら博士は、メタビーのパーツに興味があるらしい。

 

 

「メダルは何じゃ? やはりカブトか?」

 

「はい。スターターキットに同梱されていたやつですけど」

 

「むん……? 今夏のスターターキットに同梱されていたのはカブトではないはずじゃが……まぁ、ええじゃろ。それよりも変形じゃ。やってみせい!」

 

『お? なんだ。オレの格好良い変形をみたいのか。いいか、イッキ』

 

「まぁ減るもんじゃないし、いいんじゃないか?」

 

『おう。分かったぜ!』

 

 

 がしょんがしょんと変形するメタビー。うほーっと奇声を上げるヘベレケ博士。狂喜乱舞する多数の義手。確かにこれは、紛う事なきマッドサイエンティストである。

 そんな彼に、ユウダチはいきなりイッキを「友人です!」と紹介した。どうやら幹部のシュコウとしての立場は、ヘベレケ博士公認であるらしい。お陰で身分やら正体やらを隠す必要は無くなったが、これはこれで距離を図りかねるなぁというのがイッキの正直な心情であった。

 

 

「……しっかしまぁ。ユウダチのが相棒を連れてくると言ったときには、まさかと思ったもんじゃが」

 

 

 しばらく乱舞した後、ヘベレケ博士はイッキに向き直……らず。整備のための義手をぎちぎちと動かし、操縦席周辺のなにやら配線をいじくりながら、話し始める。

 

 

「友人も作ろうとしているようじゃしの。人並みには」

 

「博士はユウダチの事を知ってるんですね」

 

「ふん。これでも面識だけなら幼稚園の頃からじゃわい。何かと縁があったでの」

 

『まだアースモールで資金を蓄えていた頃に、ユウダチさんの方から訪ねてきたんですよね。獣の王(ビーストマスター)の開発プランを辿られて』

 

「そうじゃったかの?」

 

『そうでしたよ。初めてこられた頃は、あのアトムさんの差し金かと、それはもうわめき散らしまして……。わたしもベビーシッターの仕事を放り出してまで招集されましたもの』

 

「聞こえん!? 聞こえんわーい!!」

 

 

 コガネと呼ばれたメダロットは、そんな風に昔話を楽しげに話してくれる。ヘベレケ博士も悪態はつくが、どうやら悪くは思っていないようにイッキには感じられた。悪の首魁、悪の科学者を自称するというのに、案外可愛いおじいちゃんである。

 

 

「―― イッキ、じいさまの検分(・・)は済んだですか?」

 

 

 そうこうして。ヘベレケ博士およびコガネと和んでいると、操縦室の真ん中に設置された昇降機を使って、下からユウダチが上がってくる。いつものツナギ姿の彼女はまたも、油に塗れている様子だ。

 

 

『主殿。湯浴みも良いが、その前にうぇっとてっしゅを使うことだ』

 

『手袋は向こうに置いておくピヨー』

 

『いい女になりたいなら、ナエ姉さんの小言を忘れねぇこったな』

 

「わかっていますよぅ、もぉ。きちんと身繕いしてきます、です!」

 

 

 すぐに自らのメダロット達に世話を焼かれて、シャワー室へと引っ込んでいったが。

 ヘベレケ博士は、その背中を見送って。

 

 

「あれでも結構変わったんじゃがな。しかしそれでも、ワシの評価は変わらんよ」

 

「……えーと、ユウダチの事でしょうか?」

 

「そうじゃ。おぬし……イッキ、と言ったの」

 

「はい」

 

「メダリンクでの戦いを幾つか、ハッキングで見せてもらったわい。おぬしの才覚も圧倒的なものなのは、見ていて分かる」

 

 

 しれっと犯罪行為を宣言してくるヘベレケ。メダリンクの良いところが、匿名性だ。誰しもアクセスし、ロボトルできる。場所こそ「サイバー」と呼ばれる無味無臭なところに限定されるが、その気軽さは売りのひとつだ。それをあっさりと破られてはイッキも眉をひそめる他ない。

 ただまぁ、褒められているようなので悪い気はしないというのも小学生なので仕方が無いが……。

 

 

「特に直近の、アジアランク昇格のための一戦。サイカチスという機体の特殊性を囮に、射撃機体であるということすらも楯に、メダフォースで近接戦を挑んだのは、まさに痛快な型破りじゃったわい。がっはっは!!」

 

「あのう。僕の事は良いんですけど、それよりユウダチの評価がどうって」

 

「ふん? やはり気になるか。ガキだとはいえ()の子じゃの。まぁ……あれもおぬしも、じゃ」

 

 

 ヘベレケ博士が間を置く。フユーンの外。洞窟の壁際に積み上げられた、ガレキの山に目をやって。

 

 

「いったい、メダロットとは何なのか。おぬしは知っておるのか?」

 

「えーと、他の星からの侵略者かも知れないって言うのは先日ユウダチから聞きました」

 

『オレはそんなつもり、ねーけどな?』

 

『わたしもないですね』

 

 

 メタビーが床にあぐらをかきながら、コガネが両手のジョウロとスコップで土をかき混ぜ、それぞれ反応する。

 ふん?と、ヘベレケは興味深そうな表情を浮かべる。

 

 

「なるほど。ユウダチが話したか。アキハバラの奴め、自分から話せば良いものを」

 

『それではユウダチちゃんの可能性を摘み取ってしまいかねないと考えたんでしょうね』

 

「相変わらず回りくどいんじゃ。ふん」

 

 

 そうして憎々しげに皮肉をはいて、ヘベレケはイッキを見やる。

 ぎしりと、背負われた義手がイッキのちょんまげを指す。

 

 

「……鉄くずの庭。メダロット達の墓場で孤独に、あ奴は育った。故に、人ながらにして人ならざる ―― 最先端の感覚をもつ。神稚児にして、麒麟児じゃ。我ら全ての科学者が夢想した、人間モドキなんじゃよ。……そして恐らく、人間モドキは未だ完成を迎えてはおらん」

 

 

 ヘベレケがユウダチの居る側へちらりと視線を向ける。わーきゃーと、自らのメダロット達と騒ぐ楽しげな声が、シャワー室の水音を突き破って聞こえてきた。

 

 

「つまり、つまりじゃ。今ならまだ、あやつは人に成るという選択肢を採ることが出来るという事でもある」

 

「……ユウダチは人だと思いますけど」

 

 

 イッキとしては当然の反論なのだが、ヘベレケには一笑に付されてしまう。

 

 

「馬鹿め。それはおぬしがあ奴と同じ立場にあるからこその意見じゃぞい」

 

「僕が……?」

 

 

 確かに、先日シデンも言っていた。「スペシャル」と。メダロットとの精神的な距離が近いと言い表していた様に、覚えている。

 イッキとしては普通だが……だからこそ気付けないのかも知れないと、今は考えているが。

 

 

「ワシからも託されろ、チョンマゲ少年。ふん。ワシとアキハバラのくだらん争いなぞ、オヌシは放っておけ。あの娘を救えるとすれば、ようやっと現れたオヌシなのじゃろう。アガタヒカルも、素養は十分じゃったが、早すぎたの。あれは」

 

『だ、そうです。テンリョウイッキさん。わたしからも、ユウダチさんの事をお願いできますか?』

 

「うん。任せてよ、コガネ」

 

『頼もしいお返事です。あ、決して、ヨウハクさん達を信頼していないわけじゃないんですよ?』

 

「あっはは! 大丈夫。それはわかってる!」

 

『なら、よろしいですね』

 

「―― 楽しそうです? なんのお話でしょう!?」

 

 

 笑い合っている内に、ユウダチが着替えも終えて出てきていた。メダロット達はどうやら、未だ更衣室内で後片付けをしていたらしい。後から追いかけてきたヨウハクにお小言を挟まれるまでがワンセットだ。

 そのまま談笑しつつ、面通しも終えて……本題へ。

 イッキとユウダチは次に、件の遺跡へと足を伸ばすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 フユーンから外へ出て、ロボロボ団とアリ型メダロット達の雑踏を抜けて。割と入り組んだ遺跡の近くまで接近する。

 それにしても、最近はとても沢山の人から、様々なものを託されるなぁとイッキは思う。とはいえ頼られることそれ自体は悪い気分でもない。イッキ自身は未だ小学生であり、普段は大人に頼る側の立場である。誰かのためにと動くのも嫌いではない。少しヒーロー気質なのだろうか、と思い返すも、脳裏に浮かぶヒーロー像はおおよそ怪盗レトルトだったりするので世間的にはずれていたり。

 

 

「ここらは岩盤が弱いので注意して下さいです、イッキ!」

 

「うーん、歩いている分にはそんなに変わらないんだけど。……なんかぶにょぶにょしてる所はなに?」

 

「あんまり用途が解明されてない部分ですねー、そこは。とりあえず、中心部まで行ってみるです」

 

「わかった」

 

 

 ユウダチの先導についていく。しばらくして、フユーンに入る前に遠目に見た、青白く光っている区画に辿り着く。

 子供心にも「これぞ遺跡!」と叫びたい雰囲気だ。そもそもなんで光っているのだろう。微量の粒子がきらきらと舞って、外国のストーンサークルのような明らかに人造の石碑が並ぶ。イッキ、それらに興味津々である。

 中央部までつくと、またぶよぶよとした触感の足場があった。その前に立って、ユウダチが口を開く。

 

 

「ここが中央部です。文献に寄れば、はるか古代に存在した『コーダイン王国』においては、ここより奥の安置所みたいなところが在って、フユーンストーンが飾られていたようですね」

 

「へぇー。何かに利用していたのかな?」

 

「うーん。物を浮かす、反作用みたいなものを持っていると仮定すると、色々と利用方法は思い浮かびますけれど……どうやら崇拝対象みたいな扱いだったようですね」

 

「なるほど。そんなに不思議な物があったら、昔の人だったらそうなるのかもね」

 

「ですねー。……ふん?」

 

 

 ユウダチがなにやら上を向く。すると同時に、ごぉん!という音が洞窟内に響き渡った。

 当然、周囲のロボロボが何事かと騒ぎ始める。逃げる準備まで一工程。そのひとりをユウダチは、シュコウとして捕まえて。

 

 

「何事?」

 

「ほ、報告しますロボ! どうやら地上から、メダロッターやセレクト隊が侵入を始めたらしいロボ!!」

 

「……そう。判った」

 

 

 ユウダチが視線を逸らすと、ロボロボ団員は脱兎の如く去って行く。その間にも、立て続けに爆音。洞窟の天井がぱらぱらと小さく崩れ、剥がれ落ちてくる様にはちょっとばかり恐怖を覚える小学生・イッキであるが。

 はぁと溜息をこぼし。

 

 

「コウジ達ですかね?」

 

「えっ?」

 

 

 どうやら心当たりがあるようだ。ユウダチはイッキの手を引くと、落盤防止のための装置がある遺跡の中央部に移動しつつ、続ける。

 

 

「実は今日、ロボロボ幹部の人達が花園学園を襲撃しに行ってたんです。実行隊長のサケカースにいわく、本格的にセレクト隊の視線を逸らすためだそうですね。……まぁ校長さんのメダル欲しさってのが本音な気もしますが」

 

「えぇー……」

 

 

 それは当然、怒るだろう。コウジが。予想に違わずそれら幹部を相手取り、反撃にまで出たという所だろうか。「賢いロボロボ団事件」の真相をがっつり掴んでいる(自覚はないが)アリカも、折り悪くコウジに協力を得るために花園学園へ向っていたはずだ。だとすれば子ども達の足跡から、この下水道基地へとたどり着くのも不思議ではない。

 

 

「……仕様が無いです。迎え撃ちますか」

 

「戦うの?」

 

「まー、コウジの性分ですからね。大義は向こうにありますし……ここだとわたしは幹部。戦わざるをえませんです」

 

 

 それもそうだ。何分、ロボロボ団とは世間的には悪。お騒がせな集団なのだからして……正義感、熱血漢のコウジに目を付けられるのは当然の流れである。いや、むしろスカートめくり事件の時から目は付けられていたけれども。

 これはイッキも戦っておくべきだろう。コウジは熱血まんまに突入してくるのだろうけれども、そもそもここ(最深部)にまで到達した時点でロボロボ団の下水道基地はほぼ壊滅したようなものだ。フユーンも、外観を見ることがなければ要塞だと気付かれる心配も無いだろうと、ユウダチの指示で窓を次々閉じられている最中である。

 あとは……と、イッキが迎え撃つ方向で考えていると。

 

 

「イッキはこちらのパーツを使って下さいです!」

 

「あ、サイカチスだとばれるからだね。わかった」

 

 

 ユウダチのメダロッチから、KBT型のパーツ一式が転送される。確か「ベイアニット」と呼ばれるメダロットだ。射撃に重点を置いた正統なKBT系譜でありながら、重装甲を売りにしたパーツだった筈。開発はメダロット社。その批評は良くも悪くも、「装甲に振ったKBT」でそのままである。むしろ破壊力を削った点については酷評だ。

 イッキとしては普通に黒塗りで重厚感ある外殻パーツが格好良いと思う。メタビーも「なんか新鮮だな」と悪くない反応。……新型だとは言えやっぱりあの魔女の城の地下で見た「クロトジル」なるKBT型ではなかったな、とも思うが。あちらが異質だっただけなのかも知れない。

 待つこと数分。……そう。僅か数分で。

 

 

「―― 居やがったな。おい、ロボロボ団! 校長先生から奪ったメダルを返しやがれ!」

 

 

 カラクチコウジ。パッションマンのご登場である。

 その後ろには、(嫌々ながらも職務なので)引き留めようとしたロボロボ団員が死屍累々で山のよう。幹部のスルメや、シオカラらがそこに加えられているのには、涙をも禁じ得ない。

 ユウダチ……いや。シュコウがすっと前に出てメダロッチをかざす。イッキも横でそれにならった。

 

 

「やるのか? いいぜ……行くぞっ、スミロドナット! ラムタム! ……ウォーバニット!」

 

『了解だ、コウジ!』

 

大丈夫(だいじょーぉぶ)!』

 

『ぉおーん! 相手はあれだな、コウジ!!』

 

 

 イッキが見たことのないメンバーが、2体も混じっていた。スミロドナットはギンジョウ小学校でも世界大会でも戦った、コウジの相棒である。そのほか。ラムタムと呼ばれた機体は……確か、ブラックメイルという重攻撃型のメダロットだ。かなりのナーフを経て限定発売された機体で、それでも尚凄まじい威力の打撃攻撃を仕掛けてくるはず。

 もう1体は、ウォーバニット。サーベルタイガーをモチーフとしたスミロドナットと対を成す形で作られた、ライオン型メダロット。その攻撃型も同時に対となっており、射撃を得意とする……と週刊メダロットで言っていた気がする。

 攻撃型が3体。コウジのメダロッターとしての技量も相まって、ロボロボ団員を高速で片付けられたのもうなずける。本気ということなのだろう。

 相対して、ユウダチとイッキもメダロットを転送する。エイシイストと、ベイアニットだ。

 

 

「ん。全力でかかってくるといい」

 

「オレは、いつだって本気だぜ!」

 

「―― 合意とみてよろしいですねっ!」

 

 

 シュコウの挑発に、コウジが全力リアクション。

 天も地も関係なく沸きましたるは、ミスターうるち。ロボトル協会の公認レフェリーである。

 尚、本日のコスプレはモグラのようだ。実際には岩陰からひょっこりと顔を出した訳であるが。

 

 

「ロボトルぅぅぅっ……」

 

『ゆくぞ、カブト虫』

 

『任せろぉっ!』

 

 

 

「……ファイトッ!!」

 

『コウジに勝利を!』

 

『だいじょぉ~ぶ!』

 

『ぉぉおーーーん!!』

 

 






 ぞいって語尾を書くのに勇気が必要だった。
 メダロポリス編は次で最後だと思われる。



・ベイアニット
 正式にKBT型に分類される型。正直、新世紀メダロット(DS以降)になるまでは影が薄い。上述の攻撃力の低さもある(GBナンバリングは攻撃力で速攻するのが正義と私が信じている)ため、あまり使った人は少ないのでは。
 新世紀に入ってからは脚部型がHvになるなどして、差別化が図られた。
 黒塗りで大柄なその外見は、重装甲が好きな人にはぶっささる。ぐはっ。


・……え、ベイアニットなの?
 本当はエイシイストと対にしたいのであれば、アンビギュアス。玉虫型のメダロットで、こちらもパスワードで手に入る軽装甲超威力(非貫通)の機体がそれにあたります。
 とはいえ、あちらは漫画版のラストのイメージが強すぎました。


・コウジ
 パッションマンは専用BGMの名前。
 KBT版ではスミロドナット、KWG版ではウォーバニットを相方にしている。両方使っているあたりにこのルートの以下略。

 ……よくクワガタ型は不遇と聞くんですが、推進+がむしゃらで暴れられる分、やっぱり楽だと思うのは少数派なんでしょうか。熟練度あげればどのメダルでもいいっていうのは、そうなんですけどね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。