ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   今は地底要塞・フユーン

 

 

 シデンとの邂逅およびお話を終え、イッキとユウダチはマンションの入り口まで出てきていた。因みに荷物はきちんと部屋まで届けたので用事も終えてある。

 脳裏に、やたらと無機質だったユウダチの部屋の内装が思い出される。メダロット社の社宅という事もあるのだろうが、そもそも必要なものが少ないのだろう。というか内装どうこうではなく、研究のための部屋という印象だ。アニメなどで出てくる悪の科学者の部屋とはかくあるべしといった様子であった。

 

 

「―― 本当に面倒な話でごめんなさいね? わたしもヒカルさんも、イッキ君に話すかどうかは決めかねていたんですけど……」

 

 

 見送りに出てきたナエが、頬に手を当てながらため息をひとつ。

 ユウダチは部屋の中で未だ、本日買ってきた荷物をほどいている最中だ。今メダロポリスのマンション前に居るのはナエと、もうひと方。

 

 

「でも、これでユウダチもやっと本題に取り掛かれる。イッキ君が居てくれるなら安心だ」

 

 

 ヒカルがその隣でうんうんと頷いていた。

 ふたりは良い仲なのだそうだが……それはそれとして。

 

 

「あの……ふたりはもしかして、ユウダチと同じような事をしてたりしますか?」

 

 

 その並んだ立ち居振る舞いに、イッキは覚えがあった。メダロッ島のアトラクションで出会ったあの2人―― 怪盗レトルト、およびレトルトレディだ。

 これはカマかけだったのだが、二人はあっさり。

 

 

「そうだね。……気づいていたなら隠す必要もないけど、『魔女の城』ではありがとう。ミルキーのマガママに付き合ってくれて」

 

「やっぱり! 本当にレトルトさんの正体だったんですね!?」

 

 

 やたらテンションのあがったイッキが握手を求めると、ヒカルは苦笑しながら応じてくれた。

 

 

「わたしの格好については、忘れてください……」

 

 

 逆にナエのテンションが下がりきりだったのはやや気にかかるものの、イッキ的には白チャイナ羽マントも格好いいので首をかしげるばかりである。

 

 

「僕達が表立ってああいう活動をすると問題があるからね。レトルトは義賊で、ロボロボ団の敵。セレクト隊のやっかい払い。それでいいのさ」

 

 

 セレクト隊がもう少し動ければ、いらないんだけどね……という心底同意できるつぶやきも忘れない。その点についてはイッキも、常日頃から実感している。父から毎日の様に聞くのは、隊長の独断専行と副隊長の苦労話なのだから。

 

 

「それじゃあイッキ君は明日から、ユウダチと一緒に行動してくれるかい?」

 

「えっと、ロボロボ団に潜入するってことですか?」

 

「そうなるね」

 

 

 大丈夫なのだろうか、と一抹の不安がよぎる。

 だがどうやら、潜入それ自体は難しい事でもないらしい。

 

 

「最近世間を騒がせている『賢いロボロボ団』の噂は知っているかい?」

 

「はい。僕の幼馴染のアリカっていうやつが、調べまわっています。なんでも子供が正体らしいとかなんとか」

 

「へぇ、凄いね! いやまぁ、背丈をみれば歴然か。とはいえ行動力は本当にすごい。実はその通りで、花園学園の子供たちがよくよく団員になっているらしいんだ。いたずら要員としてね」

 

 

 まさかのドンピシャ。 幼馴染の番記者魂も捨てたものではないのだなぁ、と感心しきりである。

 というか、いたずら要員という役職があるのはそもそも……ロボロボ団でなければありえないなぁとも思う。同時に、だからこそイッキが潜入しても違和感がないという事なので、なんともはや。

 

 

「子ども達の方は、僕達に任せておいていいよ。レトルトは社会派の義賊だからね」

 

「ふふっ。まぁ社会派かどうかはさておいて、ユウダチちゃんのことをよろしくお願いしますね?」

 

「はい。任せてください!」

 

 

 元気よく返事をするイッキの様子に、ふたりがほほ笑む。

 こうしてイッキは、ロボロボ団として潜入を始める事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 かくして始まった、ロボロボ団員としての活動なのだが。

 

 

「学校だりー」

 

「母ちゃんのお小言がうるさくてさ……」

 

「宿題ってなんの意味があんの?」

 

 

 等々。どうやら家や学校での不満がたまりにたまった子供たちがこうして利用されているらしく、出るわ出るわの文句の嵐。いたずらも恐らくは、ストレス解消くらいの気持ちで行っているのだろう。

 気持ちは理解できなくもない。ただ、それで誰かに迷惑をかけたくもない。ただでさえ先日、家族に迷惑をかけてしまったばかりのイッキとしてはあまり賛同できない行動である。まぁ同じ団員に扮してはいるのだけれども。

 ただ、イッキの格好は他の子ども達……金魚鉢を逆さに被ったみたいなものとは違っている。酒肴(シュコウ)の直属の部下という扱いで入団したため、何やら輪っかの付いた水晶玉の様なものを被っている状態だ。

 正直、どっちもどっちである。

 

 

「―― これはスペースロボロボ団の衣装なのです」

 

「すぺーす……ロボロボ団?」

 

「はいです。今は小惑星を拠点として細々と侵略なんていう夢を見ている、とある科学者さんが掘っ建てた集団ですね。技術力は本当に凄くて、わたしが人型でないメダロットを開発した際にとても参考にさせてもらいましたのです!」

 

 

 前を行くユウダチは、本当に嬉しそうにどろりと笑う(水晶越しだが)。

 

 

「それよりも、僕たちは何をするの? マザーを探すって言っていたけれど……」

 

「ですね。それが、難航しているというかなんというか……単純に人手が足りなくて進捗が悪いのですよ」

 

「そうなんだ。人手が足りないだけなら、僕でも何とか役に立てるかな?」

 

「勿論ですー! ぶっちゃけロボロボ団はロボトルの強さが全てみたいなところがありますからね。イッキは……メダリンクもアジアランクに昇格したのでしたね」

 

「うん。この間ね」

 

「おー、わたしも負けてられないのです!」

 

『オレのおかげだな!』

 

「はい、モチのロン! メタビーのおかげでもあるですよっ!」

 

 

 雑談を交わしながら廊下を奥へ。ロボロボ団のアジトはなんと、メダロポリスの地下に建設されていたのだ。マンホールを使って出入りをすることで、捜索を困難にしているのだとか。

 この情報をセレクト隊に伝えれば一網打尽には出来るのだろうが……いかんせん、捕まるのは子ども達であろう。幹部や大人団員達は、総じて逃げ足が速いのである。そこへ加えて、現在のセレクト隊の隊長、アワモリ氏の悪逆非道(語弊)ぶり。手柄のためには手段を選ばない彼であれば、もしかしたら子どもであろうと容赦なく社会的制裁を加える可能性すらある。それは何というか、同じ子どもである身としてはいたたまれない気持ちである。少なくとも積極的に実施したい作戦とは言い難い。

 そもそも、ユウダチがそのマザーとやらを探すためにロボロボ団に力を貸しているのであれば……。

 

 

「それもありますけれどね。力を貸している一番の理由は、ここの首魁がヘベレケじいさまだからというのが大きいのです」

 

「ヘベレケ……というと、あの人かな。メダロッ島のロボトル大会で挨拶をしてた……」

 

「ですね。凄い研究者さんなのですよ? 今でもアトムと双璧を成しているのです! 少々言動はエキセントリックですけどねっ!!」

 

 

 ふんふんと息を荒げて、ユウダチは語る。どうやら科学者としての琴線に触れる人物であるようだ。イッキの脳裏にあるヘベレケ博士の姿も、確かに。義手の生えた鞄を背負うマッドなサイエンティストである。

 下水道とは思えない設備の、機械的な廊下の先。突き当たりに到着すると、ユウダチが足を止めた。

 

 

「ここは?」

 

「そのマザーを追う手がかりになるものが、この辺にあるのです。ヘベレケじいさまが蟻メダロット達を使って発掘している ―― 空中要塞、フユーン!」

 

「うわぁ、でっか!?」

 

 

 扉を開いたイッキの目の前に、異様な光景が広がった。

 通路を出た先の洞窟に、巨大な円盤状の人工物が鎮座していたのだ。

 

 

「空中要塞……って言っていたけど。どうして地下に……ああ。見つかると厄介だからかな?」

 

「はいです。あくまでこれは、発掘で空いたスペースを利用しているだけなのですけれどね。本当の目的は、あの遺跡と、その転移装置周辺に存在したとされるサイプラシウムの純結晶、フユーンストーンなのです」

 

「……何それ?」

 

「あはは! サイプラシウムっていうのは、メダロットの装甲に使われている素材のひとつです。メダロットは起動すると、一気に軽くなりますよね?」

 

「うん。そうだね」

 

「あれは電気を通すと軽くなる、っていうサイプラシウムの性質を利用したものなんです。子どもの傍にも在るべき物なので、質量はあるにしろ重いのは好ましくなかったんですね。単純にその方が、エネルギーも少なくて済みますし」

 

「へぇー……。そうなるとつまり、その純結晶ってのを使って、あの要塞を浮かべるつもりなのかな」

 

「ご明察、なのです!」

 

 

 びしっとこちらを指さすユウダチ。どうやら正解だったようだと、イッキは胸をなで下ろす。

 

 

「傍に遺跡が見えるでしょう?」

 

「あの小さな……うす青く光ってる所?」

 

「そです、そです。南の砂漠と、ここが、文献でフユーンストーンの存在が記されていた場所なんですね。でまぁ、周囲を発掘しながら石を探しているという流れで」

 

 

 ユウダチが示した辺りには細々と動き続ける蟻型メダロット達の姿がある。丁寧に作業をしている所は、岩盤が弱かったりするのだろう。精密で地道な作業だ。こういう作業を任せるのに、人よりもメダロットは確かに適任である。

 

 

「それでは挨拶に行きましょーです、イッキ」

 

「えーと……博士に?」

 

「はい。ヘベレケのじいさまのところへ!」

 

 

 いよいよ首魁との面談である。

 水晶玉なユウダチに手を引かれて、イッキはフユーンの内部へと向った。

 

 





説明が冗長。



・フユーン
 ヘベレケ博士(ら)が作ったとされる漫画版と設定を折衷している。
 外側がべこべこするか否かは、シュレディンガーのフユーン。


・ストーン
 動力源をそもそも遺物に頼ると言うことは、その存在に相当な自信があったのでしょう……。


・スペースロボロボ団
 作中の解説の通り。メダロットnaviにおける、小惑星探査機のなれの果て(語弊。
 最終的には味方になる展開が胸熱。……凄まじいネタバレですけど、流石にもうリメイクもないでしょうし許して下さい……(苦笑。
 変形合体する中ボス機体は誰の発想で作られたメダロットなのかが、個人的には気になるところ。

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