ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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 あらすじ

 色々とあって、メダロポリスを訪れていたイッキとメタビー。
 メダロデパートを訪れた。

 の、だが。
 なにか……いや、「誰か」におみやげを買おうかなという思考に行き当たった。

 思い当たるのは、先日のメダロッ島からの帰路でカリンにお願いされた人物。
 不思議な隣人のことだった。


◆3 いざ、舞台裏へ、いざいざ

 

 さて。と、イッキは食材よりもメダロット関連の小物を見るために、雑貨スペースへと回ることにする。

 アリカが喜びそうな望遠レンズや、寂しがり屋なカリンが喜びそうな小動物などのスペースもあったが、目下、イッキの脳内を占めているのは、鼻歌などを歌いながらカートをがらがらと押して食料品をどさどさ積み込んでいるユウダチである。

 

 

「てれれれーれれー……ふんふんふふー、ふっふふんふっふーふーんふーん……てれれれれー」

 

 

 メダロット社公認CMロボトルソングのレッツロボトルダンス、だろうか。

 まぁ鼻歌の内容は兎も角、そんな少女ユウダチについて。

 彼女の友人はイッキに向けて、守ってほしいという願いを投げかけたのが、数週間前のことだ。

 

 

「……とは、言われてもなぁ……」

 

 

 その願いの内容と顛末を思い返しながら、イッキは頬をかく。

 ユウダチについてイッキが知っていることは少ない。しかし彼女の友人であるカリンによれば、ユウダチの実家……ムラサメ家がなにやら良からぬ様子で動き出しているらしいのだ。

 ムラサメという家は、聞くところ、メダロット社の分室として「ロボトルリサーチ社」を牛耳っているらしい。現在のメダロット社の代表であるニモウサク家との間にはなにやら因縁めいたものがあり、ユウダチがいずれ来る争いに巻き込まれようとしている……らしい。

 らしいという言葉を連呼した通り、カリンも誰かから聞かされた、又聞きの状態であるようだ。

 

 

「でも、アリカもうわさは聞いているみたいだし……ナエさんもそれっぽい事を言ってたし」

 

 

 後から番記者な幼馴染に尋ねてみたところ、どうやら力が集まり過ぎたメダロット社を分散させようという試みはずっと昔からあったもののようだ。メダロットという世界的ブームになった玩具を元手にしているのだから、力が集まるのは当然といえよう。

 通い詰めているメダロット研究所に勤めており、業界により詳しいナエに曰く、ロボトルリサーチ社はメダロット社を分散させるその先駆けのようなものであったらしい。最近では海外にもいくつかの部署を併設しており、名前は変わるが勢力的にはメダロット社に加わることになるそうだ。

 そしてナエには、ウミネコ海岸での一件もある。

 あの言葉をユウダチの行く末を示した注意だと捉えれば、カリンの願いは、「あまり知らないから」という一事を盾に、切って捨てる訳にもいかないものだ……と、イッキは考えている。

 ユウダチはイッキの友人だ。

 ただ、多少接点がある程度の友人に対して放っておけないと思えるあたり、イッキは情が深めの年若い少年なのだが、それはそれとして。

 

 

「あっ、イッキ。……そういえばそろそろ15分ですね。もしかして、お待たせしていたです?」

 

 

 掛けられた声に反応して顔を上げると、レジカウンターの前にカゴを差し出すユウダチが目の前にいた。

 イッキは慌てて両手をふるう。

 

 

「いや、大丈夫。ちょっと考え事をしていて、ぼーっと歩いていただけなんだ。ユウダチこそ、買い物は終わったの?」

 

「はいです! よっ、とぉ。これです!」

 

 

 会計を終えたようだ。商品満載のカゴを、ユウダチは袋詰めにするためのスペースへ移動させる。

 袋の中へ次々と、手際よく詰めながら。

 

 

「そう言えば、サイカチスの可動データを実地で取りたいのです。イッキ、今週の週末は空いているです?」

 

「そうだね……うん。予定はないと思うよ」

 

 

 メダロッチのスケジュール機能を確認して、イッキは頷く。

 勿論それは今の段階ではという事であって、これから予定が入る可能性も無い訳ではないが。主にあの突飛な幼馴染の取材などによって。

 とはいえそれら予定も、ユウダチが先にアポイントを取ってしまえば横入りはない。アリカは強引でマイペースだが、そもそもイッキをお供にしなくても、ひとりだけで十分な程のバイタリティを有しているのだから。

 

 

「ではでは、今週末! わたしのアパートメントの前で集合しましょう!」

 

「え、ええっと……うん。でも」

 

「だーいじょーぶですっ! 地図は後でメダロッチに転送しておきますので! データは……んー、セイリュウの研究所に行った方が気楽ですかね……」

 

 

 かくしてイッキの週末の予定が組まれてゆく。

 おどろ沼での同行以来、最近はこの少女と妙に関わりがあるな、とイッキは思った。

 

 ・笑顔が生理的な嫌悪感を臭わせること。

 ・実家が影をおびまくっていること。

 ・メダロットに関する専門的な会話が多くなること。

 

 それら些細なこと(・・・・・)を除けば、ユウダチは人付き合いの良い意外に付き合いやすい少女ではあるので、こうして一緒に居るのも苦ではないのだが。

 加えて最後の1つは、メダロット好きなイッキにとってご褒美である(new!)。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

「今度は賢いロボロボ団が現れたんだって! それを取材に行くわよ!!」

 

「ええー……セレクト隊に任せようよ」

 

 

 時と所変わって、おみくじ町ギンジョウ小学校、放課後の教室。

 アリカは机の上に置いた新聞の見出しをばしばしと叩きながら、目の前で露骨に嫌そうな顔をしているイッキへ語っていて。

 

 

「にわかに巷を賑わしている賢いロボロボ団! 実はあたし、その正体に目星もつけているのよっっっ」

 

 

 小さい「つ」が連なるくらいに勢いよく、アマザケアリカは拳を握る。その手には新聞下書き用途の鉛筆が握られていた。データ整理はパソコンのくせに新聞は手書きなのがこだわりである。

 

 

「聞いてるの、イッキ!?」

 

「聞いているよ、アリカ」

 

「それで、今週末! 予定は開けといてよね!!」

 

「うーん……ごめんよアリカ。今週末は予定が入ってるんだ」

 

「えっ!?」

 

「ユウダチと一緒に、メタビーの……サイカチスのデータを取りにセイリュウの研究所まで出かけるんだってさ」

 

 

 驚く幼馴染に、イッキは平身低頭。

 用事が入っているとは思わなかったのか、アリカは一瞬驚いた表情を浮かべたが、しばらくして顎に手を当てながらうなり始めた。

 

 

「……そうね。美少女天才メダロッター、ユウダチちゃんの密着取材と考えれば……うーん、でも、あたしの方にも人手が欲しいのよね」

 

「でも、話は聞くし相談にも乗るよ。……で、アリカ。目星をつけているっていう場所は何処なの?」

 

「それね。花園学園よ!!」

 

 

 イッキの質問にくるりと切り替えると、アリカは手製の地図を広げた。

 メダロポリス一帯が書かれた地図のそこかしこには、×印が描かれている。どうやら「賢いロボロボ団」の出現場所をまとめたものであるらしい。

 

 

「賢いロボロボ団は背が小さい……つまりは子供でしょ。このバツ印がついている周辺で最も大きな学校が、花園学園なの。いくら何でも義務教育は避けられないでしょ?」

 

「へぇ……でもそれなら、セレクト隊だって予想しているんじゃない?」

 

「そうかもね。でも大人って、証拠がなきゃ動けないっていうじゃない。だからまずは捕まえようとしているんじゃないかしら」

 

 

 それもそうか。

 捕まえて確定的な証拠を握らなければ、立ち入りすらもかなわない。なんとも世知辛い世の中である。

 とはいえその証拠を握る……ロボロボ団を捕まえるという第一段階が実行できていないあたり、セレクト隊がセレクト隊たる所以なのだろうが。

 

 

「それで、その調査のために人手が必要なんだね?」

 

「そうよ。でもイッキがこれないとなると……」

 

「いや、アリカ。コウジとカリンちゃんがいるじゃないか。花園学園の調査なら、都合もいいんじゃない?」

 

 

 イッキがそういうと、アリカが二度目の驚き。どうやら考えていなかったらしい。

 

 

「身内を疑う……ってコウジなら怒るかもしれないけど、カリンちゃんを交えて説明すれば大丈夫だと思うよ。それに犯人を自分の手で探すっていえば協力もしてくれるだろうね」

 

「そう……ね。うん。そうしてみようかしら」

 

『わたしも手伝うからね、アリカちゃん』

 

 

 アリカのメダロットであるセーラーマルチのブラスが、彼女の頷きに同意する。

 ……これは決して、押し付けてはいない。コウジの気性を利用したわけだが、その点については弁護しておこう。

 アリカはうんうんと何度もうなずくと、イッキをびしりと指さした。

 

 

「ならイッキ、それにメタビー! ユウダチちゃんをきちんと守ってあげなさいよね!!」

 

『おうよ!』

 

 

 どうやら友達間で話は伝わって(しまって)いるらしい。メタビーがメダロッチの中から、単独で、元気な返答。

 その点について自信はまだないが、幼馴染の言葉だ。イッキはとりあえず頷いておくことにした。

 

 

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 

「して、レトルト。メダロッ島での調査で得たこれらは……」

 

「はい。ヘベレケ博士が開発したメダリアシステム。そしてメダフォースの稼働データを蓄積した『人工的なレアメダル』の完成形だと思われます」

 

「そうか……ふむ」

 

 

 アキハバラ・アトム。俗にメダロット博士と呼ばれる天辺禿頭の老人は、サングラス越しに目線を落とした。

 向かいで直立する2人組に、呟くように返す。

 

 

「ヘベレケの奴は直接的すぎる。何でも叩けば治るというものではあるまいに……」

 

「テレビに45度でチョップをくらわすのとは規模が違いますからね、これは」

 

「メダロットが生まれてから、人の世に浸透してからの期間が短すぎる(・・・・)。免疫をつけるのとはわけが違う。これでは受け入れるための犠牲を無視しているようなもんじゃわい」

 

「……ですがおじい様、その急ぐ理由があったとしたら事態は変わりますわ」

 

 

 白チャイナ羽マントの女性が、レトルトの横から親しみのこもった声で話す。

 

 

「あるのかの? その理由とやらが」

 

「ええ。メダロット社と……そうですね。ここは敢えて『分けて』おきますけれど……ムラサメの家。現ロボトルリサーチ社が良からぬ動きを見せていますわ」

 

「あれです博士。宇宙開発」

 

「……まさか?」

 

 

 メダロット博士の前で、青年と淑女は頷く。

 

 

「月のマザー、地球のマザー、海の母……そして木星の使途。メダロット社は前者2つを、ロボトルリサーチ社は木星の使途をということで財産の分与(・・・・・)は済んでしまったみたいですね、わたしのニモウサクな友人に曰く」

 

「海の人工の母は、気まぐれすぎて確保もままならんか」

 

「あれは基本的に無害ですからね。『学者的な意味のメダフォース』に近いものは扱えるみたいですけれども」

 

「ふーむ……重役たちは何をしとるのやら。いや、あれらは元々利益に目がくらんでおるか」

 

「ですね。アングラの一派とタマヤスの一派が仲違いをし、タマヤスの一派が政界へ進出することで喧嘩は済んだみたいです。残ったアングラがやりたい放題、という流れですね。ニモウサク現代表君はそれら暴走を内々で処理するらしく、こうして()に情報を流してくれたみたいですが」

 

 

 レトルトが|● v ●|みたいな仮面を下に向けて傾ける。

 メダロット社にとって大事なのは、独占している利益だ。パーツ開発など、ここ数年で外にも流れてしまった技術は仕方がない。保守的な部分だけは意地でも確保する、という意向であるらしい。

 未来に向けた目は持っていない……と、世間的に思われても仕方がない。実際には会社は群体であり、目は1つだけではないので、それも杞憂ではあるのだが。

 

 

「メダロットが……メダルという情報集積体がもともと、何のための物なのか。それを知っているのは自分たちだけで良い。本気でそう考えているのでしょうか?」

 

「わからん。ヘベレケが肝を入れているのは恐らく、別の計画であろうからの」

 

「ですがこの件は同時に対処、という事になりますね……」

 

「うーむ……困ったことになったわい」

 

 

 手持ちの力が……力の数が少なすぎる。

 メダロット界の権威は、自らの突出ぶりと世間評の余計な高さに、頭を抱える羽目になっていたりする。

 

 

 





・プレゼント
 誰も選ばないという選択肢。

・セーラーマルチ
 多分初めて出した、アリカの機体。自分で書いておいてうろ覚えすぎる。
 ロボ娘として人気が高いはず。
 縞々。

・メダフォースの稼働データを蓄積した『人工的なレアメダル』
 ムラサメの家が躍起になって事態を進展させている主原因。
 事態を進展させすぎて、アナザールートに突入した。
 ……メダフォースの稼働データが順調に蓄積されている理由が、アガタ・ヒカル以来のメダフォースを自由に扱える(ちょんまげ)メダロッターの出現と、彼がメダロット社ムラサメ家ヘベレケ派閥の全てが閲覧可能な情報集積に協力しているせいだというのは、ご察し。

・|● v ●|
 BK201ではない。



 202200527 書き方変更のため、前書き追加。

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