相対するは、カブトムシとカブトムシ。射撃戦は避けられない。
車両型、レリクスモードを利用した高機動で弾丸を避けていたメタビー……だったが。
「っだだだっ!?」
「っと、変形は任意で解除もできるのか。オイラの周りには居ない感じのカブトムシだな……」
クロトジルのオメダの射撃を回避するため、道中で変形を解除するという無茶をやった結果、ゴロゴロと転がって脚部をぶつけてしまっていたりした。
「メタビー、すぐ起きろ! ライフルが来るぞ!!」
「判ってる……っだら!」
オメダのライフルをメタビーは右腕で受け、左腕のガトリングを撃ち返す。
肉を切らせて骨を断つ。ガトリング射撃は足を止めて放たなければ命中精度がぐんと下がるが、その分攻撃力はライフルを越えている。クロトジルへ、ダメージ量で上回ろうという試みだ。
「そういう戦い方か……イッキさんらしいな。けど、そのメタビーの装甲は薄いはず。追撃だ、オメダ!」
「了解だ!」
恐らくは相手もカブトメダルなのだろう。しかし(メタビーとは違って)怪人Z仮面のいうことを素直に聞いているように見えるあたり、同じメダルの間でも個性が大きく違うようだ。
「(って、メタビーの性格よりも……相手だ。この相手、怪人Z仮面は……メダロッターとして僕よりずっと上手い気がする)」
そう。向かいに立つ怪人Z仮面の指示は、イッキから見ても見事なものだ。
メタビーが変形すれば無理には追わず、牢屋内の敷地の狭さとクロトジルの装甲の厚さを利用して追い詰める。
メタビーが一発逆転のクロス攻撃を試みれば、思い切りよく設置した弾丸の破壊を優先する。
メタビーが変形を解除すれば、パーツを破壊して変形できなくしようとしてくる。
1VS1のロボトルだというのも大いに関係しているとは思うが、指示が一貫しているのだ。判りやすく一直線な方針は、メダロットにとっても動きやすく感じることだろう。
勿論、イッキの指示を待たず変形を解除して致命打を避けたメタビーの気転も悪くはないが……。
「(……仕掛けるぞ。メタビー)」
「(おう。でも、どっちだ?)」
メダロッチを介した小声での会話。
メタビーが問いかけた「どっち」というのは、なんとなくわかる。形成は悪い。一発逆転の手札を選ぶべき場面。メタビーの持つ高火力での攻撃は、クロス攻撃とメダフォース。その
イッキは考える。
「(メダフォースを武器にするなら、もう少し攻撃を受けなきゃいけない。クロス攻撃を使うなら、セットしたのをばれないようにしないといけない……か)」
1VS1のロボトルである。メダフォースをためる機会は、3VS3の基礎ルールに比べて格段に少なくなる。少ない機会を生かして……かつ、火力のためになるべくパーツも残さなければならない。「一斉射撃」は、残存しているパーツの火力を集めるメダフォースなのだから。
クロス攻撃は、セットした弾丸を放つという2工程を加えることで火力を爆発させる攻撃。故に、乱戦ならともかくこうして向かい合ってしまうと、そのセットした弾丸を破壊される前に動くのは難しいが……。
「―― 決めたぞ。メタビー」
「それで良いんだな?」
「うん」
イッキが選んだ戦略に、メタビーはにやりと笑って答える。その表情はいつになく楽しそうだ。
「さあ ―― 決めようか、オメダ!」
「オイラも全力を見せてやる!」
雰囲気を感じ取ったのだろう。怪人Z仮面もオメダに対応の指示を飛ばす。
タイマン勝負。パーツが壊れ、劣勢になってからの逆転は難しい。だからこその短期決戦。
メタビーが動く。
「変形っ ―― ヴるヴぉん!」
肩の車輪を地につけ、再びのメダチェンジ。
ギアをバックに入れて、メタビーが大きく後退する。
「追撃、斉射!」
「了解だ!!」
クロトジルは両腕からライフルとガトリング射撃を慣行し、メタビーを追い回し始めた。
右へ。左へ。
「……壁の脇、弾丸設置してるぞ!」
「そっちだな!! ―― 誘導弾っ」
薄暗い牢屋の中。メタビーが逃げながら仕込んだクロス攻撃の弾丸を、怪人Z仮面は見抜いて見せた。
放たれたミサイルがメタビーを迂回し、弾丸を爆散させる。
オメダの表情に、僅かな安堵が生まれ。
「―― まだだ! 気を抜くなオメダ!」
「っえ!?」
怪人Z仮面の鋭い言葉に、オメダが慌てて砲身を持ち上げる。
目前、メタビーは変形したままだ。
薄暗い闇の中、牽制に放たれていた弾丸を『わざと』受け、装甲をレリクスモードの維持限界ぎりぎりにまですり減らし。
装甲を一体化させていたからこそ耐えられた、それらダメージをエネルギーにかえて。
クロス攻撃のセットすらも、充填時間の餌として。
「――
「おうよっ……いっせいぃぃ! しゃーげーきーぃぃぃぃぃ!!」
メタビーがエネルギーの砲撃を放つ。
ごうっ、という風が吹き荒れ。
そして。相手も。
「ダメージを受けてるのはこっちも同じだ! ぶちかませっ、オメダ!!」
「あああああ゛ーっ」
紫電。
オメダの背後に、甲虫が飛び立つ時の光景、薄羽がびしりと広がった。
暗室の最中、その薄く儚い電気色の羽は、イッキとメタビーの網膜に強く、強く焼き付いて離れない。
「ダメージ還元んんっ!! 一斉掃射ぁぁ!!」
羽を背負ったクロトジルの砲塔からも、エネルギーの弾丸が放たれ ―― ぶつかる。
押し合う。
エネルギーの砲撃と弾丸。
互いが互いを削り合い、残ったのは ――
「防御だ、オメダ!!」
「くっ!!」
メタビーのエネルギー砲がクロトジルに迫る。
だが、その波は放たれた直後とは比べようもなく小さな物だった。
クロトジルは身体を半身に傾け。
「左腕、破損! でも耐えきったぜ、オイラ!」
「良くやった、オメダ!」
焼け溶け、むき出しのティンペット……左腕をぶら下げながらも、その場にしっかりと立って見せていた。
これで勝負は付いた。なぜなら。
「……悪ぃ、イッキ。畜生、負けか」
「いや、ありがとうメタビー」
ぐしゃりとひしゃげた二股角。歪んだ後輪、溶けたホイール。ティンペットまで折れ、循環オイルを吹き出し、マッスルチューブは断線している有様だ。
メタビーは。そのパーツは。
羽を広げたオメダに対抗するように、自らが放ったエネルギー波を増大させた結果……その反動に耐えきれず
「良い勝負だった。ありがとう」
「こちらこそ」
勝負の後、両者メダロットをメダロッチに格納したところで、怪人Z仮面は握手を求めてきた。
イッキはその手を取り、力強く握る。怪人Zは満足げな表情だ。
握手をしながら、怪人Z仮面は牢屋の格子のカギを解いた。
「ありがとー、お兄ちゃん!」
「さっきのロボトル凄かったぜ-!」
「やっと出られる……母さんが怒っていなきゃいいんだけど……」
「ここまでがアトラクションだったのね……妙に凝ってるわ」
先までのロボトルを見ていたのだろう。
子ども達。囚われていた人々が、次々と階段を上って外へ出て行く。
口々にお礼や会話を交わし……喧噪の中。
「……いや、不躾なお願いですいませんでした。本当にありがとう。俺は、貴方と勝負がしたかった」
「それなんだけど……なんで?」
イッキ自身、先ほどのロボトル世界大会(メダロッ島規模)で優勝はして見せたものの、ロボトルに関してはまだまだ初心者であるという自覚がある。
それこそ目の前の怪人Z仮面にも劣り、コウジが認める所のメダロッターであるユウダチなどには、到底及ばない。
そんな風に不思議がるイッキの様子を見ながら、怪人Z仮面は笑う。
「貴方は強いですよ、テンリョウ・イッキさん。勝ったオレが言うのも嫌みに聞こえるかも知れませんが……たぶん、1VS1じゃなければもっと苦戦した。もっと苦戦して、負けも見えていたでしょう」
彼は何故か、確信を込めた言葉で言う。
だからこそ嫌みには聞こえない。確信を持っている理由は判らないが。
「負けても良かったんですけれどね。ただ、オレがここに居られる時間はとても少なかったので、こういう形にさせて貰いました。イッキさん。貴方にはもうちょっと……今よりも数歩だけ、強くなって貰いたかった。この先に待つ
「……あの人?」
いぶかしむイッキへの返答は、怪人Z仮面の笑顔だ。そこを詳しく説明する気は無いらしい。
その代わりに、と続ける。
辺りはまだ騒がしい。2人の会話は、2人の間でだけ聞こえている。
「オレとのロボトルで、貴方は少しだけ経験を積みました。さっきのメダフォースの時の、オメダの様子を見てくれていたでしょう?」
「うん。
「それです。あれはメダフォースの奥の奥。メダロットという物が持つ、埒外の生命としての不思議な力。ともすれば侵略にも……それでいて、こうして遊びにも使える力。そういう物だと、オレは
人々が少なくなって行く。
同時に、怪人Z仮面は会話を切り上げた。彼の目的は達せられたのだろうか。
「はい、勿論です。……それでは、テンリョウ・イッキさん。また、いつか、何処かでロボトルしましょう。その時こそ全力で!」
手を振り、階段を上っていった先で、彼の姿は(きらりーんと)かき消える。
まるで最初から怪人Z仮面など居なかったかのように。
イッキはその姿を、残滓を、どこか不思議な物に出会った様で見送っていた。
……その後ろから、どろりと黒い視線が彼を見つめているのには、気付けないまま。
◇◇
メダロッ島から帰る船の中、イッキは再び甲板から海を見つめていた。
ロボロボ団に囚われていたユウダチは、何事もなく無事だった。ただ、少しだけ様子が変だったようにも思えるが……言葉では言い表すことは出来ない。
イッキとユウダチはまだ交流が少ない。表情だけで様子を察するには経験不足だと言うこともある。その点については後々の課題としておこう。そう思う。
「―― ここにいらっしゃったのですね、イッキ君」
「あ、カリンちゃん?」
手すりに身体を任せて離れて行くメダロッ島を見つめていると、後ろからカリンが近づいてきていた。
身体をそちらにむき直し。
「身体は大丈夫? それと、ご両親は良いの?」
「ふふ。大丈夫です。父様は、コウジ君とユウダチちゃんが食い止めてくれていますわ」
「食い止めてくれている……って。あははは」
カリンの両親は、病弱なカリンに対して過保護気味である。家から出れば連れ戻すし、長時間の外出も許されない。
……そう考えると、メダロッ島に連れてきてくれなかったくらいで両親に拗ねて見せた自分の行動が、少しばかり恥ずかしくも思えてくる。家に帰ったら存分に謝って、楽しかった話をしよう。イッキはそう決め込んだ。
だがまぁ、そのカリンについても、両親とこういう風に接することが出来るようになったのであれば。カリン自身の考えを持って行動できるのであれば、イッキが心配する必要も無いのかも知れない。
「それにわたしよりも、ユウダチちゃんの方が家族に関しては難しいですし」
「カリンちゃんは知ってるの? ユウダチの家族のこと」
「はい。わたしの叔父さん……メダロット博士からも聞いていますし、お兄さんやご両親と直接お会いしたこともありますわ」
兄。ムラサメの兄というと……。
イッキが考えている内に、カリンは再び口を開く。
どうやら用事があるようだ。
「本当はわたし、探すよりも探される方が好きなのですが……今日こうして出歩いていたのは、イッキ君を探していたからでもあるんです」
「僕を?」
「はい」
カリンはイッキの前で指を絡めて掌を組む。
明るい茶がかりのツインテールが、海を吹く風に遊ぶ。
請う様に。
願う様に。
瞼を閉じ、息を吸って、開いて。
偽りのない、彼女の全霊の勇気を持って。
「ユウダチちゃんを。わたしの友達を ―― 守ってあげてくださいませんか」
彼女が告げたのは、友の身を案じる言葉。幸先を願う言葉。
……イッキが聞こうとしていた言葉。
……そして、只一人走る少女へ追い縋るための命綱、鍵となる言葉。
つまりは、呪いの言葉だ。
・クロトジル
漫画版ではガトリングを撃った描写がないそうです(wiki調べ。
構造的な問題なのでしょうけれども。
・ダメージ還元、一斉掃射
5はメダフォースの代わりにメダスキル。
ダメージ還元は、カブトメダルのリーダースキルから。
・探すよりも探される方が
カリンの部屋の本棚参照。またはエンディング後、パーツンラリーのイベントを参照。
カリンエンディング後だと、イッキはこのイベントの後に親と食事する約束を取り付ける。
流石は小学生主人公……すごいなぁ。わたしにはとてもできない。
・自壊した
伏線です(かつて無い程のダイレクトフラグ表記
・どろりと黒い視線
大丈夫です(何が
ユウダチっぽく書いただけでこの有様です(ぉぃ
・呪いの言葉だ
折角上でフォローしたのに台無しです。
大丈夫じゃないかもしれません(何が