ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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   メダルとロボット。その先

 

 ユウダチは谷間を隔てて向こう側、魔王の側に連れ去られていた。その後、捉えられていたことを差し置いて勇者役をこなしたイッキへの賞品授与などを行うことで、捉えられていた子供の所在を有耶無耶にする作戦なのだろう。

 だが子供たちが誘拐されることを事前に知っていれば話は別だ。イッキは賞品を貰い終えた後、同行していたカリンと共に「魔女の城」の城内へと戻るための作戦を実行する。

 

 

「あの……お手洗いをお借りしてもよろしいですか?」

 

 

 +上目使い。ミルキーが去った後、係員に伝えるのがミソだ。

 案の定、係員は通用路を使って城内へと戻らせてくれた。カリンの美少女補正も効いているに違いない。イッキが同道したことも、警戒心を薄れさせる子どもという武器をフル活用させる一助となった。

 そうして城の中へと戻り……戻った直後。

 

 

「ミルミルキーっ!?」

 

「フハハハハハッ! 悪の魔女、破れたりっ!」

 

 

 捨てきれない魔女っ娘らしさを叫びに込めた魔女の声。そして、青年の声高な勝利宣言。

 

 

「今の声は?」

 

「爆発音も聞こえましたわ」

 

 

 その声が聞こえた方へ、イッキとカリンは足早に駆けてゆく。

 魔王とのロボトルの舞台となった谷間の水場、その延長であろう貯水槽脇の通路を超えて、向こう側。

 

 

「―― この怪盗レトルト、悪の輩に負けたりはしないのだよ」

 

「くきぃぃぃぃーーっ、くーやーしーいーーーっ! 変態のくせに、変態のくせにっ」

 

「フハハハハ! 確かに奇人ではあるが、いい年して魔女っ娘を名乗る奴に負ける道理もないな!」

 

 

 マントを翻す怪盗レトルト。そして、悔しげに地団太を踏む魔女ミルキーというツーショットだった。

 ……正確にはツーショットではなく、その横におしゃぶりを咥えた全身黒タイツ二本角も居るが、どうやら園児っぽいロボロボ団員は気を失っているらしい。

 

「心配しなくても、法的に許されないのはロボロボ団なので大丈夫ですよ? この狭い場所で連戦なんてしていられませんから、安全かつ速やかに気絶していただいただけですので」

 

「うわあっ!? ……ええと」

 

「レトルトレディです。向こうにいる彼の相方、という認識で間違いありませんよ」

 

 

 突如イッキの横に現れて解説を加えてくれたのは、白チャイナに羽マントのレトルトレディを名乗る女性であった。

 懇切丁寧な紹介をしている間に、ミルキーは破壊されたメダロット達をメダロッチへ戻し終えたようだ。レトルトのメダロットも居たようだが、隠ぺいパーツを使っていたのか、姿が見えないままメダロッチへと格納される。

 

 

「もーっ、夢の楽園が台無しじゃないーっ」

 

「それを本気で言っているのが、君の恐ろしい所だがね……魔女ミルキー」

 

「ふんっ! 一人寂しい私の気持ちは、君みたいな人には判らないかもねっ」

 

「私もそれなりには苦労しているよ。それこそ、あの事件を見届けてくれた君ならば知っているのではないかね?」

 

「っ、もう! わたしの好感度を稼ごうったってそうはいかないからねヒ……君!」

 

「何故だ……」

 

 

 困惑した雰囲気を隠そうともしないレトルトに、ミルキーは両腕を振り回して突撃する。

 だがその突撃は敢行されるその前に、レトルトレディによって前進を阻まれてしまった。

 

 

「……大丈夫ですか、レトルト?」

 

「いや、揺るぎはないぞレディ?」

 

 

 そちらが優先と、レトルトは微妙に剣幕を強めたレディに向けて弁解を始める。

 置いてけぼりだ。イッキ達にはちょっと判らない、混沌とした状況である。……ええと。

 

 

「それより、君たちだ。ミルキー、いい加減本当の目的(・・・・・)を果たしたらどうかね?」

 

「むぅ……仕方がないなぁ」

 

 

 困惑しているイッキとカリンに話題がふられたようだ。

 強引な方向転換だったのもあってか、ミルキーはこほんと咳を挟んで仕切りなおす。

 

 

「それよりも、来てくれたね勇者君!」

 

 

 言葉に違和感がある。

 来てくれた。つまりは、魔女の城へ再侵入を果たした……本来ならば予想していないはずのイッキの到着を、待っていたという事だ。

 

 

「あのー……僕を待ってたっていう事ですか?」

 

「うん!」

 

 

 目を細めた笑顔で、ミルキーは杖をかつんと鳴らす。

 

 

「君を待ってた。君に用事がある人が居てね? わたしはちょーっとだけ、協力してるんだ」

 

「僕に、用事ですか?」

 

「そう。君を。多分、塗り替える(・・・・・)なら今しかないのよ。小学5年生。『最初の事件にぶちあたっている』、『ちょっとだけ既定の道から寄り道している』、今のテンリョウ・イッキ君!」

 

 

 なぜか楽しそうに言って、ミルキーは身を引いた。

 すっと杖を持ち上げて指した先に、下りの階段が見えている。

 

 

「あの下に、君を待っているその人が居るよ。合ってあげて。それと、ロボトルをしてあげて。それがきっと、誰もが望む道筋でもあるだろうから!」

 

 

 ミルキーの言葉は、小学生のイッキからみても胡散臭い。

 胡散臭い……が。その向かい。

 

 

「初めまして……かな。テンリョウ・イッキ君。私は怪盗レトルト。この時代に、義賊なんてものをやっている者だ」

 

「あ、えっと……ファンです!」

 

「それは嬉しいね」

 

 

 仮面とマントを揺らす黒タキシード。世間を騒がす怪盗レトルト、その人である。

 確かに初めまして、だ。先ほどセレクト隊の詰所で飛び去った時は、後姿を見ただったから。言葉としても間違いはない。

 握手を交わし、レトルトが続ける。

 

 

「子供たちを開放するという手筈は済んだ。ロボロボ団と魔女ミルキーは、私とレディで片付けさせてもらったよ。だが、この魔女にも色々と事情があるようでね。子供たち以外にも目的があるみたいなんだ。その目的の……待ち人は、君らしい。だからどうか、協力してあげてくれないか? きっと、悪いようにはならないと思う」

 

 

 殊勝な言葉だ。

 つまりは、イッキを待っている人があの階段の下にいて。その人とロボトルをして欲しい。そういう事だろうか。

 それについては問題ない。が、イッキとしては聞いてみたいこともある。

 

 

「あの、わかりました。その人と会うっていうのは、僕も大丈夫です。……でも、レトルトさんと魔女さんはお知り合いなんですか?」

 

「そうだ。私も、それにこのレディもね」

 

「ええ。ちょっと古い知り合い……みたいなものですね」

 

「あはっ、そうだねー」

 

 

 レディとミルキーがレトルトの紹介に同調する。

 それならばどこか親密さを感じるやり取りも納得のいくものだ。

 とはいえ、本来の目的を忘れてはならないだろう。

 

 

「なら……ユウダチ……じゃあ、分らないか。僕の友人の……あ、ツナギを着た女の子も、あの下にいるでしょうか?」

 

「ふむ。そうだね。あの階段の下は牢屋になっている。子供たちを閉じ込める、この魔女の、悪趣味な牢屋さ。君の友人の女の子も、恐らくはいるだろうね」

 

「まーたそういうこと言う。……あーっ、でもね、子供たちを開放するのはロボトルが終わってからにしてねー! そういうお約束なんだからねー!」

 

 

 割り込んだミルキーの言葉に、レトルトはやれやれといった様子で手のひらを翻した。

 そのままレトルトが身を引いたことで、人垣が左右に開ける。

 一歩を踏み出すその前に、一度だけ後ろを振り返り。

 

 

「じゃあ、僕は行ってくるね。カリンちゃん」

 

「はい。ユウダチちゃんを、どうか宜しくお願いしますわ。イッキ君」

 

 

 ユウダチという少女の一番の友人に別れを告げて、イッキは階段の下へと踏み入った。

 

 

 

 

 

 ◇◇∨

 

 

 

 

 

 魔女の城の地下。

 階下に潜るごと、辺りは暗くなってゆく。

 湿気もある。まさに中世の牢屋、といった雰囲気だ。

 

 

「それにしても、僕に合いたい人? 心当たりはないんだけどなぁ……」

 

「あのレトルトって奴が許してたからには、ロボロボ団でもなさそうじゃねーか?」

 

 

 隣を進むメタビーの言う通り。だとすれば猶更、心当たりはないのだが。

 そうしてぽつぽつと会話をしながら下る事しばらく。どうやら底にたどり着いたらしい。

 壁に立てかけられた燭台の明かりは周囲を照らすには心もとなく、薄暗い。

 その闇の中、ぽつりと1人。

 

 

「―― やあ、来たね?」

 

 

 仮面だ。マントだ。おかっぱだ。

 そんな不審な人物が、牢屋に踏み入ったイッキを見て声をかけてきた。

 ……ただ、イッキとしては美的センスが合うらしい。特に仮面の、怪盗レトルトの顔全てを覆うクラウン的なものとはまた違う、目元を隠して口元を隠さない尖りっぷりが何ともいえなく格好いい。

 ではなく。

 

 

「君が、僕を待っていたという人なの?」

 

「そうだ。貴方を待っていた。テンリョウ・イッキさん」

 

 

 どうやら同年代の男の子らしい。その割には敬語だが。

 仮面の男の子は活発そうに腕を組んで大きく頷くと、その左腕につけたメダロッチを突き出した。

 そのあたり、メダロッターならば不審人物でも変わりはない。

 

 

「俺は……そうだな。怪人Z仮面と呼んでくれ。貴方とロボトルがしたくて、魔女ミルキーに連れてきて(・・・・・)もらったんだ。どうか俺と、1機VS1機でのロボトルをしてくれないだろうか!」

 

 

 そう言った少年の言葉には、熱が込められていた。単純で、率直で、分り易い申し出だ。

 イッキとしては当然疑問も残る。魔女ミルキーに頼まなくても、通りすがりのイッキにロボトルを申し込めばそれで済む。これは、そういう願いのはずだ。

 ただ、それらどうでも良いことなんて置いてしまえば、ロボトルから挑まれて逃げる理由もない。

 イッキよりも先に、メタビーが一歩前に出る。

 

 

「受けて立つぜ、イッキ!」

 

「ああ。その勝負、受けるよ!」

 

 

 ロボトルを受けて。

 と、向かいの男の子もメダロットを転送した。

 ―― したのだ、が。

 

 

「行くぞ、出番だクロトジル(オメダ)!」

 

「おう! オイラ、合点承知だぜ!」

 

 

 現れたのはメタビーと同型の、KBT型メダロット。

 しかし、そのフォルムに見覚えがない。

 外付けの装甲パーツが各所に取り付けられており、カブトムシらしい鎧。脚部はより頑丈に。射撃には落ち着きが大切である。

 アクセントとして散りばめられた赤色は、サイカチスのものとはまた違い、先鋭さよりもクラシックさを強調してくる。

 

 

「(……あのKBT型メダロット、何かがおかしいぞ?)」

 

 

 疑問符が脳内を埋め尽くす。

 イッキという少年は、同年代の子供たちと比べてもメダロットには詳しい方だ。週刊メダロットの新型発売チェックは欠かさず行うし、おみくじ町に存在するメダロット研究所にも足繁く通う顔なじみである。

 だのに、機体名「クロトジル」……ペットネーム「オメダ」を名乗る目前のKBT型メダロットには、全くと言っていいほど見覚えがないのだ。

 そして、そのデザインにも違和感を覚えた。目の前で砲身を構えるKBT型メダロットは、洗練され過ぎ(・・・・)ている。

 イッキのメタビーが纏う第三世代KBT「サイカチス」とて、未だパーツテスト中の最新型だ。そのはずなのだ。

 だが、デザインというものにはデザイナーの個性が出る。そして隠しきれない時代の流れというものが出る。川を転がってゆく石は、時間をかけて下ってゆかなければ、丸くなるはずもない。

 その点について、サイカチスという機体は変形機構の他、装甲が薄くスリムな体型になったという特徴がある。

 しかしクロトジルには、今のメダロット達にはない雰囲気があった。

 ……まるで何度も作られたカブトムシという題材から、無駄を省いてリファインしたような。それでいて、重装甲パワーファイターというKBT型の元祖……BTL型メタルビートルの特徴を踏襲したような。

 そんな、今よりも未来の雰囲気を感じさせる、異質なデザインだった。

 

 

「合意とみていいかな?」

 

 

 ここには居ない審判の言葉を借りて、男の子は先を促す。

 イッキは慌ててメダロッチを構えると、頷く。

 

 

「う、うん!」

 

「それじゃあ行くよ。ロボトル……」

 

「―― 行くぜ、カブトムシ!」

 

「―― オイラが受けて立つぜ!」

 

 

 牢屋の中で、互いの銃器が火を噴き。

 

 

「「ファイトだっ!!」」

 

 

 遅れて響いた少年らの声を待つまでもなく、それがそのままロボトル開始の合図となった。

 

 






・怪人Z仮面
 怪人Zの初出は、メダロット3パーツコレクションより。色々混ざっています。
 今回のイベントは、メダロット2コアエンディング後の同場所でのイベントを参考にしています。
 本編でも(恐らく)これ以降回収されることのない(望めない)伏線です。
 仔細は多分、最終話まで語ることは出来ません。

・クロトジル
 メダロット5のKBT型主人公機。
 両腕がチョキで頭がグー。NPCが使うと右腕のライフルでパーツをばしばし破壊してくる。
 5はクリティカルが大切である。

・魔女ミルキー
 1とかでは通信のお姉さんを担当していました。
 2以降も担当してくれます。
 でも幼児愛好。ピー○ーパン。
 ガチテレポートできる。

・BTL型メタルビートル
 扱いが難しい型。メダロッターりんたろう!において、美化されたヒカルが扱ったとされるカブトムシ型の元祖。
 おそらく、ゲーム内で「めたびー」と平仮名表記される型のこと。
 イッキが扱うメタルビートルとはまた違い、色は茶色~こげ茶色。コミュニケーションモニターに表示される電光表情による目は丸型。
 つまりは無印「メダロット」のパッケージに描かれたメタルビートルのこと……と、本作では設定しています。

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