「お城、でかいです!」
「うん。これだけ大きいと迷っちゃいそうだよね」
「ふふふ。ユウダチちゃんが楽しそうで何よりですわ」
数刻後、カリンとの待ち合わせの時間。ユウダチとイッキはカリンと合流し、「魔女の城」の門前に立っていた。
というのも、先ほどジェットコースター横の草むらでとっ捕まえたロボロボ団から、聞き捨てならない事件の内容を吐き出させていたからだ。
曰く。
魔女の城を仕切っているミルキーと言う女性と、ロボロボ団の幼稚園幹部が結託し、子どもを攫っているらしい。写真を撮っていたのは、ミルキーが好きなタイプの子どもを厳選するためだとか何とか。犯罪である。
幼稚園幹部に関しては、組織全体とは関係なく、独断専行での作戦であるらしい。ユウダチは関与しておらず……だとしても子どもを攫うとか意味を見出しがたい無謀な作戦は、止めておきたいとのことだった。
「なら、こうやって乗り込んでしまえば一石二鳥だよね」
「ですです!」
「わたくしも出来る限り協力させていただきますわ」
そう言って、カリンは可憐に口元を抑える。彼女にはユウダチがロボロボ団幹部だとかいう内容は伝えていないが、ロボロボ団の悪行を懲らしめる程度は話してある。遊びながらでも協力してくれるというのは、素直にありがたかった。
「……あっ、開場したですよっ」
待ちかねていたという雰囲気をばらまくユウダチの目の前で、魔女の城の大きな扉が開く。
軋みながら左右に別れたその中に、黒のローブにとんがり帽子。魔女のコスプレをした女性が立っていた。
「ようこそ魔女の城へ! さあ、皆を不思議の世界に案内するよー!」
そういって引き入れられた城内は、まるで迷路のような、しかし不思議の世界との言葉に違わぬファンタジー。
これは気合を入れねばなるまい。子供ながらに気を引き締めながら、イッキは不思議の世界へと足を踏み入れた。
そうして入った魔女の城。
途中までは和気あいあいと城内を探索していた……の、だが。
上階へと移動した瞬間、暗転。魔王なる人物が子どもを人質にとり、それを救出しに行くという展開になった。
魔女の城の演出なのだろうが、ネーミング的にその役は魔王ではなく魔女がやるべきではないだろうか。まぁその魔女ミルキーも裏で子供を物色したりしているので、間違いではないのだろうけれども。
どこか釈然とした気持ちでいる内に、暗転していた視界が晴れる。
すると。
「―― ユウダチちゃんが、居ませんわ」
「あー、女の子が魔王にさらわれてしまったよー!? これは勇者を探すしかないーっ」
カリンの呟きに、イッキも周囲を見回す。ミルキーが何か棒読みしているが、それよりも友人である。
「確かに、居ないね。ユウダチがさらわれたの?」
「ええ、恐らくは……」
周囲を見回すが、居るのは同時に魔女の城に入った子ども達、数人の引率の大人だけである。ツナギを着た少女の姿はどこにも見当たらない。
「(まいったな……。ユウダチが居ないと)」
ちょんまげを揺らして、頬を掻く。
ロボロボ団の企みについて、もっとも有効と思われるのは幹部の立場を持つユウダチである。そのユウダチが演出の為にさらわれたとなると、事件解決の手管が掴みづらくなってしまう。
一応はこの事態、ユウダチの仲間(
「一先ずはアトラクションを終えましょう、イッキ君」
「……そうだね、カリンちゃんの言う通りだ」
イッキは頷く。
さらわれたというのであれば、それを抜け出してまで動くわけにはいかない。目立つと、目をつけられてしまうからだ。
だとすればカリンの言う通り、魔王にさらわれただとかいう演出を、シナリオ通りに終わらせてしまえば良い。その後にでも事件を調べれば何とかなるだろう。むしろアトラクションに縛られていない分、動き易くもなる。
方針は決まった。ミルキーが声高に、大人らしからぬ可愛げを含ませて、叫ぶ。
「さあさあ、どなたか、勇者役をやってくれる人は居ませんかーっ!」
渡りに船である。
カリンが上目づかいにイッキを見上げる。
周囲の子どもたちが物怖じしているのを確認し、イッキは勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、僕がやります!」
◇◇
金ぴかの鎧を身にまとったイッキは、魔女の城上階を勇者として探索していった。
……いるわいるわ、ロボロボ団。
城内のそこかしこに湧いて出るロボロボ団は、どうやら魔王の手先と言う設定であるらしい。それら金魚鉢逆さ被りのロボロボ団を、イッキは時にロボトルで。時にメダロードレースで打ち破ってゆく。
水場に囲まれた大広間に出たところで、魔女ミルキーは前をびしりと指出し。
「さあ、いよいよ魔王の間に到着よ~!」
「よく来たな、勇者よ」
「えーと……助けてー、ですー」
やる気のなさそうな顔、しかして声色だけは重たげなの魔王の後ろ。そこに、いよいよツナギ少女が囚われているのが見えた。
さてはロールプレイングである。イッキは勇者としてのノリを崩さず、こぶしを握って言い放つ。
「魔王、ユウダチをはなせ!」
「……放せと言われて離すなら攫ってないだろ。クク、ロボトルだ!」
当然とばかり、魔王はメダロッチから機体を呼び出した。
まあ、イッキとしても、ロボトルせずに済むとは思っていない。だからこそのロールプレイングである。後ろ暗い部分(子供の誘拐)はあれど、これはまだ、アトラクションなのだ。
「行くぞ、メタビー! ベアー、スパイダ!」
「へっ、ロボトルなら任せやがれ!」
「クママー!」
「クモモー!」
水場を挟んで、イッキのメダロット3機が並ぶ。
対する魔王のメダロットも3機。カエル型のメダロットフリッグフラッグ、そしてニワトリを模したクリムゾンキングという機体が2体、水場の上。ちなみに鶏は飛んでいる。
「ゲロゲーロ。拙の機動力に恐れおののくが良い、であります!」
「「ッケコーッ!」」
この組み合わせであれば、対潜水、対空弾頭を用意してくるべきだったか……と思うも、メダロットのセッティングはロボトルが合意してからでは認められない。
いつの間にか(音も気配もなく)現れていたミスターうるちが、メルヒェンな着ぐるみを着たまま腕を振り下ろす。
「それでは! ロボトル ―― ファイト!!」
「むぉぉ、行けぃ!!」
「ゲロゲーロ!」
「メタビー、メダチェンジだ!!」
「おうよっ ―― ヴるぉぉんっ!」
足場は床で水場もあるが、元々イッキのメダロットは水場に適した装備を有していない。ベアーは車両、スパイダは多脚型の脚部である。水場周囲は谷間のような入り組んだ地形のため、スパイダの数多い脚が一番機動力を活かせる形であろう。
そのため、メタビーは固定砲台として活用するべき ―― そう、運用を決め込んで、一手目からメダチェンジを試みたのだが。
「「コケーっ……コッコ!!」」
「うおっ!? いきなりかよっ!? って」
いきなり僚機のクリムゾンキングが、両腕のチキンを模した鈍器を振り回してメタビーへと。
直後に、爆発。
「―― クマっ!」
「さんきゅ、ベアー!」
もうもうと煙る爆炎の中、ベアーは両腕の「ライトシールド」と「レフトシールド」を掲げてメタビーの前に立ちふさがった。
「でも ―― 大丈夫か、ベアー!?」
「やれるクマ!」
イッキの言葉に、ベアーは気丈に返す。た攻撃を受け止めた左腕は、根元から爆散していた。
一撃離脱を信条に退却したクリムゾンキングは、その両手に
「っくそ! 何の攻撃なんだ、今の!?」
「もう1発ずつ来るぞ、構えるんだメタビー。ベアー、援護を頼むよ!」
「了解だクマ!」
ベアーはそう言い放つも。
「コケーッコ!!」
「両腕損傷クマーッ!?」
クリムゾンキングの振るう
とんでもない威力の攻撃……ではあるのだろう。ベアーの両腕に装備されていた騎士楯は、味方を援護防御するための楯だ。装甲は両手だけでもメタビー1体分はあるはずなのだが。
「(……威力? 違う。なんだっけ……最近、週刊メダロットで視たぞ?)」
思い当たる節がある。イッキは防戦を任せながら、その間を利用して思考を回す。
「だーっ! てめぇカエル! ひらひら回避してねえで攻撃しやがれ!」
「ゲロゲーロ。攻撃パーツがないのであります! 拙は回避に専念するので!」
「それだと罠も通用しないクモーぅ」
水場をもの凄い機動力でぴょんぴょんと跳ねるフリッグフラッグを、メタビーとスパイダが追い回す。クリムゾンキングはその後ろを追い駆け、ベアーがメタビーとを結ぶ射線を切っているが、充填放熱を終えていないのだろう。両手のチキンはまだ振るわれていない。
チキン。クリムゾンキング。鶏が鶏肉を振るっているとか、自己犠牲以外の何物でも無いと思うのだが。
……犠牲?
「(っ! 犠牲攻撃、それだ!)」
ようやくと思い当たった。通常の攻撃の枠にない、独自の攻撃機構を持つ攻撃種 ―― 犠牲攻撃。
確か、昨日のダイオウイカ型メダロットも使っていた。パーツの一部位にエネルギーを収束させ、そのパーツを犠牲にしつつも遙かに強力な攻撃を繰り出すことの出来る「サクリファイス」。
そしてもう1つ。もう1種類。
「ベアー、スパイダ! フリッグフラッグを囲むぞ!!」
メダロッチに向かって、イッキが叫ぶ。
ベアーとスパイダは一瞬だけイッキの方を視たが。
「―― 了解クモー!」
「メタビーは頑張るクマ―!」
その指示に従い、スパイダは谷間を多脚で器用に飛んで、フリッグフラッグを追い越す。ベアーもメタビーの援護をすっぱりと止め、追い立て始めた。
砂利道の上でタイヤを踏ん張らせたメタビーは、その結果、2体のクリムゾンキングに相対する事になり。
「おい、イッキ!?」
「大丈夫だ、踏ん張れメタビー! 来るぞっ!」
「「折角だから ―― わたし達はこのリーダー機を狙うぜ!!」」
何が「折角だから」なのか判らない決め台詞と共に、クリムゾンキングはフライドチキンの棍棒を振り上げる。
時が止まったかも知れない。
直後、爆発。
「――っ!」
「クックック。トドメの追撃だ、クリムゾンキング!」
なんか脚がもやもやしている魔王は、ロボトルの部隊となった谷間を高台から見下ろし、偉そうに指示を飛ばす。
その横で大人しくしているユウダチは、しかしメタビーに追撃が指示されたこの局面にも、微塵も動揺を見せていない。
イッキの作戦を見抜いているのかも知れない。彼女はパーツの開発者だ。新しい特殊攻撃パーツなどにも詳しいだろう。
だとしたら。そう。クリムゾンキングの両腕 ―― 「デストロイ攻撃」についても知っているなら。
これから起こる事態も予想できているに違いない。
「「コケーッコ!!」」
もう一度、今度は赤色の鶏冠が大きく唸る。頭までもがデストロイ攻撃なのだろう。
……ただし。自らが巻き上げた爆煙の中で、どれだけ狙いをつけられているかは怪しい物だが。
「―― 残念だが、微塵もダメージ受けちゃあいないんだなこれが!!」
「押し出すクモモー!」
「押し出せクママー!」
コケ?
と首を傾げるも時既に遅し。
パーツを1つも破壊されず、メタビーは無傷のまま。止まっているはずの足は自由に動き。
その代わり、ベアーとスパイダによって押し出されたのは、緑の機体。
「ゲロゲーロッ!? って、フレンドリーファイアでありますかーーーッ!?」
「フリッグフラッグ、戦闘不能! 勝者……テンリョウイッキチーム!!」
ミスターうるちが勝利者の名を声高に叫び、それではと潔く姿を消す。
イッキの思惑通り。「デストロイ攻撃」とは、メダロットのパーツが有する「放熱機能」……攻撃後の機能を狂わせることによって、パーツそのものを直接破壊する攻撃なのである。
援護をしているパーツを破壊できるのもその副産物であり、援護後の時間を「放熱時間」を見立て、廃熱機構を破壊するのだ。
ただ、その狙いはパーツ単位である。メタビー……サイカチスは今、メダチェンジを行っている。メダチェンジを行うと、メダロットの装甲は一体化され、放熱機能の経路も太さも、従来の物より上位に変わるのだ。
つまり。メダチェンジしてしまえば、通常のデストロイ攻撃では微塵もダメージを受けないだろうという。
「ぐぉぉぉぉおー……! 勇者めぇえぇ!」
ロボトルに敗れるや否や、魔王は苦しげなうめき声を上げながら姿を消して行く。
そう言えばそういうシナリオだった。
「やったー! 勇者君が魔王を倒してくれた! これで世界は救われたわ!!」
魔女ミルキーがロールプレイングで解説を加えてくれる。
イッキ達と同行していた子どもやその親たちも、拍手でイッキを称えてくれた。
賞賛は少しこそばゆい。イッキは頭の後ろに手を回し、頭を下げつつ。
それらが収まり、ミルキーから勇者役をこなした景品を受け取ってから。
「―― それじゃあ、ユウダチを迎えに行こうかな?」
・フリッグフラッグ
カエル型メダロット。潜水型の脚部に加え、魔王のメダルの異常なレベルの高さもあり、躱す躱す。索敵も無駄。隠蔽隠蔽。
必中でなかった頃のアンチシーすら回避するので、取りあえず僚機を倒してからメダフォースが鉄板。2コアならミサイルもあり。でも本作はミサイルも回避できるのでこうなりました。
カエルなので軍曹。ちょっと懐かしい。
・クリムゾンキング
せっかくだから、おれはこの赤の扉を選ぶぜ!
……ではない。鶏型メダロット。パーツは作中の通り。
脚部の名前は「トブンダー」。ヒカルのメタビーだったらツッコミを入れる所。
・まおう
アトラクションの従業員。休憩時間にも着ぐるみ(?)を脱がない社畜の鏡。着ぐるみ……なんですよね?
仕様メダロットは、リメイクに当たる2コアでは作中の通り。
……では、リメイク前の機体は?
繰り返しますが、このルートは茨の道です。
・ぎせい攻撃
メダロット1の使用。がむしゃら攻撃ゴーストの流れを汲んでいる表記。
犠牲攻撃は、デビルメダルが得意とする攻撃特性。メダルの得意不得意とパーツの特性があっていると、熟練度がましましになる。
・デストロイ攻撃
旧世紀……「放熱中」のメダロットのパーツを破壊する。問答無用。
新世紀……「援護防御」を行っているパーツを破壊する。問答無用。
本作では両方採用しています。