さて。大会を終えればパレードだと、外へ出たのは良いが、パレードを催している場所が判らない。
とはいえこういうのは大通りでやるものだろうと、イッキが適当にあたりをつけていると。
「―― ふははははははっ! とうっ!!」
頭上の建物から建物へ。
ロボトル大会の会場からセレクト隊の建物へ飛び移る、怪しげな影があった。
イッキとしてはこうして、直接姿を見るのは初めてだった。しかしあからさまな変態……もとい、奇人じみた格好のその人こそ。
「怪盗レトルト、只今参上ッ!!」
「いたぞーっ! レトルトだーっっ!!」
世間を騒がす義賊、怪盗レトルトその人であった。
屋根の上にいる彼を、セレクト隊員が数に物を言わせて取り囲み始めているのだが……イッキでも分かる。飛んで逃げられたらどうするつもりなのだろう。
というか、彼が姿を現した時点で、ロボロボ団の存在の方を疑うべきではないのだろうか? 何しろ怪盗レトルトは、義賊。ロボロボ団のような悪党に狙いを定めているのだか
らして。
「ふははははは! それではセレクト隊の諸君! さらばだ!!」
「というか何しにきたんジャい、ワレ―ッ!!」
最後に遅れてきたアワモリ隊長が姿を現したところで、怪盗レトルトは飛び去って行った。もちろん捕まるはずもない。
しかしアワモリ隊長の遅刻は兎も角、言っていることは正しい。本当に、何のために姿を現したのだろうか。イッキは少し周囲を見回し……
……すると。
「あっ、イッキです!」
「ユウダチ?」
「はいです!」
花園学園の制服……ではなく、いつものツナギ姿のユウダチがロボトル会場から姿を現していた。
「とりあえず優勝おめでとうです、イッキ!」
「うん、ありがとう」
テンション高く、しかし笑顔は口元だけで。
近づいてきたユウダチはイッキへ賛辞を贈ると、ついで、周囲にあふれたセレクト隊員らの姿に目を留めた。
「むむ。これだけの隊員が集まっているという事は、レトルト参上です?」
「そうだね。ついさっきまでは居たんだけど……あっちに飛んで行っちゃったんだ」
言って、イッキは北側……「魔女の城」といアトラクションがある側を指差す。
セレクト隊員達も、消えたレトルトを追いかけるでもなく、地団太を踏んでいるアワモリ隊長をおろおろと取り囲んでいるだけだ。
……まぁそれはいつもの事なので、イッキも置いておくことにする。それよりも。
「レトルトが居るっていう事は、ロボロボ団も居るのかな? まぁ、ロボロボ団、ゴキブリと同じで何処にでもいるんだけど」
「んー……イッキの言う通り。居るには居るです」
腕を組んだイッキの隣で、ユウダチは諦めた表情だ。ロボロボ団に対する呆れと言う意味では、その幹部もどきを務めているというユウダチの立場からしてみれば、これ以上なく実感できている事だろう。
「あっ、それよりパレードです! 今の騒ぎで中止になっていないと良いですが……」
「それは大丈夫みたいだね。大通りでやると思うよ。ほら、向こうでアリカが場所取りしてるし」
イッキが視線を向ける先で、件の幼なじみがシャッターチャンスを逃すまいと最前列を確保していた。隣にはアリカの両親とカリンちゃん、カリンちゃんの両親とコウジまで居る。どうやら準備は万端らしい。
「ユウダチもアリカの所に入れてもらえば良いんじゃない?」
「んー、家族の団らんを邪魔するのも気が引けます。それにスペースはギリギリみたいですし」
それもそうか。アリカが陣取っている周辺は、既に分厚い人の山で埋め尽くされている。横入りとまではいかないが、あそこへ割り込むのも容易ではないだろう。
さて、どうするか。そういった意味を込めてイッキは周囲を見回す。
パレードが行われる中央通りを抜けて、北側。向かいの通路も人だかりには変わりない。
だとすればパレードを見学するのは、やっぱり簡単じゃあないか。と。
「……ですね。ならイッキ、ちょっとわたしに付き合って欲しいです!」
考え込むイッキの手を、ユウダチが引っ張る。
楽しそうな声色だ。
悪戯を成功させた子供のような、年相応の少女然とした様子で、続ける。
「皆さんがパレードに集まっている内に、わたし達はアトラクションを回ってしまいましょうです!」
◇◇
どこぞのランドではないが、メダロッ島にもファストパスと言う制度がある。
時間予約優先制度、みたいなそれはメダロッ島の各アトラクションにも設けられており、混雑している場合には大変な効果を発揮してくれる。
ただそこは、開園間もないメダロッ島。それら制度を利用して計画的に回るといった客はあまり多くはなく、結果として、イッキとユウダチはパレードを行っている間に殆どのアトラクションのパスを手に入れてしまっていた。
そもそも園内で全くパレードを見れないわけでもない。軽快な電子音に合わせて踊るメダロット達とそれらを見るために足を止める人波を横目に、各アトラクションのパスを取って回るというのも、なんだか怪盗みたいな雰囲気で楽しいものだ。
で。
そのままパスを手に、イッキはユウダチに連れまわされる事となるのだが。
「―― わきゃーっ!?」
「うわぁぁぁーーーっ!?」
隠ぺいパーツを使用した、無駄に凝った演出のお化け屋敷に突入したり。
「うーん……思いっきり水を被っちゃったよ」
「合羽なんて気休めなのです」
スライダーに乗って水に突入したり。
「見つけたですーっ!」
「あ、こら! まてーっ!」
『待てと言われて待つ奴が……ウゲゲッ!?』
「道は塞がせて貰おう」
「カミキリお前、剣を突き付けながら言うと怖ぇえーよ。あとラピ、お前ウゲゲってマスコットの台詞じゃねーよ」
園内に隠れていた限定カラーのラピ(マスコットメダロット)を探してみたり。ついでにメタビーとヨウハクがロボトルで捕まえてみたり。
……とまぁ、何だかんだでメダロッ島を満喫出来ていた。
「―― ふう。これだけ回って、でもまだお昼時ですねー」
「そうだね。次のアトラクションが終わったら、休憩でも挟もうか?」
カフェテリアの椅子に腰かけながら、イッキとユウダチは一息つく。
残るパスはあと2つ。「ジェットコースター」と、「魔女の城」のパスだ。次に来るときには使えないし、メダロッ島にまた来れるかも定かではない。本日中に消費してしまいたい所である。
そう考えつつも休憩を提案したイッキに、ユウダチはふるふると首を振る。
「午後にカリンと魔女の城へ行く約束をしているんです。昼食もこのカフェで手早く済ませて、約束には遅れないようジェットコースターに乗りにいきましょう!」
なんともはや友人思いの台詞を言って、ぐっと拳を握ってみせる。ユウダチはやる気満々である。
おどろ沼の時もそうだったが、カリンは体が弱いと聞いている。過保護気味な両親の所から彼女を連れ出す役割というのは、それなりに重要なものなのだろう。
ジェットコースターはメダロッ島の西側にあった筈だ。言う通り、手早く昼食を済ませよう。
イッキもサンドイッチを注文し、空腹を補っておくことにする。
……したのだが。
問題は、件のジェットコースターに乗っている際に起きた。
「……ねえユウダチ。写真を撮られたとき、変な声がしなかった?」
「ですねぇ。嗚咽的な」
ジェットコースターを楽しみ終え、会場から出てくる途中。
イッキが気になったのは、ジェットコースターの最中。中途にある最大の傾斜の部分で写真を撮られた際の事だった。
写真については、まぁ、良い。降りの最中に撮影された写真を売るのだろう。良く聞くビジネス。
ただ、その場合は機械が撮影を行うはずだ。だとすればユウダチの言う「嗚咽」的なものが聞こえるというのは、考え難い。
―― う……ん。うーん、ロボ
「……しかも、さっきから唸り声が聞こえるし」
「そっちの草むらですかね?」
ジェットコースターの会場横。草むらの中だ。
語尾が気になるその唸り声。
イッキとユウダチは顔を見合わせ、息を合わせ。
嫌な予感もひしひしと感じつつ。
「「せーのっ」……です!」
「―― ロボっ!? なんだロボ! って、さっきジェットコースターで撮影した、笑顔が恐ろしい子供ロボーッ!?」
やはりというか何というか。
メダロッ島でも、事件の素 ―― ロボロボ団と出くわしてしまうのだった。
それにしても言い様が酷い。
・メダロッ島
アトラクションの数は、それでいいのでしょうか……。ゲームだとかなり少ない。
ROM容量の問題なのでしょうけれどもね。トキワの森は犠牲になったのですよ……
・パレード
分岐点。本来は以前と同様、泣いている女の子のメダルを探している間に消費されるイベント。
メダロッ島は、メダロットを前面に押し出したテーマパーク。どんなパレードなのかはちょっと気になる。ファンタジー色は否応なしに薄まるでしょうし。
・怪盗レトルト
セレクト隊の無能さが際立ちます。人数が必要な場面においては、優秀なのでしょうけれども。
アワモリ隊長、無惨。