ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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28話 Strike Enemy

 かくして始められたロボトル。

 と同時、周囲一体を、爆撃のような射撃が覆った。

 凄まじい轟音が、地下の実験室を大きく揺らす。

 

 

「……アー」

 

 

 真ん中で動かないゴッドエンペラー①。

 

 

「うぃ、そこです!」

 

 

 右から両腕と頭による絶え間ない射撃を繰り出してくるゴッドエンペラー②。

 

 

「何おれ、やっぱ楯になんの?」

 

 

 そして庇うように前に出ながら、制圧射撃を繰り出してくるゴッドエンペラー③。

 それら弾幕の嵐を押しのけるように、イッキのチームのクマメダル(ベアー)……援護防御の機体が前に押し出る。

 ベアーは狙い撃たれる「レーザー」を、両腕の楯で割るように引き裂いた。

 

 

「光学射撃は効かないクマよっ」

 

「ナイスだベアッ……おらぁぁあっ!!」

 

 

 頭の遮光パーツにより威力の高い光学射撃を無効化したベアーの横を、弾丸の雨(ガトリング)とミサイルが抜けて飛ぶ。

 前に出た③のゴッドエンペラーの脚部を狙ったメタビーの射撃は、しかし、両腕によって防御された。ゴッドエンペラー③の両腕で弾痕が煙を上げる。

 

 

「何これ、おもちゃ? ……お返しするぜ?」

 

 

 両腕を掲げた③の右腕から、弾頭が次々と飛び出しては……ただしメタビーらの周囲に着弾してゆく。口癖からして、③はフユーンではゾーリン……格闘を主体としていたメダルだろう。どうやら同じく、重装甲を生かしたバトルは得意ではあるものの、射撃は狙いが甘く大味であるらしい。

 

 

「アー」

 

「ういぅぃ!」

 

 

 奥から①が、周囲を薙ぎ払う重力……ブレイク射撃。②が狙いをつけたミサイルを飛ばしてくる。

 辺りの瓦礫が重力射撃によってねじ巻いて吹き飛び、メタビーを狙ったミサイルはベアーが楯で受け流す。

 メタビーは左腕と右腕の放熱が抜け切ったのを確認して、イッキに向けて叫んだ。

 

 

「いけるぜイッキ!」

 

「うん! ……しかけるぞ、ベアー! スパイダ!」

 

 

 声に合わせて、呼ばれた2体が頷いてくれる。

 イッキがメタビー以外の2体を援護機体としている理由は幾つかある。その内の1つが、戦況によって戦い方を変えられる事だ。

 今回の相手、ゴッドエンペラーの装備は確認できた。

 右腕が多段式の弾頭ミサイル。

 左腕が収束光学射撃、レーザー。

 頭が湾曲重力射撃、ブレイク。

 それら全てが射撃による攻撃なのである。

 「そう」している理由は幾つもあるのだろう。例えば本来、ヘベレケ博士が言っていたように多大な電力の補充を必要とするため動き回ることが苦手であるとか。対多数戦闘において、射撃攻撃のほうが収束させやすいであるとか。

 だとしても、今は3対3のロボトルだ。見る限り相手の動きは鈍くはなく、威力が段違いではあるものの、射撃攻撃で統一されているというのは間違いない。

 ならば作戦は決まっている。

 イッキは間を見計らう。相手の攻撃の主体は①の、リーダー機と目されるゴッドエンペラーだ。彼または彼女を主軸として②が援護射撃を、③が前進を試みているのだからして。

 ①が両腕を上げる。カメラアイを光源が横切る。

 

 

「―― 今だ!!」

 

 

 ミサイル。レーザー。ブレイク。

 高威力の射撃の雨が降る直前、イッキは全力で叫んだ。

 

 

「行くぜっ!」

 

「クマママーッ」

 

 

 資材の影に身を寄せていたメタビーが飛び出し、その前を、両腕の楯を構えたベアーが援護しながら ―― 突撃。

 目標はまず、ゴッドエンペラー③だ。

 「ゴッドエンペラーというメダロットパーツ」は、確かに多大な威力を持っている。元・軍用だというのも間違いではないのだろう。

 ただ、その高威力の射撃を維持するために必要な充填と放熱の時間は、メタビーの3倍近い。一度攻撃を凌いでしまえば、接近したまま撃破も可能だ。

 当然、前線で楯になっている③に直進する2体に、銃口が集中する。

 ベアーの両腕、「ライトシールド」「レフトシールド」は既に多数の攻撃を凌いでいる。装甲は目に見えて減っている。

それでも、2体は直進を止めようとはしない。

 

 

「どういうつもりじゃ……ゴッドエンペラーの射撃を甘く見ているわけではあるまい?」

 

 

 これまではメダロット達にロボトルを任せていたヘベレケ博士も、訝しげな表情を浮べる。

 最後の突撃か、もしくは策があるのか。いずれにせよ、ここで攻撃を仕掛けないという選択肢は無い。

 そして、ゴッドエンペラー達が引き金を引こうとした瞬間。

 

 

 ―― がぼぉんっ

 

「!? 何々!? まじで何ッ!?」

 

「これは……!!」

 

 

 ゴッドエンペラー3体の足元で、爆発が起こっていた。

 

 

「流石だぜ、スパイダ!」

 

「クモモーぉ」

 

 

 資材の山から身を乗り出したスパイダが自慢げに頭を揺らす。

 爆発の種 ―― 射撃トラップ。

 重心の安定した多脚兼タンク型脚部のゴッドエンペラー。だが足元が安定しているということは、身体の固定を足場に委ねてしまっているという事でもある。それが射撃にとって、重要事であるという事も。

 結果、射撃はあらぬ方向へと逸れ、実験場の壁に次々と着弾した。

 その隙に接近したメタビーが猛威を奮う。

 

 

「おらぁぁッ!!」

 

「何々、おれってやっぱりやられや……」

 

 

 右腕の大爪「フレクサーソード」で相手の右腕「デスミサイル」を押さえつけ、引き裂きながら、「サブマシンガン」を頭に向けて連射する。

 ゴッドエンペラーとてメダロット。③は頭部パーツが破壊され、ぴぃんとメダルが弾かれる。機能停止だ。

 

 

ゴッドエンペラー(ムラクモノミコ)、戦闘不能っ! ヘベレケチーム残存2!」

 

「ういぅぃ! 敵討ちです!」

 

 

 ミスターうるちの声が響く中、すぐさま、ゴッドエンペラー②が反応した。

 あのフユーンでの元ベイアニットらしい、冷静な対応だ。

 メダロット各パーツの内、頭パーツというものは、ジェネレーターともメダルとも距離が近いため、充填と放熱の時間がかなり短めになっている。設計どうこうではなく、それは「メダロット」としての構造である。

 そして頭パーツの充填放熱が短いのはゴッドエンペラーも例外ではない。デスブレイク……頭パーツが最も素早く放熱を終え、メタビーを狙う。

 

 

「クマッ!」

 

「うぃッ……!!」

 

 

 そのための援護機体なのだと、ベアーが射線を阻む。

 ねじ狂う空間を右手に……②の射撃。楯が弾け飛ぶ。

 

 

「クマァァッ」

 

 

 しかしベアーは破損した右手を放棄し、左手でそのまま、余波を押さえ込む。

 重力波が、途切れた。

 

 

「サンキュだ、ベアー! ……だららっ!」

 

「う、ぃ、ぅ、ぃ!」

 

 

 その脇を、メタビーがサブマシンガンで射撃を行いながら接近し、

 

 

「うぃっ……博士っ」

 

「くらえっ!!」

 

 

 喉元から頭へ向けて、右腕の爪で引き裂いた。

 カメラアイを覆っていた鋼のバイザーが捲くれ上がり、装甲から何からがバラバラになる。

 

 

「メタビー、次だ!!」

 

「おうよ!」

 

 

 3対1。

 次 ―― 着地したメタビーが素早く振り向く。

 

 

「残ってるのはアイツか!」

 

「……アー」

 

 

 棒立ちのゴッドエンペラー①。

 ミスターうるちが勝敗を告げていないということは、やはり、①がリーダー機なのだろう。

 残る1体になった瞬間、リーダー機はもぞりと動く。

 

 

「ウー……アーーー!!」

 

「うるせえ!!」

 

 

 叫びながら全装備をフルオープンでアタックするリーダー機。

 レーザーが地面を一直線に抉り……ベアーによってかき消され、ミサイルが煙の柱を帯びて宙を舞い、あらぬ場所に着弾しては火柱をあげ、湾曲した重力波が資材をねじ切りながらばら撒かれる。

 

 

 ―― ぼうんっ

 

「忘れた頃に射撃トラップだクモー」

 

 

 トラップによって引き起こされた爆発に、ゴッドエンペラーの脚部がむき出しに。

 それでもゴッドエンペラーは動きを止めようとはしなかった。放熱すら終わっていない銃器を振り回す。

 

 

「アー、ウー! アーぁぁァ゛ぁ!!」

 

「なんだ? こいつ……まるで」

 

「苦しんでる……?」

 

 

 四肢を振り乱すその姿に、イッキとメタビーが疑問符を浮かべる。

 しかし攻撃そのものの威力を前に、留まっていてはいられない。

 

 

「っ、今はロボトルに集中だメタビー! 放熱の間に接近して、ぶった斬れ!」

 

「判ってる! そのつもりだぜ!!」

 

「援護するクマー!」

 

「支援してるクモー!」

 

 

 索敵低下の妨害パーツを使用するスパイダと、残る左手の楯を構えて前進するベアー。

 その後ろを、メタビーが追走する。

 身を翻すと、大爪を振り上げ。

 

 

「これで ―― 決着だ!!」

 

 

 ズバンッ!

 と、フレクサーソードがリーダー機の頭から胴を切り裂いた。

 ①の胸部に大きな亀裂が走り、胴部に貯留していた循環用のオイルが噴出す。カメラアイから光が消える。

 

 

「リーダー機、戦闘不能! よって勝者……」

 

 

 ミスターうるちが判定を下すべく手を振り上げ……

 

 

「テンリョウ……あれ?」

 

 

 振り上げた手を、空中半ばで止めていた。

 止めざるを得なかった。

 

 

「……え!?」

 

 

 そして、イッキは見た。

 奥に立つヘベレケ博士が、笑みを浮かべているのを。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 そして、メタビーは見た。

 

 

「―― アー。……ア、ドコ、hえ……」

 

 

 ゴッドエンペラーとしての鋼鉄のバイザーが剥がれ落ち、濁りない青のカメラアイが、こちらを覗いているのを。

 

 

「ここからが本番じゃ……今度こそ! 打ち倒せぃっ、ラスト!!」

 

「ドコへ、ユクnお、コドモタチ? ……ワタシ、ソウ、dあ」

 

 

 そして遂に、扉は開かれる。

 

 

「―― 憶エテイrう。ハハトnおヤクソクヲ……!」

 

 

 しわがれた声に応え、翅が開く。

 激しく打ち鳴らされる、薄縁の稲光と共に。

 





・ゴッドエンペラー
 メダロット2のラスボス。厚い装甲を楯に、超高威力の射撃が猛威を振るいます。とりあえずレーザー直撃したら機能停止を覚悟しましょう。
 因みに原作では、ヒカルの幼馴染であるアキタキララ扮するレトルトレディが3以降ゴッドエンペラーを使用する。
 なので、レトルトレディはメダロットが鬼畜なのがお約束。

・ムラクモノミコ
 ゴッドエンペラー③、元ゾーリンのペットネーム。
 元ネタは漫画版コウジのビーストマスターより。

・ラスト
 ゴッドエンペラー①、フユーンではビーストマスターだったメダルのペットネーム。
 元ネタは漫画版ヘベレケ博士のベルゼルガより。
 ただし性格も役割もかなり違っておりますのでご注意を。

・②のペットネームは?
 駆け足となる3編の駆け出しまで、もうちょっとお待ちを。
 ただし独自設定ですので悪しからず。

・スパイダ「忘れた頃に!」
 佐鳥も居ますよ。

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