ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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26話 今は素通り

 

 メダロッ島の地下深く。ロボロボ団のアジトを、イッキ達は慎重に進んでいった。

 1階では、女幹部のスルメがロボロボ団員を集めて作戦会議を行っていた。基地の中に団員の姿が見えなかったのはこのせいらしい。

 とはいえ、いつもは多勢に無勢で勝ちを拾うロボロボ団。

 

 

「ロボーッ!?」「ロボボーッ!?」

 

「きぃぃぃィィィーッ!? なんでそんなに強いのよぉっ!!」

 

 

 今は此方も4人。コウジとイッキ、メタビーとスミロドナットのコンビによって、何だかんだでロボトルの果てに退けられた。

 その奥ではレトルトレディが激辛カレーでロボロボ団を撃退していたりした。イッキとしてはその際にレトルトレディーが作っていたカツカレーうどんとやらが、カツ+カレーうどんなのか、はたまたカツカレー+うどんなのかに興味が沸いたものの。今は先に進むべきというカリンの叱咤によって我を取り戻し、足を進めるという一幕も存在したり。

 

 

 地下2階。

 今度は、老人幹部のシオカラが守るセキュリティエリアに到達する。

 何故かその場に居た(いつもはやられ役の)悪ガキ3人組スクリューズと協力してセキュリティを破り、幹部にはロボトルで勝利。イッキ達は更に奥へと進む。

 

 

「ちょっ……短い!? なぁカガミヤマ、オレらも結構活躍したと思わねえか?」

 

「洗濯しなきゃ……」

 

「ふん……諦めな、イワノイ、カガミヤマ。イッキのやつ、ロボロボ団幹部を簡単に倒しやがる。あれが主人公補正ってやつなんだろーさ」

 

 

 地下3階。

 幹部サケカースの方向感覚を狂わせる迷路や酸の海(炭酸)。

 子ども幹部サラミの重装甲メダロット、ジェントルハーツの大群による通せんぼ。

 それらを危なげなく突破した所で、イッキとメタビーは一息ついた。

 

 

「広いなぁここ。地下3階なんだよね?」

 

「だな。流石のオレも、あれだけロボトルすると疲れてくるぜ」

 

 

 イッキの隣に座ったメタビーは、そう言いながらベルトコンベアーに座って足をぶらぶらさせる。

 辺りを捜索して疲れた顔のコウジが、髪を払いながら。

 

 

「さっき倒したロボロボに聞いたら、ここが最下層らしいぜ。じゃあこの階のどこかに、ヘベレケっていう博士がいるんじゃないのか?」

 

「でもあたしもコウジ君も、この階は隅から隅まで調べたじゃない。他にどこに場所があるっていうのよ?」

 

「うーん……」

 

 

 アリカの指摘に、イッキが唸る。

 サラミとサケカースの妨害を突破した先は……確か、おみくじ町の北西でロボロボ団を追い詰めた廃工場でも見かけた様な……箱や機械が散乱した光景になっていた。

 何かを搬入しているらしい。の、だが、その搬入先が見当たらないのでは突入のしようがない。

 機材を運び込むということは件の研究所が近いはずなのだが。と、イッキが周囲を見回していると。

 

 

「……あ、あのう? イッキ君……」

 

 

 隣に座っていたカリンが、疑問を帯びた声を出していた。

 

 

「どうしたの? カリンちゃ……」

 

 

 病弱であるため、カリンの様子はいつも気にかけていた。

 そんなカリンの方向へ振り向こうと、イッキが動く、その時。

 

 

「―― ロボロボロボロボーっ! この先には通さないロボよっ!!」

 

 

 突如あらわれたロボロボ団員の群れ。……は、しかし、カリンを驚かせている主たる原因ではない。

 がこんっ。

 という音がして、ベルトコンベアーが動き出したのである。

 

 

「ちょっ……おい! 待てって!?」

 

「イッキ、カリンちゃん!?」

 

 

 激突は、しない。さっきまで壁だった場所が横に開いている。イッキとメタビーとカリンはその奥へ飛び込んでしまった形だ。

 見る見るうちにコウジとアリカが離れていってしまう。イッキがその場に戻ろうともがいてみるも、ベルトコンベアーは動き出していて止まる様子が無い。

 

 

「くっ……」

 

「イッキ君……きっと、大丈夫です。コウジ君がいますもの。それに、レトルトさん達もフォローをしてくれているはずですわ」

 

「……カリンちゃん」

 

 

 袖を引いてくれていたカリンによって、イッキは何とか落ち着きを取り戻す。

 そうだ。コウジとそのメダロット達ならば、ロボロボ団の平団員くらいに負ける訳はない。レトルト達もいる。基地を進んでいる間、あの激辛カレーの時のように(華麗に)フォローをしてくれている筈なのである。

 

 

「ありがとう。そうだよね。戻るのが無理なら、進まなきゃ。……カリンちゃんは落ち着いているね?」

 

「きっと、フユーンに攫われてしまった時の経験が活きているのかもしれませんわ」

 

「あはは……それって良かったのかな?」

 

「ええ。良かったと思います。だって、イッキ君が、助けに来てくれましたから……」

 

「……えと、うん」

 

「おお……これって、良いフインキってやつか?」

 

 

 などとメタビーに茶化されながらも、カリンとイッキは、揃って再び前を向く。

 ベルトコンベアーに乗って暫くすると通路を抜けた。上にも下にも、かなり移動したと思うのだが……

 

 

「……これって、その、研究所……だよね?」

 

 

 イッキが思わず尋ねたのも仕方がない事だろう。

 コンベアーから降りたその先では、おおよそ地下とは信じられないほどの空間と、その場に鎮座する巨大な機械がひしめき合っていたのだから。

 中でも目を惹くのは、天井までを貫く、直径100メートルはあろうかという機械の柱だ。研究所の中心に立てられているらしい。

 

 

「すげーな」

 

「そうですね。……でも、こんな設備はメダロット社でも見たことがありません」

 

 

 メタビーが感心し、カリンが頷く。

 聞けばカリンはユウダチに連れ立って、何度かメダロット社の内部研究所まで入ったことがあるのだそうだ。こんな巨大な設備は無かったそうだが。

 

 

「―― ん? なんだい、侵入者かい?」

 

 

 立ちすくんでいたイッキ達に向かって、白衣と眼鏡の男が声をかけた。

 身構えるイッキとメタビー。しかし。

 

 

「おっと、これはイッキ君じゃないか」

 

「……ええと、シラタマ、さん?」

 

 

 イッキの半信半疑な問い掛けに、シラタマと呼ばれた研究員が頷く。

 シラタマさん(とやら)は、イッキが通う(間違った表現ではない)メダロット研究所で、ナエのストーカー(語句としては正しい)をしている研究者である。

 ストーカーとはいっても、シラタマのそれは妄信に近かった。博士号を持つナエが提出した論文にいたく感動したのだそうだ。とはいえそれもナエがヒカルにベタベタしているせいで、遠くから眺めているだけなのだが。

 眼鏡をくいくいするシラタマの横に、後ろから追いついた2人目の男が並ぶ。眼鏡に白衣という格好は同様で、とても見分けが付きにくい。

 

 

「なんだ、侵入者って言っても子どもじゃないか。どうせ今日で研究は完成なんだろ? 博士の言っていた『子どもたち』かも知れない。案内してやったらどうだ、シラタマ」

 

「ふーん、まぁ、いいけどね。君たち、ここを見学に来たのかい? いいねえ。ロボロボを倒してまで入ってくるとは。夏休みの子どもは、冒険をしているくらいで丁度良い」

 

 

 男たちにこちらを咎める空気は無かった。むしろ案内すら申し出てくれた程だ。

 自分たちが子どもだからという点もあるのだろう。イッキとカリンは顔を見合わせて、迷った末に頷いた。

 

 

「……あのう、この場所についてお聞きしてもよろしいですか?」

 

 

 男の先導を受けながら研究所の奥へと進む途中、カリンが白衣の男……シラタマと呼ばれた研究者に向かって尋ねた。

 シラタマは眼鏡をくいっと上げ、半身に振り向く。

 

 

「んー? 勿論この場所はロボロボ団……というか、ああ、違うね。君たちはロボロボ団の基地だという事は、知っているんだろう?」

 

「ええと……はい」

 

「ならばこう応えよう。ここはロボロボ団が集めたデータや資金を集結させて作られた、『メダロット社に対抗する為の研究所』―― だよ!」

 

 

 シラタマは白衣を翻し、堂々と告げた。

 ……堂々と告げたが、イッキとカリンには余り縁の無い環境である。いまいちぴんときていないイッキとカリンの様子に、シラタマはこほんと咳を挟んで続ける。

 

 

「まぁ、ここの名目上の頭はヘベレケ博士でね。報告義務はあるけど、権利やら何やらに縛られないで、好き勝手に研究をさせてくれる。スパイのおかげでメダロット社に蓄積されているデーターも見放題。僕たち研究者にとっては天国のような環境なのさ」

 

 

 なんだか物騒な単語も聞こえたが、敵地の中でそれを突っ込むのも危なく感じ、そもそもあまり興味も無いのでイッキとカリンははぁと頷くのみ。

 替わりに。

 

 

「真ん中の機械はなんなんですか?」

 

「あれかい? あれは……おっと」

 

 

 シラタマとイッキ、カリンが同時に視線を向けると、中央の柱がごぼぼっと泡を噴出した。円柱の水槽の中を無数の泡が覆い……俄かに研究室が慌しくなった様だ。そこかしこから研究者が走り寄っては、猫なで声をあげている。何かを宥めているようにも聞こえなくはない。

 

 

「どうやら今はベビーの機嫌が悪いみたいだ。今は奥の部屋に案内するから、近付くのは後にしてくれないかな。ここに子どもが来たら、奥の部屋に通せって言うのがヘベレケ博士からのお達しでね。でも、凄い設備だって言うのは君たちにも判るんじゃないかな?」

 

 

 話題を逸らしたシラタマに、カリンが頷く。

 

 

「はい。メダロット社の本社でも、あんな機械は見たことが無くて」

 

「あははは。嬉しいけれど、メダロット社そのものに設備が無いのは当然だろう? こういう設備は外受けが担当するものだからねえ。メダロット本社の中身はその実、ただのショーケースみたいなものなのさ。勿論、お偉い方はそこにいるから、決してお飾りって訳じゃあないけどね」

 

 

 僕たちは所詮研究者という名の一兵卒さ……と、どこか哀愁を漂わせるシラタマ。

 大人という物は大変なんだろうなぁ……という漠然とした感想を思い浮かべるイッキの目の前で、シラタマが立ち止まった。振り向く。眼鏡をくいっ。

 

 

「とはいえ、ここの設備はメダロット社のお膝元なんかよりも、数歩先んじたものだよ。何せヘベレケ博士の肝いりだ。今にここから独立する会社もある。それだけにこうして潰れてしまうのは惜しいがね。非合法だから仕方が無い。これも盛者必衰というか、栄枯盛衰というか」

 

 

 1枚の分厚い鉄の扉を目の前に、コンソールを操作すると、ぶしゅうぅぅとかいう排気音を吹き上げて扉が左右に開く。

 

 

「さて、到着だ。この先が博士の実験室さ。出入り口は開けてロックしておくよ。博士の道楽に付き合わされて、イッキ君達が危険な目に合うのは、ナエさんも望んではいないだろうからね?」

 

 

 そう告げて、シラタマはさっさと来た道を引き返してしまった。

 イッキはカリンと顔を見合わせ、頷く。

 

 

「行きましょう、イッキ君」

 

「うん。博士に会いに、行こう」

 






 PCの前で寝落ちしていました申し訳ないですすいません。
 ですので都合2話を投稿します。


・基地
 ヒカルの友人は手伝ってくれなかったというのに……。
 これが人徳の差ですかね(ぉぃ

・シラタマさん
 ナンバリングが増える毎に残念になっていく研究者のお方。4ではナエさんの面影を覗かせる巫女さんメダロットを使用する。有能っぽいのに実に残念。
 彼はパーツンラリーで例のパーツを所持していたり、始めから企んでいたっぽい台詞もあるので、配役は恐らくこれで間違いないはず。
 本作では意外と良い人に見えなくも無いが、やってることは違法である。

・今は素通り
 なんと、本当に移動しただけという今話。説明回です。
 この辺りは3のアンダーグラウンド編で回収される元ネタです。本来このお話は挟むつもりはなかったのですが、指を動かしていたらその時点でいつの間にか3000文字を超過していたので説明回として仕上げました。
 とはいえ、素通りしました。本作ではちょい役。メインルートで使用されます。
 泣く子には勝てませんの事よ。

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