メタビーが威勢よく声を上げると、ヘベレケ博士はフンと鼻息を鳴らした。
そして背中の義手鞄を操作する。
「―― ならば相手をしてやろうかの!!」
ずるり。ケーブルが擦れ合う音だ。
次の瞬間、ヘベレケ博士の前には、最新型のカブト型メダロットとクワガタ型メダロット……そして見慣れない巨大なメダロットの3体が顔を出していた。
「―― ういぅぃ。呼んだねマスター。敵は正面かい?」
カブト型メダロットは、重厚な黒い外殻を特徴とする「ベイアニット」。
体の造詣は似ているが、分厚い。メタビーよりもふた周りは大きい。
「―― え、何で壁光ってんの? 何でおれここにいんの? 何で何で?」
クワガタ型メダロットは、全体の装甲と強度を増した「ゾーリン」。各部の継ぎ目に鋲が打ってあり、しなやかながらに強度の補正がされている。
そして。
「―― あ、う、あー」
「な、なんだこのメダロット!?」
「こやつは獣の王。開発コードをビーストマスターと言う……そのオリジナルじゃ。かつてワシが軍に籍を置いておった際、技術の粋を集めて設計したメダロット兵器じゃよ」
「メダロット……兵器!?」
兵器という言葉に、イッキは大声をあげる。
無理もない。本来のメダロットはあくまで、ロボットペットという扱いのはずなのだ。イッキもメダロットの力を知ってはいるが、それを兵器として扱おうとしているとはついぞ聞いたことが無い。
「そりゃあ、あくまで玩具としておいた方が外聞が良いからの。とはいえまぁ、お主の心配は杞憂じゃよ。軍用に転用しようとしたプロジェクトは頓挫したわい。……ワシと一緒に獣の王を開発した男は何処ぞへと姿を眩ましたが、そりゃあワシの知るところじゃあないからの?」
面白くもなさそうに呟くと、これで前座は終了じゃと博士が後退。
替わりにメダロット達が前へと出る。イッキも、自分のメダロット達を転送する。
「くままー!」
「くももー!」
両手に楯を構えた車両型援護機体の「クマ」メダル。
スミロドナットの頭部にトラップスパイダのパーツを組んだ多脚型支援機体の「クモ」メダル。
そしてそれらの後ろに、リーダー機としてメタビーがふんぞり返る。
そしてそして、メタビーの後ろにミスターうるちが両腕を組んで降り立った。
「合意と見てっ……宜しいですね!!」
両者と6体のメダロットが頷く。
暫くぶりのまともな反応を受けて感慨もひとしお。ミスターうるちは勢い良く腕を振り上げ、
「ロボトル ―― ファイッ!!」
ロボトルの開始と、振り下ろした。メダロット達が散り散りに走り出す。
「防御は援護に任せて射撃に集中だメタビー! サブマシンガン!」
「おう!!」
「ふん! 食いちぎってやれい」
「が、ず、ずー」
指示の通り、メタビーがガトリング攻撃を仕掛ける。
障害物は何も無い。射線は通りっぱなしだ。しかし。
―― がんがんがんっ
「ういぅぃ。防御するまでもないね。お返しだよ」
「うわたたたっ!?」
ベイアニットは射撃を右腕で適当に受け、すぐさまメタビーにガトリング攻撃を行ってきた。
そしてそれは、ヘベレケ博士の他のメダロット達も同様であった。
「え、何? 何今の。攻撃したの?」
「くももー!?」
ゾーリンは射撃の雨を被弾しながらも突っ切り、クモの足から切り崩しに掛かる。
「あ、う、あぁー」
「くままーっ!?」
同様に、銃撃を意にも介せず。ビーストマスターが口から吐き出した重力波の一撃がクマの左楯をべこりとへこませる。
つまりヘベレケ博士の繰り出したメダロット達は、重装甲のパーツを楯に、防御に費やす時間を削っているのだ。パーツ開発からしてコンセプトを持った機体なのである。
イッキは考える。だが、これはロボトルだ。いくら重装甲だろうとメダロット。あのビーストマスターとてメダロットには違いが無い。
だとすれば、決着を着けるためには。答えは明白だった。
「メタビー、リーダー機を狙うぞ!!」
「むっ……やらせるか!!」
イッキの声に、ヘベレケ博士が陣形を変えるべく指示を出す。
「ういぅぃ。防御だねマスター。守ればいいんだろう」
「何、おれ楯になんの?」
ビーストマスターの前に、ベイアニットとゾーリンが立ち塞がる。
「ベイアニットの右腕だ!! クマ、重力波射撃!! メタビー、反応弾ッ!!」
「くまっ」
「なるほどなっ、わかったぜイッキ! ……喰らえっっ!!」
頭パーツからプレス射撃が放たれる。空間が歪み、狙いの通りベイアニットの右腕が湾曲する。
そして射線を塞ぐ右腕を、メタビーの反応弾が再び撃ち貫いた。
「うい……ぅぃ!? 装甲をっ」
薄くなった装甲。反応弾の勢いは衰えず、右腕を破壊して尚貫通する。
予期せぬ一撃。一直線に、後ろにいたゾーリンの頭部を巻き込む。
「何何? おれってもう退場 ――」
ぼぅんっ。
「頭部パーツ破壊! ヘベレケチーム、ゾーリン、戦闘不能!!」
「!! やりおったな、小僧め!」
ミスターうるちが腕を振るい、ヘベレケ博士がケイタイにゾーリンを格納する。
狙い通りだ。メダロット達は重装甲でコンセプトがあり、運用が決まっているとは言え、ロボトルには3機までで戦うルールがある。ヘベレケ博士は開発は得意なのだろうが、見る限りロボトル慣れはしていなかった。作戦さえはまれば、こちらに分があるといえよう。
貫通の誘発によって撃破し、残るは2機。
すると、ヘベレケ博士が様相を変えた。
「ちぃっ……仕方が無いの! 目覚めるんじゃ、ラスト!!」
残る機体で勝負に出るべきだと踏んだのだろうか。何やらビーストマスターに指示を送る。
イッキとメタビーが身構える。ビーストマスターのカメラアイがぶおんと唸り、光り。
「―― ア。……ココハ、ドコ?」
みしり。ぶくり。ビーストマスターの装甲が泡立つ。時間が止まったような圧迫感が周囲を包んだ。
次の瞬間、ビーストマスターの後ろに4枚の光の薄羽が開き。
「ココハ……ドコ? キミハ……ダレ?」
「がはははは!! こうなってはフユーンごとで構わんわい! やってしまえい、ラスト!!」
「……ドコへ……ユクノ?」
様子が変わり、ぶるぶると震えるビーストマスター。それら質問に答えることは無く、ヘベレケ博士はただただ笑う。
メダロットの背中に開く光の薄羽は、イッキも何度か見たことがある。メタビーも以前、メダフォースの発動時に発現していた。しかし、今のビーストマスターの状態はそれと比べて明らかに異常だ。メダフォースとして何かしらの発動をするわけではなく、まるで、ただエネルギーを垂れ流しているかの様な感覚である。
「これって……もしかしなくてもヤバい!?」
「ですね! 申し訳ありませんが退散させていただきます!! イッキ君もお早い退散を!!」
明らかにロボトルという雰囲気ではなくなったのを察してか、ミスターうるちがそそくさと退散してゆく。
退散……確かにしたいが、この浮遊要塞からどうやって退散すれば良いものか。
イッキが悩みながら周囲を確認していると、歪んだ空間の向こう。ヘベレケ博士に向けて、メタビーが叫ぶ。
「お前、ロボトルで勝負じゃなかったのかよ!!」
「ふん。メダフォースをロボトルの技としたのは(株)メダロット社じゃろうに、何をいまさら!!」
「そういう大人の屁理屈は良いんだよ! そのラストってやつに勝負させろ!!」
「がははは! もう勝負しとるわーい!!」
メタビーとヘベレケ博士が子どものような言い争いをしている横で、イッキは右往左往する。
どうにかして逃げ道を。すると助けは、思わぬところから現れる。
「ういぅぃ。イッキさんといいましたか」
「……君は、ベイアニット?」
「うぃ。イッキさんはメタビーを引き連れて安全な所へ。自分はラストとマスターを連れて緊急脱出用の転送装置を起動します。マスターは頭に血が上っておいでです。このままではラストがマスターをも巻き込みかねませんからね」
「良いの?」
「うぃ。マスターを守る為です。……恐らく管制室が一番安静でしょう。シュコウさんも居てくれます。貴方達も、さあ」
「くままー」
「くももー」
ベイアニットがそう促すと、クモとクマがイッキの袖を引いた。
イッキは、メタビーを見て。ベイアニットを見て。
「博士、失礼します」
「なんじゃいベイアニット……。……!? 何を!?」
「―― ドコ、ヘ」
ふおんっ。
小気味良い転送音と共に、フユーンに立ち込めていた威圧感が消え去った。ビーストマスターもヘベレケ博士も、ベイアニットの姿も無い。
これで決着とは言い難い。しかし少なくとも、どちらかが命を懸けなければならないような事態は避けられた。そう考えれば安堵もできる。
が、喜ぶのはまだ早い。目の前に浮かんでいるのは、ばちばちと音をたてて爆ぜるサイプラシウムの人工結晶。目測だが、僅かずつ小さくなっているように感じられる。不時着まで、時間はあまり残されていないのだろう。
「あいつ等どこへ行ったんだ?」
「あのベイアニットは脱出用って言ってたから、基地なんじゃないかな」
突然と目の前の相手がいなくなり、やるせなさを脱力へと変えたメタビー。イッキもその横に立ち。
「うん。でもそれよりまずは、管制室だ。不時着を手伝わなくちゃ」
「……勝負はお預けだな」
メタビーと共に、再び上階へと駆けて行った。
・ビーストマスター、ベイアニット、ゾーリン
リメイク版メダ2でヘベレケ博士が使用したメンバー。
重装甲なのは原作通り。攻撃力が落ちたのは仕方がないのか否か……(ぉぃ
・……ドコヘ……ユクノ……?
これだけでもある意味トラウマな台詞。
・転送、フユーンストーンじゃなくて代替
この辺りが原作との相違点になりますね。
転送に関してはご都合ですけれども。
5月10日の更新分はここまでです。お付き合いありがとうございました。