ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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22話 騒音、所により暴走

 

 ―― ううーぅぅぅ……

 

「このサイレンが、メダロット達を暴走させている……!?」

 

 

 翌日。

 一晩をフユーンの内で明かしたイッキは、唸るサイレンの中、居住区画の奥へ向けて息を切らしていた。

 ウォッカから浮遊要塞「フユーン」の仔細について説明を受けたイッキは応接室で朝までを過ごしていたのだが……今朝方、このサイレンが鳴ってから状況が変わっていた。要塞の中に住んでいた飛行メダロット達が一斉に正気を失い、暴走同然に下の街……メダロポリスやおみくじ町へと降りていったのである。

 コーダイン王国での出来事といい、しばらく街から離れていたイッキには想像することしかできないが、あのメダロット達が街にいては、地獄絵図と化しているに違いない。

 しかしその際、正気をぎりぎり保っていたウォッカから、中枢部に「博士」以外の人間もいるらしいという情報を聞くことができた。

 

 

「……魔の10日間の、再来みたいなものかな……?」

 

 

 かつてのメダロット暴走事件を引き合いに出して追想を始めたイッキ。

 そんなのんきな主に向けて、メタビーが叫ぶ。

 

 

「イッキ、余所見すんな!!」

 

「! ごめん、メタビー!」

 

 

 謝りつつ、イッキは『クマ』メダルの護衛機・ベアーに援護を命じ、メタビーの前方へと走らせる。

 

 

「くままー!」

 

 ―― ゴンゴンゴンッ!

 

 

 トンボ型メダロット、ドラゴンフライヤーの両腕から雨あられと降り注ぐプレス射撃を右腕の楯『ライトガード』で防御し ―― 射線をとったメタビーが射撃を仕掛ける。

 

 

「だらぁぁぁーっ!!」

 

 

 ミサイル。直撃。

 打ち落とされ、頭部を破壊され、ドラゴンフライヤーの機能が停止する。同時にリーダー機の撃破により、統制を失った暴走メダロット達が停止を始めた。

 

 

「―― よし」

 

 

 イッキは拳を握り、すぐさま先へと足を進める。

 このロボトルに関して言えば順調に終了したが……しかし、これにて既に中枢部を目指し始めてから12戦目のロボトルである。状況は良くないと言えよう。

 何分、要塞の中に常駐していたメダロット達は同様に正気を失っている。中枢へと近付くイッキ達は、無差別にロボトルを挑まれ続けていた。

 浮遊要塞であるからか飛行型メダロット達が多いため、対空射撃(アンチエア)による攻撃は通じるものの、物量に押されてはメダル達も、イッキの疲労も増す一方だ。

 それでも。

 時折通路を塞ぐタンク型メダロット達をロボトルでどかしながら、それでもイッキは中枢へと進む。

 

 

「―― 僕をおびき寄せる為、わざわざ中枢部に女の子を?」

 

 

 囚われの女の子。それが「誰か」と問われても、少なくとも。

 大事な女の子……と、イッキ自身ぼんやりと思い浮かべてみるが……恐らく、アリカか、もしくは。

 

 

「……カリンちゃんか」

 

 

 カリンちゃん……ジュンマイ・カリン。

 確かに、気安い幼馴染であるアリカやユウダチよりは「大事な」と言うに適切な女の子。

 コウジやユウダチの友人で、イッキ自身も、この夏休みに入ってからは幾度と無く交流を重ねた女の子。

 

 

「大事には大事だし……助けたいとは、はっきり、思うけど」

 

 

 フユーン王国へ転移する前には下水道で探索をしていたはずだ。もしやあそこで掴まってしまったのだろうか。

 だとしたら助けたい。そこに疑問は無い。

 しかし例えば、いつか見たナエとヒカルの様になりたいのかと問われれば……判らないという他無い。なにせイッキはまだ小学生(中学年)なのである。

 

 

「……これは置いとこう。どっちにしろ、まずは助けないと!」

 

 

 首を振るう。じゃりじゃりと砂塗れになった床を踏みしめ、イッキは通路の扉を開く。

 

 

「って、え?」

 

 

 扉を開くと、風景が変わった。

 中央に台座を据えた、景色のいい場所だ。

 景色が良い。つまりは窓の多い場所。よくよく見れば、その手前にはモニターや操縦桿などが羅列している。恐らく、ここが件の中央部なのだ。

 

 

「―― こっち」

 

「君は……」

 

 

 イッキを呼ぶ声が聞こえ、そちらを見ると、コーダイン王国から一緒に転送されたはずのロボロボ団幹部 ―― シュコウが中央部にぽつりと立っていた。

 脚を向ける。階段を登り ――

 

 

「―― っ、イッキ君っ!!」

 

「!? え、カリンちゃんっ、て、わわわ」

 

 

 栗色の髪を振り乱し、感極まった面持ちで駆けて来たカリンによって、抱きしめられていた。

 慌てふためくイッキを他所に、カリンは顔を埋めたまま胸元から動こうとしない。耳を澄ませば極僅かながら嗚咽が聞こえてくる。イッキは覚悟を決めると、そろそろと手を伸ばし、カリンの背に腕を回した。

 そうやって居る事……いや、緊張のあまり時間間隔はあまり無いが、恐らく、3分ほど。

 

 

「―― そろそろ良い?」

 

「えっ、あっ……」

 

「~っ! あ、あの……その……」

 

 

 かけられた声に、2人はばっと身体を離す。

 ここでカリンの様子を窺うと、俯いているが、サイドテールに纏めているために覗いている耳が赤い。首から真っ赤である。……ここは触れるべきではないだろう。

 せめて自分はと、イッキは出来る限り冷静に務めつつ。

 

 

「ありがとう、シュコウ。カリンちゃんも、無事で良かった」

 

「……ありがとう、ございます、イッキ君」

 

「……それじゃあ話す。ヘベレケ博士は……こっち」

 

 

 シュコウはそう言いながら、自分の横を指差した。そこには、上下に移動を行うためのリフトが据えつけられている。

 

 

「この下に?」

 

「そう」

 

「……そう、か」

 

 

 イッキは腕を組む。シュコウが道を遮る積りが無いというのは、何となく判った。だからこそ、その言葉を信じるならば……所謂、決戦が間近に迫っているに違いない。

 息を吸い、吐き出し。やはり、考えは変わらない。例え相手がメダロット博士と肩を並べるような研究者であっても、ここで怯むわけにはいかなかった。

 脚をリフトにかけ……その前に、と思い返す。引っ込めた脚を、今度はカリンの方へと向けた。

 

 

「カリンちゃん」

 

「……はい」

 

「ちょっと行ってくるよ。ヘベレケ博士と決着をつけに」

 

「……ごめんなさい。わたくしのメダロッチがあれば……」

 

「大丈夫だよ。勝ってみせる。僕はまだ子どもだけど、大人に対抗できる唯一の説得手段があるからさ」

 

 

 そう言って、イッキはメダロッチを掲げた。

 呼びかけられたメタビーが声を出す。

 

 

「カリン、オレらに任せておきな! クイックシルバ達はきちんと取り返してやるからよ!」

 

「……メタビーちゃん」

 

「まぁ、だから……その、イッキを頼んだぜ?」

 

 

 イッキがおいと声をかける間もなく、ぶつり。メタビーは再びメダロッチの中へと戻ってしまった。

 ……頬をかくイッキ。微妙な間。すると。

 

 

「……博士と決着を着けに行っている間、わたし達はフユーンの軌道修正を行う」

 

 

 シュコウが口を開いていた。その中に含まれていた単語に、イッキは首を傾げる。

 

 

「軌道修正? って、なんで?」

 

「この浮遊要塞は、何時までも浮かんでいられるものじゃない。……本来必要だったフユーンストーンを使っていないから。純度が幾ら高くても、純結晶じゃない人工のサイプラシウムでは活動限界がある。これはヘベレケ博士も知っているけど、でも、こんなに早いとは予測してないと思う」

 

「あら、まぁ……」

 

「……ええぇ」

 

 

 溜息にも近い声が漏れる。

 つまり、つまりだ。この浮遊要塞は。

 

 

「不時着……するってこと?」

 

「そう。時間はあるけれど。だから、私達は不時着のための準備をする。さしあたっては操縦の人手が足りない。彼女にもそれを手伝ってもらう。……気をつけて。ウォッカは多分、下に居る」

 

 

 そう言って。次いでカリンにはジェスチャーでこの場に残るように指示をして、シュコウは段を降りて管制機器の確認を始めてしまった。

 暫しの無言の後、改めてカリンと顔を合わせ。

 

 

「それじゃあ……カリンちゃんも、大変だと思うけど頑張ってね」

 

「はい。お気をつけて、イッキ君」

 

 

 互いに言葉をかわし、別れる。

 イッキはリフトに足を乗せ、下を目指した。

 

 

 ◆

 

 

 降下してゆく。

 暫くすると下に、コーダイン王国に行く前にも見た大きな穴が見えてきた。

 以前と違う点といえば、ばちばちと爆ぜる半透明の物体がそこに浮かんでいる事か。

 

 

「―― がっはっは! 来おったの!」

 

 

 半透明の何がしかの横に、ヘベレケ博士は立っていた。

 リフトが地面に着いたことを確認すると、イッキはヘベレケ博士の元へと歩き始める。

 何から聞くべきか。聞きたいことは沢山ある。

 

 

「……博士は、何でこんな事を?」

 

「既に言っておるがの? これは個人的な復讐じゃわい。あのアキハバラめへの、な」

 

「メダロット博士が何かしたんですか? あの人は……少なくとも僕にとって、メダロットにも人にも優しい人です。ヘベレケ博士にとって、メダロット博士は……」

 

「―― ふん、その辺りはお主が知らんでも良いことじゃ。只の意見の食い違いという奴じゃよ」

 

 

 高台に並ぶ。正面に立ったヘベレケ博士は、背負った大きな鞄の義手をぐいぐいと動かし、携帯端末を取り出した。

 

 

「それより勝負をしてもらおうかの、イッキ! 検証結果は既に得ておる。だとすれば、後はお主……アキハバラめが見込んだメダロッターを打ち負かすだけじゃわ!!」

 

「……どうして、そこまで」

 

 

 及び腰のイッキに、博士はあくまで高圧的に突きつける。

 

 

「―― イッキ、構えろ!!」

 

 

 叫んだのはメタビーだった。

 メダロッチから光が放たれ、ティンペットにパーツが接着する。

 ぶしゅうという煙を上げて降り立ったメタビーは、イッキを背に、右腕の『フレクサーソード』を突きつけ返した。

 

 

「メタビー、お前……」

 

「こいつに何言ったって聞きやしねえだろ! ……お前、ヘベレケとかいったな!」

 

「ふん、頭に天才を付けろ天才を!」

 

「天災だか甜菜だか何だか知らねえけどよ。イッキとオレのコンビに喧嘩を売るってんなら ―― ロボトルだ! 相手になるぜ!!」

 





・サイレン
 データシートの代わりです。

・ただの意見の食い違い
 そういうのが拗れる事はままあります。

・高感度≒好感度
 ヒロインは見ての通りです。アリカ派の皆様には申し訳ないのですが、今作品は基本的に不遇な方のヒロインが勝利します。アリカさんは(新世紀の)続編とかにも出演してますので、そちらで妄想を膨らませてくださればと。

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