ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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21話 天空の城、ラピy……フユーン

 

 

「一体、何が……!?」

 

 

 何せ、急に過ぎる展開である。

 壁によって区切られた、入り組んだ道の中。目を覚ましたイッキは、慌てた様子で辺りを見回した。

 シュコウは先に起きたのか転送場所が違うのか、既に周囲にはいなかった。

 壁や床には謎の光が脈動しながら走り、まるで建物そのものが生きているかのようだ……とは、コーダイン王国に行く前と変わらぬ浮遊要塞の様子で。

 暫くそこに立ち竦んでいたが、とりあえずは害される様子が無いと知ると、イッキは息を吸いつつ、思考を纏める事に終止した。

 

 ……壁面や床から察するに、おそらく自分は、コーダイン王国に転送される前に居た場所へと戻されたのだろう。ヘベレケ博士が謎の穴の前で高笑いをしていたのが印象的だった。あの大穴は周囲には無いため、要塞の内部ではあっても位置は違っっているのだろう。

 だとすれば先ほどの放送も頷ける。原理は判らずとも、ヘベレケ博士が要塞を起動させ動かしているに違いない。浮遊要塞という事は、もしかしたら浮いているのかもしれないが……それよりもだ。

 

 

「……気になるのはさっきの放送だよなぁ。……女の子、って」

 

 

 誰かは判らないが今現在、女の子がイッキを呼び寄せる為に囚われていると言うのだ。これについては看過できない問題であった。

 これについて今現在、自分が中に居るのは行幸である。突入する手間が省けたと考えていい。要塞がいざ着地するとなると、着地をする場所の広さが問題はなるだろうが。

 

 

「うん。……少し、情報収集をしてみよう」

 

「お、起きたかイッキ」

 

「メタビーもね。それより、また事件だってさ。ロボトルになったら頑張ってくれよ?」

 

「おう、勿論いいぜ!」

 

 

 この夏休みにかけて様々な事件に巻き込まれてきたイッキは、とうとう要塞に閉じ込められた程度では……動揺はするものの、素早く復活出来るようになっていた。こうして待っていても仕方がない。

 決め込むと、イッキは、見えている道の先へと脚を向けていった。

 

 

 

 

 

 暫く進むと、土を弄っている飛行型メダロット達が大勢居る区画に辿り着いた。どうやら要塞の中だというのに畑があるらしい。

 両腕パーツで土を耕していたメダロットがイッキが近寄ってくるのを認め ―― 身構えたイッキを他所に、にこやかに手を振る。

 

 

「珍しイ、ニンゲンだねー。土仕事はいいヨー。君もどう?」

 

「あ、あはは……後でね」

 

「そッカ。それじゃあネ」

 

 

 イッキは苦笑いしつつ、飛行型メダロットに手を振りながらその場を立ち去った。

 しかし、そう。何故かは判らないが、ここに居るメダロット達は友好的なのだ。ここへ来るまでも、遊びでロボトルを挑んでくるメダロット達は居たが、野良メダロットの様にばしばし襲い掛かってくる個体が居ないのである。

 

 敵だと決めてかかるのは失敗だったな……と畑のあった区画から扉を潜ると、今度は工場のお出ましである。

 中央でオイル缶を掲げ、またもメダロット達がワイワイと楽しげにオイル盛り(?)をしている。

 

 

「……何だかなぁ。浮遊要塞なんて所に居るとは思えない光景なんだけど」

 

 

 とは言いつつも辺りを見回す。ここにもヘベレケ博士は居なさそうだ……と判断をつけると、外周を辿って、イッキは次の区画へと向かう事にする。

 すると、次の区画は景色がうって変わり、花畑が整備された自然公園または温室のような作りになっていた。

 暫し視線を巡らしていると……中央に浮かんでいたメダロットと視線が合った。敵意は感じない。そのまま両者の距離が詰まる。

 

 

「―― おや、人間の方ですか」

 

「は、はい」

 

 

 丁寧な物腰だ。―― 確か、蜂型の飛行メダロット「プロポリス」である ―― そのメダロットへ、イッキは思わず返答する。

 挨拶以上の言葉が浮かばず、イッキが対応に困りつつもその場を動かずに居ると、プロポリスは(モニター)に喜色を浮かべた。

 

 

「あ、嬉しいですね。昨今は野良メダロットに対して無用に警戒心を抱くお人も沢山居るというのに、貴方はこうして怯まずに居てくれる。……改めて、始めまして。私はウォッカと言います」

 

「僕はテンリョウイッキ。あの、どうしてここに居るのかはちょっと判らないんだけど……」

 

「テンリョウ……イッキ様、ですか。何故この浮遊要塞に居るのか……ふーむ。申し訳ないのですが、私も存じ上げておりません」

 

 

 表情を暗くしたウォッカへ、イッキは慌てて首と手を振る。

 

 

「そんな! 君は悪くないよ!?」

 

「……ありがとうございます。ですが、私はこの要塞に住むメダロット達の取り纏めをしているのです。主である博士に聞けば、貴方の事も何か判るかもしれませんが、近頃は博士も御多忙の様子で。貴方に時間があるのであれば、一先ずは私からおもてなしをさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「……うん、お願いしようかな」

 

 

 コーダイン王国への移動を含めて、イッキも動きっぱなしである。

 ウォッカの説明によると、この区画の奥に居住スペースがあるらしい。ウォッカはそこでの休憩を勧めてくれた。

 その勧めに甘えつつ、イッキは、浮遊要塞の奥へと脚を進めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「が~はっはっはっは! アキハバラの奴めが驚く顔が目に浮かぶわい!」

 

 

 同刻。場所は、フユーン要塞の操縦室。

 飛行型メダロット達が機器制御を行う中心。一段高くなった玉座の様な場所に、老人が高笑いをしながら座っていた。

 そこに、1人の女の子が囚われている。

 

 

「……ヘベレケ博士」

 

 

 しかし囚われた女の子の前に……或いは門番の如く……構えていた水晶玉とマントという風貌の人物が、すっと前に進み出る。

 水晶玉を揺らす、一風変わったロボロボ団幹部・シュコウに、老人・ヘベレケ博士は不敵な笑みでもって応じた。

 

 

「なんじゃい、シュコウ」

 

「メダリアを使用したリミッター制御、それに伴うエネルギー生成実験、サイプラシウムによる浮遊実験は成功。あのガラクタの山から集めた純度の高いサイプラシウムを精製したから、フユーンストーンも盗み出さなくて良かったし、これで目的は達成しました」

 

「がっはっは! そうじゃな。サイプラシウムについては、パーツの素材に詳しいお主の力添えも大きかったの。……とはいえリミッター制御については未だ実験の最中。ほれ。こうしてサイレンで促せば、飛行型メダロット達は一様に動き出しおる。三原則にも縛られないメダロット達の誕生じゃ!」

 

「……そうですね。けど、わたしのいない内に彼女を誘拐したのは……」

 

 

 ここでシュコウが黙り込む。その水晶の被り物の内からは、迷いつつもはっきりとした怒りの様相が伝わってきた。

 ヘベレケ博士が高笑いを止め、

 

 

「ふん、そういきり立つな。ワシの仕返しはな、あのアキハバラへの個人的なものじゃ。虐殺なんかはせんのだから、良心的じゃろう?」

 

「でも、暴走させてる……です」

 

 

 怒りに対し、ヘベレケ博士はあくまで不遜に応じる。

 

 

「暴走……まぁ、メダルの構造上はそう呼ぶのが確かに適切じゃがの……」

 

 

 ヘベレケ博士が手元の機器を操作する。

 すると、上部のモニターに暴走中のメダロットの様子が一斉に映し出された。

 

 

「良く見てみるがいい。観測している限り、あのメダロット達は暴走していようと、自分からは人を傷つけん。あくまで飛び回ったり、過剰反応したセレクト隊の役立たず共から吹っ掛けられたロボトルに仕方なーく応じとるだけじゃわい」

 

 

 映し出される様子は、ヘベレケ博士の語る通り。

 メダロット達は街中に降りて好き勝手に動き回り……それが交通網を阻害したり、建築物への小規模な被害はあれど……実質的、人的な被害にまでは至っていないのが現状であった。破壊されたメダロットに関しては、ロボトルを挑んだセレクト隊と、その他同様に勝負を仕掛けた一般市民のものだけである。

 それらを認識しつつも。シュコウは微動だにせず、先を促す。ヘベレケ博士がふんと鼻を鳴らし。

 

 

「つまりこれは、三原則から解き放たれたメダルだとて無闇に人間を襲わないと言う実証になるんじゃい。メダルの本質を隠し通すつもりのアキハバラの奴めは、これにて一端、打ちのめされる事になるじゃろうの!」

 

「……」

 

「ふん。そういえばお前さんは、アキハバラの孫娘やその恋人の少年とも縁が深いもんじゃったか。お主とあの少年には感謝をしてもしきれんわい。彼奴(きゃつ)めが獣王の暴走を食い止めた際のロボトルの記録……メダロッターによってメダルの能力が引き出された実例が、こうしてリミッター制御を実現させる足がかりになったんじゃからの! がっはっは! ワシの気まぐれも捨てたもんじゃあないのう!!」

 

 

 腰に手を当て、ヘベレケ博士は再びの高笑いを始めた。

 水晶玉の様なフルフェイスガードを被る幹部は暫く黙っていたが……そのまま後退。老人にメダロット博士の使い走りと称された少年 ―― イッキを引き寄せる為に囚われた「少女」の目の前を立ち塞がるように陣取った。

 

 

「……とりあえず、彼女に暴力は駄目」

 

「そんな小娘に誰が暴力なんぞ振るうか。ワシの好みはピッチピチのギャルじゃ! モテモテじゃっ!!」

 

「……良いけど」

 

「がっはっは! そろそろワシは明日に鳴らすデータ信号の調整に行くわい。見張りはメダロット達にもやらせるが、おぬしもここを動かんで居るんじゃぞ。それが条件(・・)じゃからな」

 

 

 それだけを言って。後は無駄だとばかり、ヘベレケ博士が階段を降りて行くのを見送った。

 その場に残された2人。ごうんごうんと何かが駆動する音だけが浮遊要塞の艦内に響く。

 完全に姿が見えなくなってから、シュコウはその場にすとんと座り、

 

 

「……さて、KWG型のパーツも新調が済んだ事です。そろそろですね」

 

 

 などと呟きながら、次々と転送したメダロットのパーツを弄り始めた。

 奥に居た「少女」は、そんなロボロボ団幹部の様子を暫し眺めていたが、気を取り直し……僅かに勇気を出して尋ねる事にした。

 先ほどの行動から見ても、この幹部が自分の見張りと称してガードマンを買って出ていることは明らかだ。どうして自分を庇ってくれているのか、と。

 

 

「? ……ああ、成る程です。こうなってはクライマックスですからね。あまり隠す必要も無いのです」

 

 

 思わず、少女の顔に驚きが沸いて出る。

 声は変わっているが、取ってつけたようなその語尾は、少女にとっても馴染みの深いもの。

 

 

「窮屈ではあると思うのですがもう少し待っていて下さいです、カリン(・・・)。王子様はすぐそこまで来ているのです!」

 

 

 水晶の被り物の内で、笑う。

 それは、口調からしてらしい(・・・)もの。

 少女にとっては小学校来の親友たる、どろりと笑う少女のものであった。

 






・ウォッカ
 2のリメイクであるコアにて、プロポリスになっております個体。概要は記載の通り。
 3や4に先駆けて、「メダロットの個性」を強調された個体となっていますね。ある意味コガネなどと並んで最もメダロットらしいメダロット、なのかも知れません。
 ……いえ。本作における登場期間は大分短いのですけれど。

 そう言えば、紹介が遅れましたがメダロット2のキャラクター等は酒に関する名称で統一されています。1は米。米が熟成されたとでも言いたいのでしょうか。ロボロボの方は、お酒のツマミです。
 因みにイッキ達の通う小学校の名前を、確か本作においては間違って記載していたはず。後に修正をば。正しくは吟醸(ギンジョウ)小学校です。
 ……ですがこれ、名称の統一は兎も角、小学校に付ける名前としては0点なのでは……ないでしょうか?
 お酒は二十歳になってから。これ大事です。法律です。

・メダリア
 ヘベレケ博士の開発だというのは漫画版の設定です。
 4までのゲームにおいてはメダルに装着する事によって熟練度を補正する宝石となっております。

・リミッター制御
 詳しくは後々。

・三原則
 詳しくは後々の後。anotherエンドにて。

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