後ろを楽しげに飛び回るフィーラーよりも突貫してくるストンミラーを先に。
イッキとシュコウは、ストンミラーに攻撃を集中するよう指示を飛ばす。
「エイシイスト」
「心得た」
「メタビー、あっちを迎え撃て!」
「ガッテン承知だぜ!!」
傍目には2対1の状況。
だが、ストンミラーは全く臆する事無く、一直線に狙いをつけて突っ込んできた。
「―― ふっ!!」
「うねぇるっ、ねるね」
エイシイストが
「だらあっ!!」
「ねるねるねーっ」
メタビーが撃ち出した反応弾は左手で受ける。
「ねるねる……ぎぎぎ」
「っ、コイツ……!」
脱力したストンミラーの無機質な顔がぎぎぎと軋みながら持ち上がり、メタビーを睨んだ。
既に両腕を破壊され、頭もエイシイストによる打撃で凹み。それでも満身創痍のストンミラーは立ち上がる。まるで操り人形のようだとは思ったが口に出さず、イッキは引けた身体を再び前のめりに傾ける。
「追撃だメタビー!」
「ちっ、ゾンビみてえだな……! そっちもひらひら飛んでないで、正面きって撃ち合いやがれ!」
「フッフ! それなら……そレーッ!」
「うおっ」
「メタビー!?」
左腕パーツ・サブマシンガンの弾丸を避け、撃ち切った直後の放熱を狙って……フィーラーによるデストロイ攻撃。ぼうんという爆裂音と共に、メタビーの左腕が破壊されていた。
破壊された左腕を射撃に構え、メタビーは角を向ける。
「ちっ……アイツの攻撃かよ!」
「大丈夫かメタビー!」
「気にすんなイッキ! それより、今だ!」
「―― 同時だ、畳み掛けるぞカブトムシ!」
シュコウの指示により、エイシイストがデストロイ攻撃の放熱の最中であるフィーラーに向けて猛進していた。リーダー機と目されるフィーラーへの集中攻撃を仕掛けようという目論見だ。
同調したメタビーが構えた角からミサイルを撃ち……ミサイルが走るエイシイストを追い越し。
―― を、迎え撃つ。
「いっケェ! 全力ダァ!!」
「―― う、ね、」
前方。フィーラーの無邪気な一言で、ぼこり、とストンミラーの
ぼこ、ぼこ、と脚部パーツが沸騰し、頭パーツが沸騰し。
ティンペットが光ったかと思うと、両腕が回復し……同様に泡立ち。
「ぎ、。うね、。るるuuuu、。」
ばさりと。
その背から、黒色に透けた2枚の羽が開いた。
ストンミラーの姿が歪んで見えるのは、威圧感のせいだけではない。もっと物理的な ――
「! 止まれです、ヨウハク!」
判断するや否や、シュコウは叫んだ。
近寄っていたエイシイストが急ブレーキをかけて足を止め、その場を飛び退く。
「っ! ……彼奴め、暴走か!?」
「―― うnぇーrうぅ!!!」
横合に居たストンミラーは、飛び退いた位置へ腕を振り下ろし。
そして、あろうことか。
ミサイルの飛んでいた空間がその一動作で纏めて歪み、ぼんという破裂音を残して消え失せていた。
「はぁぁ!? んだありゃ!?」
「な、なんて力!?」
イッキが息を呑み、メタビーが思わず足を止める。
隣に立ったシュコウも同様で、慌てた様子で口早に話す。
「―― 危ない。混乱状態の上書きで、偶発的にリミッターが外れてるです。……エイシイスト」
「心得た。……カブトムシ」
「? あんだよ……」
主の言葉を受けて神妙な顔をしたエイシイストが、僚機のメタビーへと話しかける。
その視線を悪魔のような羽を開いたストンミラーに定め、剣を向け。
「わたしはあの2枚羽の相手を務めよう。しかしロボトルはリーダー機を倒さねば勝ちになるまい。お前に、夢魔のメダロットを任せたい」
「……んん? それは良いけどよ。お前、こんな状況になってもロボトルがどうとか言ってんのか?」
「う、。……う、。ねーる、。」
メタビーの言う通り。ストンミラーから放たれるエネルギーは、既に通常考えられるメダロットの稼動域を遥かに超えていた。背後の景色すら、ストンミラーから放たれる謎の力によって激しく歪んで見える程だ。
こんな相手と戦うのを、エイシイスト……ひいてシュコウは、まったくと言って良いほど気にしていないのだろうか。
しかしその疑問を、エイシイストは当然と斬って捨てる。
「当然だ。あ奴……夢魔のメダロットは遊ぶと言ったであろう。童子と遊んでやるのも先達の務めというものだ」
この返答に、メタビーは一瞬驚いた顔をして……笑う。
「……へっ。堅物だと思っちゃあいたが、そういう意味じゃあ面白い奴だな、お前」
「それで、返答は」
「勿論だっての。あんな気味の悪ぃ奴にのされんじゃねえぞ!」
「無論だ ―― 主」
「うん。……全力」
話は纏まったとばかりに、エイシイストはシュコウと見合って頷いた。
メタビーもイッキと見合い、再びフィーラーとストンミラーに向き直る。
「う、。ね、。る、。るるるーッ」
「―― 来るぞ」
「任せろ!」
途端、状況が動いた。
獣の様な前傾姿勢で飛び出したストンミラーに、エイシイストが立ちはだかる。
謎の推進力を得たストンミラーが、一足飛びのスピードで接近し、沸騰した両腕を突き出し。
「エイシイスト ―― 心のままに! 『カラタケワリ』です!」
「今度こそ、見失うものか ―― オオオオッッ!!」
シュコウと、エイシイストの叫びに合わせて……フユーンから転移した際にも発現していた不可視の力が溢れ、交錯。
エイシイストの背後に薄羽が開く。振り下ろし ―― ばちりと爆ぜた。
後を追う様に衝撃波が砂浜を抉り。
その、後に立っていたのは。
「―― 御免」
「……る、。」
残心。エイシイストが右腕の剣を切り払い、砂浜に倒れたのは、ストンミラーだった。
乾坤の一撃……メダルの力を解放したメダフォースでもって、エイシイストはストンミラーの全パーツを真っ二つに切り裂いてみせたのだ。
幾ら不可思議な状態だとはいえ、メダロットにとっての必然。頭部パーツを破壊されては堪らず、ストンミラーは機能の停止を余儀なくされる。
「エエッ!? やられちゃったノ!?」
入れ替わり。
驚きで隙を満載したフィーラーに向かって、今度はメタビーが射線を伸ばす。
「っし、……やってやんぜ!!」
メタビーの背にはエイシイストとストンミラーに引き摺られたかの様に羽が開き、失った左腕パーツが光り輝いては立ち戻り。
「メタビー! ―― メダフォース! 『一斉射撃』!!」
「おう! ……そっちも落ちやがれぇぇ!!」
直後、頭上から伸びたエネルギーの塊が2条、光の弾頭となって、フィーラーを貫いた。
―― ガボォンッ!!
爆炎と共に煙に包まれ ―― 煙を突き破っては、両手両脚を破損したフィーラーが、凄まじい勢いそのままに砂の地面に突き刺さる。
両手両脚の破損。それでも辛うじて頭部パーツは守られていた。
フィーラーは剥き出しになった
「ググゥ……で、でも、マダマダッ……!?」
「―― んで、ここでフレクサーソードの出番な訳よ」
その場に、元より追撃の予定だとばかりにメタビーが詰め寄っていた。
飛行不可能となった
「イッキとオレをこんな面倒な身内事に巻き込みやがって……」
「だっテ、ソノ、遊びたかっ……」
「それは良いんだよ。だけど、この一撃くらいは晴らさせろ! ……が~む~しゃ~らああああッ!!」
「ヒィィッ!?」
メタビーが右の大爪を振り下ろし。
ずばん。
「リーダー機、フィーラー機能停止! よって勝者、シュコウ&イッキチーム!!」
最後は(実は)倒れ込むロボロボ団に扮していたミスターうるちによって、勝敗が告げられた。
ただの良いとこ取りであった。
◇
「ありがとね、勇者さまっ!」
「うーん……解決したのは良かったけど、僕は結局、ロボトルをしていただけな気がするんだよね」
「それでもだよっ!」
神殿、召還の間。
コーダイン王国の人々に囲まれつつ。謎の水晶に囲まれきらきらと輝く台座の上に、海から戻って一晩明けた後のイッキとシュコウは立っていた。
魔物・ブルーハワイ……プース・カフェの撃破を持って、漁師たちを怯えさせていたメダロットの事件は収束となった。
この大掛かりな「悪戯」自体、結局プース・カフェの悪戯が原因という事もあり、そのパーツを全没収してイッキに渡し……プース・カフェ自体は別のパーツを身に着けてナイトメアメダロットとして活動できなくなるという罰を与えられ、決着も着いていた。当のプース・カフェ自身もマルガリータと一緒に居る事が出来るのであれば異論も無いという事で、丸く収まった形だ。
イッキが受け取ったパーツは何故か、「フィーラー」と呼ばれていた次世代型メダロットのパーツのままであったりしたのだが……プース・カフェはマルガリータが多数持つナイトメアメダロットの中でも最も強力な力を持つ個体であるらしい。その辺りが関係しているのかも知れないが、事情を知っていそうなシュコウが口を閉ざしている為、イッキとしてはこれ以上追求しようがない。
実は直前にもひと悶着あり、大人しくしていなかったロボロボ団(主にスルメ)はナイトメアメダロットによって目を回させられていたりする。動けなくなったロボロボ団員たちは、一足先に現代に転送されていた。
さて、次は自分達の順番か。帰ったらパーツには詳しそうなユウダチに、フィーラーの事を聞いてみよう。……イッキが、そう構えていると。
「ねえねえ勇者様……はい、これ!」
イッキとシュコウの前に立ったマルガリータが、2人にペンダントを差し出していた。
銀細工のロケットペンダントである。イッキがその中を開けば、「あなたのマルガリータ(はぁと)」と書かれた姫様の写真が張ってある。
これは、どう返せばいいのだろう。とは考えつつ、とりあえず苦笑しつつも、お礼を言っておく事にする。
「あ、ありがとう……」
「うん! マルガリータの事、忘れないでね! ……んっ」
背伸び。近付く顔 ―― 唇。
「……っ!?」
イッキは咄嗟に動こうとして、しかし硬直し、頬を狙ったマルガリータのキスを避けることが出来ずじまいであった。
口をぱくぱくさせるイッキの目の前でマルガリータは年相応に悪戯な笑顔を浮かべ……ああ、やはり、ナイトメアメダロット達の主なだけの事はある……と少女についての印象を改め。
笑いかけていたイッキからくるりと視線を移し、当のマルガリータは今度はシュコウの方を向く。
「ねえねえ! アナタも手伝ってくれたんだよね!」
「そうかも」
「だったら勇者様と一緒に、また、いつか、必ず来てね! 今度は一緒に遊ぶの!」
「……うん。判った」
笑顔と共に、今度はキスでなく握手を交わした。
イッキがちょっとほっとしたのは兎も角。挨拶を終えたマルガリータは、手を振りながら祈壇の前にとてとてと走っていった。
姫様たるマルガリータが隣に並ぶと、爺やがぺこりと一礼。イッキ達を現代に戻す為の祝詞を口にし始め。
最後の場面。マルガリータがぶんぶんと手を振り、
「それじゃあね、勇者様! お姉ちゃん!」
え、と。
その台詞にイッキが疑問を口にする間もなく。
勇者イッキと相方のシュコウは、神殿から転送されていった。
――。
真っ暗になった目の前が、暫くして、灯りを取り戻す。
イッキはゆっくりと、その瞼を開いてゆき……
「ん……。……な、なんだ!?」
『が~はっはっはっはっは!』
いきなりである。
イッキの耳元で、一杯に拡声された音が空気をびぃぃんと震わした。
辺りの雰囲気が違っている。コーダイン王国からは帰還したに違いない。
しかし今、続け様に一大事。
おみくじ町どころか、隣のメダロポリスまでの一帯が、大きな影によって覆われている。
浮かんでいるのはUFOの様な、巨大な円盤形の乗り物だ。
再び、大声。
『どうじゃ、メダロット博士の使いっぱしり! お前の大事な女の子を預かっておる! 取り返したくば、ここまで乗り込んでくるがいい!!』
それら音声を、イッキは謎の建物の
そう。転送された先は ――
『ただし、この空中要塞まで飛んでこられればじゃがの!! がっはっは!!』
―― 空中要塞・フユーン。
・フィーラー
メダロット・NAVIより。
作中にある通りのナイトメアメダロットの後継機。多分、検索しても画像がでてくるかどうかと言ったマイナー具合。
男型ティンペットだのに見た目がアレなオトコノロボ娘。やはりメダロットは時代を先取りし過ぎである。
尚、一代目のナイトメアメダロット・ユートピアンには攻撃パーツが無く全武器「混乱」なのだが、作中の通りフィーラーは頭がデストロイ攻撃となっている。
ただしデストロイの仕様は5までに準拠。というかその後のデストロイは統一されていないので。
今作においてはプース・カフェがシュコウの記憶を弄って探り当てた品となる。フラグ風味。
・泡立つ装甲
漫画版のメダフォースがこんな感じ。漫画と同様にストンミラーがお相手。
今作のこれは<ネタバレにつき検閲>。
・ミスターうるち
コーダインに来られたら流石に困るとか、言ってはいけない。
……だってハチロウもバカンスに来ますし(小声)
・展開
本来はここで地下下水に戻り、帰宅。しかし後日暴走したメダロット達が飛来して街を遅い、ヘベレケから上記の放送による挑発というか脅迫を受け、アキハバラのメダロット博士から『かぜのつばさ』を受け取ってヒロインの為に要塞へ乗り込むと言う王道展開が待ち構えていました。
この様に、メダロットは基本的にそれぞれ事件を終える → 家で寝るというパターンによって章を区切られています。この辺りは8やらの新作も同様。
が、読み物でそれをやると尺を食うだけですし、前回(メダロッ島編)でやったのでカットです。御無体。
今作においてはここからがある意味物語としてのクライマックス。良い意味でも悪い意味でも怒濤の展開の予定。主にイッキが忙しいという意味で、怒濤。
・キス
唇を何がしかに押し当てる行為の事。へそや膝の裏を狙う奴は上級者である。
……何気に(公にしている書き物では)初めてキスシーンを書いた気がしないでもなかったり。頬ですけど。