ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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17話 海の底かと思いきや

 

 花園学園の学園長室を出たイッキは、コウジと共に急いで下水道へと向かう。

 下水道の先には、聞いていた通りに、沢山の子供たちとロボロボ団とが巣食っていた。

 しかしどうやら花園学園における騒ぎを聞きつけていたらしく、子供達は意外にも素直に説得に応じ、ロボロボ団を辞めて地上へと戻ってくれるとの事だった。

 ……とはいえこれらは、説得に従事してくれたレトルトレディやカリンの母性的なものによる効果なのかも知れないが。何れにせよ直情的なコウジやアリカであったらこうも上手くは説得に応じてはくれなかっただろう。

 

 と、一見解決に向かっている様にも見えるのだが問題は未だ残されていて。

 

 

「……どうしても、失踪している子供の数が合わないのよね……」

 

「それだったら、もう家に帰ってるんじゃないか?」

 

「心配していらしてる方も多かったので、可能性はあるかも知れません」

 

 

 手元の手製、失踪子供リストと照らし合わせながらアリカが唸り声を上げる。つまりは、アジトの中に居た子供と失踪者の数が合致していなかったのだ。

 コウジのいう帰っているかもというのは尤もで、アジトの中でも占拠事件の事が噂になっていたのだから、帰った子供もいるに違いない。と、アリカは唸りを一旦止める。

 

 

「……まあ、それなら幾つかに分かれましょうか。コウジ君、ちょっとレトルトさんと協力して街中で逃げ回ってる子供ロボロボを捕まえてみてくれる?」

 

「分かった。メダロポリス中を逃げているとすれば、人手は多いに越した事はないからな!」

 

「カリンちゃんはアタシと一緒に、もう少し奥まで探してみましょ。レディさんが先に行ってくれてる筈よ」

 

「はい」

 

「……あの……僕は?」

 

「イッキはさっき来た道を戻ってみてくれる? 途中に如何にも怪しいマンホールとかあったんだけど、ああいう所って如何にも子供が好きそうじゃない」

 

「うーん、判ったよ」

 

 

 アリカに促され、確かにそうかもと承諾する。

 暫くするとコウジが走り出し、アリカはカリンと一緒にアジトの奥へと進んで行った。

 それらを見送って。

 

 

「それじゃあマンホールの下を目指そうかな」

 

 

 今来た道を、イッキは引き返していく。

 下水道の中はいかにもな臭気が立ち込めているが、流れが速く、鼻をつまむほどのものではない。都市郊外まで流すのだから、地下であればこんなものなのだろう。

 そうして暗い中を道なりに戻ると、アリカが言っていたマンホール3つを発見する。

 しかし。

 

 

「うん? なんだ……この下……ただの排水溝じゃないぞ?」

 

 

 順に開けてゆくと、マンホールの下から、明らかな風が流れ込んできているのだ。下に更に

 因みにその内の2つには、子供ロボロボ団が潜んでた為難なく撃破。なぜ彼らはこの極限な状況下でもロボトルを仕掛けてくるのだろうか。あるいはそれが子供の持つらしさなのかも知れないが……。

 とはいえ、残された最後のマンホールは様子が違っていた。

 

 

「……梯子?」

 

 

 その穴の下に、縄梯子が垂らされていたのだ。

 何となくの予感はしつつも、イッキは梯子を降りて行く。

 下にはだだ広い空間があり、その先では ―― 咄嗟に身を物陰に隠し、様子を伺う。

 

 

「……くっ、ここのアジトも終わりか?」

 

「サケカース様! セレクト隊の奴らが上に一杯居るロボよ!?」

 

「潮時でしゅね」

 

「ふむ。わしらも退散するかいのお」

 

「おーほっほっほ! 去り際も美しく!」

 

「……はふぅ」

 

 

 会議室の様な空間に一堂に会していたのは、イッキが今までに各地でロボトルを繰り広げてきた、ロボロボ団の幹部達であった。

 しかしそれらの声の後、一様に静かなばかりで、ロボロボ団たちはイッキが隠れているこちら側に歩いてくる事もないようだ。

 イッキは物陰から出て、先ほどまで幹部達が会議をしていたと思われる部屋をのぞき見る。

 誰もいない。ロボロボ達が掻き消えている。

 座席と机と……その奥で、視線が止まった。

 

 

「誰も居ない……けど、これは?」

 

 

 上座のその奥。鎮座しているのは、不思議な形をした像。

 ……が、今はその像が横にずらされている。

 イッキは不思議に思いつつ像へと手を伸ばし。

 手が、空を切る。

 

 

「―― ええッ!?」

 

 

 体重は前。

 すかっという音がしそうでしない。

 落下だ。像のあった場所へ、イッキは落ちていく。

 ただ今、本日1回目の落下である。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「と、言う訳なんだけど」

 

「お前も大変だったアリな」

 

「うん……その、ありがとう」

 

 

 などと、ここへ来る事になるまでの経緯を説明すると、アリ型メダロット達は非常に優しげに労いの言葉をかけてくれる。

 像へと手を伸ばし落下したイッキは現在、アリ型メダロット達の巣食う「アリ塚」でお世話になっていた。

 数時間かけて辺りを歩いてみたものの、出口らしき場所は落下してきた穴しかない。どうやらこのアリ塚の中には、家出をして戻るに戻れない子供たちの住居としての機能もある様だ。そこかしこに自分と同年代の子供たちの姿が見受けられる。

 子どもというのは難しいものだ。戻れないにも理由はあるだろう。

 だが、イッキの目的は目下、ロボロボ幹部である。子供たちの件は後々連絡するとして。

 ロボロボ団幹部が逃げたとすればこのアリ塚の先だ。ここまで来て取り逃がすというのも微妙な心持なので、ややも気合いを入れてイッキは周辺の探索を続ける。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 暫く道なりに進んでゆくと、突き当たりに行き当たった。何がしかの入り口があり、その前にアリ型メダロット達が列を成している。

 入り口からちらり。アリ達の奥に、上の階層でも見た不思議な像が置かれているのが見えた。

 イッキは隣……アリ塚の一室で週刊メダロットを見ている男の子へと尋ねる事に。

 

 

「ねえ、あれはなに?」

 

「ああ。あの奥に居るのが、アリ達の『女王様』みたいだよ。……どう聞いてもスピーカーから発してる声なんだけどね」

 

 

 この男の子も例外ではなく、このアリ塚に住んでいるらしい。アリ塚の様子にはどうやら詳しいらしかった。

 彼ら彼女らが女王と仰ぐ、女王。まぁアリとしては正しい感性なのだろう。ただし彼ら彼女らはメダロットである。そもそも像が女王ってどういうことなのか。女王といわれてぴんと来るかは、怪しいものだとイッキは思う。

 そう突っ込みを入れながらも、その場でしばらく様子をうかがってみるが、アリ型メダロット達は、あの像の付近から離れる様子がない。

 さて。ロボロボ団幹部が逃げ込む先は、あの像の先でしかありえない。単純な消去法で、アリ塚の内部は、ほとんどが子供たちの居住スペースとして使われているからだ。幹部たちの大柄で目立つ黒スーツが隠れる場所は、他にない。

 とはいえ、像を壊したりどかしたりするのは、アリメダロット達の崇拝の具合からしてもっての外だろう。

 しばらく悩んだ末、イッキは尋ねる。

 

 

「……ねえ、あの前に居るアリ達って、居なくなる事はないのかな」

 

「うーん、夜になるとロボロボの奴らが来て通っていくけど、それ以外はずっと居るかな」

 

「だよね。……仕方が無いか」

 

 

 追走戦だ。時間は多く残されては居ない。一応、説得は試みてみようとは思う。

 イッキは突破の覚悟を決めて、その前へと進み出る。

 

 

「何だアリ?」

 

「この先は女王様の部屋アリ。一般の子供は入れないアリよ」

 

「ごめん。どうしても入りたい……んだけど」

 

「……ごめんアリ、女王様の命令で通せないアリよ」

 

「ううん、じゃあ、仕方がないかな」

 

「そうアリね。仕方ないアリ」

 

「うん ―― 押し通るっ!!」

 

「……行くぜイッキ! 久しぶりに腕が鳴るぜ!」

 

 

 イッキとアリ型メダロット達のロボトルが、始まった。

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 ……アリ型メダロット達の「クロス攻撃」と呼ばれる連携高威力の砲撃を何とか凌ぎつつ、連戦。

 攻撃的な外敵が襲撃してきていることは伝達されているらしい。イッキが女王の部屋に到達する頃には、女王の部屋はがちがちに守りが固められていた、の、だが。

 

 

「……じょ、女王様ッッ!?」

 

「これが君達が女王様って呼んでいたものの正体だよ。……ねえ、出来れば子供たちを連れてメダロポリスに帰ってくれないかな」

 

「そ、それは……」

 

 

 女王の像へと先制攻撃のメルトを放って見せると、その内側から機械が露出した。順当である。

 イッキの呼びかけにアリ達は戸惑いつつも、根は正直なメダロット達だ。落ち着く頃にはロボロボ団に利用されていた事を悟り、子供たちを連れて上の階へとあがってくれ始めていた。

 だが、解決ではない。目的はその先にこそある。イッキは溶けた像の前へと脚を進める。

 像を避けて、その先の空間に踏み込んで。

 

 

「……! なんだ、ここ……!?」

 

 

 穴を潜り抜けた瞬間、その足を止めた。

 ……止めざるをえなかった。

 

 

「―― おお? 遂にここまで来てしまったのか。存外に手の早い奴じゃの、アキハバラの奴め」

 

 

 異様な光景に驚いていたイッキは、しかし、後ろから現れた老人によって三度驚かされる。

 その場を飛び退くと、後ろにはスルメ、シュコウ、そしてヘベレケ博士という3人が立っていた。

 

 

「おーっほっほっほ! ここまで追ってきたんですの?」

 

「……」

 

「ふん、来てしまったものは仕方がないわい」

 

「……ヘベレケ博士、一体ここは……」

 

 

 その中に居たヘベレケ博士はメダロッ島でもあった事がある、メダロット研究の権威だ。顔見知り故か、イッキは思わず、疑問を口にしていた。

 光が走る溝、脈うつ様な壁。中央にはぽっかりと空いた大空洞。

 メダロポリスの地下深く、アリ塚の更に奥から現れたこれら異様な威容を背景に、ヘベレケ博士が大きく口を開いて笑う。

 

 

「がっはっは! 見るがいい、アキハバラの使いの子! これこそがワシの科学の結晶! 浮遊要塞、『フユーン』じゃあああっ!!!」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 詰まる所、ヘベレケ博士は悪の科学者を自称する人物であった。

 アリ型メダロット達を主導し、フユーンと呼ばれる古代の要塞を掘り返していたらしい。

 そしてその場所からの逃走……というか半ば強制的な「移動」を許されたイッキはというと。

 

 

「……」

 

「それで、僕はどうすれば良いの?」

 

 

 先のフユーンに負けず劣らず不思議な場所へと立たされて(・・・・・)いた。

 フユーンからさらに場所を移して。広間の様なスペースのそこら中に丸い物体が置かれて青い燐光を放っており、薄明るくぼんやりと輝いている。海の色にもにた藍色だ。

 ここはアリ型メダロット達が掘り当てた『遺跡』であるらしい。ヘベレケ博士には何か理由があり、イッキをその実験台にと、この場所へ連れてきたようなのだが。

 ようなのだが、目前には博士はおらず、ロボロボ幹部のシュコウだけが無言のまま立っている。

 

 

「……来ちゃった、か」

 

「それは僕が、ということ?」

 

「……うん。入口からスルメが見張ってる。だからわたし、言った」

 

 

 どこかやるせない雰囲気を纏いつつ、シュコウはケイタイを掲げる。

 不思議な遺跡の入り口からは、ロボロボ女幹部のスルメが金魚鉢の手下を大勢率いて、イッキを見張っている。それはシュコウにしても同様で、学園長室での一件のように、見逃すわけにはいかない。追ってきたイッキに対してロボトルを、というのだろう。それは十分に伝わった。

 ならばとイッキは目前に、メタビーを転送する。

 

 

「行くぞ、メタビー」

 

「お、やるのかイッキ?」

 

「……ロボトル」

 

「―― 呼んだな、御主人」

 

 

 応えたシュコウの前にも、メダロットが転送された。

 以前にコウジが戦ったというカミキリムシ型のメダロット、エイシイストである。

 出るなり、エイシイストはメタビーとイッキに向けてスピーカーを鳴らした。

 

 

「御主人より、1対1での一騎打ちでの勝負を提案されている。どうする。受けるか少年、それにカブトムシ」

 

「……わかった」

 

「へっ、偉そうな野郎だな。どんだけ強いのかは知らないけどよ!」

 

 

 イッキの返答に、メタビーが気強に同調する。

 メタビーが腕を挙げ、同時に、エイシイストが右腕の剣をゆるりと構える。

 

 

「―― 勝負だ、カミキリ虫め!!」

 

「受けて立つ」

 

 

 この一声がロボトル開始の合図となった。

 メタビーが走り来るエイシイストに向かってミサイルとマシンガンをばら撒き、周囲を旋回するように走るエイシイストは時折岩場を盾にしながら攻撃を掻い潜る。

 

 

「中々だが、まだ遅い!」

 

「素早い! ……メタビー、ミサイルは温存だ!」

 

「ちっ、仕方がねえか……!」

 

 

 速度に対抗するため、弾数の多い両腕での射撃を慣行するも、

 

 

「……甘い」

 

「ぐっ!?」

 

「岩を飛ばしてきたっ!?」

 

「何も刃だけが武器ではないのでな」

 

 

 今度は左の拳による打撃(ハンマー)でその辺りに転がっていた岩を飛ばしてメタビーを攻撃し始めた。

 直撃した左足の機能が半減。次いで防御した右腕が損壊。

 仕方が無い。短期決戦だ、とイッキは決め込み、今度はミサイルを織り交ぜながら迎撃を行う。

 

 

「ミサイル! よく狙えよっ!!」

 

「おうよイッキ! ……だあああーッ!!」

 

 

 バシュウ! とバックファイアを鳴らし、カブト虫の角からふたつの弾頭が放たれる。

 地面を蹴ったエイシイストを、ミサイルは小気味よく追尾し。

 

 

「ちっ……ツエェァァッ!!」

 

「ええっ、両断っ!?」

 

「でも見ろよイッキ、カミキリムシの右腕を壊してやったぜ!!」

 

 

 メタビーの指す先ではその言葉の通り、放たれたミサイルは両断されたものの……両断した刃が被弾。エイシイストの右腕パーツを破損へと追い込んでいた。

 

 

「やはり、この身体では動きが鈍いなっ……」

 

「へっ。今から負けた時の言い訳かよ?」

 

 

 煙をあげる右手をぶらぶらさせたまま低く身体を揺らすエイシイストを、メタビーが挑発する。

 すると。

 

 

「……良いよ。あれ、使って」

 

「心得た。……」

 

 

 シュコウから何かを許されたかと思うと、短い反応の後 ――

 

 ―― ぶつり。

 

 突如コミュニケーションモニターを真黒く染め、エイシイストが黙り込む。

 

 

「あん?」

 

「なん、だ、これ……?」

 

 

 次の瞬間、小さく光る粒がぶわっと周囲を埋め尽くし。

 その背から、4枚の薄羽の様なものが広がった。

 

 

「何だこれ!? これも、メダフォース!?」

 

「! やべえぞイッキ!」

 

 

 その威圧感と物理的な振動が周囲を揺さぶる。イッキたちが立っていた洞窟そのものが揺れ始めているほどだ。

 エイシイストおよびそのマスターであるシュコウはというと、揺れている洞窟には一切気を止めず。

 ……むしろ、これこそが目的であると言わんばかりに。

 

 

「……心のままに、です!」

 

「加減はしてやろう。よく目に焼き付けろ、カブトムシ!」

 

 

 ばちばちと爆ぜる雷光のまま、光る右腕を、振り下ろした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「―― 今日は移動してばかりだなぁ。それでここ、何処?」

 

 

 気が付くとイッキは、再び、見知らぬ場所へと飛ばされていた(本日2回目もしくは3回目)。

 海の底にあった神殿の内で濡れ鼠となり、とはいえ手持ちの服はなく。女装も除外。そうして消去法で、メダロッ島で手に入れた金ぴか勇者の服へと着替えていたのが仇となったか。

 

 

「おおっ、勇者様じゃっ!」

 

「予言の通りじゃっ!」

 

 

 周囲を取り囲んでいるのは、古めかしい着物の人々だ。

 唯一ドレスを纏うのは、祭壇の前に立っていた小さな女の子。

 その彼女が、厳かな態度で告げる。

 

 

「―― それでは勇者よ。悪魔の退治をそなたに任じよう!」

 

 

 とりあえずぽかんとして。

 この場所の名はコーダイン王国。

 要約すると、かつての神殿に、イッキは、勇者として召還されたのだそうだ。

 次いでに。

 

 

「……ここはどこ?」

 

 

 その隣にちょこんと座り込む、ロボロボ団幹部と共に。

 





・ミスターうるち
 尺を取るので出て来ませんでした(ぉぃ
 ……というか、コーダイン王国に来られると流石に困るのでは(笑

・アリ型メダロット
 クロス攻撃を実装した初のメダロット。なので、初見殺しではあるものの威力はほどほど。防御機体がいれば十分に対処できるレベルの攻撃ではある。
 遺跡や要塞を掘削するために、女王という立場を使っていいように利用されていた。
 一応本作では「女王」に理屈をつけるつもりではいますが……。

・コーダイン王国
 海底神殿の昔の姿。原作においてヘベレケ博士はここから『あれ』を盗み出した。
 マルガリータ王女だからといって毛狩り隊が居たりはしない。

・古代の要塞
 漫画版だと手作り。外装がぺこぺこする。


20191210追記修正。

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