ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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16話 下水と幹部

 

「はぁっ、はぁっ……どうだ!!」

 

「ぐぅっ……この俺様がこんなガキに負けるとは!!」

 

「いい加減観念しやがれ!!」

 

 

 学園長室に突入してから15分ほどが経過した頃。カラクチ・コウジは黒づくめの男とロボトルを行い、それを打ち破っていた。

 拳を握るコウジの目の前で、ロボロボ団の幹部……サケカースが全てのメダロット機体の機能を停止され、どすどすと地団太を踏んでいる。

 

 

「くっ……スルメの奴もシオカラの奴も逃げ出した様だし……俺様も逃げてやる! けどメダルは欲しい! どうしろというのだ!?」

 

「……おいおい。なんてワガママな奴だ」

 

 

 コウジは思わず頬を掻く。

 今いる場所は、校長室の奥側。通常みることのない場所に造られた、秘密の部屋の中である。ここには学園長が趣味で集めた天然メダル達が集められていたりしたのだが……どうやらサケカースが花園学園を占拠したのは、ロボロボ団全体の意図の他、自分自身がこれらコレクションのメダルを奪いたかったからというしょうもない理由であったらしい。

 しかし、何れにせよこの男は捕縛せねばなるまい。さてどうしたものか、とコウジが考え込んでいると。

 

 

「……居た、サケカース」

 

「!! お前はっ!?」

 

「おお! シュコウか!!」

 

 

 秘密の出入り口になっている壁から進入してきた、ロボロボ団の幹部にコウジが思わず身を構える。

 水晶玉をすっぽりと被ったようなその容貌。おどろ沼においてコウジの行く手を遮った相手、シュコウであった。

 現れた援軍を見、サケカースは好機とばかりに大声で。偉そうに。ふんぞり返って。

 

 

「丁度良い! 俺様は逃げるぞ! シュコウ、お前はコイツの相手をしろ!!」

 

「……逃げる?」

 

「ああ! 俺様は一足先にアジトに戻っているからな! 良いな! ここのメダルを回収して、戻って来いよ!」

 

 

 そう強気に言い張ると、ふんと息を吐きだした。

 ちなみに、ロボロボ団幹部の間に階級はない。サケカースがリーダー格ではあるものの、『外様』のシュコウより偉いというわけでもない。

 シュコウは表情の見えない水晶玉の被り物の中で、しばらく沈黙してから。

 

 

「……サケカース」

 

「なんだ」

 

「……この男の子は貴方より強いんでしょ。どちらも、っていうのは無茶振り。メダルは諦めて」

 

「むぐっ」

 

「……早く逃げて。わたしが時間を稼ぐ」

 

「ぐぐっ……仕方が無い。今回だけだぞ! 特別だからな! 逃げる時間くらいは稼いで見せろ!!」」

 

「あっ、待てよ!! ……って」

 

 

 コウジが横を抜けようとしたサケカースを遮ろうとするも、その合間にシュコウが割り込む。

 その右手にはメダロッチ……いや、やや型遅れだが「ケイタイ」と呼ばれる前世代のメダロット転送格納端末を構えていた。

 どうやら構えは万端らしい。サケカースは振り返ることもせず、真っ先に外へと駆け出していった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 後に残されたコウジとシュコウの間に沈黙が下りる。

 ……両者ともにメダロットを転送する手はずを整え、構えてはいるが、一向に手を出そうとはして来ないようだ。

 

 

「どうした? 足止めをするんじゃないのか?」

 

「……貴方の仲間が来るのを待ってる」

 

「? なんでお前がそれを知って……」

 

「―― コウジッ、無事かっ!?」

 

 

 言いかけたところで、ドバァンと扉を開けてイッキが突入してきた。

 コウジと対面しているシュコウを認めると、イッキはコウジの横に立つ。

 

 

「この人は?」

 

「おどろ沼でお前を助けに行こうとした所を、遮った幹部が居たって言ったろ? コイツがそう……なんだが」

 

「……」

 

 

 さあロボトルかと構えている両者を他所に、シュコウは何やら機を窺っている。

 またも続く沈黙の後、かちりと長針が動いた所で。

 

 

「……役目、終わり」

 

「え?」

 

「……多分、サケカースは逃げた。だからわたしの役目、これで終わり」

 

 

 掲げていた携帯端末も下げ、敵意は既に感じられない。

 言ってとことこ歩き部屋を出たシュコウの後を、イッキとコウジが慌てて追う。

 

 

「おい! 確かにオレは足止めされたけどよ、ロボトルは良いのか?」

 

「……ロボトルしろとは言われなかった。……女の子、助けられた?」

 

「あ、うん。レトルトさんも協力してくれたから……ユウダチっていう子以外はね」

 

「……そう。良かった。彼女は気にしなくて良い。アジトの方に移送されたから、向こうに居る」

 

 

 話しかければ以外にもすんなりと返答は帰ってくるようだ。イッキがアリカとカリンを救出に行った事も知っているらしいが。

 そのまま校長室を出て、2階の端、窓際に立つと、2人の居る後ろ側へと振り返る。

 

 

「……来るんでしょ、アジト」

 

「そりゃあまぁ、行くけどよ……」

 

 

 コウジはどうにもやり辛そうだ。対応を量りかねているのだろう。

 イッキはというと、初対面である為そこまでのやり辛さは感じていなかった。やや首をかしげて。

 

 

「君は、ロボロボ団じゃないの?」

 

「……ううん。ロボロボ団の、幹部」

 

「それじゃあどうして……」

 

 

 ここでロボトルをしてイッキとコウジのメダロットを損傷させておけば、少なくとも追撃に支障を来たす事は確実だ。

 だが、このシュコウという幹部はそれをしない。何故だろうか……と、問いかけられたシュコウは表情の見えない水晶玉を微動だにせず。

 

 

「……下水のアジト。知ってる?」

 

「う、うん」

 

「……準備と覚悟をしてから来て。あそこだと、わたしも戦わざるを得ないから。それじゃあ」

 

「―― ッピヨー!」

 

「「あっ」」

 

 

 意味深な言葉を告げると、窓から現れた飛行型メダロットに連れられて、その姿を消した。

 あっという間に空の点となった幹部を見逃す形とはなったものの。兎に角。

 

 

「「……変な奴」」

 

 

 感想だけは、イッキとコウジ共に同じものであった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 花園学園がロボロボ団から解放された後、イッキとコウジはカリンおよびアリカと合流した。

 アリカもカリンも保護されていたレトルトの風貌には驚いていたが、目立った外傷どころか傷1つ無い状態であった事はコウジを心から安堵させた。

 

 

「それじゃあコウジ君、ハチロウって子の所には貴方とイッキがお願いね。アタシとカリンちゃんは駅周辺を探ってみるわ」

 

「危ない事はすんなよ? また捕まったりしたらどうすんだ」

 

「ふふ。その辺りはレトルトさんとレディさんが居てくださるそうですわ」

 

「任せてくれたまえ」

 

「ええ、御心配なく」

 

 

 カリンの言うように、その後ろにはレトルトとレトルトレディが控えてくれている。どうやら下水への道を探す……忠犬ボナパルトの像周辺の捜索に付き合ってくれるらしい。

 間違いなく不審者ではあるが、実力をこの目で見ているためにボディガードという意味ではこれ以上ない申し出である。

 イッキとコウジは頷き、

 

 

「お願いします、レトルトさん。レディさん」

 

「オレ達もハチロウって奴から情報を聞き出したらすぐに向かうからな!」

 

 

 今度は花園学園の東側へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 ―― 聞くに、事の仔細はこうだ。

 

 ハチロウというお坊ちゃまは、両親や友達が居ない事を主とする寂しさから、それを埋めるための手慰みに賢いロボロボ団として活動を行い、窃盗などを繰り広げていたらしい。

 彼はその傲慢な態度などからクラスメイトからも白い目で見られていた人物らしく、そんな彼の不審な行動は見る人が見れば注目の的であったらしい。

 だからこそ、聞き込みをした女性陣からの情報であらかたの予想は出来ていたのだが。

 

 

「うわーん!!」

 

「……どうすんだよ」

 

「うーん。どうしようか」

 

 

 2階で癇癪を起こして暴れ出したハチロウをロボトルで諌め、開いた穴から落下しそうになった彼をコウジと2人で引き上げた直後、泣き出してしまったのだ。

 流石に泣く子供への対応は心得が無い。と、2人で頭を悩ましていると。

 

 

「―― ここはわたくしめにお任せください」

 

「あっ、執事さん」

 

 

 先ほどの床の落下を聞きつけて来たのだろうか。ザ・執事といった感じの壮年の男性がハチロウの部屋の入口に立っていた。

 これは有り難いと、コウジが素早く身を引く。

 

 

「イッキ、ここは任せてオレ達も急ごうぜ」

 

「うん」

 

 

 そう言って、コウジはハチロウの部屋を飛び出して行った。

 確かにこれから、ロボロボ団の下水アジトに侵入する予定だ。イッキ達も早めに行くのが好ましい事は間違いない。

 イッキもコウジの後を追おうとして……しかし、出る前に振り返る。

 

 

「あのさ。今度また、ロボトルしよう」

 

 

 泣き喚くハチロウと執事にそれだけを告げて、イッキも、「ミニハンドル」を使用してボナパルト像へと急いだ。

 後には呆然として泣き止んだハチロウと、僅かに微笑む執事だけが残されていた。

 





・ハチロウ
 行動を文章にしてみたらあら酷い。
 ですが人的被害があまり無く、金銭の賠償だったら彼の家にとって問題は無いのでしょうと。
 ロールスター使いで防御メダロットも居るのだが、トラップを駆使すればリーダー機の破壊は容易。トラップが実に有能。

・サケカース
 ……リーダーでしたっけ?(



 20191204追記修正

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