ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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15話 急行、ぞのはな学園

 

「さて、お話を伺いましょう。貴方達ロボロボ団員になった子供達の経緯、お話してくださいますね?」

 

「う、うん。……判ったよ」

 

 

 レトルトレディに連れられて、街の端、メダロデパートの影にまで移動した後。

 底知れぬ母性を感じさせるレディにたじたじの団員は、促され、団員服を脱ぎ始める。

 何の事は無い。アリカの睨んだとおり、その中から現れたロボロボ団員の正体は子供であった。

 口を開きかけたコウジを制して、イッキが尋ねる。

 

 

「君は、花園学園の生徒?」

 

「……そうだよ」

 

「どうしてこんな事を?」

 

「始めは、ちょっとした悪戯心だったんだ。おれの他にも大勢の子供たちがロボロボ団やってるって聞いてさ。花園学園って、少し息苦しいだろ? ストレス発散みたいな部分もあったのかもしれない」

 

「お前な……!」

 

 

 コウジが流石に怒り始める。イッキとしても気分はわかるため、積極的に止める気にはなれない。

 が、コウジは何とか振り上げそうだった拳を自制。行き場の無い怒りを溜息に込め、元団員の少年に先を促す。

 

 

「それで?」

 

「わ、悪いとは思ってるんだ。だから君達に全部話すよ」

 

 

 そのまま、少年は言葉の通り、全部を語ってくれた。

 子供のロボロボ団員が勧誘されている事。行方不明になっている子供は大抵ロボロボ団をしている事。その多くは花園学園の生徒である事。

 そして何より。

 

 

「アジトは地下にあるんだ」

 

「地下だって!?」

 

「どうやって入るの?」

 

「忠犬ボナパルトの像があるだろ? あの下に入り口があって、そこから下水伝いに行くと本拠地がある」

 

「成る程……下水を使えば、マンホールから色々な場所に出入りが出来るってわけか」

 

 

 これが、所々に消えては現れる「賢いロボロボ団」の正体であった。

 コウジが納得すると、少年は少しだけ目線をずらして。

 

 

「……それじゃあおれ、レストランに謝ってからセレクト隊に行くよ」

 

「おう。そうしろ。多分家族だって、お前の事心配してるんだからな」

 

「有難う。……もしかして君たちが、ロボロボ団を倒して回っているって噂の子供達なの?」

 

「噂になってるの!?」

 

 

 少年からの指摘にイッキは思わず驚きの声をあげる。

 確かに、行く先行く先でロボロボ団と遭遇する為、結果的に倒して回っているのは事実なのだが、まさか噂になっているとは思ってもいなかったのだ。

 そんなイッキの様子を見たコウジが、頭を掻いて。

 

 

「……イッキ。あちこちでロボロボ団を倒してたの、やっぱりお前なのか?」

 

「コウジも知ってたの!?」

 

「何となくはな。実は、おどろ沼で大きなロボロボ団とロボトルしてるのも見てたんだよ。変な水晶玉を被った幹部に邪魔されて、助けには行けなかったけどな」

 

「……うーん」

 

 

 イッキが思わぬツッコミに唸りをあげる。

 何せ、その度にイッキは女装をしていたので、声高に話したい情報ではなかったのだ。

 コウジはイッキのその様子に言外の確信を得ながら。

 

 

「まぁ良い。でも、今度からはオレも頼ってくれよ。カリンやアリカ、ユウダチだって女子だからあんまり巻き込みたくないのは判るけどな。オレなら大丈夫だろ?」

 

「……判った。何かあったら頼りにするよ、コウジ」

 

「おう!」

 

 

 イッキとコウジが握手を交わす。

 さて、とこれまで会話を傍観していたレトルトレディが話題を戻す。

 

 

「それでは、ある程度の情報は得られましたね。わたしはこの子を送っていくので、貴方達は花園学園へ戻ってあげてください」

 

「そうだな。大分核心に迫る情報だったし、あのアリカって子に伝えとかないとどやされるぜ」

 

「だね。……あの、レディさん」

 

「はい?」

 

「その子の事、お願いします」

 

 

 たとえ悪事を働いたとしても、自分と同年代の子供が罰される……しかも捕まえるのを協力したとなればイッキとしては微妙な気分である。

 何をお願いするのか。罪を赦してなどとは口が裂けても言えはしないが。

 そんな言葉を受けて、レトルトレディは微笑む。

 

 

「大丈夫です。……こういう時は親が責任を被ると決まっていますから。君達も、子供だからといって何をしても許される訳じゃあないでしょう?」

 

「ああ、そうだな」

 

「はい。そうですね」

 

「ふふ。それが判っているのなら、君達は思うように進んでください」

 

「……良いんですか?」

 

「ええ。だって、無茶が出来るのも子供の内ですから。心配をかけたとしても、それで悪い事をしているわけではありません。今回は事が事ですから、私やレトルトも協力させていただきます。残りの子供達の事、わたしからも宜しくお願いしますね?」

 

 

 最後にそう言って、レトルトレディは元ロボロボ団員の少年を連れてレストランのある方角へと歩いていった。少年もあの様子であればセレクト隊を目前にして逃げ出すということはないだろう。

 ……そもそもレトルトレディがあの格好では不審者だろうとコウジは思ったが、雰囲気を読んで口にはせず。

 2人は情報を統合すべく、花園学園へと戻っていった。

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 しかし、2人は花園学園の校門付近で足を止めた。

 

 

「ロボロボロボ! この学園はロボロボ団が封鎖したロボ!!」

 

「えええ!!」

 

「……参ったな、こりゃ」

 

 

 驚き声を上げたイッキを連れて、コウジは一度、校門の影に退散する。

 その入口を塞いでいるロボロボ団員(賢くない方)からの言葉の通り、どこかから現れたロボロボ団員達が花園学園を封鎖してしまったらしい。

 目的は不明だが、アリカ、カリン、ユウダチが学園内に残っていたはずなのだ。

 

 

「……コウジ、何か入る方法は無い?」

 

 

 コウジは花園学園の生徒。自分には知らない侵入方法を知っているのではないかと、期待を込めてイッキは問いかける。

 やや唸った後。

 

 

「……こういうのはどうだ?」

 

「ふんふん」

 

 

 相談を始め、そしてその数分後、2人はまんまと学園内に入る事が出来ていた。

 さて、侵入に成功した経緯は以下の通りである。

 

 ―― 宿題のノートを忘れた!!

 ―― 2階の右から3番目のクラスの、前から3番目の列の左から5個目の机の右に掛かっているバッグの中に!

 

 ……と告げると、入口のロボロボ団員(賢くない)は頭を抱え、イッキとコウジを学園内へと通してくれたのだ。

 

 

「流石はロボロボ団。数字に弱いぜ!!」

 

「……いいのかなぁ。助かるけど」

 

 

 どこか釈然としないがロボロボ団だから仕方が無い。と、自分を納得させつつイッキとコウジは学園を2階へと上る。

 辺りにロボロボ団が居るものの、話が通っているらしい。宿題は大切だロボ、などと言いながら何故か歓迎ムードでもって2人を通過させてくれる。

 ロボロボ団員が件の教室以外を施錠してしまったらしく、まずは鍵を入手しに職員室へと向かう。

 職員室に入ると、囚われていた教員たちがいたが、彼等はロボトルにはあまり明るくないらしく、寧ろコウジに頼るような勢いで鍵を渡してくれていた。

 鍵を持ったコウジが、入口で待っていたイッキの元へ戻って来て。

 

 

「さてイッキ。オレは学園長の部屋に向かおうと思う。お前はこの2つの教室に入って、ロボロボ団員を蹴散らしてきてくれ。どうやらカリンとアリカが教室の中に居たままらしいからな」

 

「……学園長室?」

 

 

 差し出された二つの鍵を受け取りながら、イッキが首を傾げた。

 コウジはああ、と頷きながら。

 

 

「どうやらロボロボ団がそこにも立て篭っているらしいんだ。幾つも教室を占拠して、一体何がしたいんだか」

 

「でも、だったら僕も……」

 

「いや、その2つの教室のどちらかにはユウダチが居る可能性がある。鍵さえ開けば、お前とユウダチなら早めに済ませられるだろうと思ってな。オレは時間を稼ぐから、後からお前達も合流してくれれば良い」

 

「うーん……それってコウジが危なくないかな」

 

「おいおい、それはお前だって同じだろ?」

 

「……それもそうだね」

 

 

 どうやら話し合いは合意に到ったらしい。

 2人は揃って職員室を出て、イッキは左手、コウジは右手へと分かれる。

 

 

「それじゃあ……カリンの事頼んだぜ、イッキ!」

 

「うん? ……判った」

 

 

 何やら感慨深げな表情を浮べてから、コウジはいつもの熱血ぶりで学園長室へと突撃して行った。

 ……これは自分も早くしたほうが良さそうだ。と考え、イッキも、アリカとカリンが囚われているという教室へと急ぐ事にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 同刻、花園学園の校門付近。

 にわかに騒がしくなってゆく学園の周辺をよそに、校門付近に佇む2つの怪しい影があった。

 

 

「さて……レトルト。もうすぐセレクト隊の人達が来てしまうらしいんですが、今学園の中に入られると非常に面倒な事になりますね」

 

「そうだなレディ。あいつ等は場をかき乱す事しかしないからな……よし。どうにかして近寄らせないようにしよう」

 

「あら、どうするのです?」

 

「それはな……こうするんだ!」

 

 

 タキシード風の男、怪盗レトルトが颯爽と動く。

 校門の前に立つと、学校の表札をささっと取り外し、入れ替え、また校門の後ろへと戻った。

 すると、かつて「はなぞの学園」と表記されていたものが、「ぞのはな学園」と読めるようになっていて。

 

 

「―― ここが花園学園でありますか!?」

 

「違うであります! ここは園花学園と書いてあるであります!!」

 

「それでは花園学園を捜索しに行くであります!!」

 

 

 一度は集まりかけたセレクト隊の隊員は、まだみぬ花園学園を探しに方々へと散っていってしまった。

 後には高笑いをする怪盗レトルトとレトルトレディが残されて。

 

 

「ふはははは! それではレディ、ここの見張りを君に頼もう。私は学園内へと入り、少年達の援護へと回る!」

 

「はい! レトルト、気をつけてくださいね!」

 

「油断はしないさ。必ずや君の元に帰ってくると約束しよう!!」

 

「信じていますよ、レトルト!」

 

 

 以下略。

 いつの間にかノリノリの2人にツッコミが入らない事を悔やむばかりであった。

 




・数字に弱いぜ!
 原作まま。
 こんなんだからセレクト隊といい勝負になる。

・ぞのはな学園
 原作まま。
 こんなんだからロボロボ団といい勝負になる。

・2つの鍵
 好感度上昇イベントの最終選択。
 右がカリン、左がアリカの囚われている教室の鍵。
 例の如く、本来は片方しか受け取る事ができない。

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