ジャンクヤードの友人へ   作:生姜

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12話 家

 

 

 結局、子供達は地下に作られた牢屋の中にとられられており無事に解放することができたのだが、カリンはお城の中を迷っていたというオチであった。

 お城から出るなり父親に連れられてゆくカリンは、どこか父親を気遣っていた様子でもある。

 帰りのユイチイタン号のデッキの上、イッキは1人考える。

 

 考えたのは家族の事だ。

 お化け屋敷に一緒に入る前、それに後。カリンの家族は彼女を溺愛しているといっても過言ではないだろう。

 それと比べれば、イッキの家族は拘束もしない。十分な愛情を注いでくれているのが、今ならより一層感じられる。

 自分の家族は自分を愛してくれていないのかな、と行きがけに少しでも考えていたのが馬鹿みたいだ。と、自重しながら水平線の先に小さく見えるおみくじ町の事を楽しみに思う。

 

 

「……イッキ君?」

 

「あ、カリンちゃん」

 

 

 いつしか甲板にカリンが顔を出していた。

 イッキの横のベンチに座り、落ち着いた様子で足を伸ばす。

 

 

「お隣よろしいですか?」

 

「うん、気にしないで。お父さんは大丈夫なの?」

 

「はい。いつもの通り、ユウダチさんとコウジ君が、1人になれる時間を作ってくださっているので。……少し優れない表情をされていましたが」

 

「……ちょっとね。僕の家族の事を考えていたんだ」

 

「まぁ。イッキ君のご家族の方なら、きっとお優しい方々でしょうね。……でも、わたしのお父様も過保護な所はありますが、悪い方ではないんですよ?」

 

「あはは、大丈夫だよ。それは僕でもわかる」

 

「ええ、わたしの身体が弱いのが全ての原因ですから。……ふふ、でも今日のお化け屋敷の時みたいに、ちょっぴり反抗したくなる時もありますけど」

 

「その時は僕も手伝うよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 カリンとの間に沈黙が挟まれるが、不思議と悪い心地はしない。

 流れる風を心地よく感じていると、

 

 

「……でも」

 

「うん?」

 

「ユウダチさんは少し違うのかもしれません。わたしもイッキ君も、両親は居てくれますが、ユウダチさんはそうも行きません」

 

「そういえばユウダチって……」

 

「ユウダチさんは、メダロポリスのメダロット社のある区画にアパートを借りて一人暮らしをしているんです。ご両親もお兄様も、会社にかかりっきりなので、顔を合わせることは年末くらいなのだそうで」

 

「一人暮らし!? 小学生なのに!?」

 

「はい。わたしもコウジ君も、家族ぐるみで親しくさせていただいていますし、その事について、節目節目にムラサメの家の方からお礼のお手紙はいただきます。ですがそれは、ユウダチさんに会いに来てくださるわけではありませんから」

 

「そうなんだ……」

 

 

 イッキとてユウダチの苗字が「ムラサメ」であることは知っている。花園学園に通っているため、漠然と名の有る家なのだろうという事も。

 だがその実質は知ってなどいなかったのだな、と思う。

 ……手に持ったラピのぬいぐるみを見つめる。

 

 

「ねえカリンちゃん。このラピのぬいぐるみ、貰ってくれる?」

 

「まあ。これは?」

 

「お城のツアーに参加したときにね。カリンちゃんに貰って欲しいんだ」

 

「……ありがとう、ございます。……大切にしますね!」

 

 

 カリンが満面の笑みを浮かべてラピのぬいぐるみを言葉の通り大切そうに抱きしめる。

 イッキにも出来ることは有るに違いない。

 それに今は、ユウダチの最も近くに居る……最も心配をしているのであろうこの少女に、少しでも明るい顔をしていて欲しかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 おみくじ町に寄港し、カリン、コウジ、ユウダチの3人はそれぞれの迎えの車に乗ってメダロポリスへと帰っていった。

 アリカは早速記事を纏めるのだと家に直行。その手にイッキからプレゼントされた特大のラピのぬいぐるみが大事そうに抱えられていたのには一先ず安心である。

 

 夕方だが、夕食は船内で済ませている。

 イッキが急ぐ必要はないが、今日のメダロッ島で家族に話したい思い出が沢山出来た。

 その脚を心持ち早め、港とおみくじ町の境目を抜けると。

 

 

「……あら、イッキ君ではないですか」

 

「ナエさん! どうしてここに?」

 

 

 メダロット研究所に行く際にいつもお世話になっている、メダロット博士の孫にして自らも博士号を持つメダロット研究の権威、アキハバラナエがその脇にぽつんと立っていた。

 イッキがすぐに気付けずナエに声をかけられて初めて判ったのは、彼女の服装がいつもの白衣ではなく落ち着いていて楚々としたものになっているからだ。

 ナエは人差し指を唇に当てて。

 

 

「ふふふ、待ち人です。……ね、ヒカルさん」

 

「―― うーん、わざわざ迎えに来てくれたの?」

 

「ええ。待ちきれなくて」

 

 

 その視線が向いた方向から、一緒に「魔女の城」における事件を解決に導いた少年、アガタヒカル(兄さま)が歩いてきていた。

 ナエはとととっと近付いて、その隣に並ぶ。小学生のイッキにも、その親しげな雰囲気にはピンと来るものがあった。

 

 

「もしかして……恋人なんですか!?」

 

「あ、あははは……うん。あまりおおっぴらにはしてないんだけどね。博士や近しい人は知ってるかな」

 

「わたしの研究が忙しいので、あまり時間が取れなくて、申し訳ないですがヒカルさんにはこうして夜に付き合ってもらっているんです」

 

 

 そう聞けば、お似合いの2人に見えてくる。ヒカルはともかく、ナエは遠めに見ても美人だ。確かに放って置かれっはしないだろう。

 イッキはあまり邪魔するのも悪いかと、切り上げる事にする

 

 

「あ、それじゃあデート、楽しんできてください。僕は家に帰りますから」

 

「ありがとうございますイッキ君。気をつけてお帰りくださいね」

 

「うん、じゃあねイッキ君。ユウダチの事も宜しく頼むよ」

 

 

 そう言って、イッキとナエはメダロポリスのある方向へと腕を組んで歩いていった。

 メダロデパートにでも行くつもりなのだろう。幸せそうな2人の様子には、イッキも少しだけ微笑ましい気持ちになれていた。

 ……ただし。

 

 

「うーん。シラタマさん、荒れてるだろうなぁ……」

 

 

 知人というよりは顔見知りの研究者の様子を思い浮かべつつ、イッキは自宅へと歩いてゆくのだった。

 

 あたってしまった父と母に謝り、それでも優しい両親へメダロッ島での冒険や思い出を沢山話し。

 イッキはその日、いつもよりちょっぴり幸せな気持ちでベッドに入ることができた。

 





・ユイチイタン号
 シャーク号というのもあった気がするがうろ覚え。
 ユイチイタンはサメ型メダロットの名前なのだが、これはまるまんまホオジロザメ風味の外観をしている。

・ラピのぬいぐるみ
 2つめ。ゲームを踏襲した展開で、無事にカリンに譲渡された。
 ここでカリンにぬいぐるみを渡すためには、この時点である程度の好感度を確保している必要が有る。

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