一回戦、イッキの相手は奇しくもアリカだった。
女形の西洋騎士の様なヴァルキュリア型メダロット、プリティプラインの多彩な戦術には惑わされたものの。
メタビーの他、クモメダルを装備したトラップスパイダ……の頭をスミロドナットの物にして、射撃格闘両方に合わせてトラップを仕掛ける事が出来る様にした機体……がリーダー機のセーラーマルチを狙った射撃トラップを使用して直接ダメージを負わせて行くことで撃破。
二回戦はカリンが相手。
打って変わって防御と回復を司るセントナースがリーダーのため、リーダの攻撃種類に合わせたトラップを仕掛けるという戦法は通じなくなったものの、全体防御を掻い潜り僅差の撃破。防御タイプのメダロットの重要性を改めて認識する結果となった。
三回戦、四回戦とイワノイとカガミヤマのコンビを撃破。
五回戦ではキクヒメと戦う羽目になり、レッドスカーレスというメダロットによるメタビーをメタったかの様な射撃トラップの雨あられを受けたのだが……そこはイッキのメタビーのこと。ペッパーキャットとの格闘戦に打ち勝つというある意味ではいつも通りの戦法で勝利した。キクヒメは大口を開けて驚いていたが。
と、5回戦を終了した所で休憩時間に突入。
世界中から集まった多くのメダロッターが参加しているはずなのに、予選は知り合いばかりが相手となった自分の運の無さには辟易しつつ、イッキはロビーへと戻る。
すると。
「あっ、ヘベレケのおじさまです!」
「がっはっは! ユウダチ! 以前ならいざ知らず、今のお前にぶら下がれたら腰が折れてしまうわい!!」
「っとぉ、それは危ないです。……それよりおじさま、これから挨拶ですよね?」
「そうじゃったそうじゃった。どれユウダチ、話は後でするとしよう。がっはっは!!」
受付の前でやり取りをしていたユウダチと老人が分かれる。その背をよく見れば、始めに入口ではしゃいでいた老人だ。
イッキは取り合えず、ユウダチへと近付いて。
「やあ、ユウダチ」
「あっ、イッキです。ロボトル見ていたですよー。メタビーのフレクサーソードがカッコいいです!!」
「おっ。わかってるじゃねえかユウダチ。オレ様の右腕は全てを切り裂く!!」
「切り裂くですかっっ!!」
「それくらいにしておけよ、メタビー。……それよりユウダチ、さっきのおじいさんは?」
「あっ! そうですそうです。これからヘベレケおじさまの挨拶が始まるんです。イッキも一緒に見に行きませんです?」
「挨拶?」
「ほらほら、こっちです!」
疑問符を浮べている間に腕を引っ張られ、受付の横の扉を潜ると、観客席の側に出た。
休憩時間になったからか人は疎らだが、それでも幾人かはこの挨拶を見るためにわざわざ残っているようだった。
その中、イッキとユウダチは一番前の席に座る。
「それで、ユウダチ。ヘベレケおじさま、って言ってたけどどんな人なの?」
「? ああ、成るほど。研究者じゃない人にはアトムの方が有名ですよね。おほん、えふぅん」
咳をして、やや胸を張り、ぴっと人差し指を立てる。次いでにでろり。
「ヘベレケおじさま……改めましてヘベレケ博士は、メダロットの研究とパーツ開発とを一手に研究している凄い研究者です。かつてはアトム……メダロット博士と同じ人の弟子だったんですよ!」
「メダロット博士と!? それは凄い!!」
「今でこそパーツ開発ではメダロット社の専売特許ではなくなりましたが、それに大きな影響を与えたのも、ヘベレケおじさまだったりしますです」
ユウダチはちょっと得意げに話す。イッキの口から出た驚きの言葉は、心からのものだ。
おみくじ町にあるメダロット研究所には小さい頃から通っていた。そこの所長を務めている、世界的な権威がメダロット博士である。イッキにとっては憧れや尊敬を超えてもう何がなんだかわからない雲の上の人とすら言える。
そんな人と同門、そして同列の研究者だという。どんな言葉を話すのだろう、とイッキも期待してステージの上を眺める。
暫くして、先ほどのお爺さん……ヘベレケ博士が朗々と、演説かと思うような挨拶をしてみせた。
イッキも観客も思わず手を鳴らす。隣を見ればユウダチも、目を
ユウダチを連れて再びロビーへと。ヘベレケ博士は約束の通り、ロビーの脇でユウダチを待っていてくれていた。
「ふん? ユウダチと、お前はさきの……」
「はい、テンリョウイッキといいます! ヘベレケ博士!」
「がっはっは! イッキか! おぬし、見かけによらずロボトルが強いようじゃの」
「メタビーたちのおかげですけどね」
「イッキは強いですよー、おじさま。コウジと揃って今回の大会の台風の目、です!」
「ほう。それは楽しみにしておこうかの」
顎に手を当てると、ユウダチに笑いかけながらヘベレケ博士が言う。
「しかし、最近の若いもんはむちゃくちゃやりおる。おぬしのメタルビートルの事じゃが」
「あ、イッキのメタビーですね! 凄いですよー、フレクサーソードを使いこなすんです! こう、ずばぁっと」
「何だかなぁ、とは思うんだよなぁ。メタビーの奴」
「がっはっは! とはいえワシら開発者側に足りないのはそういった思考の柔軟性かも知れんがの? メダルの得意不得意に合わせて格闘か射撃かという1択にするのではなく、遠近両方を兼ね備えたメダルを育てる! ……くらいの意気込みがあったほうが良いのかも判らん」
「はいです。私のウインドクラップもコンセプトはその辺りにありますです。狙い撃ちや我武者羅といった威力の高い攻撃を捨てて、遠近両用の軽攻撃に特化させてるですからね。とはいえおじさまの作ったパーツと比べれば雲泥の差です」
「それは勿論じゃ! ワシは天才じゃからの!! なに、ユウダチのとて中々の出来じゃった。それにあれは3対3ではなく、もっと極限の乱戦を考慮した機体じゃろ」
「おお。うーん、流石はおじさま。その辺りまで見抜かれてしまうとは……感服です、です!」
何だか専門的な話が多くなってきたなぁ……とイッキが口をつぐんでいると、ヘベレケ博士は手元の時計で時間を確認しておおっと声を出す。
「もうこんな時間か。過ぎるのが早いの。それではなユウダチ、イッキ。お主らとまた出会える時を楽しみにしておるぞ! がっはっは!」
「さよならですー」
「あ、さようなら」
いつもの通り大声で笑いながら、ヘベレケ博士は嵐のように去っていった。
ユウダチがむんと気合を入れて、イッキは時間を確認。
「そういえばパレードの時間だな。アリカとの待ち合わせ場所に行かなくちゃ」
「パレード! そういうのもあるんです!?」
「そうみたいだよ。中央通りを封鎖してやるんだってさ」
「見たいです! 一緒に行きましょう、イッキ!」
別段断る理由も無い。アリカも、ユウダチが一緒に見るというのであれば納得してくれるであろう。
そう考え、イッキはユウダチに手を引かれてロボトル大会の会場を出る事にした。
◇◇
……が、事はそう単純に進んでくれない。
会場を出たところで、イッキとユウダチはメダルを奪われたという女の子に遭遇。
2人は奪ったロボロボ団を追いかけ……中盤では何故か遭遇したレトルトの力を借りながらも、メダルを奪い返す事に成功。女の子へメダルを返す、という顛末に巻き込まれていた。
事件を請け負った時点でユウダチが謝罪の連絡をアリカに入れてくれたため大事とはならなかったものの、おかげでパレードは見れず仕舞いとなってしまっていた。
「……んー……見たかったですねー、パレード」
「ごめんねユウダチ、ぼくの我侭に巻き込んじゃって」
「……はっ!? いえいえ! イッキは全く悪くありませんです! ……折角メダロッ島に来たのですし、他にも沢山アトラクションはありますから、心配しないで下さいです」
「そう? ありがとうユウダチ」
「こちらこそです、イッキ。おかげでレトルトにも会えましたし……はふぅ、カッコよかったです」
「だよね!! レトルトカッコいい!!」
「はいです! レトルトカッコいい!!」
などと、まるで何かの合言葉のように繰り返す2人を、通りがかりの人々は怪訝な目で見ていたが。
レトルト最高、まで到達した所で満足したイッキとユウダチは、再び連れ立って歩き始めた。ロボトル大会の後半戦までにはまだ時間があるようだった。
「アリカにお詫びのジュースでも買っていこうかな。確かオレンジシュースが好きだったよな……」
「それなら、向こうにカフェテリアがあるらしいのです」
というユウダチの誘いに乗っかって、東側へと脚を向ける。
封鎖を解除された中央通りを抜け、カフェテリアらしきものが見えてくる……が、同時にお城のような大きな物体が目に止まった。
「? あれは何です?」
「さっき見た掲示板には、確か『魔女の城』って書いてあった気がする」
勇者がレベルを上げて倒しに行くのかな、とファンタジーの過ぎる事を考えるイッキの横で、ユウダチが何かを考え始める。
「むー……はっ!」
「どうしたのさ、ユウダチ」
「いえ、楽しそうな事を思いついたです。イッキ、ロボトル大会が終わったらあのお城の前に集合しましょうです!」
「あの中に入るの?」
「イッキが宜しければですが!」
ユウダチからの思わぬ誘いだが、やはり断る理由は無い。イッキが頷く。
「それでは、後々の集合で宜しくお願いしますです!」
「あっ、ユウダチ……何処に行ったんだろう」
言って、ユウダチは何故か西側の先ほど来た方向へと戻っていってしまった。
……まぁ、今気にしていてもしょうがないか。と、イッキは予定通りにオレンジジュースを買ってからアリカの待っている場所を目指す事にした。
・オレンジジュース
レモンパックを買って呆れられるのは仕様。
・レトルトカッコいい!
メダロット主人公共通の認識。
世間一般の常識ではない点に注意。
・知り合いばかりが相手
ゲームの通り。
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