散策を始めたユウダチとカリン、それにアリカとイッキは、おどろ沼を西へ向かって歩き始めた。
時折ユウダチが暴走事件のことや自分の家柄について、もしくは仕事について、カリンとの出会いの話などを交えながらアリカの質問に答えてゆく。
「で、私は兄さまと一緒に相手のメダロットを撃破したわけなのです」
「へぇ~! やっぱり凄いのね、ユウダチ」
「うーん……凄いのは兄さまや、頑張ってくれたヨウハクだと思うですけど」
「そういえば兄さま、っていえばムラサメシデン君もロボトルが強いみたいよね。……あ、そのヨウハク……って言うクワガタメダロットは今は居ないの?」
「ヨウハクは今、メダロット博士とナエお姉さんの所でオーバーホール中なのです」
「そっかぁ。伝説のメダロッターとそのメダロットの片割れ、見てみたかったけどなぁ~」
「? 私たちのロボトルが見たいのです?」
「そりゃまぁ、できることならね。ねぇイッキ?」
「それはもちろん!」
「はふぅ、そうですか……うーむ」
アリカの問いに、イッキは全力で同意する。コウジをして強いと言わしめるユウダチだ。そのロボトルを見られるのであれば、是非とも願うところである。
木々の間を抜けると、川を渡るためのつり橋が見えてきた。
すると、悩んでいたユウダチが顔を上げ、その先を指差した。
「ちょうど良いです。あれを見てください」
イッキたちが、さした先へと視線を向けると。
「……なんだ、あれ?」
「まぁ。山伏さんたちですわね」
「何であんなに並んでいるのよ」
カリンの言葉にあるように、山伏たちがずらりと並んでいたのだ。
ユウダチはそちらの方向へ向けて、笑顔のまま歩いてゆく。
「ちょうど、シノビックパークの開演前イベントが開催中なんです。どうです、イッキ。わたしとカリンと一緒に、ロボトルをしませんです?」
◇◇
などという運びで始まった、山伏たちとのロボトル連戦なのだが……ユウダチとカリンの参加もあり、かなり一方的な試合となっていた。
「お願いします、
「わかったよカリンちゃん。そーれ!」
「趣くままに、エトピリカっ!」
「おうよ。狙い打つ、と言いたいとこだがこいつら相手なら撃つだけで十分だっ!」
「で、イッキ。オレはあのリーダー機を殴りにいけば良いのか?」
「せめてミサイルとか撃つくらいにしとけよ、メタビー」
カリンちゃんのナース型メダロット、セントナースが全体を防御。
ユウダチのコウモリ型メダロット、ゴーフバレットが山伏たちの飛行型メダロット……というか同型機のゴーフバレットすら次々と対空射撃の餌食としてゆく。
攻撃は全てエトピリカ狙い。そしてエトピリカが反撃で次々と撃墜もしてくれる。おかげでリーダー機扱いされているはずのメタビーは、殆ど出番がない有様だった。
アリカはというとその様子を次々と写真に収めており……後ろでじっくりと見ることができたためか。ユウダチのメダロット・エトピリカの後ろにいたメタビーが感心した風に腕を組む。
「でも、あのエトピリカとか言うやつ、熟練度が半端ないな。いくら対空射撃だとはいえ、全部を全部頭に直撃させるなんて芸当は難しいぞ?」
「そうだなぁ。しかも相手の対空射撃はクイックシルバの防御範囲にうまく滑り込みながらいなしてる。チームでのロボトルにも慣れてる感じがするよ」
流石はコウジが言うだけのことはあるなぁ。でもメタビーお前さぼるなよ。と、イッキがぼやいている間にも、エトピリカが相手の機体を撃墜。
結局最後の山伏も、あっさりと勝利してロボトルを終えることができてしまった。
「やりましたわね、イッキ君」
「うん。でも、ほとんどカリンちゃんとユウダチのおかげだと思うけどね」
「いえ。メタビーちゃんがクイックシルバを狙ってくれる相手を引き受けてくれたので、遠慮なく守ることができました。ありがとうございます」
「お、わかってるなーカリン。こういう渋い仕事ができるのもオレならではだからな!」
「だけどメタビーお前、近づいてきた敵をぶん投げるって、メダロットの戦いじゃあないだろ……」
「むむ。ユウダチってば、やっぱり只者じゃあないわね……」
面々がロボトルの結果について話をしている間、何かを山伏と話していたユウダチガ戻ってくる。
「それではイッキ君。はい、これを進呈するです」
「……これは、メダル!?」
「クマメダルと、それに男型ティンペットが参加者全員のメダロッチに配信されるそうです。イベント参加と勝ち抜き制覇の賞品ですよ!」
イッキの掌に、デフォルメされた熊の描かれたメダルが置かれる。
が、あわてて首を振りながらつき返す。
「もらえないよ!?」
「? なんでです?」
「だって、今回活躍したのはぼくじゃないし……」
「んーむ、活躍の度合いで決めるのも変だと思いますが……カリンは欲しいです?」
ユウダチがカリンに話題を振ると、カリンはすぐさま首を振る。
「わたしは余りメダロットの数を持っていませんし、それにパーツの数も少ないです。ユウダチちゃんは?」
「私もおんなじですね。……アリカ?」
「んー、貰えるなら貰うけど、でもあたしは今回のロボトルには参加してないもの。こうなったらイッキが貰うのが筋じゃない?」
堂々と巡って、やはりメダルはイッキの元へと戻ってきた。
イッキは首を傾げて、
「うーん……良いのかな」
「いいじゃねえかイッキ。貰っておこうぜ。後で役に立つかもしれないだろ?」
「……じゃあ、貰っておくよ。ありがとう、皆」
僅かに気後れはあるものの、メタビーの言う通りだ。それに、余りたらいまわしにされてはこのメダルが可愛そうな気もする。
イッキがメダルを受け取り、メダロッチに格納したところで、カメラを首に提げたアリカが近くに寄ってきた。
「それじゃあユウダチのロボトルの場面も撮り終わったし、幽霊探しに行く?」
「アリカ、良いの?」
「まあね。記事になりそうな部分は大分取れたし……それに、コウジ君をほったらかしにしておくとどう暴走するかわからないじゃない?」
「あ、そうですそうです。……アリカが良いのなら、幽霊を探しに探索をするです。カリン、疲れてないです?」
「あの、実は、少しだけ……」
カリンが申し訳なさそうな表情を浮かべながらつぶやく。
とはいっても、ロボトルの連戦だったのだ。病弱だというカリンにしてみれば、体力の消耗は激しかったに違いない。
「それじゃあです……イッキ」
「? なにかな、ユウダチ」
「この川のそばで少々、カリンと一緒に休憩を取ってもらっていて良いです?」
「ぼっ、ぼくが!?」
ユウダチからの提案にイッキが声を上ずらせる。
隣のアリカが不満そうな顔をして。
「イッキが? カリンちゃんと? ……2人で?」
「すいませんです、アリカ。コウジの活動範囲を考えると、私はまず探しにいかなければなりません。次いでイッキ……と言いたい所ですが、アリカ。貴方は一つ所でじっとしていられます?」
「うーん、それくらい大丈夫だと思うけど」
「ではそれは、目の前をスクープが通過してもです?」
「……うっ」
指摘されたアリカは顔をしかめた。その状況、アリカなら追いかけそうだなぁ……とはイッキも思ってしまう。
つまり、イッキがカリンの休憩に付き合うという布陣は消去法なのである。
アリカが渋々頷くと、ユウダチとアリカが連れ添ってあたりの捜索を始め、後にはイッキとカリンだけが残された。
◆1
「……ふぅ」
「大丈夫? カリンちゃん」
木陰に入ったところで座れる場所を見つけ、イッキはカリンを座らせてその横に立っていた。
その顔色を見れば、やはり先ほどと比べてやや血色が悪いように見える。
そんな風に自分を気遣うイッキを見上げ、カリンは微笑んだ。
「大丈夫ですわ、イッキ君。コウジ君との勝負があるのに、つき合わせてしまって申し訳ありません」
「……あ、そういえば勝負してたんだった」
「まぁ……ふふふ。忘れてらしたんですか?」
「そうみたいだね。ユウダチと一緒にロボトルするのに集中していたからかなぁ」
鮮やかな橙の髪で結われたツインテールが、風が吹くたび、カリンが笑うそのたびに揺れる。
「ユウダチとコウジっていつも一緒なの?」
「はい。お二人とも、小学校にあがってからの親友です」
とは言いつつも、カリンの表情は芳しくないものだ。
イッキがいぶかしんでいると、カリンもその表情に気づいたのだろう。やや取り繕って。
「……その、わたしは身体が弱くって。お父様は家に居ろ、家に居ろって仰るんですけど……そんな時、コウジ君とユウダチちゃんはいつもわたしを連れ出してくれました」
「そうなんだ」
「はい。それはとても嬉しいのですが……ご迷惑ばかりをかけてしまっていると思うんです。コウジ君は見ての通り活発な性分ですし、ユウダチちゃんだって、本当はもっとしたいことがあるはずなんです」
カリンは思いつめたような感じで話す。
……確かにそうかも知れないとも思う。が、イッキとしては。
「……そうでもないんじゃないかな?」
「え?」
頭の後ろで結った自分のちょんまげを弄りながら、遠く……ユウダチたちの歩いていった方向を見ながら口に出す。
カリンの、驚いているであろう声だけを聞きながら。
「コウジもユウダチも、多分カリンちゃんのことは大切な友達だよ。友達だから、放って置いたらそれはそれで気になって仕方がないんじゃないかな?」
「ですが……」
「それにカリンちゃんと一緒に居るときのユウダチのあの顔、見た? 楽しくって仕方がないって顔をしてたよ」
「……」
「だからカリンちゃんが心配する必要はない……と、ぼくは思うよ。もうちょっと体力をつけたほうが良いって言うのは、そうだろうけどね。……ごめん、偉そうだったかな?」
生意気だったかな……と、ここでイッキはカリンの様子を伺う。
暫く何かを悩むそぶりをみせてから、カリンが立ち上がる。
「……いえ。ありがとうございます、イッキ君」
「大丈夫?」
「はい。……あの」
「うん」
視線を合わせる。
ややあった間の後。
「わたし、自分に甘えるのはやめてみようと思います。もちろん、無理をしない程度にですけれど」
「そうだね。ぼくもそれが良いと思う」
そうして顔を上げたカリンの顔はイッキにとって、さっきのものよりも、少しだけ輝いて見えていた。
・クイックシルバ
カリンのメダロット、セントナースの愛称。
漫画版のカリンのつけた名前より。
意味は「水銀」。物騒な。
202200527 書き方変更のため、記号削除。