展望台にいる勇らを上空から見下ろすナイトーーれい。そんな彼女の耳に通信機越しに上役であるカラス――SA508の声が響く。
『わかっていますねれい。これが最後のチャンスです。今度こそイレギュラーを排除なさい、でなければ――』
『…了解。必ずや期待に応えてみせます』
脅すかのように含みを持って言い回しをするSA508に、内心辟易しながらそれを悟らせないよう努めるれい。
ハーミットを呼ばれている精霊を巡る戦闘で、何一つ成果を出せず増派された戦力を摩耗させてしまいいよいよ後がなくなった――とアレは考えているようだが。元々自分達に与えられた使命は先遣隊としてこの世界に関する情報収集であり、イレギュラーの排除や精霊の捕獲は手柄を焦る余りのSA508の独断専行に過ぎなかった。
為すべきことは果たしている以上、このまま大人しく待機していれば主であるウェンドロも罰を与えることなどしないが。本隊の到着が目前となり、これまで失態を挽回しようという考えなようだが。ただ、自分の首を絞めていることには思い至らないらしい。
「(…とはいえ、私に拒否権などありはしないが…)」
どれだけ嫌いな相手であろうとも、相手が上位の立場であるからには、与えられた命令に絶対服従である以上。どのようなものであれ、ただ従う以外の選択肢は彼女には存在しえないからには、最善を尽くすのみだと己に言い聞かせ。ソルジャーに攻撃を開始させると、自らは勇目掛け機体を加速させると突撃していくのであった。
「インスペクターッ!?こんな時にッ!!」
押し寄せてくるソルジャーに思わず舌打ちしながらも、B型から放たれる砲撃を回避し。間隙を縫うようにビームサーベルで斬りかかってくるA型を手にしている腕を右手で払い、ステークを起動させた左正拳突きで頭部を破壊する。
「崇宮ッ。基地に救援要請だ!!」
『もうやってやがります!!ああ、もう鬱陶しい!!』
ここまで事態が悪化してしまった以上、国際問題やら四の五の言っていられん!とはいえ、今からで間に合うかどうか…。
『くっ!?』
『美紀恵!』
『だ、大丈夫ですアシュリー。それより皆さん私の後ろに!!』
アシュクロフトを失って無防備同然の折紙とSSSの3人を、テリトリーで庇う美紀恵。そんな彼女を狙うソルジャーをヴォルフ・ストラージが排除していた。
『ヴォルフさん!』
『敵はこいつらだけではないのを忘れるな。来るぞ!』
耳をつんざくような咆哮を上げながら、ミネルヴァ・リデルが変異した怪物――アシュクロフト・モンスターが巨大な右手を払うようにして振るってきた!!
「うおォォ!?」
一様に飛び込むようにして範囲外に逃れると、逃げ遅れたソルジャーがガラス細工のように粉砕されていく。
「当たり前だが、見境なしか!」
あのデカブツ、どう見ても理性があるようには見えんとはいえ、インスペクターは俺達しか攻撃してこないので、ただ敵が増えただけにしかならん!
「くッ!?」
ナイトがブレードで斬りかかってきたので、サーベルで受け止めるが、パワー負けして徐々に押し込まれる!!
「リッパー!!」
T-LINKリッパーを射出し、がら空きの背後を狙う。
それに対し、ナイトは俺に蹴りを入れ距離を取ると、迫るリッパーを難なくブレードで弾いていく。そして、ブレードを弓状に変形させると、ビームを俺へと撃ちこんでくる。
「ッ――!」
回避しながら、避けられないのをサーベルで斬り払うが、一発が脇腹を掠め装甲ごと肉体を焼かれるが。歯を噛みしめて激痛を堪えマシンガンで反撃する――が、既に踏み込んでいたナイトが目前にまで迫っており、急いでバックステップで離れるも、下段から振り上げられたブレードが胴体を捉え、装甲を貫通した刃が肌を斬り裂き血を噴き出す――
『ハァッ!』
「ぐっ――!?」
続けて放たれた、上段からの斬撃をサーベルで受け止めようとするが、態勢が崩れた状態のため押し切られてしまい、サーベルごと弾き飛ばれる!
『終わりだな』
すぐに起き上がろうとするも、それよりも先に腹部を踏まれて抑えられ、眼前にブレードを突きつけられる。
見下ろしてくるナイトのバイザーの中の目は、殺意を感じるのと同時に、いやそれ以上に――
「泣いて、いるのか君は?」
『――!!』
思わず呟いた言葉に、ナイトの目が揺らぎを見せると、すぐに怒りを宿したものへと変わった。
『見るな、そんな目で私を見るなッッッ』
ナイトは感情のままにブレードを突き立てようとするが、レーダが高速で接近してくる反応を捉えると同時に、何かに気づいた様子で跳び退くと。光弾がナイトのいた空間を貫いたのだった。
『勇君!!』
「アミタ!?」
バリアジャケットを纏ったアミタが目の前に降り立つと、銃形態のヴァリアント・ザッパーをナイトへ向け牽制する。
『大丈夫ですか!?』
「ああ、問題ない助かった。でも、もう来てくれたのか」
『いつでも出られるようにって、あなた達が出撃している間はCNFの皆で集まっていたんです。それで、先程紫条指令がイギリスや関係国から了承を得られたからと、出撃を許可して下さったんです』
「ということは…」
『でやァァァァ!!』
俺の疑問に答えるように。白式を装備した一夏が、裂帛の気合を乗せて雪片弐型でソルジャーを両断して撃破してみせた。
「一夏!」
『助けに来たぜ、勇兄――っておわっ!?』
こっちへサムズアップしていた一夏を、A型がサーベルを振りかざして襲うも、中国の第3世代型IS『
『馬鹿一夏!何余所見してんのよ!!』
『お、おうすまん…』
『ふふん、やっぱりあんたはあたしがいないと駄目ね!』
格好つけそこない気まずそうに頭を掻く一夏に、誇らしげに胸を張る鈴。そんな2人の間を縫うように通過したレーザーが砲撃しようとしていたB型を貫く。
『お二人とも、このセシリア・オルコットをお忘れなく!!』
『ちょっと!今の当たりそうだったわよ!?』
『ご心配なく、そのようなミスなど犯しませんから。現に当たっていないでしょう?』
『そういう問題かァ!!』
『ちょ、喧嘩するなよ2人共!』
わーぎゃー言い争いながらも、互いをフォローし合い敵を撃破する3人。オルコットも鈴も代表候補生であり、何だかんだで一夏を中心に纏まっている証拠であろうか。
『無事か崇宮?』
『ええ。流石にしんどかったんで正直助かりましたよ』
一方では、風鳴が崇宮と背中を預け合っており。剣術を扱う者として互いの呼吸が掴みやすいこともあり、見事な連携を見せていた。
飛来してくるビームを触れるかどうかの寸前で回避しながら、ヴォルフはビームライフルを撃ち込んでくるA型に肉迫し、手刀を突き出して胴体を貫き沈黙させると、隣にいた別のA型の首筋に回し蹴りを叩きこみへし折って撃破する。そして、距離の離れたB型に腕部のガトリングを放とうとする――
『――!』
が、銃身が回転するのみで弾丸が撃ち出されることはなく、弾切れを告げるアラームが鳴らされる。
その間隙を逃すことなく、周囲にいるソルジャーらが囲みながら銃口を向けてくる。
「(1人で動いたツケが回ってきたか…)」
フォローしてくれる者がいない状況で、置いてきた仲間の姿が脳裏によぎるも。己の我儘を貫いた故の自業自得であると鼓舞しつつ、最後まで抗うべく身構える。
向けられた火器が一斉に火を吹こうとした瞬間。飛来したレーザーが次々とソルジャーを撃ち抜いていき、別の個体らは何かに固定されたように金属が軋む音と共に動きを止めた。
そんな中、無事であった1体がトリガーを引こうとし――
「どっっっせいィ!!」
『んぐぁ――』
背後から乱入してきたバリアジャケットを纏ったキリエが、やたらと勢いよくヴォルフの頭部を踏み台にして跳躍し、片手剣形態の右手のザッパーを胸部に突き刺すと、左手のザッパーで首を斬り落とすのだった。
「よぉ、面白いことしてんじゃねぇか。えぇ隊長さんよぉ」
『…オータム何故来た。エムとキリエも待機していろと言った筈だ』
「こんな盛大な祭り、参加しないなんてつまらないことするかよ、なぁ?」
そういってアラクネを装備したオータムが、ソルジャーらを拘束していたワイヤーを指で軽く弾くと、次々と解体されていく。
「私達の居場所は常にヴォルフ――お前の側だ。お前が必要とするなら、火の中だろうが水の中だろうが地獄の果てであろうが、私達はお前の元に駆けつけるだけだ」
「わ、私は何も言わずに、1人で格好つけようとしてる奴の言うことなんて聞く気がないだけだから!」
サイレント・ゼフィルスを装備したエムが胸を張って堂々と言い放った言葉に、キリエが顔を赤くしながら、反論する。――まあ、かなり苦しいものではあるが。
『というか、おいキリエ、さっきのは俺を踏む必要はなかっただろ』
「ふんっ!1人で突っ走って危ない目に遭う方が悪いのよ!」
首が折れかけたぞ、と抗議するヴォルフに、不機嫌そうにプイッと顔を背けるキリエ。他の2人に視線で同意を求めるも、同じように無視されるのだった。
「おい、じゃれ合うのもそれくらいにしろ。あのデカブツをどうにかすんだろ」
そんな彼らを他所に、ソルジャーを薙ぎ払っていたネフシュタンの鎧を纏ったクリスが、働けと言いたげにツッコミを入れる。
『客人、お前も来ていたのか』
「キリエが行くって言うから――じゃなくて、お前にいなくなられるとこっちも困るんだよッ。ともかく言っておくが、あたしの独断だからソロモンの杖は持ってきてねぇ。だからノイズは使えないからな」
『問題ない。お前達がいればそれで十分だ』
馬鹿者共め、と溜息をつくが。ここまできて戻れと言って聞き入れるような者を、自分の部隊に入れた覚えはないと腹を括ったヴォルフは、無差別に暴れ回るアシュクロフ・モンスターを見据えると、『シャドウズ隊長』として行動に移る。
『いいだろう。ならばシャドウ1より総員、全力で俺を援護しろ!』
無意識に笑みを浮かべながら先陣を切り飛び出すヴォルフに、他の者達はそれぞれ応じながらその背中を押すように続くのであった。