ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第九十四話

『ハハァ!』

「チィッ!」

 

肉迫してくる紅のPTに、マシンガンで迎撃するも、獣じみたトリッキーな機動で弾幕をすり抜けててきやがる!

繰り出される大剣による斬撃を、バックステップで避けると左手に持ったビームサーベルで斬りかかると。それを読んでいたのか、空振ると同時に逆手に持った大剣を盾のようにして受け止められる。だが!

 

『もらいでやがります!』

『しま…!?』

 

抑え込んだ敵の背後から、崇宮がレーザーブレードで斬りかかる。大剣は俺が抑えていて使えず、回避も間に合うまい!

 

『な~んてなァ!』

 

敵は右足を振り上げると、爪先から発生したビームサーベルで崇宮の攻撃を防ぎやがった!

 

『仕込み!?』

 

意表を突かれ、動きが鈍った崇宮。その隙に切っ先をそらされ、無防備となった腹部に敵の蹴りが叩きこまれ押し出される。そして、出力差に任せて大剣を振るい俺も押し出されてしまう。

くそッ!さっきからこちらの攻撃は全ていなされてしまう!

 

『どうしたどうしたぁ!そんなもんかよぉ!』

 

振るわれた拳を両腕を交差させて受け止める。逆にこちらも大したダメージは受けていないものの、明らかに遊ばれており相手からは明らかに余裕が見て取れた。

 

『――んだよ、もう時間切れかよ。まっ、コイツのテストには十分か遊べたからいいか』

 

何やら通信でやり取りをしたらしい紅のPTは、戦闘態勢を解くと大剣をライフルへ変形させると、俺達の足元へとビームを数発撃ち込み、爆炎と巻き上げられた砂塵で身を隠していく。

 

『じゃあな、『黒の剣士』の兄貴分さんよぉ。次はもう少し楽しませてくれよ!』

 

その言葉を最後に、レーダーから敵の反応が遠のいていくのであった。

 

『…あんにゃろう。真那達をおちょくるだけして帰りやがって。何なんでやがるってんですかっ』

「ミネルヴァ・リデルの仲間、にしては違和感があるが…」

 

何より。去り際に奴は俺のことを黒の剣士の兄貴分と言っていた。その名はキリトがSAOの世界で、呼ばれていた二つ名と一緒だった。

俺のことを兄貴分と言っていたことから、キリトのことを見知っている様だったが。あのPTに乗っている奴もSAO事件の生還者――サバイバーなのか?いや、それは後でも考えられることだ。今はミネルヴァ・リデルを止めるのが先決だ。

 

『どうしやがりました隊長?』

「何でもない。それよりも折紙達を追おう。どうにも嫌な感じが――!?」

 

俺の言葉を遮るように。折紙達の向かった方角から耳をつんざくかのような轟音が響いてきた!?

何事か!?と視線を向けると、信じがたい光景に唖然とした顔で崇宮があっ、と言葉を詰まらせたような声を漏らす。

 

『何でやがりますか、あれ…』

 

指定されていた展望台がある場所に。ビルに匹敵しかねない巨大な獣のような『何か』が突如出現する。予想外過ぎる事態に、2人して唖然としていると。その『何か』が吼えるような動作ををすると、先程と同じような轟音が響いたかと思うと。展望台一帯が思わず眼を覆いたく程の激しい閃光に包まれると、全身を叩きつけるような衝撃波が襲い掛かって来た

吹き飛ばされそうになるのをどうにか耐えると、すぐに崇宮に声をかける。

 

「ぐっ――大丈夫か崇宮!?」

『ええ、にしても何が起きてやがるんです!精霊でも出やがったですか!?』

 

確かに空間震が起きた時の現象に似ているが、そういった反応は出ていないから精霊関係ではないのだろう。それよりももっと危険なものだと、脳内で警鐘が鳴っているし、初めて感じる誰かの悲痛な感情に胸が締め付けられるようだ。

 

「行こう。あれは、この世に存在していいものじゃない…!」

 

ええ、と同意してくれた崇宮と共に。最大速で展望台へ足を踏み入れると。その面影を見せる物は更地となって全て消え去ってしまっていた。

そして、こんな惨事を生み出したであろう元凶が更地の中心に佇んでいた――

 

『――ッ。な、何なんですかこの化け物は…』

 

俺の知るどの生物にも合致しないが、機械仕掛けの獣としか形容ようがない異形の存在に。崇宮が動揺を隠せず喉を震わせる。

 

『――あれはミネルヴァ・リデルだ』

 

不意に聞こえてきた声に振り返ると。舞い上がる砂塵の中から複数の人影が姿を現す。

 

「!折紙、伍長!!」

 

その中から見知った顔を見つけ駆け寄る。

 

「大丈夫か2人とも!?」

『私は問題ない。美紀恵は?』

『私も折紙さんのおかげで何とか…』

 

2人とも傷だらけだが、幸い致命傷は負っていないようで、思わず安堵の息が漏れる。

 

『!セシルさん達は!?』

『…こちらも無事よ、岡峰さん』

 

少し離れた場所に、SSSの3人がおり。そちらも2人と同じように負傷しているが無事なようだ。

そして、そんな彼女らを庇うようにして先頭に立ち、化け物と対峙しているヴォルフ・ストラージに声を荒げながら問いかける。

 

「一体何が起きたヴォルフ・ストラージ!?あれがミネルヴァ・リデルだって言うのか!?」

『説明してやりたいが、そんな暇はくれんようだ。くるぞ!』

 

俺達が現れたことで、様子を見るように沈黙していた怪物が。鼓膜を引き裂かんばかりの咆哮を上げながら、各部に棘を生やすように生成された無数のミサイルが俺達目がけ放たれた!

俺と崇宮がマシンガンとレーザーライフルで迎撃するも、数の多さに対処しきれん!!

 

「うぉ!?」

 

間近に次々と着弾したミサイルの爆風に煽られ、衝撃に思わず顔を顰めてしまう。

 

『ベルッ、ベルッ、アルテミシアさん!!』

『岡峰さん、アルテミシアは!?』

『駄目です、声が…聞こえなくて…っ!』

 

テリトリーで、セシル・オブライエンらSSSの3人と折紙をテリトリーで庇いながら。伍長が困惑した様子で話していた。

 

『…あの化け物に取り込まれたか。やってくれる須郷伸之――』

 

彼女らの側で両腕部のガトリングで、ミサイルを撃ち落としているヴォルフ・ストラージが、殺気を隠せない様子で舌打ちをする。

 

「伍長っ。ベルってチェシャー・キャットに搭載されていたサポートAIのことか!?」

『は、はいっ。そのベルがアルテミシアさんで。でも、私の以外のアシュクロフトとミネルヴァ・リデルがあんな風になってから、いなくなってしまって…!』

 

平常心を保てていないせいで要領を得ないが。アシュクロフトの開発経緯から考えておおよそのことは推察できる。

 

「!」

 

不意に、レーダーが空間転移を捉えたことを告げるアラートが鳴り響き。反応を追うように上空に視線を向けると、以前に遭遇したナイトと呼称された生体反応を持つインスペクターの機体が佇んでおり。

そして、辺り一帯の空が渦巻くように歪み始めており、それが進んでいくと怪しげな光を放ち始め。その光の中からソルジャーの集団がナイトの背後に控えるようにして現れるのであった。


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