ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第八十九話

 

ヴォルフとセシルらSSS組が手を取り合った翌日。ブルーアイランド市街地区にある展望台にて。彼らは、アシュクロフトを通じてミネルヴァからの呼び出しを受け対峙していた。

 

「よく来たな、待ちわびていたよ」

「……」

 

悠然とした佇まいを見せるミネルヴァを、不可解な目で見るヴォルフ達。先の戦闘で切断された右腕だけでなく、恐怖で怯え切っていたメンタルすら回復しており。一日も経たずに不遜で傲慢な態度に戻っているのは異常としか言えなかった。

 

「さて、時間だが。CNFのアシュクロフト持ちにも、メッセージを送ったのだがなセシル」

「別に彼女らと手を組んだ訳ではないわ。それに、来る理由がないもの」

「そうか。まあ、いい。いささか役者が足りないが、始めるか」

 

戦闘態勢に入ろうとしたミネルヴァを、待って、とセシルが止める。

 

「その前に一つ聞かせて。何故あなたは五つ全てのアシュクロフトを集めようとするの?私達の分を回収しようとするのはわかるわ。でも、軍の分まで回収しようとする理由がわからない。わざわざ正規の手続きをしてまで配備した物を。そもそも強奪なんてしなくても、命令すればいいだけなのに。これもDEM専務取締役(エグゼクティブ・ディレクター)エドガー・F・キャロルの指示なの?」

「フッ」

 

その言葉にミネルヴァは、何を言うのかと、いわんばかりに笑い出す。

 

「ハハハハハッ。あんな男など関係ないさ、あんなくだらない男のことなどな!!…だが、奴のおかげで本当に助かったよ、私のために良く働いてくれた」

「…!どういうこと?」

「元々奴の言うことなど聞く気がないというだけだ」

「どういうことだよヴォルフ?」

 

くだらんと吐き捨てるように言うヴォルフに、アシュリーが問いかけるも。もう待てないといった様子でミネルヴァが動く。

ジャバウォックの背部にある、動物の尾を模したブレードを鞭のように操りレオノーラを突き刺そうとする。

反応できていないレオノーラだが、届く直前にヴォルフが掴んで止め、引き寄せようとすることでミネルヴァの動きを制限する。

 

「んなろっ!」

 

アシュリーがランスを構えて突進し刺突を放つも、難なく矛先を掴まれ止められてしまう。

 

「アシュクロフト最速であるユニコーンも、お前が使えばこの程度かアシュリー…」

「ぐぁッ!?」

 

力任せに地面に叩きつけられたアシュリーを、奪い取ったランスで追撃しようとしたミネルヴァに、割って入ったセシルが蹴りを放つも、その前に両肩部のジャミング発生装置でもあるクローで挟み込まれそうになる。

 

「ッ!」

 

セシルを自分の方へ抱き寄せたヴォルフが、蹴りでクローを弾くと、後ろに跳んで一度距離を取るミネルヴァ。

 

「ふっ。大変だなわざわざお荷物を抱えるとは、貴様1人の方がまだ勝機もあっただろうに漆黒の狩人」

「ッ…!」

 

事実を指摘され腕の中で歯噛みするセシルを、励ますように肩に手を置くヴォルフ。

 

「主役はこいつらだ、俺はただの脇役に過ぎん。奴の減らず口から潰すぞ」

「ええ!」

 

ヴォルフが左腕のガトリングで牽制し、その間に接近したセシルが放った蹴りをテリトリーで受け止めるミネルヴァ。即座に反撃しようとすると、両者が道を開けるように後退し、開けた視界の先にいるレオノーラが砲撃を浴びせた。

 

「チッ」

 

鬱陶し気に回避するミネルヴァに、先回りをしたアシュリーが振るったレーザーブレードを片方のクローで受け止める。

 

「フッ!」

 

更に反対側から振るわれた、ヴォルフの銃剣を展開したバスター・ランチャーによる斬撃を、もう片方のクローで防ぐ。

 

「ミネルヴァ!!」

 

それにより、一瞬動きが止まったミネルヴァに、セシルのハイキックが頬に叩きこまれた。

テリトリーで緩和されこそしたが、衝撃で口内を切ったようで口角から血が流れ出る。

 

「ええぃ。鬱陶しい!!」

 

自身の周囲に展開したテリトリーを反発させてセシルらを弾くと、口元の血を手で拭うミネルヴァ。

 

「よし、いけるぞ!」

「う、うん!」

 

勝機が見えたことに、勢いづくアシュリーやレオノーラをよそに。ミネルヴァは手に付いた己の血を苦々しく見つめると憎悪の籠った目を向ける。

 

「――また、私に血を流させたな…。私を傷つけていいのは、アルテミシアだけなのにィィィィィィ!!!」

 

激情のままに背部のブレードを振り乱し、牽制しながらジャミングを展開しようとするミネルヴァ。

 

「くそッ、ヤベェ!!」

 

一同が止めようとするよりも先に、ジャミングが展開されようとし――乱入してきた美紀恵がキティファングでクローを切断して阻止したのだった。

 

「貴様ッ…!」

 

美紀恵に襲い掛かろうとするミネルヴァを、折紙がテリトリーで囲み封じ込める。

 

「美紀恵!!鳶一折紙!!」

「すみませんアシュリー。遅くなりました!」

「最優先事項として、ミネルヴァ・リデルの身柄の確保と、ジャバウォックの回収を行う」

 

ミネルヴァを挟み込むようにして、折紙と美紀恵が並び立つ。

そんな彼女らを見て、ヴォルフが眉を顰める。共にいるべき者の姿が見当たらないからである。

 

「…岡峰美紀恵。宿敵はどうした?」

「宿敵?あ、天道隊長のことですか?それが…」

 

 

 

 

時は少し遡り。同じくミネルヴァからの呼び出しを受けた勇らも、指定された展望台を目指し移動していた。

 

「にしても。伍長から聞いた話だと、漆黒の狩人に手酷くやられたばかりなのに自分から喧嘩売りやがるとは妙でやがりますね」

 

ミネルヴァの行動に、真那が気味悪いといった様子で不可解さを漏らす。

 

『何か手があるのか、ただ自棄(やけ )になったのか…。いずれにせよ警戒して――散れッ!』

 

勇の号令に合わせ一同が散ると、上空から飛来したビームが彼らがいた地面を抉っていった。

 

『ミネルヴァ・リデル、ではない?新手か!』

 

空を見上げると。まるで血を塗り付けたかのような紅色のPTらしき機体が、こちらに大型のライフルらしき物を向けていた。

 

『チョイサァ!!』

 

未確認機が、大型のライフルらしき物を変形させると大剣となり。ブースターを吹かし勇目掛け突撃してくる。

一瞬で間合いを詰められ、大剣を振り下ろされるも、勇は後ろに跳んで回避することができる――が、敵の姿を間近に見て驚愕してしまう。

 

「――ッ。ヒュッケバイン、だと!?」

 

異様に長く巨大な手足に反比例して細い胴体。そして、四ツ目を思わせるバイザーという悪魔か魔物のような、改造された一号機以上に異様な外観だが、V字アンテナとPTX-08(ヒュッケバイン)に類似する形状をしていたのだった。

 

『オラァ!』

『くッ!?』

 

追撃で横薙ぎに振るわれた大剣を屈んで避けると、左手にビームサーベルを手にしカウンターで突き出そうとするも、それよりも先に放たれた膝蹴りが腹部撃ち込まれ、態勢を崩してしまう。

 

「(機体だけじゃない!?乗り手の反応も速いっ!)」

 

追い打ちをかけようとする未確認機に、勇は体当たりすることで密着し抑え込んで防ぐ。

 

『いいねぇ!そうこなくっちゃあなァ!』

 

未確認機に乗っている者――ヴァサゴ・カザルスが愉快そうに嘲り笑いながら、勇を押し退けると蹴り飛ばす。

 

「隊長!」

「来るな!!」

 

援護しようとする美紀恵らを制止しながら、サーベルで大剣と斬り結ぶ勇。

 

『こいつは俺は相手をする。お前達はミネルヴァ・リデルのもとへ向かえ!」

「ですが…!」

『目的を忘れるな!!俺達が為すべきは奴を止めることだ!!』

 

左腕のシールドに防がれるも、蹴りを打ち込みながら先に行くよう促す勇。

 

「美紀恵。勇の言う通り、ここで時間を失うべきでない。先を急ぐべき」

「…わかりました。お先に行きます!お気をつけて!」

 

折紙に説得され、意を決した美紀恵は共に展望台へと駆け出した。

それをヴァサゴは止める素振りも見せず、勇に攻撃を続ける。

 

「(初めから狙ってきたことといい。こいつの狙いはアシュクロフトでなく、俺だけってことかよ!)」

 

上等だ!という気迫を込めて、マシンガンを連射する勇。

ヴァサゴは大剣を盾にして防ぎながら、距離を詰めてくる。

 

『ハァッ!』

 

獣が跳びかかるかのように跳躍すると、ヴァサゴの姿が視界から掻き消える。

 

『!』

 

上半身を大きく捩じりながらバレルロールで、勇の背後に回り込んでくると。ヴァサゴは圧縮されたスプリングが解き放たれたように、上半身のバネを加えながら回転斬りを放ってくる。

反応の遅れた勇に刃が触れる寸前に、割って入って来た真那が、レーザーブレードで大剣を弾いたのだった。

 

『崇宮!?何してんだ、お前も先に行け!!』

「今のあんた1人で、どうこうできる相手じゃねーでしょうが!!」

 

反論しながら、レーザーブレードをライフルモードに変形させ、ヴァサゴへ発砲していく。

 

『サシで殺り合いたかったが。まあ、歯応えがなかったからいいか。纏めて遊んでやるよ、この『アルケー』でなァ!!』

 

玩具が増えて喜ぶ子供のように、無邪気に哂いながら、ヴァサゴは2人へと襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

『――ヴァサゴの奴を動かしたか。エドガーめ、なりふり構わなくなったか』

 

事情を聴いたヴォルフはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

また、アシュリーが威嚇するように美紀恵に吼える。

 

「ミネルヴァはともかく、ジャバウォックは渡さねーぞ!」

「それは後にしろ。まだ終わっていないぞ」

 

今に美紀恵らを攻撃しかけないアシュリーを、ヴォルフが止める。それと同時に、ミネルヴァを覆っているテリトリーから、ガンッ!ガンッ!と叩きつけるような音が響き始める。

 

「あいつ、まだ動けんのか…!?」

「問題ない。ジャバウォックのジャミングでも、この結界を破るのは不可能。このまま基地まで連行する」

 

折紙が操作しようとするのと同時に。内側から弾ける様にしてテリトリーが砕け散ってしまうのであった。

 

「そんな…!結界が破られた!?」

 

予想外の事態に驚愕している美紀恵を、背後からミネルヴァの蹴りが襲い掛かる。

それを折紙がテリトリーで受け止めるも、瞬く間に亀裂が入っていく。

 

「アリスの結界が防ぎきれていない!?

「美紀恵、退がって…ッ」

 

折紙の切羽詰まった声に従い、共に跳び退くと、テリトリーが砕かれ。阻むものの無くなった蹴りが美紀恵のいた地面に叩きこまれ粉砕される。

 

「ただの蹴りで、何て威力ッ!?」

 

大きく陥没した地面を見て、驚愕で目を見開く一同。

 

「ふふふ…。いかんな。アルテミシア以外に傷をつけられしまうと、すぐに頭に血が上ってしまう。だが、間を置いたおかげで落ち着くことができたよ。ありがとう」

「……」

 

冷静さを取り戻したミネルヴァに、折紙が警戒しながら再びテリトリーで拘束しようとすると。一瞬で肉迫したミネルヴァの蹴りが迫る。

テリトリーで受け止めるも、アリスによって強固に強化されている筈が、まるでガラスのように難なく砕かれ。砲弾のような勢いで吹き飛ばされてしまった。

 

「折紙さんっ!?」

『ッ!』

 

先の戦闘よりも明らかに強力になっているミネルヴァに。ヴォルフはヴォーダン・オージェを起動し、死角に回り込んで銃剣を展開したランチャーを横薙ぎに振るう。

それをミネルヴァは難なく屈んで避けると、ヴォルフは足の爪先の隠し刃を展開させ、蹴りによる追撃を加えるが、片脚で受け止められる。

 

「何だ、もう切り札を切るのか漆黒の狩人。ならば、私もとっておきを見せてやろう。『ゲイム・システム』起動ッ!」

『!』

 

ミネルヴァの口から放たれたワードに、ヴォルフがさせまいと蹴りの連撃を放つも。ことごとく避けられてしまう。

 

「ハハハッ!見えるッ貴様の全てが見えるぞッ、漆黒の狩人ォ!!」

 

回し蹴りを、跳び越えるように避け。ヴォルフの頭上に迫ると、逆立ちの状態で両肩を掴むミネルヴァ。そこから、何らかの理由で増大している機体の出力に任せ、風車のように勢いよく回転すると、その勢いでヴォルフを周囲に生えている木々へと投げ飛ばし叩きつけた。

 

「グッ!」

 

余りの勢いに受け身も取れず。その衝撃で、ヴォルフは少なくない量の吐血をしてしまうのであった。


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