「生きているって素晴らしいな」
MK-Ⅱを身に纏いながら、無機質な天井を眺め、生の実感を噛み締めている俺。
今いるのは基地地下に造られた仮想訓練所の格納庫である。何でもIS学園にも同じようなアリーナがあるそうな。
模擬戦闘することになってから、あれからあっという間に一週間が過ぎた。
その間、食う寝る風呂以外はひたすら慣熟訓練と繰り返した。
あの人ホント加減知らないだもんなぁ。何度死にかけたことやら。
「さて、後は結果を出すとしますか」
ここまでやって負けましたじゃ話にならんしな。
「頑張って下さいね勇君」
「ファイト兄ちゃん!」
「応援してるから」
「ああ、ありがとう」
応援に来てくれたアミタとユウキと詩乃から激励の言葉を貰う。父さんが特別に観戦させてくれたそうだ。
ちなみに父さんは、あくまで公平な立場にいないといけないそうなので、この場にはいない。
『あーあー二人共準備はいいかね?そろそろ始めるぞー』
スピーカーから父さんの声が聞こえてきた。んじゃ行きますか。
機体を備え付けられたカタパルトに固定し、出撃準備を整える。
「天道勇、ヒュッケバインMK-Ⅱ出る!」
機体が加速しながら押し出されていく、体にGがかかっていくが、訓練でもさんざんやってきたのでもう慣れた。
機体がフィールドに打ち出されたので、スラスターを吹かし、バランスを取りながら着地する。
対戦相手も同じように少し離れた位置に着地する。
少々際どい防護服である
16歳でありながら、精鋭部隊であるASTの実質的エースだそうだ。こりゃ簡単にはいきそうもないね。元から期待しちゃいないが。
「どうも、よろしく」
「……」
取り敢えず挨拶してみたら無視されてしまったでござる。
にっしてもこの子の目昔の俺によく似てるねぇ。母さんが殺された頃の、殺した奴らが憎くてしょうがないって感じの目してるねぇ。
まあ、今は関係ないけどさ。
『うっし。それじゃ、始めるぞ模擬戦闘!レディ・ゴォォォォォォォォォ!!!』
「訴えられるぞ!?」
中々に危険なことを言ったおっさんにツッコミながら、互いに持っていた銃を向け合う。
こちらはフォトン・ライフルと呼ばれるエネルギーライフル。相手は実弾のアサルトライフルである。
互いの銃口から撃ち出された弾丸を横に跳んで回避する。
そのまま同じことを繰り返しながら、円を描くように周り続ける。
「こいつはどうだい!チャクラム・シューターGO!」
左腕のハードポイントに装着された、有線式の小型チャクラムを発射する。
直線で迫るチャクラムを鳶一は軽く跳んで避けられるが、遠隔操作でブーメランの様な機動で背後から襲いかからせる。
「ッ!?」
咄嗟に反応した鳶一はレーザー・ブレイドを引き抜き切り払う。
「まだまだ!」
ワイヤーをムチの様にしならせながら、鳶一へと叩きつけていく。
それを避けたり、ブレイドで弾いているが、持っていたライフルをチャクラムへと投げつけてきた。
ライフルがワイヤーに絡まり、動きが止まってしまう。
その隙を突いて鳶一が前傾姿勢で突撃してきたので、チャクラムをパージし、ライフルで迎撃する。
だが、
「チィッ!」
低くしていた姿勢からブレイドを振り上げてきたので、ライフルを盾にして後退する。
ライフルは容易く両断され、そのまま追撃して来たので、こちらも両腰のウェポンラックからビームサーベルを両手で引き抜き、切り結ぶ。
「悪いが、
強引に弾くと、交互にサーベルを振るい攻め立てる。
「くっ!」
この連撃に耐えかねたのか、振るったサーベルを弾くと、後ろに跳んで距離を離してきた。
追撃しようかとも考えたか、念のため相手の出方を伺うとしよう。
サーベルを構えながら様子を見ていると、鳶一が意を決した様に前傾姿勢で再び突撃して来た。特攻か?
間近まで接近して来た時、鳶一が行動を起こした。
ブレイドの刃を消すと、柄を抱き込む様に身体を丸め、背中に背負っていたユニットをパージしてきたのだ。
そのままの勢いで鳶一自身は俺の脇をすり抜け、残ったユニットが弾丸の様に迫って来た。
「ふん!」
慌てることなく右手に持っているサーベルでユニットを両断するが、その隙を突いて背後に回った鳶一がブレイドを突き出してきた。
回避はまず無理、サーベルでの防御も間に合わないとなると、これしかないな!
迫る刃を左腕で防ぐと、刃がそのまま装甲を貫通し腕に突き刺さる。
肉が焼け激痛が脳を駆け巡るが、無視して次の行動を身体に命令する。
「!?」
俺の行動が予想外だったのだろう。完全に動きが止まった鳶一の首元目掛けて、右手のサーベルを横薙ぎに振るい、刃が触れる寸前で止めた。
『勝負あり!勝者は勇!んでもって、何の迷いもなく肉を切らせたそこのバカはさっさと医務室に連行だ!』
バカって、これが確実に勝てる方法だったんだもん。
『だもんじゃないわこのアホ!心配する身にもなれアホ!』
二回もアホって言わなくてもいいじゃん…。
結局本当に医務室へと連行されたのだった…。
無事に治療を終えた俺は父さんの執務室にいた。
いやー、リアライザって便利だよね。刺された傷もあっという間に治しちゃうんだから。
「傷はどうだ?」
「うん、この通りばっちしだよ」
完治してことをアピールするために、左腕を振り回してみる。うし、痛みは無いな。
「もっと、安全な勝ち方があっただろうに」
「あれが確実だったから」
ユニットだけを突っ込ませてきたのは、ちょっとだけ予想外だったし。
「まあ、過ぎたことをとやかく言っても仕方無いが、程々にしろよ?」
「善処します」
反省してねぇなこいつって言った感じに溜息を吐いている父さん。性分だからね仕方ないね!
「さて、お前はこれから4月まで本格的訓練に入る」
「既に死にかけているんですがそれは?」
「その後、ある任務に着いてもらう」
無視されたでござる。
「ある任務って?」
「説明の前に。俺だ彼を通してくれ」
机に備え付けられていた端末を操作し、何やら指示している模様。
少し待っていると扉が開いて誰か入ってきた。
「えと、失礼します」
「って一夏やんけん」
入ってきたのは弟分の一人の織斑一夏だった。なんで一夏がここに?
「一夏はIS学園に入るから、必然的にISを動かさなきゃならんからな。だから、お前と一緒に俺が鍛えてやろうってことになったのさ」
「なる程。で、俺の任務ってのは?」
一夏を鍛えることは、今後のことを考えれば必要ではあるな。俺の任務ってのと、どう絡んでくるかは分からんが。
「お前には平時は、IS学園含む教育施設の用務員として働きながら、一夏を警護してもらう」
「でも、IS学園なら安全なんじゃ?」
「あくまで他の所よりはって話しさ、狙ってくる奴は狙ってくるだろうさ。だから自分の身は自分で守れるのが一番だろうさ」
世界で唯一の男性IS適合者だ、是が非でも欲しいって奴や、消したいって思う奴はごまんといるだろうな。
「でも、警護なら側にいたほうがいいんじゃないの?顔見知りなんだし」
「それだと目立つだろう?ただでさえお前達ルックスいいんだから」
そんなもんかね?まあ、確かに授業中も張り付かれていたら嫌か。
「そんな訳で、お前たちは入学式までここで過ごして貰うことになる。ああ、ユウキや詩乃ちゃんとちーやんには確認取ってるから」
ちなみにちーやんとは、千冬の姉さんのことである。本人はその呼び方は止めて貰いたいそうだが…。
「分かりました。俺もできるだけのことをやります」
「ま、そんなに気張るなよ。何事も楽しむのが一番だよ?」
なっちまったもんはしょうがないから、その時を楽しもうってのが俺の考え方である。
「オケ。んじゃ後は彼女達に任せる」
「彼女達?」
「今回の件で心配したのは、俺だけじゃないってことさ」
何やら再び端末を操作しながら、意味深なことを言ってくる父さん。どゆこと?
間を置かずにドアが開き見知った顔が入って来た。
「アミタとユウキに詩乃じゃんって、どったの顔が物凄く怖いよ?」
入ってきたアミタ達の顔は、明らかに不機嫌ですと訴えていた。ナンデナンデスカー!
「勇君」
「は、はい!」
アミタの物凄い剣幕に押されて、姿勢を正してしまったでござる。
「ちょっと、そこに座ってください正座で」
「え?ここ床…」
「いいから!」
「イ、イエッサー!」
慌てて正座しました。怖いマジで怖い。
「今回の模擬戦の最後、もっと安全に勝てたんじゃないんですか?」
「いや、あれが確実でして…」
「ユウキや詩乃から昔のことを聞きましたが、あなたは自分のことをもっと大切にすべきです!」
確かに正論だから言い返せん!父さんは自業自得だって顔してるし、一夏は両手を合わせて合掌してるし!我に味方あらず!
「兄ちゃんさぁ、この前PTに乗って戦ったて聞いた時、どれだけ心配したと思う?」
「それで、今回これだよ?流石に我慢の限界があるよ私達?」
あ、アカン。ユウキも詩乃もめっちゃキレとるがな。な、何とか活路を開かねば!
「聞いてますか!!」
「ひゃ、ひゃい!ごめんなしゃぁぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
その後、ひたすらに土下座し続けるしかなかったのだった…。