「(私…役立てる人間だってお父様に認めてほしくて…軍に入ったのに…。あれだけ言われたのに一言も言い返せないなんて…)」
パーティ会場と同じ建物内にある女性用トイレの個室にて、美紀恵は伏せがちに息を吐く。
これまでのことで、強くなれたと思っていたが。長年刻まれた父への恐怖心までは克服するには至らず、己弱さを突きつけられてしまったのだった。
「軍を辞めたくありません!やっと私が自分で決めた道なんですっ。もっと、もっと気を強く持たなければ駄目です!)」
両頬を叩き気合を入れ直すと、個室から出る美紀恵。
「(とにかく今はこの任務を無事に成功させて、ASTは役立たずじゃないですし、私にもできることがあるんだって認めてもらうんです…!!)」
「チィ…お披露目はまだ始まらねーのかよ…。いつまでこの格好で媚売り続けりゃいいんだ…」
手洗い場に向かうと、先程の挙動不審の給仕の少女が愚痴を零しながら手を洗おうとしているも、目元が髪で覆われているせいで前が良く見えず手間取っていた。
「(あれはさっきのメイドの子…やはりどこかで見た気が…)」
近づくにつれ既視感を覚えていく美紀恵。その間にももたついている少女は苛立ちを強くしていた。
「ぐあー!!前髪のせいで見えねーんだよ!!」
「!!あああアシュリー!!あなたもここに!?」
前髪を捲り上げた少女の顔は紛れもないアシュリー・シンクレアであり、予想外の遭遇に美紀恵は思わず声を張り上げる。
「げっ!!てめーは美紀恵!!いつの間に!!」
「あなたがここにということは、他の2人も…!?狙いはアリスですね!?」
距離を取り戦闘態勢を取る両者。睨み合う中、美紀恵が口を開く。
「…あなた1人の時に会えて良かった。あなたに聞きたいことがあります!」
「聞く耳もたねーよ!てめーはここでおねんねしてな!!
間合いを詰め、首筋目がけて放たれたアシュリーの手刀を、美紀恵は両手で受け止める。
「!?て、てめぇ…!」
「聞きたいことを聞き終わるまで、離しませんよ!!」
これまでと違う迷いなき瞳で見据えてくる彼女の気迫に、思わず気圧されるアシュリー。
「あなた達がアシュクロフトを狙う理由はなんですか!?アルテミシアを取り戻すとはどういうことですか!?」
「…!そんなこと聞いてどうするつもりだ!?てめーにゃ関係ねーだろ!!」
「インスペクターにアルティメギル…。異世界からの侵略者が現れた今、私達力を持つ者同士が争うなんて間違ってます!!あなた達も大切な人のために戦える人なら、私達は手を取り合える筈です!!」
「ああ!?甘いこと言ってんじゃねぇ!もう戦争は始まってんだ!!
アシュリーは手を払うと回し蹴りを放ち、それを美紀恵は後ろに下がって避ける。
「今更てめーに話したところでなんになる!?てめーごときに何ができるってんだ!?」
「ッ!」
――お前は役立たずだ。
父親の言葉が脳裏によぎり動きが鈍る美紀恵。その隙を逃さずボディに拳を打ち込むアシュリー。
「!」
だが、撃ち込まれた拳は包まれるように美紀恵の手に抑えられていた。
「でき、ますよ!だって…だって私は…人の役に立ちたくて軍人になったんですから!!だからきっと。あなた達の役にだって、立って見せます!!」
「…!!」
その言葉に、かつての大切な人の言葉が呼び起された。
――私がSSSに入った理由はねアシュリー…。私の持ってるこの力を使って、人の役に立ちたかったから…。
「……」
「それに、ベルにも言われたんです。あの3人を止めてあげてって、だから…」
「…ベル?」
「え…?」
どういうことだ?と言いたそうに呆けるアシュリー。どうしたのか問おうとすると、館内放送が流れ始める。
『会場の皆様。大変長らくお待たせしました。ただ今より本日のメインイベントを開始致します』
「ッ時間か――!!」
「待って、アシュリー!!」
会場へ向けて走り出すアシュリーを、美紀恵は急いで追いかける。
「てめー!いい加減しつこいぞ!!」
「しつこくて結構です!!教えて下さい!!あなた達は何のために、いえ誰のためにアシュクロフトを…」
「うるせーよ!!この教えてちゃんが!!あたし達は決めたんだ!!3人だけでことを運ぶって!!そんな知りたきゃてめーで調べな!!」
並走しながら会場に辿り着くと、檀上から『Ⅰ』と刻印されたコンテナがせり上がってきている最中であった。
『デモンストレーションの進行は、弊社代表取締役岡峰虎太郎が務めさせて頂きます』
『…まずはアリスの持つ実戦における性能について説明させて頂きましょう…。アリスは防御能力を極限まで特化させた機体であり。最大出力なら外界からのあらゆる干渉を遮るように設計されております。言葉で説明するより、まず実際にその性能をこれからデモンストレーションで確認して頂きたい。早速アリスの認証から始めさせて頂きましょう』
檀上でマイクの前に立った虎太郎が、解説を始めていく。それをアシュリーは入り口で余裕のある様子で眺めていた。
「アシュクロフトは一度認証されると、外部からの解除ができない…。これであなた達の計画も失敗ですね」
「だな…。そのデモンストレーションが始まれば、な」
その言葉と同時に、会場の照明が全て落ち暗がりに包まれてしまい、来賓らからどよめきが広がっていく。
「電気が消えた!?もしや、あなた達の仕業ですかアシュリー!!ッいない!?」
隣を見るも、そこにいた筈のアシュリーの姿が消えてしまっていた。姿を探していると、壇上側から悲鳴や驚愕の声が響く。
「アリスは確かに貰うぜ美紀恵ッ!!」
ユニコーンを纏ったアシュリーが、コンテナの前に陣取っており。更に、セシルとレオもそれぞれアシュクロフトを装備しコンテナを囲むように立っているではないか。
そんな彼女らに虎太郎が毅然とした態度で睨みつける。
「お前らがアシュクロフトを狙う強奪犯か…」
「ええ。ああそうだ、デモンストレーターのウィザードにはおねんねしてもらってるから期待しない方がいいわよ?」
「…どうやった?DEMからは凄腕の者を派遣させた筈だが」
「ウィザードに限らず戦士を狙うなら、武装していない時が一番。不意を突けば、まあそう難しいことじゃないわね」
「……」
「へっそんじゃ社長さん、こいつは返してもらう――うがッ!?」
コンテナを持ち上げようとしたアシュリーの後頭部を、武装した折紙が蹴り飛ばし。セシルとレオを燎子と勇、真那が強襲しコンテナから引き剥がした。
「…あんた達がどこにっか売れていようと、いつ襲って来ようと必ずアリスの所にやってくるのはわかりきってるんだから…迎え撃つのはそう難しいことじゃないわね!」
「チッやっぱりそうくるかよ…。いいぜっ纏めてぶっとばしてやるぜ!!」
コンテナを背に展開した勇らと睨み合うSSS組。その渦中にあって、虎太郎は避難する素振りも見せず檀上にいた。
「岡峰社長。ここは危険です身の安全は保障できません、すぐに避難を…」
「そうはいかん。アリスはDEMから預かったアシュクロフトが搭載された大事な代物だ。責任者の私がおいそれとアリスから離れるわけにはいくまい」
「…わかりました。では、被害が及ばぬようなるべく離れていて下さい」
確固たる目でその場から梃子でも動かこうとしない虎太郎に、燎子はやむなく説得を諦めるしかなかった。
「(あの頑固さ…。何だかんだで親子ということか)」
そんな彼の姿に美紀恵の姿が重なり、そんな感想を抱く勇。
「すみません、遅くなりました!!」
「ギリセーフですよ伍長。さて、役者も揃いやがりましたし、いっちょおっぱじめますか!」
チェシャ―・キャットを身に纏った美紀恵が檀上に駆け付けると同時に、肩に担いでいたレーザーブレードをSSS組に突きつける真那。それに応じるように、両陣営とも動き出した。
「始めるわよ!全員手はず通りに!!」
『了解!!』
燎子を残し散開していく勇ら対し、セシルがジャミングを起動させるべく動く。
「意気込んでいるところ悪いけど、私達の目的はあくまでアリス。これですぐにカタをつけさせてもらうわ…」
「当然そうくるでしょうね。だから、最初にあんたを倒すのよ!セシル・オブライエン!!」
突進すると同時に撃ち込まれた燎子の殴打を、脚で受け止めるセシル。そのまま押し合う状態となる。
「あんたらの顔どっかで見覚えがあると思ってたけど、思い出したわ。新人の頃合同訓練で会ったことあったわね。…あのお姫様みたいな子は元気かしら?」
「覚えていてくれて光栄だわ日下部大尉。でも、手も足も出ていなかったあの頃から成長していない。私を最初に倒すといっておきながら、アシュクロフトも持たないあなたが1人で突っ込んでくるなんてね…」
「いやぁ…。その方があんたも油断するかなと思ってね…!」
撃ち込んだ腕部に増設されていた装甲が展開し、ロケットの様に炎が噴射される。
その爆発的な加速によって押し勝った燎子は、セシルを猛烈な勢いで檀上に叩きつけた。
「!?」
その勢いは彼女を地面深くまで押し込んでいき、遂には姿が見えなくなる程にめり込んだのであった。
「収束した魔力をテリトリーで一方向に撃ち出し敵を埋める…。本来は精霊の零装の上から殴って足止めするための技…。名付けて
「せ、セシルが嘘だろ!?アシュクロフトも持たねー奴に!?」
「やりましたね隊長さん!!」
「油断大敵ってね!力を得て完全に私への警戒を怠ったわね。さあ、一気畳かけるわよ!!」
予想外の事態に動揺するアシュリーとレオに、燎子らが一斉に襲い掛かるのであった。
「…やられたわね、油断したわ。でも、この程度なら…」
地中に落とされたセシルだが、咄嗟にアシュクロフトによって強化されたテリトリーを束ねたことによって、ダメージ自体はさして受けておらず。すぐに戦線に戻ろうとすると、何かが真上から落下してきていた。
『そうはさせん!!』
「ッ!?天道勇!!」
途中で片手と両足を壁に引っ掛けて停止すると、残る片手に粒子変換によって呼び出したスナイパーライフル『ブーステッド・ライフル』を手にし次々と実弾をセシルへと撃ち込んでいく。
「くッ!」
テリトリーで防ぎダメージは入らないも、動きを制限されるセシル。
『他の2人が大人しくなるまで、付き合ってもらうぞ!』
「悪いけど、そんなデートのお誘いはお断りよ!」
一方地上では。キティファングも用い逆さ向きに天井に張り付く美紀恵と、背部の高出力ブースターによって飛行するアシュリーが睨み合っていた。
「私はなるべくならあなた達と戦いたくない…。大人しく武装を解除して投降して下さい!」
「投降だぁ!?随分上からモノを言うようになったじゃねーか。そういうセリフはあたしよりも強くなってから言うんだな!!」
持ち前の突進力で一瞬で間合いを詰めると、ランスチャージで美紀恵を弾き飛ばすアシュリー。
「速度ならあたしのユニコーンの方が上だ!その爪にさえ注意すりゃ、近接戦ならあたしの方が――!?」
言葉の途中で、脇腹に激痛が走り顔を顰めるアシュリー。よく見ると脇腹に爪で斬られたような傷ができていた。
「!?て、てめぇ!まさか…」
「そうですチェシャ―・キャットには、防御無視のキティファングの他にもう一つ別の能力が備わってます!」
「回復処理能力かッ!相打ち狙いたぁ、いい度胸してやがるぜてめぇ…!」
キティファングは確かに協力な兵装だが、一般的なサーベル類と比べるとリーチが短かく、運用には相応の技量が求められた。だが、現状の美紀恵の技量では十全に生かすには足りず、苦肉の策にはなるが回復処理能力と併用することで不足分を補ったのである。
とはいえ、被弾時には相応の痛覚が発生するため、実行するには相応の覚悟が求められた。
数日前に命乞いをしていたのとは、別人なまでに成長していることに、アシュリーは感嘆の息さえ漏れた。
「う、あぁ…!こ、来ないで!」
一方。アシュリーと分断したレオノーラには、残る3人が相手取り、撹乱しながら砲撃を掻い潜り接近戦を仕掛けていく。
「やはり、そのアシュクロフト遠距離戦に特化してやがるようですね!3人がかりの接近戦、いつまで持ちますかね?」
「あ、うう…」
押されていくレオに、アシュリーは援護に向かおうとするのを、美紀恵が阻止する。
「今回は絶対に負けられない戦い。事前にしっかりと打ち合わせをしてきたのです…。あなた達にもう勝ち目はありません!」
振るわれた光刃を、苦悶の表情を浮かべながらランスで受け止めつアシュリー。
そこから、相手に打つ手がないと見るが、油断なく攻めようとすると。突然体に鉛が張り付いたような感覚が襲い、押しつけられるように膝を突いてしまう。
それはレオと対峙していた他の3人も同じであった。
「こ、この感覚、まさか…!」
一同の視線が、セシルの落ちた穴に注がれると。穴から勇が弾き飛ばされるに飛び出してくると、勢いよく天井に叩きつけられ、壁をぶち抜いていってしまったではないか。
そして、穴からジャミングを展開したセシルが悠々と姿を現した。
「いい策だったけど、詰めが甘かったわね日下部大尉。万全な状態の彼ならともかく、量産機でアシュクロフトの相手を1人でさせるのは無謀ね」
「ッ――!」
この作戦の要は。戦力の大半を占めるウィザードを無力化できるセシルを、勇がいかに抑えられるかにかかっていたのだ。
流石の勇も今の状態では長くは持たないと見ていたが。作戦が想定以上に早く瓦解したことに、思わず歯噛みする燎子。
「アシュクロフトの性能、甘く見たわね。油断大敵、今後は互い気をつけましょう」
「くっ…」
「セシルてめー!遅せーじゃねーか!」
「そうね…。私がもう少し遅かったら、今頃やられてたわね」
「セシル~。無事で良かった~」
リーダーであるセシルの無事に、安堵した様子のアシュリーとレオノーラ。
「さて、もう長居は無用よ。手早くアリスの認証を済ませてしまいましょう。認証さえ済ませてしまえばこちらのもの…」
「前の時みたいにはいかねーって訳だ」
コンテナに近づきパネルに手を添えるアシュリー。だが、何も起きることなくエラー音が鳴り響くのみであった。
『パスワードを入力して下さい』
「は!?パスワード!?っと!?」
予想外の仕様に意表をつかれていると、アシュリーが咄嗟に顔を逸らすと弾丸が顔のあった空間を通り過ぎる。
弾丸の飛来してきた先には虎太郎がおり、手にしている拳銃の銃口には硝煙が漏れ出ていた。
「…やはり、AST――軍に期待したの間違いだったか。しかし、アリスはお前らの手には渡らん。パスワードを入力しない限り認証は不可能だ。大人しく帰るのだな」
「くそっ。どーすんだよセシル!」
「そのパスワードを知ってるのがあなたという訳ね岡峰社長。教えなければ痛い目にあう…なんて脅しが通用する相手じゃなさそうだけど…」
「無論だ。何をされようとお前達に話すことなど何もない」
確固たる意志を見せる虎太郎に。セシルは考え込むように顎に手を添え、数瞬思考する素振りを見せると、倒れ伏す美紀恵に視線を向ける。
「では、こういうのはどうかしら?パスワードを教えなければ、あなたの娘さんが痛い目にあうというのは?」
「…言った筈だぞ。何をされようと話すことはないと。そんなことで私の口を割ることはできん…」
「だそうだ…。その言葉が強がりだって祈りたいな…」
美紀恵の元まで歩み寄ったアシュリーは、美紀恵の顎を蹴り上げる。
「お互いによ!!」
無抵抗な美紀恵を痛めつけていくアシュリー。傷が癒えることなく、傷つき苦悶の声を上げる美紀恵。
「お得意の回復も、テリトリーを抑えらえていてはできないでしょう。血塗れになっていく娘の姿にどこまで耐えられるでしょうね」
「…こんなことを続けても無駄だ…もう止めておけ」
その光景を虎太郎は淡々と見ているが、手の入れた上着ポケットから赤い液体が滲み出ており。そんな彼に、セシルは確信を持ったように不敵に笑う。
「…無駄かどうかは私達が決めることよ。次は試しに腕の一本でもへし折ってみようかしら?」
合図するように視線を送ると、アシュリーは美紀恵の顔が虎太郎に見えるように転がし、腕に関節技をかけ締め上げていく。
「悪いな美紀恵…これが私らの戦争だ」
「い…がぁっ!!あぎゃあああああああ!!」
あえて一息におらず、徐々に力を加えていき苦痛を与えていく。
悲鳴を上げる娘の姿に、色あせたような虎太郎の瞳に感情の色で揺らいだ。
――美紀恵…。
こんなものが、お前の選んだ道なのか?
こんな辛く苦しいだけの生き方がお前の…。
「止めろ」
不意に放たれた言葉に、一同の視線が虎太郎に集中する。眼鏡のレンズが反射によってはっきりと表情はうかがえないも、どこか泣いているようにも見えた。
「パスワードは教えてやる。娘を離せ」
「お、お父様…」
想像もしていなかった父の言葉に、呆然とする美紀恵をよそに、事態は進行していく。
「ふふふ…あなたが冷徹な父親ではなく助かったわ…。では、先にパスワードを教えてもらいましょうか…」
「パスワードは…」
「待って下さい!!」
敵に屈しようとする父を慌てて止めに入る美紀恵。
「す、すみません。みっともない叫び声など上げてしまって…。こ…こんなの痛くもなんともありません!だから…」
「…もういい美紀恵。この状況ではどうしようもあるまい。お前達は無能であった、そしてこの私も同じくな…。終わりだ」
「終わってなんかいません!!」
「!」
「お、お父様は言いました。大事なのは過程ではなく結果だと…。なら、最後まで見ていて下さい…。皆さんは役立たずではありません。そして私も、お父様も…!最後には、必ず何とかしますから…!!」
「美紀恵…」
苦痛で涙を零し明らかにやせ我慢でありながらも、安心させようと笑みを受かべる娘に。自分の元にいた頃の、自信なく怯えてばかりいた姿との違いに、驚嘆する虎太郎。
「この子の言う通り。どんなことがあっても最後に私達は必ず勝つ」
「鳶一折紙!?」
2人のやり取りにセシルらの意識が向いている隙に、駆け寄った折紙が美紀恵を抱えてコンテナまで転がり込む。
「何であいつが動け――ッ!」
折紙の姿を見て目を見開くアシュリー。今の彼女はワイヤリングスーツでなくドレスを身に纏っていたからである。
「なるほど。私が阻害できるのはあくまでテリトリーのみ。装備を解除しその発生を断ってしまえば自由に動くことができる…」
「だからって、生身で戦場に出るなんざ、こいつらやっぱ頭のネジがぶっ飛んでんぞ!?」
セシルらが困惑している間に、折紙が虎太郎に声をかける。
「アリスのパスワードを教えてほしい。この状況を打破するために私が使用する」
「!」
「あなたは言った。アリスはあらゆる外部の干渉を遮る防御特化型の機体だと」
「…確かに言った。しかしできるのかお前達に?この状況を覆すことなど…」
「そうはさせないわ!」
反撃の芽は潰さんと、折紙目がけてセシルらが駆けだしてくる。そこに、天井から飛び出して来た勇がセシルを背後から蹴り飛ばし壇上に抑えつけた。
「く、この…!」
『まだ俺とのパーティは終わってねぇぞ!もっと付き合えよ!!』
「セシル!――うぉッ!?」
不意打ちに気を取られたアシュリーの肩にレーザーが直撃する。ダメージこそ入らないも動きが一瞬だが止まる。
「ムラクモ・バスタースタイル。テリトリーが阻害された状態だとこんなもんでいやがりますか」
「またあいつ、不意打ちばっかり…!レオ!」
「う、うん!」
折紙へ砲撃しようとするレオノーラを燎子が背後から羽交い絞めにして妨害する。
「あたしだっているのを、忘れないでもらいたいわね!」
「わわっ。は、離して!」
出力任せに振りほどこうとするレオノーラに、必死に食いつく燎子。
「ああああああああ!!」
美紀恵もアシュリーに体当たりし、正面から抱き着いて足を止めようとする。
「コイツら、マジでしつけェ!!諦めろってんだ!!」
ランスの石突を背中に叩きつけて引き剥がそうとするが、美紀恵は血を吐きながら離すことはなかった。
「わ、私は言えたんです、お父様に…。皆さんは役立たずじゃないって…。後はそれを証明するだけです!!アリスは絶対に渡しません!!私は、私はっ…!!」
懸命に戦う美紀恵の姿に、虎太郎は何かを決意したように折紙に歩み寄る。
「役立たずではない…か。確かに娘からは一度も聞いたことのない言葉だ。言葉だけでは人は動かん、が証明してみせるのなら機会を与えてやるべきなのかもな…」
「では?」
「使え。教えてやる、パスワードは――」
パスワードを聞いた折紙は、コンテナのパネルに手を添える。
『アシュクロフトⅠ『アリス』の認証処理を開始します。パスワードを入力して下さい」
「…『MIKIE』」
「え…」
折紙の入力したコードに、美紀恵は以外そうに父を見ると、彼は恥ずかし気な様子で顔を背けた。
『パスワードの称号終了。認証処理の完了を確認。アシュクロフトⅠ『アリス』起動します』
電信音と共に、コンテナが開放され。ワイヤリングスーツを再度展開した折紙に内部に納められていたユニットが装着されていったのであった。