ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第六十三話

歓迎会の翌日。早速鈴が一夏に顔を見せにいき、昼休みに飯を食いながら話そうとなったとのことで。俺含め付き合いのある人達や紹介したい人らで集まろうということになった。

 

「わ~~~い鈴だぁ!わふ~!」

「ちょ、ユウキ恥ずかしいって!」

 

学園食堂にて友と再会した我が妹が、抱き着いて頬擦りしまくっていた。彼女が国に帰るって知った時は大泣きしてたからなぁ…。

ちなみにこの場には詩乃や、和人と直葉に明日奈、里香、珪子、それにユウキが連れてきた観束と津辺がいる。

 

「ユウキ、他の人の迷惑だからそれくらいにしなさい」

「あい」

 

はしゃぐユウキに注意すると、素直に離れる。というか腹の虫が鳴っているからだろう、でなければもっと騒いでいたな。

 

「で、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさんは元気か?いつ代表候補になったんだ?」

 

それぞれ料理を受け取り席に着き、食堂のおばちゃんさん方に促されてきたアミタも混ざると、早速と言わんばかりに質問を繰り出す一夏。鈴は自分の努力を見せたがらないことと、一夏を驚かせてやりたいということで、余り連絡を取っていなかったから聞きたいことは山のようにあろうな。

 

「質問ばっかりしないでよ。アンタこそ、何IS使ってんのよ。ニュースで見た時びっくりしたじゃない」

 

流し目でラーメンを啜りながら話す鈴。まあ、IS乗りになろうと頑張ってたから尚更だろうなぁ。

 

「後、和人さんがこんな美人な彼女さんを作ってることにも…」

「さらりと酷い!?!?!?」

 

明日奈を見ながら以外とでも言いたそうにしている鈴に、ショックを受けているキリト。

 

「まあ、そう思うよね。あのボッチだったキリトが、うぅ…」

「その話はもういいだろう!後、そんな子の成長を喜ぶ母親みたいに泣くなよ!」

「そこは父親って言えやッ!!」

「自分の見た目を良く思い出しなよ」

「女っぽく見えますねチクショウが!!」

 

妹の至極真っ当と言わんばかりの言葉に、本気で泣きたくなった。

 

「で、アスナはどこに惚れたん?」

「え?え~と優しい所とか、楽しそうにゲームしてる所なんか可愛いし――」

「ねえ、もの凄く話が脱線してるんだけど…」

 

ユウキの唐突な質問に照れながらも律義に答えて明日菜氏に、詩乃のツッコミが入る。

 

「で、一夏。そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」

 

着いてきていた箒とオルコット氏らが、鈴を威嚇しながら問いかける。つーか周りの視線がスゲーわ、IS学園の生徒がよく利用するから花の乙女率が凄いわ。

 

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ…」

「そうだぞ。何でそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」

「…………」

「?何睨んでるんだ?」

「何でもないわよッ!」

 

鈴が顔を赤くして否定しようとすると、一夏が平然と否定しおった。

 

「…こいつホントどうしたらいいと思うよもう1人の弟よ」

「この場で答えがでたら、今こうなってないと思う…」

 

鈴に会いに来ている和人に小声で真剣に問うと、同じように真剣な顔で返された。

 

「でだな、鈴は箒が引っ越してすぐに知り合ってな。それで中2の終わりに国に帰ってたんだ。で、鈴こっちのが箒で、俺の通っていた道場の娘なんだ」

「ふうん、そうなんだ」

 

互いに紹介された両者は、じろじろと視線を向け合っている。…鈴が箒の胸部を見て敗北感を感じていたようだけどね。

 

「鈴、女の良さは胸だけじゃないよ。そうだよね愛香、珪子!」

「他人を巻き込むなアホォ!!」

「うにゃァ!?」

 

拳を握り締めながらとんでもないことを言い放つお馬鹿の頭を、思わず引っぱたく。自虐は自分だけにせんか!

 

「ふぇ!?いや、その…」

「ムネナンテ、ショセンシボウノカタマリヨ」

 

自分の胸部をペタペタと触りながら、しょんぼりしてしまう珪子。ホントごめんね!!そして津辺は目から光が消えてカタコトになってるやんけ…。

 

「大丈夫だってシリカ!あんた十分可愛いんだから自身持ちなって!」

「そ、そうですよ!大きくても動きにくいし、肩が凝るだけですから!」

「アミタさんはそれ以上喋らない方がいい。…敵を増やしたくなければ」

「あ、あれ?詩乃の目が怖くなってます!?」

 

必死に励まそうとする里香に、アミタが同調しようとするもおもくっそ失敗していらっしゃる。

 

「そ、そうよね胸なんて大きくても肩が凝るだけだもんね!他で勝てばいいのよ、他で!」

「ユ~ウ~キ~!!」

「ひにゃ~ほめ~ん」

 

自分に言い聞かせている鈴。言ってることはまあ、間違ってはいないのだろうけど、必死なように見えてなんか切なくってる。

そして、セクハラされた箒は元凶(ユウキ)の両頬を抓って引っ張っていた。あ~もう滅茶苦茶だよぉ。

 

「ンンンッ!わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補性の凰鈴音さんッ!」

 

変になった空気を破ってオルコット氏が挑発するようにビシッと、指を突きつけた。この状況でそんな強気に出るとは勇気あるね君。いや、単に置いてきぼりにされて疎外感を感じたからかしら?

 

「あ~確かイギリスのセシリア・オルコットだっけ?まあ、あたしの方が強いけどよろしく」

 

当たり前のように言い放った言葉に、オルコットからビキッという音が聞こえた。自分の努力に自信を持つのはいいことだけど、謙虚さってのも必要だと思うんだ。

 

「…ご冗談がお上手ですこと。自意識過剰は身を滅ぼしますわよ?」

「そう、なら試してみる?いつでも相手になるけど」

 

バチバチと視線で火花を散らせている両者。ん~俺の見立てだと、どっこいどっこいだろうけどね。ま、張り合う相手がいることはいいことだな。

 

「あたしも手合わせしたい」

「生身とでだよね?ISとじゃないよね?」

「何言ってんの、当たり前でしょ?」

 

ウキウキした様子で話す津辺に、観束が不安そうに問いかける。このハングリーバトルガールなら、そう言い出しそうなんだよなぁ…。

 

「生身でいいならいつでも手合わせするけど?」

「あ、ホント?じゃあ連絡先交換しよ」

 

キャッキャッと端末を取り出している鈴と津辺。内容はちょっとアレだが、仲が良くなることはいいことだね。

 

「そういや一夏。あんたクラス代表になったのよね?」

「ん?おう、まあ、成り行きだけどな」

「今度クラス代表戦ってのもあるし、よ、よかったらあたしがISの操縦見て上げてもいいけど?」

 

顔を逸らし、視線だけ向けながら恥ずかしそうに言う鈴。

 

「そりゃ助か――」

 

一夏が快諾しようとするのを遮るように、箒とオルコットがテーブルをバンッと叩いて勢いよく椅子から立った。ちょっと!カレーうどんの汁が跳んだよ!?服に着いたら落とすの大変なのよ!!

 

「一夏に教えられるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

「あなたは2組でしょう!?敵の施しは受けませんわ」

 

鬼の形相で拒絶するお2人。

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

「1組の代表ですから、1組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて図々しいことを――」

 

白熱していく3者をよそに、理由が分かっていない朴念仁(一夏)。こいつ、いつか本当に刺されるんじゃなかろうな…。

 

「ねぇねぇ兄ちゃん。クラス代表戦ってなーに?」

 

そんな彼らを尻目に、ユウキが袖を軽く引っ張りながら問いかけてきた。

 

「ああ、学年ごとにクラス代表がトーナメント方式で1対1で戦う行事だよ。2、3年は現時点での習熟度の概ねの確認と、1年はどっちかというと、上級生の戦いを見て自分の将来像を掴んでもらうのが目的だね。あくまで学園だから、こういった催しが必要なのさ」

 

10代の若者だから、こういった息抜きって大切だよね。

ただ、最近の情勢からして碌なことが起きそうにないんだよなぁ…。

そんな不安を感じながらも、今ある幸せを噛みしめるとしよう。

 

 

 

 

「来い、アームドギアァァァァ!!」

 

夕方に迫ろうとする時刻。ブルーアイランド基地にある地下訓練場にて、仕事の都合でいない風鳴の除いた遊撃隊の面々がおり。円を描くように並び立っていて、中心にいる立花が右手を天高く掲げて叫ぶ。――が何も起きることはなく、静寂が訪れた。

 

「…何も起きませんね」

「そうだね」

 

不思議そうに首を傾げるアミタに、同意する俺。

 

「うぅ、何で~」

 

立花ががっくりと肩を落として項垂れる。

シンフォギアシステムにはアームドギア機能――つまり武装があるのだが。今まで立花はこの機能を使いこなせておらず、そのことに了子さんが仮説を立てたので、その検証をしているのだ。

 

「機能事態に問題はないんですよね了子さん?」

「ええ、何度も点検したけど異常は見当たらなかったわ」

 

端末を操作しながらん~と、困ったように唸る了子さん。

ちなみにこの間風鳴にアドバイスを求めたら、『イメージしろ』とだけ真顔で言われた。やっぱり彼女不器用だわ。

 

「シンフォギアシステムは、使用者の精神状態にも大きく影響されるのよねぇ。だから…」

「問題があるとすれば立花自身という訳ですか」

「あぅ…」

 

俺の言葉に、ショックを受けたように更に項垂れる立花。

本来であれば、ベースなった聖遺物にちなんだ武装が顕現されるのだ。風鳴の天羽々斬は刀剣であるので、刀に類する武装が使用でき、立花のガングニールは槍なので槍を模したものが使える筈なのだが。実際前任者は槍状のアームドギアが顕現していたそうだ。

 

「ふむ。よし立花、次はどんな武器を使いたいか想像しながらやってみてくれ」

「分かりました」

 

気合を入れるように胸の前で両手を握り締めて、意識を集中させる立花。だが、いくらか待つもそこから動きが見られない。

 

「駄目です、全然思いつきません…」

「どうしてだい?」

「武器を持つって考えたら怖くなっちゃって…」

 

再び項垂れながら涙目になる立花。やはりそうか…。

 

「立花。君は人と戦うことになっても、できれば傷つけたくない――いや、戦いたくないと思っていないかい?」

「それは…」

「構わない、正直に言ってくれ」

「はい、できれば話合いなんかで解決できればいいなって…」

 

視線を落としながら答える立花。そんな考え間違っていると思っているのかな?

 

「多分、そういった心理状態が影響しているんだろうね。戦うことへの苦手意識とかね」

「はあ?じゃあ、何でここにいやがるんですか?」

 

俺の推測に、輪に入らず遠目に見ていた崇宮が、アホかと言いたそうな顔をする。

 

「それは…」

「彼女の場合、身を護る上で必要なのさ。それに立花の考えを俺は間違っているとは思わない」

「はあ?」

 

何言ってんだコイツといった感じの声を上げる崇宮。

 

「戦うことを否定するつもりはないけど、だからって争うことに恐怖心を持つなっていうのは違うと思うんだ。そうした心が自分や誰かの命の重さを教えてくれるのだから」

「随分甘ったるい考えでいやがりますね。戦場でいちいち躊躇っていたら命がいくつあっても足りねーですよ」

「そうだね。本当ならこんなことを考えるべきじゃないけど、命が失われる悲しさを感じられなくなったら、それは機械と一緒なんじゃないかな?俺は戦うだけの機械になりたくないし、共に戦う君達にもそうなってほしくないんだ。

人に必要なのは、例え怖くても大切なものを守るために、勇気を持って戦うことなんじゃないかな。そうした心を忘れてしまったら人は戦いから離れられなくなると思うんだ」

 

俺は平和が好きだけど、だからって争うことに反対する訳じゃない。時には傷つき傷つけることになろうとも戦わねばならないことだってあるのは理解している。

でも、俺が戦うのはあくまで大切な人達を守りたいからであって、壊したり奪うためじゃない。例え敵対する者であっても争わない道があるなら、それがどれだけ困難なものであって諦めるべきでないと思うんだ。

 

「…ま、あんたがどう考えようが勝手でやがりますがね。真那は真那のやりたいようにやるだけなんで」

「それで構わないよ、別に押しつける気はないからね。でも、戦闘中くらいはこちらの指示にできるだけ従ってもらえると助かるけど」

「面倒ごとは嫌いなんで、変なもんじゃなければ聞いてやりますよ」

 

崇宮の言葉に内心胸を撫で下ろす。正直言うと、部隊結成時の頃の苦労は避けたいんだよね…。

 

「まあ、色々と言わせてもらったけど。立花、君は君の道を見つければいいさ。焦らず自分が納得できる道を。必要なら俺がいくらでも力を貸すから」

「自分が納得できる道、が、頑張ります!」

 

理解しきれていない部分も多いだろう。それでも立花なりに受け止めてくれたようだ。今はまだ先の見えない暗闇の中だが、いつか自分なりの光を見つけてくれると俺は信じている。

 

「勇兄だけじゃなく、俺達も協力するから一緒に頑張ろうぜ」

 

一夏の言葉に崇宮以外の皆が、それぞれ肯定の意を示し。それを了子さんが青春ね~と、微笑ましく見守っているのだった。

 

 

 

 

「……」

 

わいわいと盛り上がっている勇らを、真那は不思議そうに遠目で観察していた。

 

「変わり者の集まり、と考えている?」

 

そんな真那に折紙が声をかけた。

 

「まあ、ああいったノリは初めて見やがりますね。普通とは違うとは聞いてたんですが」

「私と勇以外は正規の軍属ではないから、規律や統制よりも個々の意思を尊重すべきという勇の方針が大く影響している」

「…鳶一軍曹は不満はないんで?あ~その、こういった雰囲気はお好きには見えなくて」

 

言葉を選んで話す真那。機嫌を損ねてしまうかもしれないが、人と群れることを好まなさそうな彼女が、この部隊に馴染んでいることが気になったのである。

 

「確かに好きという訳ではない。でも、結果として部隊は最高のパフォーマンスを発揮している以上、不満はない」

「まあ、戦果だけ見ればとんでもねーですが」

 

いつものように淡々と話す折紙に、真那は複雑そうな顔をする。

精霊相手に撃破判定を出させ。隊長である勇に至っては、単独であの漆黒の狩人を打ち破るという偉業を成し遂げているのだ。現状連合軍において最強格の戦力と言っても過言ではないだろう。というか、あんな軟弱そうな男が本当に漆黒の狩人勝てたのかと、真那は正直半信半疑ではあった。

ともかく、そんな部隊に合流しろと言われた時はどんな部隊か期待もあったが。いざ見てみれば個々の戦闘力は高いも、戦士としての心構えがあるのかすら怪しい者だらけで、まるで学芸会の集まりのようで正直言えば裏切られた気分になった。

 

「確かにこの部隊は不確定要素が多い。それでも彼――勇となら、最善の結果が出せると私は考えている」

 

折紙は一見無感情に話しているも、そこには確かな信頼が生まれていた。他人に興味を持とうとしなかった彼女を知る者が見れば、驚愕していただろう。

 

「あの男が、ですか?」

 

事前に得ていた情報と真逆とも言える姿を見せる彼女を見た真那は。影響を与えたであろう勇を、不思議そうに観察するのであった。




またもや想定よりも長くなってしまい、部隊名発表は次回に持ち越させて頂きます。本当に申し訳ございません。

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