ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四話

「これって敵襲!?」

 

突然降り注いだミサイルによってあちこちで爆発音と人の怒号が飛び交う中、俺は冷静に状況を分析していた。

警報が発令してから間を置かずに攻撃されたことから、敵は相当近くまで接近しているのだろう。

余程基地の警備網がザルでもなければそうはならないだろうが、世界の生命線とも言える次元エンジンを防衛するこの基地がそんな練度が低いわけが無い。

となると敵がそれを上回る装備を持っているのか?

 

「勇!!」

 

考え込んでいると、隣にいた父さんに逼迫した表情で呼びかけられた。

 

「あ、父さん」

「あ、じゃない!早く避難しろ!君この子をシェルターへ!」

「ハッ!」

 

俺の手を掴むと強引に引っ張りながら歩き出すと、父さんに呼びかけられた人が走り寄って来た。

 

「父さん!」

「心配すんな!すぐに終わらせてくるからよ!」

 

言いようのない不安感から思わず父さんを呼ぶと、笑顔でサムズアップしてから父さんは部下の人が運転するジープに乗り込んだ。

 

「父さん…」

「君早くこっちへ!」

 

いつまでここにいても邪魔になってしまうので、大人しく誘導に従うことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

ブルーアイランド基地司令室は突然の攻撃に騒然となっていた。

オペレーター達が各部の被害状況を確認する中、指令席に腰掛けている初老の女性が声を張り上げる。

 

「敵の数は!!」

「最終防衛ライン上に潜水艦1、さらにPT1、IS2が接近中!!」

「レーダーで探知出来なかったのですか!?」

「は、はい!突然反応が現れました!」

 

オペレーターの報告に基地司令である紫条悠里は奥歯を噛み締める。

恐らく最近開発されたと言う新型ECMだろう。他の基地でも同様に突然現れたテロリストに奇襲されたとの報告を受けていた。

だが、ISや新型ECMをただのテロリストが用意できるものではない、となれば襲撃犯は…。

 

亡国機業(ファントム・タスク)…!」

「司令!ゴースト中隊ならびにAST出撃準備完了しました!」

「直ちに出撃させて下さい!それとIS学園に救援要請を!」

「了解!」

 

悠里はオペレーターへ指示を飛ばすと手元にある通信機を操作するのだった。

 

 

 

 

 

「他の部隊はまだ出られんのか!」

 

勇と別れた勇太郎は自身の愛機である、赤色に塗装されたM型ゲシュペンストに搭乗して司令部と通信していた。

 

「は、はい。先程の攻撃で格納庫を破壊された部隊が多く、出撃可能なのは少佐の部隊と魔術師(ウィザード)隊のみです」

「ええぃ!完全に後手に回っているか!」

 

状況を確認し思わず舌打ちしてしまう勇太郎。

すると別回線から通信が入る。

 

『天道少佐』

「司令ですか」

『ええ、恐らく襲撃犯の狙いは…』

「十中八九MK-Ⅱでしょうな。現に滑走路付近にはさして被害が出ていませんし、何より敵の数が少な過ぎる」

 

世界随一の戦力を誇るこの基地を壊滅させるには、ISが2機含まれているとはいえ3機のみだけでは不足と考え、敵の狙いが新型PTの強奪と推測する勇太郎。

 

『私もそう思います。今、IS学園に救援要請を出しましたが…』

「上層部の連中が許可するとは思えませんね。期待はしない方がいいでしょう」

 

IS学園には非常時に備えて防衛用のIS戦力が存在するが、学園の守備以外の事態で活動するには連合軍本部の承認が必要なのである。

だが、IS学園には各国から選ばれた優秀な生徒と、学園の秘匿性を利用した最新型のISがテストのため持ち込まれており、軍の上層部は学園の戦力を動かすことを極端に嫌っているのである。

 

「とにかく、今ある戦力でなんとかするしかないですね」

『ええ、頼みます少佐』

「了解」

 

悠里との通信を終えると、今度は副隊長である天城みずは(階級は中尉)から通信が入る。

 

『少佐、出撃準備完了しました!』

「よし、ゴースト中隊出るぞ!」

 

機体のロックを解除すると整備員の誘導に従い格納庫の出口へと機体を進ませる。

格納庫を出るとスラスターを吹かせ、ホバー移動で敵機のいる方角へと機体を向かわせると、部下である標準カラーの青で塗装された11機のM型ゲシュペンストが追順する。

さらに別の格納庫から飛び出す人影が見える。

防護服である着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)とCR-ユニットを身に纏った女性達、ASTである。

それを確認すると、ASTの隊長である燎子へと通信を繋げる。

 

「日下部大尉、敵の狙いはMK-Ⅱだ。敵を滑走路に近づけるなよ!」

『了解です少佐!』

 

通信を終えると同時に、上空からこちらへ向かって来る機影を視認する。

 

「もう、防空網を抜けてきたか!ゴースト1より全機、ここで食い止める!ミサイル用意!」

『了解!』

 

機体に指令を送り、背部に搭載されている2機のスプリットミサイルを機動させると、ターゲットをロックオンする。

 

「発射ぁ!!」

 

号令と共に12機合わせ24発のポットが目標へと放たれると、ミサイルの先端が開き多弾頭ミサイルが打ち出され壁の様に迫る。

 

「ふむ、流石に対応が早いな」

 

ヴォルフが冷静に呟くと、迫るミサイル群に向けてバスター・ランチャーを両手で保持して構える。

すると、エネルギーが充填されていき一定値に達した瞬間、トリガーを引くと膨大な量のビームが照射されると、砲身を横へと向けていく。

ビームに打ち抜かれたミサイルが、爆発が周りのミサイルを巻き込み、誘爆の連鎖が起き全てのミサイルが撃墜される。

銃身から冷却熱が吹き出し、装着されていたカートリッジを取り替える。

 

「エム、オータム敵機を足止めしろ。俺は用事を済ませる」

『あいよ!』

『了解』

 

敵陣突破を図るべく、機体をさらに加速させるヴォルフ。僚機もそれに合わせて加速する。

 

「あのゲシュペンスト、やはりテスラ・ドライブ搭載型か!」

 

ヴォルフのゲシュペンストを見た勇太郎が声を張り上げる。

進行速度から予測はできていたが、軍でもまだ正式に採用されていない装備を、テロリストが使用しているのを見ると、歯痒い思いをせずにはいられなかった。

さらに黒色に塗装され、通常機ではスプリットミサイルが搭載されている部分に、大型のブースターが装備されており、装甲は削られて軽量化されているようである。

 

「だが、落とさせてもらう!」

 

そう言って右手で保持しているマシンガンを、ヴォルフ機へと向けて発砲するも、機体を僅かに逸らしただけで回避される。

そして、お返しと言わんばかりに、右手に持っているバスター・ランチャーで反撃される。

 

「っと!」

 

同じように機体を少し逸らして回避すると、マシンガンを放つ。

 

「チィッ!」

 

こちらの機動を先読みして放たれた弾丸を、機体を回転させながら避ける。

たった一度回避機動を見せただけで、こちらの回避パターンを読んだとしたら恐ろしいまでの技量である。

 

「赤いゲシュペンスト、教導隊か!」

 

天道勇太郎―

かつて特殊戦技教導隊に所属しており、ブルーアイランド基地のトップエースと呼ばれる男。

今作戦でもっとも注意しなければならない相手である。

 

「だが、馬鹿正直に戦う必要は無い」

 

そう、今回の目標はあくまで新型PTの奪取。無理にこの男を倒す必要は無い。

 

「オータム任せる」

 

ヴォルフが名前を呼ぶと、低空飛行で黄色と黒の配色がなされ、背中から蜘蛛のような八本の装甲脚が迫り出しているISが勇太郎機へと襲いかかる。

 

「おらぁ!」

「ぬぅ!」

 

装甲脚の先端が開き、マシンガンのように弾幕を浴びせてくる。

余りの射撃量に、左腕で急所を庇いながら回避機動を取るも何発か被弾してしまう。

その隙に接近したオータムは、爪のように鋭利な装甲脚を突き出した。

迫り来る八本の装甲脚の内、数本にマシンガンを放ち弾き、残りの脚の隙間を縫うように機体を滑り込ませる。

 

「何ィ!?」

 

これには流石のオータムも驚き動きが一瞬止まってしまう。

その隙を逃さず、左腕に装備されたプラズマ・ステークを起動させる勇太郎。

バチバチッ!っとプラズマを纏った左腕を、オータムの腹部目掛けて突き出す。

 

「ジェット・マグナム!」

 

殴り飛ばされたオータムだが、すぐに空中で体制を立て直して勇太郎を睨みつけてくる。

腹部の前で交差させた両腕の装甲がめり込んでおり、咄嗟に防いだようである。

 

「クソがぁ!やってくれるじゃねぇかよ!」

「ふむ、やはり肉弾技は弦十郎のようにはいかんか」

 

防がれることは予測済みだったのか、気にすることなく身構える勇太郎。

そして昔の同僚のことを思い出していた。彼なら今の一撃で仕留められていただろうなと。

その間にも黒いゲシュペンストが滑走路へと向かおうとするが、勇太郎の部下達が弾幕を張って阻む。

 

「邪魔だ」

 

弾幕を舞い散る木の葉のように軽々と避けると、バスター・キャノンで的確に3機直撃させていくヴォルフ。

PTにはISを元とした保護機能があるので、余程の損傷を受けない限りは死ぬことはまず無い。最も死ぬ程痛い思いはするが。

 

「くっ、怯むなここで食い止めろ!」

 

瞬く間に3機行動不能に追い込まれたことで、隊全体に動揺が走るが、副隊長であるみずはの指示で陣形を整えるゴースト中隊。

みずはがヴォルフ機に狙いを定めてトリガーを引こうとした瞬間、アラームが鳴り響く。

咄嗟にその場から飛び退くと、何も無い筈の空間からビームが目の前を横切った。後少しでも回避が遅ければ直撃していただろう。

 

「どこから!?」

 

発射元を特定しようと周囲を見回すが、すぐさまアラームが鳴り響ぎ、慌てて回避行動を取らざるを得なかった。

複数の方向から飛来して来るビームを避けきれず、右肩の装甲が吹き飛んだ。

周りを確認すると、隊の半数近が被弾し行動不能に陥ってしまい、さらに黒いゲシュペンストは滑走路へと向かってしまっていた。

 

「これは遠隔無線誘導兵器!?」

 

よく見てみると砲台と見られる物が、隊を囲むように浮遊していた。

”ビット”と呼ばれるイギリスが開発しているISの第三世代装備で、相手の死角からの全方位オールレンジ攻撃が可能なのが特徴である。

 

「でも、本体は…!」

 

上空を見ると本体である青いISがASTと交戦していた。

そんな状態でこちらにまでビットを飛ばしているなんて、異常と言える集中力である。

 

「くっこの!」

 

燎子がアサルトライフルをサイレント・ゼフィルスに向けて放つも、嘲笑うかのように軽々と避けられてしまう。

続いて他の隊員達がミサイルを放つも、当たる前に3機ビットから放たれたビームが網のように展開しミサイルを防ぐ。

 

「ふっ」

 

サイレント・ゼフィルスが、右腕で保持している長身のライフル”スターブレイカー”からビームが放たれ二人の隊員が撃ち落とされた。

これで10人いた隊員の内半数が行動不能となってしまう。

 

「対精霊部隊と言ってもこんなものか、つまらん」

「っ!馬鹿にして!」

 

落胆を含んだ声色でサイレント・ゼフィルスが溜息を吐く。

仮面をつけているので表情は見えないが、明らかに見下した態度に苛立ちを隠せないASTのメンバー。

するとサイレント・ゼフィルスの背後から、折紙が強襲をかけ、レーザーブレードで斬りかかった。

 

「む?」

 

それに動揺することなく、ライフルに備えられた銃剣で受け止めると拮抗した。

 

「ほう、少しはできるようだな貴様」

「……」

 

サイレント・ゼフィルスが感心したように話しかけるが、それに反応することなく、スラスターの出力を上げて押し込んでいく折紙。

徐々に押し込んでいくが、不意に目の前にいたサイレント・ゼフィルスの姿が消えると少し下がった位置に現れた。

突然支えを失った折紙は前につんのめってしまい無防備となってしまう。

 

「(っ!?瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?)」

 

ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを用いて爆発的に加速する技能である。

 

「終わりだ」

 

体制を立て直せない折紙に向かって、ライフルを構えるとトリガーに指をかける。

危機的状況にも関わらず、サイレント・ゼフィルスを睨みつける折紙に、口元に笑みを作る。

トリガーを引こうとした瞬間、横から襲った衝撃に体制を崩し、放たれたビームが明後日の方角へと飛んでいった。

 

「ASTを舐めるんじゃないわよぉ!!」

 

体当たりを敢行した燎子が、レーザーブレードで斬りかかっるも銃剣で軽々と受け流され、逆に銃剣を突き出してくる。

連続で放たれる突きを、何とかレーザーブレードで受け止めるも、次第に体中に切り傷が増えていく。

 

「大尉!」

 

すかさず折紙が間に割って入って、銃剣を受け止め弾くと、残りの隊員がアサルトライフルやミサイルを放つ。

それを回避したり、ビットやライフルで打ち落とすと、一旦距離を取る。

再びビットに指令を送ろうとした瞬間、上空から異常なエネルギー波を告げるアラームが鳴り出した。

 

「何?」

 

反応があった上空へ視線を向けると、空が渦巻くように歪んでいた―

 

 

 

 

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

オータムの気迫と共にアラクネの複数の装甲脚が勇太郎へと襲いかかるが、動じることなく避けると左手に持っているプラズマカッターで脚の一本を切断する。

そして右手に持っているマシンガンを浴びせかける。

 

「クッソォォォォォォォォォォォォ!!」

 

何とか機体を後退させて射線から逃れるも、その機体はボロボロであった。

八本あった装甲脚は三本となっており、各装甲も破損しエネルギーも残り僅かとなっていた。

対して勇太郎のゲシュペンストは傷らしい傷は見当たらず、如何に一方的かが伺える。

 

「(何だ?何だってんだ!?このあたしがこうも一方的なんて!?)」

 

先程からこちらから攻め立てているが、その度にまるでこちらの動きが読まれているかのように、反撃されていた。

 

「ふむ、腕は悪くないが、攻撃一辺倒過ぎるな。それに動きが正直過ぎる、読んで下さいと言っているようなものだぞ」

 

まるで、教師のように語りかけてくる勇太郎に、ギリっと奥歯を噛み締めるオータム。

 

「偉そうに語ってるんじゃねぇぞボケが!」

「ああ、すまん。教導官をやっている癖でついな」

 

ヘルメット越しに頭を掻きながら謝罪してくる勇太郎。

そんな態度が余計にオータムの神経を逆なでる。

 

「殺す、殺す、殺す!!」

 

再び勇太郎に襲いかかろうとした瞬間、上空から異常なエネルギー波を告げるアラームが鳴り出した。

 

「ああ!?」

 

思わず体を止めて上空へ視線を向けると、空が渦巻くように歪んでいた―


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