ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十二話

「はぁ…」

 

学園共同食堂にて、立花響はため息をついていた。それ無意識なようで、心ここにあらずといった様子である。

新学期が始まってから一月程が経ち、新入生にとってまだまだ新しい生活に心躍らせている者が多い中。見事に真逆のテンションとなっていた。

 

「ちょっとビッキー。またため息ついてるよ?」

「え?あ、ごめん…」

 

クラスメートで友人である安藤創世(あんどう くりよ)に指摘されると、響は申し訳なさそうに俯いてしまう。ちなみにビッキーとは彼女の響への愛称である。自分の名前が変わっているためか、友人に少々特殊なニックネームを付ける癖があるのだ。

 

「この前天道さんにお呼ばれされてから、元気がありませんわね立花さん」

「まあ。愛しの王子様にこってり絞られたんだから無理もないけどさ」

 

創世と同じく友人である寺島 詩織(てらしま しおり)が心配そうに、板場 弓美(いたば ゆみ)はからかいを混ぜた感じで話しかける。

 

「そ、そんなんじゃないよ!勇さんは私の憧れよ言うか目標と言うか…。とにかく違うから!」

 

弓美の言葉に響はトマトのように顔を真っ赤にして慌てて否定するも。弓美は、はいはいと反応を楽しんでいた。

 

「怒られて当然よ。あんな無茶をしたんだから、私としてはあれでも優しいくらいだと思うわ」

「うぅ~未来ぅ~」

 

容赦ない親友の言葉に涙目になりながらがっくりとうなだれる響。

先月リディアン音楽院を襲撃してきたエレメリアンの標的とされた未来を守るため、その身を挺した響だが。勇にただの自己犠牲で自己満足だと断じられ、自分のような生き方を真似るなと突き放されたのである。

彼を目標にしていた響にとって、それは己の存在を否定されたも同然のことであった。

以降、持ち前の明るさは鳴りを潜めてしまい。やたらため息が漏れるようになり、授業中でも上の空で先生に注意されることが頻回となっていたのである。

未来としても心配ではあるが。これを機に響が無鉄砲な生き方を改めてほしいというのが本音である。

 

「私としては憧れる気持ちはわかるなぁ。アニメに出てくるヒーローみたいでカッコいいし」

 

直接話したことはないが。エレメリアンが翼に倒された後に現れたインスペクターを、迎撃する勇を少しだけ見た弓美は自分なりの感想を述べる。彼女はヒーローもののアニメが好きであり、そのことも影響してテイルレッドのファンだったりする。

 

「ん~でもなんていうか近寄りがたい雰囲気だよね。あたしらとは住んでいる世界が違う感じがして」

「そうですわね。どこか寂しそうな印象を受けますわ」

 

弓美と同じように面識はないが。時折用務員として働く勇を見かけた際に受けた印象を創世と詩織も述べる。

実際彼女らの言っていることは間違っておらず。幼いころに母を目の前で失い以降自分を鍛えることに邁進し続けた結果、同年代と比較すれば驚異的と言えるだけの身体能力とメンタルを手にすることができた。

その代償として他者からは隔絶した存在として見られるようになり。その性格と見た目によって学生時代は人気こそあったが友人と言える者は少なく、色恋沙汰と言ったこととは縁がなかったのである。

 

「私はあの人の生き方は好きにはなれないな」

「未来…」

「あの人はどんな無茶をしても、必ず生きて帰ってくると言うけど。それでも待っている人は不安になるんだから…」

 

以前戦闘があった際、勇の妹であるユウキと共にシェルターに避難したことがあった。

他の人々が不安を隠しきれない中。彼女はそんな素振りも見せず、周りの空気に当てられ泣き出してしまった幼子を親の代わりにあやしたりしていたのだ。

どうしてそんなに落ち着いていられるのか気になった未来はふと、尋ねるとユウキはこう答えたのだ。

 

『兄ちゃんのことを信じているからね。何があっても兄ちゃんがボク達を守ってくれるってさ。それに父さんもこの島の基地の軍人さんですっごく強いんだよ!』

 

身振り手振りを交えながら笑顔で話すユウキだが、未来には彼女が無理をしているように見えたのだ。

どれだけ相手のことを信じられても、もしものことを考えない人間はいないのだ。一般人である響でさえ無茶をする度に、寿命が縮む思いをすることがあるのだ。今の時代軍人である家族を持つユウキともなれば、それ以上の想いをしている筈である。そして彼女の性格からして、それを誰かに話すこともしていないのだろう。

そう思った未来はユウキと連絡先を交換し合い、時折連絡を取り合うようになった。初めは他愛もない世間話だったが。自分が響の無茶に対する愚痴を聞いてもらっている内に、ユウキも勇に対する愚痴を話すようになり。今では互いの心の内を話合うようになったのである。とはいえそろそろ勇と既成事実でも作るべきかと相談された時は焦ったが…。

ともかく。未来としては、中学で凄惨な虐めを受けていた親友を救ってくれたことは感謝しているが。勇の過度な自己犠牲は、いずれ彼自身を破滅させてしまうのではないかと危惧しているのであった。

 

 

 

 

「は~い皆さん!今日からこのクラスの仲間となる人がいまーす!それではどうぞ!」

「朝田詩乃です。よろしくお願いします」

 

来禅学園二年四組。担任の岡峰珠恵(おかみねたまえ)の紹介で、黒板に丁寧な字で自分の名前を書いた詩乃は、正面に向き直りお辞儀をした。

男子生徒は「また美人キタ!これで勝つる!」や「いや、既に五河の毒牙にかかっている可能性が…」と喜びと不安を織り交ぜたようにざわつき。女子生徒はそんな男子を冷めた目で見つつも、新たな仲間を歓迎しているようであった。

過去の事件以降、排斥的な視線しか向けてこられなかった詩乃にとって。好意的な視線は新鮮でありながらも、多数の人々に注目されることへの不安もあった。

そのためか。ワイワイ騒ぐ生徒の中に見知った顔を見つけた詩乃は、無意識に安堵の息を吐いていた。桐ケ谷直葉――和人の妹で勇の勧めで始めたALOで何度か共に冒険をした友人である。

直葉は「頑張って」と口を動かしながら、両手でガッツポーズするようなジェスチャーでエールを送ってくれている。そのことに頷くことで感謝の意を伝えると、自己紹介を続けるのであった。

 

「はい、ありがとうございます。それじゃ朝田さんの席は殿町君の隣です!」

 

詩乃が自己紹介を終えると。ジャジャーン!という擬音が聞こえてきそうな勢いで、両手でクラスの窓側最後尾にある席を示す珠恵。

言われた通りに席に向かうと、隣の席に座っている殿町と呼ばれていた男子が。爽やかさを演出しようとしているのか、前髪をファサァとかき揚げると、無駄に白い前歯を光らせながらウィンクしてきた。

そのことに困惑しながらも席に着くと。待ってましたと言わんばかりに殿町が話しかけてきた。

 

「初めまして。殿町宏人(とのまちひろと)と申します。あなたのような美しい女性とご一緒できて光栄です。何か分からないことがあれば遠慮なく仰って下さい、僕でよければお力になりますので。あ、よければ放課後に校舎のご案内をしましょうか?」

 

彼なりに下心を隠しているつもりなのだろうが。過去の経験から人の感情に機敏になっている詩乃には嫌という程丸見えであった。いや、詩乃でなくてもバレバレであるのだが。とりあえず悪意はないことは理解できた。はっきり言って気持ち悪いのであるが。

 

「ありがとう。でも、他にお願いしてある人がいるから。ごめんなさい」

「なん…だと…。まさか、五河か!?五河なのか!おのれ五河ァ!やっぱりお前は死ねェェェェエエエエ!!!」

「なんでだよ!?!?」

 

直葉と同じクラスになることは事前に勇太郎から聞かれていたし。それならと直葉から校舎を案内してくれると申し出てくれていたので、やんわりと断ると。なぜか殿町が何席か前に男子生徒に掴みかかっていた。

 

「テメェ鳶一さんと夜刀神さんだけじゃ飽き足らず。彼女までその毒牙にかけたかァァアア!!」

「知らねぇよ!?冤罪、冤罪だから!」

「そう彼は私の恋人。もう浮気はしないと誓ってくれた」

「む、鳶一折紙!シドーの独り占めはさせんぞ!」

 

男子生徒が必死に弁明していると、両隣の女子生徒が言い合いを始めてしまった。

 

「あの~。まだHR中なんですけどぉ…」

 

詩乃が予想外の事態に面食らっていると。担任の珠恵が泣きそうになっていた。

 

 

 

 

「ふぅ…」

「お疲れ様です。詩乃さん」

 

校舎周りに設置されているベンチに腰掛けた詩乃が、自販機で買った飲み物を手にしながら一息つき。同じく飲み物を手にし隣に腰掛けている直葉が労いの言葉をかける。

あの後、休憩時間毎にクラスメートから質問攻めに合ったのだが。お世辞にも、他者とのコミュニケーションが得意とは言えないため四苦八苦するも。時折直葉がフォローしてくれたため乗り切ることができたのである。

 

「どうですか?この学園は」

「そうね。前の所より、何というか勢いがあるわね」

「ええ。ここに通う人達って皆で騒ぐのが好きなんで退屈しないんですよ」

 

学生の自主性を重んじる学園の方針もあるのか、他の学校と比べると基本的に学生のノリがいいのが特徴であり。普通なら許可されないであろう部活やサークルも多く、一度火が付くと学園全体で盛り上がることも珍しくはないのだ。最近ではテイルレッドブームがいい例であろう。

詩乃がついこないだまで通っていた高校でも、テイルレッドブームの影響はあったが。あくまで極一部の生徒だけであって、生徒会、果ては学園が主導となってブームを盛り上げるようなことは考えられなかった。

 

「(勇もそんなこと言っていたわね)」

 

転校が決まってから来禅について聞いてみると「一度火が付くととことん燃え上がる学校かな。俺が女装部に嵌められて暫く女装した時なんか…。ごめん、何でもない忘れて」と死んだ目で話していたのを思い出す。

 

「それは楽しみね」

「はい!一緒に楽しみましょう!」

 

これからのことに期待を膨らませる詩乃と、花が咲いたような笑顔を浮かべる直葉であった。

 

 

 

 

放課後の時刻。来禅学園大学部の校舎周りに設置されているベンチに俺は腰掛けていた。

 

「元気そうだな勇」

「そっちもね恭也」

 

隣に腰掛けているのは親友である高町恭也。互いの父親が親友同士であり、その縁から知り合い10年以上の付き合いがある。

今年から大学部に進学しており。互いに新しい環境での生活が始まったこともあったため、合う余裕がなかったがようやく時間が取れたので顔を合わせることにしたのだ。

 

「相変わらず無茶をしているようだな」

「あ~やっぱ分かっちゃう?」

「そんなに左腕を庇う動きをされれば嫌でも分かる」

 

プリンセスとの激闘から一ヶ月近くが経ち、ちぎれる寸前だった左腕も完治したが。それまで気にして動いていた癖が抜けていないんだよな。それを見抜くとはさすがである。

ちなみに言うと恭也は『小太刀二刀御神流』という流派の剣術の使い手であり。何度か手合わせしてるけど、勝ったり負けたりをずっと繰り返してるんだよな。

 

「言って聞く奴ではないのは重々承知しているが。程々にしておけよ。お前に何かあるとなのはが悲しむからな」

「そうしたいんだけどねぇ…」

 

俺もできれば危険なことはしたくないんだけど。状況が状況なだけにそうも言ってられないんだよな…。ほんと心配してくれる人には申し訳ない。

なのはと言うのは来禅の小等部に通っている恭弥の3人兄妹の末妹である。もう1人の妹は、竜胆寺女学院というこのブルーアイランドにある名門高校に通っている。

恭也の父親は昔はボディーガードとして世界中を飛び回っており。その際テロによって、瀕死の重傷を負ってしまい看病や実家で経営している喫茶店の切り盛りのため、当時幼いなのはの面倒を見切れない状況となってしまったのだ。

そこで父さんの提案で、なのはを家で一時的に預かり共に過ごした時期があるのだ。そのため俺にとっては妹同然の存在であり、彼女も俺をもう一人兄のように慕ってくれているのだ。

 

「てか、最近そのなのはを見かけないんだけど。どうかしたの?」

「ああ。お前には知らせていなかったが。なのはは管理局の要請で別世界に行っているぞ。テスタロッサや八神家の人達もな」

「え、マジで?いつからよ?」

「今年の2月頃からだ」

 

恭也から告げられた内容に驚愕してしまう。

そう。なのはは去年の夏頃に異世界から来訪した少年と出会ったことで魔導士となり、ロストロギアを巡る事件に巻き込まれ。その際知り合った管理局の勧誘を受けて協力者となったのである。

また。関わった事件で出会った同年代の魔導師の少女達や、その家族と一緒に活動しているのだ。

 

ロストロギア―

過去に何らかの要因で消失した世界、ないしは滅んだ古代文明で造られた遺産の総称。多くは現存技術では到達出来ていない超高度な技術で造られた物で、使い方次第では世界はおろか全次元を崩壊させかねないほど危険な物もあり、これらを確保・管理することが「時空管理局」の任務の一つである。

 

俺がそのことを知ったのは、年越し前に本人から告げられてからであった。俺自身はなのはが危険なことに巻き込まれるのには賛成しかねたが。最終的に恭也ら家族が本人の意思を尊重して認めたので、俺も応援することに決めたのだった。

 

「なのはがお前が立て込んでるから知らせない方がいいだろうと言ってな。だから黙っていたすまん」

「あいつめ。余計な気を使いおって…」

 

小学生のくせにやたら周りのことを気にかけるからなぁなのはは。大人び過ぎて、なんでも1人で解決しようとして抱え込むから困った奴だ。

え?俺に似てるって?ああ。そうだよ、俺に似やがったよチクショウが!あいつも響と同じく俺に影響を受けちまったんだよガッデム!

 

「まあ、それは仕方ないとして。なのはに要請が来るって相当不味いことでもあったの?」

 

なのはは魔導師として破格の適正を持っているそうだが、あくまで民間人である彼女に頼らねばならない程の事態となると碌なことではないだろう。

 

「なんでもアルティメギルに侵略されている世界を管理局が救援したいが、どうしても戦力が足りないらしい。そこでなのは達の力を借りたいそうだ」

「管理局も余裕がない訳か…」

 

インスペクターとアルティメギルといった脅威に対して、人類側は管理局を中心として抵抗しているが。長きに渡る戦いで消耗が激しく戦力不足に陥ってらしい。

そのため素質と本人の意思さえあれば、民間人でも積極的に戦力に加えていくのが現在の管理局の方針だそうだ。

 

「にしてもアルティメギルが相手かぁ…」

「まあ、心配しなくても大丈夫だろう。あの子は強い子だからな」

「そうなんだけど。アルティメギルは色々とアレなんだよなぁ…」

 

あいつら戦闘力以前に行動が衝撃的なところが多いからな。肉体よりも精神的なダメージで戦えなくなる人が多いって話らしいし。

とはいえ。なのはは一度決めたら最後まで貫き通す心の強さを持っている。アルティメギルが相手でも大丈夫な筈、多分、うん、きっと…。

 

「お~い。恭也~」

 

自分に言い聞かせていると。恭也のことを呼びながら同年代の女性がこちらに小走りで向かって来ていた。

 

 

「む、忍。どうかしたのか?」

「とくにはないんだけど。ただ会いたかったからなんだけど、迷惑だった?」

「いや、そんなことはない」

 

周囲のことなどお構いなしと言わんばかりに、少女漫画顔負けのやり取りをしているのは月村忍。一言でいうとすれば恭也の恋人である。

高校時代に知り合い紆余曲折あって結ばれ、実に仲がよろしい。俺が砂糖を吐くくらいには。

 

「勇も久しぶり。元気そうね」

「そっちもお変わりないようで安心したよ」

 

彼女とは高校に入ってから知り合い、3年間3人共同じクラスだったので、学校にいる時は一緒に行動していることが多かった。他のクラスメートと違い、俺のことを特別視しないで接してくれたので貴重な友人である。

 

「それはそうと。最近すずかと会ってないでしょ?寂しがってるわよあの子」

「あ~やっぱり?」

 

すずかとは忍の妹でありなのはの親友の1人である。彼女らが仲良くなったのが、俺達が知り合ったきっかけでもあるのだ。

ちなみに言うと忍の実家は日本有数の資産家であり。そのため妹のすずか共々命を狙われることも少なくなく、一度すずかが誘拐される事件が起きた。その現場をたまたま出くわした俺が助け出して解決したんだが。それ以来すずかは俺に懐くようになった訳だ。

 

「最近は時間に余裕もできてきたし。今度会いにいくよ」

 

今の生活にも慣れてきたし。一夏の方も、最近はオルコットが傍にいてくれるようになって安心できるようになったからな。まあ、おかげで箒と修羅場るようになったけど。俺はそこまであの朴念仁の面倒は見切れん。

 

「そうしてあげて、すっごく喜ぶから。なんならデートに誘ってもいいわよ」

「なんでやねん」

 

いや、意味は分かるよ。でも、10歳近く歳離れた小学生相手にそれはね、世間の目がね、不味いでしょう。

 

「妹にも手を出しているスケコマシが何を今更…」

「はっはっはっはっ!よーし恭也、久々に手合わせしようや!」

 

呆れた顔で心を読んで名誉棄損してくる親友の胸倉を笑顔で掴む。

こちらとら好きでやってる訳じゃねぇんだよ。結果的にそうなってしまうだけなんだよ。冗談でもそういうことを言うんじゃねぇよ、おう。

 

「別に冗談ではないのだが?」

「よ~し。今日はとことん殴っちゃうぞぉ!」

 

今日は血の雨が降るぜヒャッハー!

 

「恭也。あんまり勇をからかうと止めるのが大変なんだけど?」

「どうにも楽しくてな。すまん忍」

 

連続で拳を打ち出すがひらひらと躱されてしまう。チィッやはり回避に徹せられると当たらんな!

 

「あらあら。いつも仲良しね天道君達は」

 

本気を出そうとした矢先。聞き覚えのある声がしたのでじゃれ合いを止めてそちらを向く。

 

「どうも恋香さん。お久しぶりです」

 

声をかけてきたのは津辺恋香さん。現在大学部2年生で高校時代の先輩であり、そしてあのバーサーカツインテールこと、津辺愛香の姉でもある。

容姿抜群で性格も家庭的で面倒見もよく。誰からも慕われる尊敬できる人である。

 

「久しぶりね。いつも愛香がお世話になってるわね」

「お世話と言うかあいつが勝手に絡んでくると言いますか…」

 

やたらタフだから相手にするの疲れるんですよ。

 

「口ではああ言っているけど。同い年の子だと張り合える相手がいないから、あなたのことを頼っちゃうのよ」

 

でしょうね。素手で熊を殴り倒せる人間なんてそうそういませんから。

まあ、俺は恭也がいたから相手には困らなかったが。津辺はそこら辺が恵まれていないからな。だから適度に相手してやってる訳なんだが。

 

「お前も口では何だかんだ言っても彼女の面倒を見ているよな」

「いやぁ。どうにも放っておけないんだよ。何をやらかすか分からん的な意味で」

 

恭也の言葉に苦い顔をしながら頭を掻く。

あいつを放っておくと、取り返しのつかないことになりそうなんだよね。テイルブルーのような存在になりかねん。

この一月間にもアルティメギルの侵攻は続き。何度かエレメリアンが現れるも。俺達遊撃隊と、ツインテイルズによって全て撃破されている。

その際、ブルーの戦いを見てきたが。慈悲という言葉を母親の腹に置いてきたかのような、余りにも容赦が無さすぎる戦い方に。アミタなんかひどい、とエレメリアンに同情していしまう程である。

そのため世間ではテイルブルー=野獣と言う図式が出来上がり、メディアではレッドの特集が毎日のように組まれているのに、ブルーは数秒でも画面に映ればいい感じになってしまっている。

フォクスギルディの件はあるが。流石に見ていられないので、もう少し戦い方を見直すべきだと忠告するも。敵につけ入れられる隙を与えるだけだと、一向に聞き入れてもらうえない。あの頑固さは津辺といい勝負をするであろう。

 

「ん?」

 

そんなことを考えていると。ポツっと鼻先に冷たい物が触れる感触がした。

 

「あ、雨だ」

「あらあら」

 

空を見上げながらポツポツと降り出した雨を両手のひらで受け止めて確認する忍と、困った様子で片手を頬に添える恋香さん。恐らく干していた洗濯物を心配しているのだろう。かく言う俺もそうなのだが。

雨は勢いを増していき。俺達は慌てて近くの校舎に避難する。

 

「予報だと雨は降らないって言ってたんだけどね。最近外れること多くない?」

「確かにそうだな」

 

忍が天気予報に愚痴り、それに恭也も同意する。確かにここ最近雨が突然降りだすことが多くなっているな。

 

「お洗濯ものが…」

「全滅ですな。これは…」

 

家でおきている惨劇にしょんぼりとする恋香さんと俺。恋香さんの家は両親が海外出張のため、姉妹ふたり暮らし状態であり、家事は専ら恋香さんが担当しているのだ。そのため俺とよく家事について話したりもする。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

「ッ!警報!?」

 

しかも空間震となると精霊か!

 

「恭也、忍と恋香さんを連れて避難してくれ!俺は仕事の時間だ!」

「分かった気をつけろよ!」

「おう!」

 

恭也の言葉に右手の親指を立てて応えると、現場に向かうために駆け出すのであった。


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