ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第三十二話

「おらぁ!」

 

ネフシュタンの鎧を纏った少女が、両肩部の鞭状の突起を翼へと連続で突き立てる。

それを避けるか刀で弾きながら距離を詰めていく翼。攻撃の合間を縫って小太刀を投げつける。

ネフシュタンの少女が小太刀を横に跳んで回避すると、着地の瞬間を狙って斬りかかる。鞭状の突起で受け止められ拮抗する。

 

「貴様、どうやってその鎧を手にした!」

「ハッ!テメェに教える義理はねェ!」

 

強引に翼を押し返すと、ネフシュタンの少女は手の平にエネルギー弾を生み出し投げつけた。

翼が光球を切り払った隙に、ネフシュタンの少女が手にしていた杖と見られる物を掲げると、杖の先端から放たれた光からノイズが出現した。

 

『あれはソロモンの杖!彼女がノイズを操っているのか!』

 

少女が手にしていた杖を見た弦十郎が驚愕の声をあげる。

ソロモンの杖はネフシュタンの鎧同様、消息不明となっていた完全聖遺物であり。ノイズを制御する力があるとされている。恐らくこの場に出現したノイズが統率の取れた動きは、少女が杖で操っているためであろう。

 

「ネフシュタンの鎧だけでなく、ソロモンの杖まで。お前は何者だ!ファントム・タスクなのか!?」

「違うね。あいつらとは仕方なく手を貸しているだけだ、一緒にすんじゃねぇ!」

 

襲いかかるノイズを蹴散らしながら翼が問いかけると、少女は険悪感を滲ませた表情で吐き捨てた。

 

「それではお前は一体…!」

「だぁから、答える義理はねぇって言ってんだろうがぁ!」

 

正規の組織以外で、完全聖遺物を二つも所有できるのはファントム・タスクだけだと考えていたが、少女は真っ向から否定した。

少女が片手に巨大なエネルギー弾を生み出す。それに対抗するために刀を大型化させる。

 

「おらああああ!」

「はあああああ!」

 

少女が放ったエネルギー弾と、翼が振るった大剣の斬撃がぶつかり合い大爆発を起こした。

 

 

 

 

「往きなさい、ティアーズ!」

 

セシリアの意思で捜査されたビットがエムを包囲すると、一斉にビームを発射する。

どこから攻撃されるのか分かっているかの様に、僅かに身体を逸らすだけで回避すると、手にしているライフル『スターブレイカー』のトリガーを引く。

放たれたビームが1機のビットを貫き爆散させる。

 

「ッ――!」

 

容易くビットを撃破されたことに歯を噛み締めるも、すぐに残りのビットを操作し再度攻撃させると同時に、自身もライフルを放つ。

 

「……」

 

次々と迫るビームを冷めた目で見ながら悠々と回避すると、自身のビットを起動させるエム。

エムの操るビットがセシリアのビットに襲いかかる。

 

「くっ――!」

 

セシリアがビットに迎撃を命じるも、元々のビットの数がゼフィルスの方が多く、技量もエムの方が遥かに高く瞬く間にセシリアのビットが撃破されていく。

 

「まだ。まだですわ!」

 

それでもセシリアは諦めずに、ライフルのトリガーを引いた。

 

 

 

 

「ぐっ…!?」

 

迫る刃をサーベルで受け止めると、続けて顔の側面目掛けて放たれた蹴りを、上半身を逸らして避ける。

 

『ラピッドトリガー!』

「がっ!?」

 

連射された光弾が装甲を穿っていく。急所は避けたが、少なくないダメージを受けてしまう。

 

「ええい、やむをえんか!」

 

戦いたくはないが、このままやられる訳にいかんのだ!

ショットガンを構えて発泡するも、弾丸がバラけきる距離までバックステップ後、再度キリエが斬りかかって来る。

 

『そいやぁ!』

「セィ!」

 

互いに振るった刃がぶつかり合い火花を散らす。パワーはこちらが上だが…。

 

「うおおお!」

 

こちらが振るう刃は全て避けられ、逆に相手の刃がこちらを捉えてくるのを防ぐ。やはり速さは向こうが上か。なら――

 

「おぉおおおお!」

 

左腕のサークル・ザンバーを起動し、盾の様に構えながら突撃していく。無論キリエは迎撃のため魔力弾を連射してくる。

迫り来る魔法弾を受け止めながら前進していく。このままでは止められないと判断しただろうキリエは、射撃を中止し魔力のチャージを開始する。

 

『ファイネストカノン!』

 

高密度の魔力弾が放たれた。連射で動きを抑えられていた俺は避けることができないので、ザンバーで受け止める。

 

「ぐ、おオオオオオオラァ!!」

 

左腕を力の限り振るうと、魔力弾は明後日の方向に飛んでいった。

 

 

『嘘ぉ!?』

 

キリエが信じられないと言った顔をしていた。俺も上手くいくか自信が無かったので、内心驚いている。

ブースターを全開にし、高出力の魔力弾を放った反動で、動けないでいるキリエへと突っ込んでいく。

 

「もらう!」

 

死なない程度に出力を抑えたザンバーを、彼女の胴体目掛けて横薙ぎに振るう。

回避も防御も不能なタイミングでの一撃。だが俺は勝利を確信してはいなかった。まだ彼女には切り札(・・・)があるのだから。

ザンバーの刃がキリエに触れる直前。彼女の姿が消えた――

 

「ッ――!」

 

背後に敵意を感じて、腕を振り抜いた状態からブースターとスラスターを吹かし、強引に身体を前のめりになると。瞬間移動でもしたかの様に、背後に回っていたキリエが、両手のヴァリアントザッパーを連結し変形させた両手剣が背中を通り過ぎた。

無理やり重心を前に移動させたために、頭から地面に突っ込みそうになったので、さらにブースターを吹かして勢いを増すと、身体を丸めて地面を無様に転がっていく。

 

「ぐっ――」

 

だが休んでいる暇は無い。すぐさま身体を起き上がらせると、迫る敵意に向けて両手のサーベルを振るう。

前、右、左、後ろ、真上。180°俺を包囲する様に襲いかかってくる斬撃と魔力弾の嵐を防いでいくも、防ぎきれなかったのが装甲を穿ち肉体を傷つけていく。

 

「がぁ――!」

 

猛撃の嵐が止むと片膝を突く。同時に正面にキリエの姿が現れる。

 

『…アミタと知り合いみたいだから、あたしの手の内は知られてるとは思っていたけど。まさか、『アクセラレイター』を耐えられるとはね…』

 

キリエが素直に賞賛する様に語りかけてくる。だが体力が限界なためまともに返事もできやしない。

アクセラレイター――ギアーズであるフローリアン姉妹が使える高速移動能力。アミタとの模擬戦をさせてもらった際に体験していたので、対応することができた。

やはりと言うべきか。アミタは加減をしてくれていたので、防ぎきることができたが。全力でやられた場合は、致命傷を避けるので精一杯であった。初見だったら確実にやられていたな。

 

「ホント、アミタ…には、感謝…しないとな」

 

妹と戦うことになった場合に備えて、無理言って模擬戦させてもらったからな。大切な家族を、傷つけることになることを手伝う彼女の気持ちは、複雑だっただろう。本当に申し訳なく思っている。だからこそここで負ける訳にはいかんのだ!

 

「ぐ…ぉ、ぉぉぉおおおおおお!!!」

 

激痛の走る姿に鞭打ってキリエへと突撃する。対するキリエの動きは鈍い。魔力弾を生成する速度が目に見えて遅くなり、精度も極端に落ちていて俺に掠りもしない。

強力な能力であるアクセラレイターだが、無論欠点はある。身体への負担が大きく、限界まで能力を使用すると身体機能が著しく低下し、3分間のインターバルを挟まなければ再使用ができなくなるのだ。

ダメージこそ俺の方が大きいが、状況は互角。いや、後一撃だけ全力で攻撃できる俺の方が有利と言えよう。

 

「俺の…勝ち、だぁ!!」

 

サーベルを振り上げて切りかかろうとした瞬間――衝撃と共に真横に吹き飛ばされた。

 

「がぁあああ!?」

 

受けみも取れず地面に叩きつけられて、地面を削りながら滑る。

 

「ぐ…お、おお…」

 

俺を吹き飛ばしたのはノイズだった。彼女だけに集中し過ぎて周囲の警戒を怠っちまったな…。

迫り寄ってくるノイズに、ショットガンを放とうと腰の後ろ側に手を伸ばすも、先程のキリエの攻撃によって破壊され失われていた。ザンバーも機能不全を起こしているな。

フラつきながらも起き上がると、空拳だが構える。サーベルは先程の衝撃で手放してしまった。

 

「あきら、めるかよぉ!」

 

こんな所で死んでたまるかよ!死ぬときは老衰て、決めてんだこちらとらぁ!

 

「があぁあああぁあああ!!!」

 

迫るノイズの一体を手刀で貫くと、別の個体の顔側面に蹴りを叩き込む。

数体のノイズが自身を細長い針の様に変化させると、弾丸の如く突っ込んできた。ステップで避けようとするも、脚に力が入らず無様にずっこけてしまうが、結果的にノイズが頭上を通り過ぎたので回避できた。

急いで起き上がろうとするも、力が上手く入らず膝立ちが精一杯だった。

無論ノイズが見逃してくれる訳も無く、覆い尽くすかの様に襲いかかってきた。

 

「俺はぁ…!」

 

まだ死ねねぇんだよぉ!!!

拳を握り締めて抵抗しようとした時、上空から降り注いだ光弾がノイズを撃ち抜いていった。

 

『わああああああああ!!!』

 

空から降りてきたアミタが鬼気迫る顔で、両手に持った両手剣形態のザッパーでノイズを切り伏せていく。

 

『勇君を…』

 

左手のザッパーを銃形態に変えて発砲し、怯んだノイズを右手のザッパーで切りつける。

 

『これ以上、傷つけるなああああああ!!!』

 

両刃剣に変形させたザッパーの回転切りでノイズを薙ぎ払ったアミタ。なんと言うか気迫が凄くて怖いです…。

 

『勇君!』

 

周囲のノイズを殲滅したアミタが、俺を庇う様に立ちキリエと向き合った。

 

「アミタ…君がどうしてここに…」

『ここにキリエがいる気がして、それで…』

 

それで飛び出して来たのか。姉妹だから感じ合えるものがあるのか?

 

『アミタ…』

『キリエ、どうしてこんなことを!この世界の人達には迷惑はかけないって言ったじゃない!』

『…あの時のあたしは覚悟が足りてなかった。例えこの世界の人達に恨まれようとも必ずエグザミアを手に入れてみせる。そしてお父さんに、自分の研究が間違ってなかったことを、その目で見てもらうの!』

『駄目だよキリエ。そんなことお父さんは望まないよ!そんなんじゃお父さんが悲しむだけだよ!』

『それでも、あたしは!』

 

キリエが銃口を向けるとアミタも銃口を向け、互いにトリガーに指をかけた。

 

『キリエェ!!!』

『アミタァ!!!』

 

互いにトリガーを引こうと瞬間。俺はアミタを押しのけた。

 

「ダメだああああああああ!!!」

『勇君!?』

 

なんで姉妹で戦わないといけない!?あんなに妹のことを楽しそうに話していたアミタが、なんで妹を傷つけないといけないんだよ!そんなの間違っているだろ!だから俺が彼女を止める!!

 

「おおおおおおお!!!」

 

キリエが放った魔力弾を左腕のザンバーの基部で受け止める。基部が装甲ごと爆散し肉体を焼き激痛が走るも、歯を食いしばってキリエへと突撃する。

俺の動きに対応できていないキリエへと手を伸ばす。このまま彼女を抑える。それで終わりだ!

 

『そうはさせん』

「ッ!?」

 

低空で飛んできた1号機が俺とキリエの間に割って入ると、腕を掴まれて動きを抑えられてしまう。

 

「お前は!」

『部下をやらせる訳にはいかんな』

「何を!」

 

残った腕を伸ばすと、手の平を合わせる様に掴まれ、取っ組み合いの状態になる。

 

「なぜ彼女を巻き込んだ!?姉妹同士で戦うことになにも感じないのか外道が!」

『お前の言うことは正しい。だが――』

 

言いながら1号機が頭を振り上げた。まさかこいつ――!?

 

『正しさが必ず人を救うとは限らん!!!』

「がぁ!?」

 

振り上げた頭を俺の額にぶつけられ、その衝撃で仰向けに倒れてしまう。

 

『ヴォルフ!?』

『任務中はシャドウ1と呼べシャドウ4』

『あ、ごめん。じゃなくて、あんたその傷!』

 

キリエが、ヴォルフと呼んだ男の胴体に刻まれた傷を見て顔を青ざめている。

 

『かすり傷だ問題無い。それより任務に失敗した。撤退するぞ』

『え、あ。わ、分かった』

 

動揺しているキリエを連れて1号機が空へと飛んでいった。

俺はそれを地面に倒れたまま見ているしかできなかった。

 

 

 

 

「はぁ?撤退だぁ!?」

『そうだ』

 

ヴォルフからの通信に声を荒げるネフシュタンの少女。その間にも翼からの攻撃は続いており、後方に大きく飛んで一旦距離を取った。

 

「あたしがお膳立てしてやったのに、何ヘマこいてんだテメェ!」

『それについては謝罪しよう。だが機を逃した。これ以上は得をせん。そちらも撤退を勧めるが?』

「冗談じゃねぇ!それならあたしが精霊を――」

 

言葉の途中で危機を感じたので、その場から飛び退くネフシュタンの少女。

 

『ぬぅん!!』

 

降下してきた勇太郎の駆るM型ゲシュペンストが、プラズマ・ステークを起動させた左腕で、ネフシュタンの少女がいた地面を殴りつけた。

 

「チィッ!」

 

ネフシュタンの少女が鞭状の突起を勇太郎へと振り下ろすが。横へ身体を逸らして回避するとマシンガンで反撃される。

 

「クソがッ!」

 

直撃しているが鎧で弾丸が弾かれる。だが衝撃までは殺せず、不快感に舌打ちするネフシュタンの少女。

周囲をよく見ると、学園周囲に展開していたPT部隊が次々と集まってきていた。恐らく学園周辺のノイズは殲滅されたのだろう。

 

「…こりゃ、ずらかるしかねぇか」

 

流石に撤退するしかないと判断したネフシュタンの少女が、牽制のエネルギー弾を放つ。

 

『逃がさん!』

 

エネルギー弾を避けつつ追撃しようとする勇太郎らへ、ネフシュタンの少女はソロモンの杖によって呼び出したノイズを壁とする。

 

「待て!」

 

翼がノイズを無視して、ネフシュタンの少女を追いかけようとするも、無防備となった背後をノイズが襲いかかろうとする。そのノイズを勇太郎がプラズマカッターで切り払った。

 

『追うな翼君!』

「しかし!」

『ネフシュタンの鎧を取り戻したいと言う君の気持ちは理解できるが、無理をさせる訳にはいかん。大丈夫だ彼女はまた現れる。今は目の前の敵に集中するんだ』

「…分かりました」

 

勇太郎の言い分に納得した翼は、襲いかかってくるノイズを斬り伏せるのであった。


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