ブルーアイランドに建設された連合軍基地。
その一室に一人の長身で茶発のウニ頭が特徴的な男性が椅子に腰掛けており、デスクを挟んで一人の女性と、その隣にまだ幼さが残る一人の少女が立っていた。
椅子に腰掛けている男性の名は天道勇太郎、勇や木綿季の父である。
当基地のPT隊の隊長を努めており階級は少佐で、かつては特殊戦技教導隊と呼ばれる部隊に参加し、PTの開発に深く関わっており、軍内部で広く名が広まっている人物である。
パーソナルトルーパー―
通称PTと呼ばれる、南欧のマオ・インダストリー社が開発したパワードスーツである。
ISや
30年前に生み出された、コンピューター上での演算結果を物理法則を歪めて現実世界に再現する、いわば科学技術を持って「魔法」を再現する技術および装置の総称である。
「今日届く新型のPTだが、予定通り1号機は俺が装着し、2号機は鳶一軍曹に装着してもらう。問題はないな軍曹?」
「ハッ問題ありません少佐」
勇太郎の問いかけに、少女鳶一折紙が敬礼しながら答える。
「この新型はCR-ユニットと同様に扱える筈だが、最初は操作に戸惑うだろう。そこら辺も含めて気にかけてやってくれ日下部大尉」
「了解しました少佐」
今度は折紙の隣に立っていた日下部燎子が問いかけに答える。
彼女達は
CR-ユニット―
防護服である着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)と武装が小型のデバイスに格納されており、起動するとこれらを瞬時に装着することが出来る。標準装備として、ワイヤリングスーツに搭載されている基礎顕現装置が発動すると同時に自分の周囲数メートルに見えない領域「随意領域」(テリトリー)を展開する機能がある。随意領域は文字通り、使用者の思い通りになる空間でありCR-ユニットの要でもある。
ユニットの使用適性を持つ者はごく少数で、かつユニット使用のためには頭部に脳波を増幅させるための機械を埋め込む必要がある。そのため、折紙のような未成年者も適性が認められれば隊員として徴用される。しかしなぜか、適正者は女性が多く、ISのことも含め一時期各国は女性優遇制度を採用していた。
そのため男性からの不満は強く、PTが開発され男女平等化するまでは女性優遇に反対する者達によるテロ行為が頻発しており、今尚社会問題として残っている。
「昼頃には届く筈だから、今の内に受け入れ準備を整えてくれ。伝達事項は以上だ」
「ハッ失礼します」
燎子と折紙が敬礼して退出していくのを見送っていると、電話機から内線を伝える報告音が鳴る。
「天道です。ああ、医務室か、昨夜保護した少女が目を覚ましたのか?ふむ、分かった、今からそちらに向かう」
そう言って受話器を置くと椅子から立ち上がり、医務室へと向かうのであった。
勇太郎の部屋から退出した燎子と折紙は、通路を歩きながら話し合っていた。
と言っても、燎子が話しかければ折紙が答えるといった感じで、折紙から話しかけることは無いのだが。
折紙は普段から必要以上のことは喋らないので、燎子としてはもう慣れたことではあるが。
「それにしても、新型の装着者に選ばれるなんてよかったわね。あんたの頑張りが評価されたってことよ。もっと喜んでもいいと思うけど」
「戦力を充実してくれるなら何でも構わない」
燎子が褒めるが、折紙は表情を変えることなく淡々と返すだけだった。
「あんたねぇ、もう少し他人とコミュニケーション取ったほうがいいわよ?たまには他の隊員と遊びに行くとかさ」
「任務に差し支えなければ問題ない。それより訓練をしていた方が効率的」
「効率的って機械じゃないんだから…」
実際、折紙が誰かとつるんだりする姿を燎子は見たことがない。
非番の日も訓練室に篭っており、常に無表情で感情を表すことがなく、初めて会った時なんかは本当に人間なのか疑ってしまった程である。
「まあ、あんたの生き方にとやかく言うつもりはないけど、たまには他の誰かに頼りなさいよ?」
「了解」
相変わらず眉一つ動かさずに淡々と答える折紙に、本当に分かってるのか?と思うがこれ以上言ってもしょうがないので口には出さない燎子であった。
「(新型のPT…。それがあれば、精霊をお父さんとお母さんの敵を討てる!)」
そんな中、折紙の瞳には怨嗟の炎が灯っていたことに燎子は気づいていなかった。
勇視点
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
家族で夕飯を食べていたら、庭に女の子が落ちてきたんだ。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれも(ry
「大丈夫?兄ちゃん」
「あ、うん。大丈夫だよユウキ」
いかんいかん。現実逃避していたら妹に心配させてしまったでござる。
意識を失っていたので、取り敢えずユウキの部屋のベットに寝かせ、父さんに連絡しておいた。
そしたら、直ぐに父さんと軍の人達がやって来て、軍の医療施設に移送することとなった。
何でも異世界渡航者と言う、異世界からやって来た可能性が高いとのことらしい。しかも、正規の手続きを踏んでいないかもしれないと父さんは話していたな。
「あの子大丈夫かなぁ」
「心配なの兄ちゃん?」
「ん、まあ。助けた身としてはねぇ」
「ふーん」
何さそのジト目は。人の心配しちゃいかんのかい?
「おじさんが来るまで、ずっとあの人を看病してたよね勇。私達が代わるって言っても聞かなかったし」
詩乃までジト目でこっちを見てくる。何ですかこの尋問されている容疑者みたいな扱いは。
「女の子に夜更かしさせる訳にはいかんでしょう。こういうのは男の仕事だからね」
おかげで目にクマができたけどね!
「ほら、ご飯できたから食べようよ」
「「は~い」」
揃って返事をすると席に着く二人。たくっ朝から疲れちゃったよ主に精神的に。
その後、まったりとご飯を食べていると電話が鳴り出した。
「はい、天道です」
『おう、父さんだけど』
「ああ、おはよう父さん」
電話の相手は、我が家の大黒柱天道勇太郎だった。最近は何かと忙しいみたいで中々帰ってこれず、昨日もゆっくりと話すことができなかったから、久々に声を聞いたな。
「どうしたの?タンスに足の小指ぶつけた?」
『いや、そんなことでいちいち電話しないから。昨日お前が保護した子が目を覚ましたんだよ。怪我も大したことはないそうだ」
「ほんとに?よかったぁ」
どうやら昨日助けた子は無事のようで安心する。助けた身としてはずっと気がかりだったからね。
『ああ、それでお前さんに礼が言いたいそうだ。今から迎えを寄越すから
「え、いいの?取り調べとかあるんじゃないの?」
『どうやら訳ありみたいでね。お前さんに会っておいた方が話しやすいだろうってことになったのさ』
「そうなんだ。分かったじゃあ、そっちに行くね」
『おう、待ってるぞ』
電話を切ると出かける旨をユウキと詩乃に伝えると、ユウキも父さんに会いたいと付いて来たがるが、流石に今回は無理なのでプリン十個買ってくることで我慢してもらった。
そして準備を済ませ暫く待っていると迎えの車が到着し、乗り込むと基地へ向けて出発するのだった。