作戦終了後、行方不明となった少年を捜索していたが、本部から派遣された部隊によって保護されたそうなので帰還することとなった。
保護した部隊については、機密性の高い任務に従事しているので詳細は不明とのことだが、何か引っかかるが気にしても仕方ないか。
「修復にどれくらいかかりそう?」
格納庫で修復中のMK-Ⅱの前で、横に立って端末をいじっている整備員であるミリィ(ミルドレッドの愛称)に問いかける。
「軍曹の受身がよかったおかげで、フレームや内部へのダメージが少ないので内部の点検と装甲の交換で済みます。徹夜で突貫すれば明日には直ってますよ」
「悪いねできることは手伝うよ?」
「いえ。それが整備士の役目ですので、軍曹はゆっくり休んでいてください。休める内に休むのも装着者の任務ですよ?」
確かにミリィの言う通りか。機体が万全でも肝心の装着者がへろへろじゃ意味ないもんな。
「分かった。そうさせてもらうよ
「それで、新しい装備の具合はどうですか?」
「すぐに破損しちゃったけど、サークル・ザンバーはいい感じだと思うよ」
精霊には鉄壁の防御力を持つ霊装を纏っているので、アサルトライフルみたいな手持ち火器では貫けないし、ミサイルなんかは迎撃されてしまうので近接戦闘が有効とされている。
なので、MK-Ⅱの装備を攻防一体の斬撃武器サークル・ザンバーを追加し、フォトン・ライフルをショットガンに変更した訳なんだけど、今回は民間人救助のために両方共お釈迦にしてしまったので殆ど効果を確認できなかった。
でもサークル・ザンバーは一撃だけだがプリンセスの攻撃を凌げたし、十分に役立つだろう。あれがサーベルだったら両断されていたよ。
「追加戦力と連携が取れないい以上、決定打に欠けるのはいかんともしがたいか…」
一応Gインパクト・キャノンがあるけど、あれは大多数の敵を一網打尽にするか対艦用装備なので、まず当てられる自信が無い。
高威力の近接武装が欲しいところだなぁ。後装甲と推進力もあればいいんだが。
「あ~助っ人のお二人ですか。隊長のお説教も馬に念仏でしたからねぇ」
チームワークのチの字も無かった風鳴とオルコットに隊長が注意していたが、取り付く島も無いって感じだったな。
「ま、あの二人の境遇を考えれば分からんでもないがね」
話によれば、風鳴は2年前にパートナーであった天羽奏を失ったことで、大切な人を失うことを恐れ人と距離を取る様になった。
そして仲間を死なせてしまった自責の念から自らを「防人」として感情を捨て、ひたすらに戦い続けている。
オルコットは名門貴族の生まれで、過去に両親を列車の事故で亡くしたことで当主となったそうだ。
だが、幼い彼女に従う者は少なく、引き継いだ遺産を狙おうとする者の方が多かったらしい。そんな奴らを黙らせるには力を示す必要があった。
それこそ1人で精霊を倒せる程の力が必要と考えているのだろう。
「こればっかりはすぐにどうこうできるもんでもないし、上手く付き合っていくしかないねぇ」
あの二人が今後の作戦のキーマンになるのは間違いないし、俺らでフォローするのが最善か。
「勇」
「ん、折紙どうしたのさ?」
背後から声をかけられたので振り返ると、折紙が立っていた。どことなく落ち込んでいるみたいだった。
「…ごめんなさい」
「ん?」
「私のせいでプリンセスを討ち取れる機会を逃してしまった。あなたが命懸けで作ってくれたのに」
「ああ、そのことか。あんな形で横槍が入るなんて誰も思わないって気にするなよ」
どうやら自分のせいで作戦が失敗したと思ってる訳か。とは言え助けた民間人から妨害されたのでは、誰も責める気にはなれなかった。
「にしても彼、五河士道って言ったけ?君の命の恩人の」
「そう。私に残された心の拠り所」
拠り所か、家族を目の前で失った彼女は、命の恩人である彼を支えとして今まで生きてきたのだろう。
そんな彼と精霊との戦いの中で再会する。何とも奇妙な巡り合わせだな。
「皆聞いて!天道少佐より招集がかかったわ!機動兵器搭乗者は各自着替えたらブリーフィングルームに集合して!」
『了解!』
隊長の指示に応えると、慌ただしく動き出す隊員達。
「えらく急ですね。一体何でしょうか?」
「分かんないけど、碌なことじゃなさそうだねぇ」
周りを見るとPTパイロットも慌ただしく動いていることから、全機動兵器搭乗者に招集がかかったみたいである。
「とにかく行こうか折紙」
「ええ」
ミリィと別れると折紙を連れて格納庫を後にするのであった。
大人数用のブリーフィングルームにはAST以外にも、各PT隊員や風鳴とオルコットらも集まっていた。
「皆作戦終了後の突然の招集すまない。だが、非常事態が発生してしまったのだ許せ」
壇上に立つ父さんがそう前置きを置く。非常事態と言う言葉にざわつく一同。
「本日我々が作戦行動中に、天宮市スクエアにインスペクターとは別の敵対勢力が現れた。そしてそれを撃退した未確認の戦士についてだ」
異なる侵略者。この言葉にざわつきはさらに強くなった。ただでさえインスペクターとの戦いが始まったばかりなのに、次なる敵が現れれば当然の反応と言える。
そしてそれを撃退した戦士と言うのも気になる。目的が不明な以上味方になるとは言えないからである。
「まずはこの映像を見て貰いたい」
父さんがそう言うと部屋の照明が落ち背後のモニターに光が点った。
モニターに映されたのは特撮にでも出てきそうな、二メートルは有に超えそうなガッシリとした人型の体格のトカゲだった。
天宮市スクエアはブルーアイランド最大のコンベンションセンターなので、何かの撮影かと思えた。だが、トカゲが近くにあった車を蹴り飛ばすと、車が見るも無残にひしゃげて吹き飛んでいくのを見て、紛れもなくこの世に実在しているのだと認識させられた。
そしてトカゲの怪物が口を開き――
『ふははははは!!この世界の生きとし生ける全てのツインテールを、我らの手中に収めるのだ――――!!』
『………』
ざわついてた室内が静寂に包まれた。
隣に座る折紙以外、皆一様にどう反応したらいいのか困惑している顔をしていた。
いやいやいや。ツインテールって何よ!?あれか怪獣のあいつか!?
「あ、こいつの言っているツインテールは怪獣のじゃなくて髪型の方な」
そっち!?どういうことだよ!見た目と言ってることが滅茶苦茶すぎるだろ!?
「この怪物について時空管理局から情報が回ってきた。エレメリアンと呼称されている人間の
属性力と言う聞いたことのない言葉に首を傾げる一同。
「えー属性力って言うのは、簡単に言えば人間の心の力だそうだ。例えば年上か年下が好きと言ったのや、犬や猫が好きと言ったそれらに関する愛情や執着が精神エネルギーとして凝縮した物だそうだ」
手元の用紙を見ながらたどたどしく説明を行う父さん。恐らく自身も理解しきれていないのだろう。
「エレメリアンはその属性力を糧にしていて、それを奪うために数多の次元世界へと侵攻しているそうだ」
そう言うとモニターの映像が切り替えられ、一人の少女が映し出されたってあれって神堂じゃん!?
映し出されたのは来禅学園高等部生徒会長である神堂慧理那だった。
いかにも雑魚戦闘員にしか見えない姿をした連中が、神堂を機械でできた輪の前へ連行していく。
すると輪が神堂へと迫っていき、輪をくぐると特徴的だったツインテールがほどけてしまった。
ただ髪がほどけただけのはずなのに、まるで大切な物を奪い取られたかの様な恐怖感に襲われてしまった。
他の隊員達も同様なのか再びざわつき始めていた。
「今流したのは奴らが属性力を奪う瞬間だ。この機械の輪に奪った属性力が保存され、奪われた属性力は約24時間以内に奪還しなければ永遠に戻らなくなるとのことだ」
「少佐。属性力を失った者はどうなるのですか?」
「死ぬことはないが何にも打ち込むこともなく、ただ生きるためだけに活動する様になる」
つまり心が死ぬみたいなものか…。それは生きていると言えるのだろうか?
「そしてエレメリアンで構成された組織が”アルティメギル”である。こちらもインスペクター同様その規模は不明となっている」
今の地球は、複数の次元世界を同時に侵略できる力を持った二つの勢力に狙わらわれたって訳か。
それに精霊やノイズと言った認定特異災害に亡国機業と言った、反連合勢力も相手にしなければならないとなると、かなり深刻な事態になってしまったな。
「次にそのアルティメギルを撃退した戦士がこれだ」
新たにモニターに映されたのは、赤い髪に足元まで届きそうな長さのツインテールが特徴的な、小学生程の年齢と見られる女の子だった。
これは誰もが予想外過ぎたのか、ざわめきが最高潮に高まる。かくいう俺も口を開けて唖然としていた。
「あー静粛に。この少女が纏っているのは属性力を動力としたパワードスーツの一種だそうだ。地球以外のアルティメギルに侵略されている世界にも、同様の原理を用いた力を持った戦士が多数確認され、アルティメギルと戦っているとのことだ」
ふむ。ってことは別段珍しい技術って訳でも無いのか?にしてもアルティメギルに侵略されている世界全てに、同じ力を持った戦士がいると言うのも引っかかる感じはするな。
「司令は彼女と可能なら協力してアルティメギルと対応したいと考えている。各自そのつもりで行動してもらいたい。以上で今回のブリーフィングを終了する。皆早めに寝て身体を休める様に、夜はまだ冷えることがあるから風邪をひかない様に気をつけなさい。では、解散!」
こうして、父さんの思いやりある言葉と共にブリーフィングは終わるのだった。
「アルティメギル、か。また面倒なのが現れたもんだ」
ブリーフィングルームを出た後、折紙を連れて基地内の休憩スペースにやって来た俺は、飲み物片手にそう愚痴った。ぶっちゃけそうでもしないとやってられなくなる。
「敵が誰であろうと戦うそれが軍人の責務」
「まぁそうだね。敵なら潰すそれだけだのことだけど」
折紙の言う通り市民を守るのが軍人の役目なのは理解しているが、こうも問題が山積みだと泣きたくもなってくるのが普通だろう。
尤も俺も折紙も普通じゃないので、そんな感性は持ち合わせていないが。
「そこは置いといて、君に頼みたいことがあるんだけど」
「頼み?アミタとの仲を進めたいなら押し倒して既成事実を作ればいい」
「誰が恋愛相談に乗れっていったよ!?つーか、ぶっ飛び過ぎだろそれ!?下手したら捕まるわ!」
こいつは時々、とんでもないことを言い出すことがあるから色んな意味で油断ができない。主に恋愛ごとだと狂気じみた発想をするから怖い。
「問題ないアミタなら喜ぶ」
「何を根拠に言ってんのさ…」
「女の勘」
「さいですか…」
もういいこの話題は疲れる本題に戻ろう。
「頼みたいのは五河士道って奴についてだよ」
「五河士道について?」
五河の名前が出た瞬間かなり真面目な顔になったな、それだけ大切ってことか。
「ああ、明日の放課後でいいから彼を人気の無い場所に連れ出してもらいたいんだ」
「!?まさか、告白を…ッ!」
「んなわけあるかァ!!!」
口元を抑えて震える目で俺を見てくる折紙に、人生最大級のツッコミと共に頭をひっぱたいた。
「どこをどうしたらそんな結論に行き着く!?」
「織斑が『勇兄って恋人作ろうとしないけど、女の人に興味無いのかな?もしかしてホモだったりして…』と心配していた」
「あいつにだけには言われたくねええええええええええええ!!!」
怒りの余り持っていた缶を握り潰して中身が飛び出してしまうが、そんなことは今はどうでもいい!
問題はあの唐変木にそう思われていたことが大問題だ!周囲にホモ疑惑を一番持たれているあいつにだけは言われたくない!
「もしかしたら、あなたも彼の魅力に気づいてしまったのかと危惧した」
「それはないから安心しろ。俺はノーマルだ」
そう弁明すると安心した様な雰囲気をする折紙。どんだけ本気だったんだよお前は。
「ちょっと彼に聞きたいことがあるんだよ、今日のことをね」
彼のプリンセスを見る目は恐怖や敵意と言ったものではなく、まるで自身と同類を見ているかの様だった。
そしてプリンセスを庇ったことと言い、彼が精霊と無関係とはどうにも思えないのだ。
「分かった。私も彼に聞きたいことがある」
「ならよかった。頼むよ」
そう言うと折紙と別れて帰宅する俺。
帰ったら一夏の奴とじっくり語らねばなるまい、肉体言語で。