ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第十三話

ブルーアイランド基地地下に造られた仮想訓練所。

その中を賭ける紺と白色の機体があった。紺の機体は天童勇が駆るヒュッケバインMK-Ⅱである。

右手にはフォトンライフルを、左手にはビームサーベルを持っている。

並走している白の機体へとライフルを向けトリガーを引くと、銃口から光弾が放たれた。

対する白のIS”白式”を纏った織斑一夏は身を屈めて回避すると、両手で保持している実体剣を握りしめMK-Ⅱへと斬りかかる。

 

「踏み込みが足りん!」

「うわぁ!」

 

サーベルで実体剣を払うと一夏を蹴り飛ばす勇。そしてライフルを連射し、追撃を加える。

 

「くっ!」

 

一夏はスラスターを吹かせて上昇し回避しようとするも、右足に被弾してしまい体勢を崩してしまう。

すかさず接近した勇は振り上げた足を叩きつける。受身も取れなかった一夏はそのまま墜落していく。

 

「常に相手の攻撃を予測して避けろ!ただ逃げているだけじゃ、追い込まれるぞ!」

「くっそぉ!」

 

地面に激突する前に体勢を立て直した一夏に、両手にそれぞれ持ったサーベルで斬りかかる勇。

実体剣で受け止めるも、次第に手数に圧倒されていく。

 

「足元がガラ空きだ!」

「うわぁ!?」

 

無防備だった一夏の足を払い、サーベルを交差させ首筋に添えた。

 

「ま、参りました」

「うっし。一休みしよう」

 

一夏にそう告げるとMK-Ⅱを待機形態にする。

待機形態とは、ISに搭載されている機能で、機体を粒子変換させて持ち込みやすい形態とすることである。MK-Ⅱにも試験的に導入されているが、コストがかかるので正式採用機には使われないだろうって、父さんが言っていた。

 

「お疲れ様ですお二人とも」

 

訓練に付き合ってくれているアミタが、飲み物とタオルを持ってきてくれた。

 

「ありがとう。悪いね付き合ってもらって」

「いえ、これくらいしかお役に立てませんから」

 

本来アミタは手伝う必要はないのだが、助けてもらった恩返しがしたいとのことで、協力したもらっているのだ。

後、アミタは父さんが預かることになった。妹さんのこともあるし、協力してもらった方がいいだろうとのことになったそうだ。

ちなみにアミタの故郷のことや、妹さんがなんでこの世界に来たのといった話は聞いている。そしてアミタがギアーズという機械の体であることも。

別にアミタはアミタなので気にしないけど、って言ったら大泣きされてしまった。余程拒絶されるのが怖かった様で、安心したのか泣き止んでもらうのが大変だった。

 

「で、どう一夏君の機体は?」

 

俺と同じ様に機体を解除して、飲み物を飲んでいる一夏に話しかけると、うーんと考え込む。

 

「俺に合っていると言えばそうだけど…。もっと武器が欲しいなぁ」

「実体剣だけだからなぁ。せめて牽制用くらいは載せたいよなぁ」

 

そう、一夏の専用IS白式は近接ブレード一本しか搭載しておらず、それだけに拡張領域(バススロット)を使い切ってしまっており、他の装備を搭載できないのだ。

おまけにそのブレードを外そうとすると、エラーが発生してしまうと言うただの欠陥機じゃねと思える仕様なのだ。

 

「しかも、未だに一次移行(ファースト・シフト)すらしないもんな」

 

ISの心臓であるコアには搭乗者に合わせて自己進化する機能が備わっており、初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)することで始めて専用機となるのだが、白式は乗り始めて一ヶ月になるのに、初期化の段階で止まってしまっているのだ。

色々と分析したのだが、原因は不明らしい。ISはこういった未知の部分が多すぎるので、兵器としての信用が低下している一因となっている。

 

「もしかしたら、君がコアに認めてもらっていないのかもね」

 

コアには人と同じ意思があり、乗り手を選ぶって話を聞いたこともあるし、白式はまだ一夏をパートナーとして認めていないのかもしれないな。

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ勇兄?」

「そこまでは分かんないよ。他のに変える訳にもいかないんだ。今やれることをしていくしかないでしょう」

 

ISのコアには限りがあるので、気に入らないからホイホイ変えますってことはできない。

それに、一夏が白式に触れた時、まるでこの瞬間を待っていた様な感覚を覚えたと言っていた。きっと、一夏と白式が出会ったのは偶然じゃないのだろう。例えあのクサレ兎(・・・・)の策略であろうともだ。

 

「うっし、休憩終わり!訓練再開じゃぁ!」

 

MK-Ⅱを展開して一夏にライフルを向ける。とにかく訓練あるのみよ!

 

「え!?もうちょっとだけ…」

「問答無用!」

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

この日は日が暮れてもしごいてあげた。別に楽しいからやり過ぎた訳じゃないからね!

 

 

 

 

 

何だかんだで新学期まで一週間まで迫ったある日。俺が正式に入隊する日でもあった。

俺が配属される部隊であるASTの説明のために、配給された軍服を身に纏いブリーフィングルームにいた。

 

「さて特別研修を無事終えたお前は、今日から軍人の端くれになることができた。おめでとう」

「生きているって素晴らしいね父さん…」

 

士官学校で覚える内容を一ヶ月に詰め込んだカリキュラム。さすがに、辛いって言葉すら生温く感じられたね。まあ、覚悟して選んだ道だったから楽しかったけどさ。

 

「ちなみに階級は軍曹だ。機動兵器搭乗者は最低軍曹の階級が与えられる規定だからだ」

「ハッ!謹んで拝命致します!」

 

俺が敬礼しながら答えると、父さんが階級章を軍服の左胸につけてくれた。

 

「まず言っておくことは、基地内や作戦行動中は俺のことは少佐と呼ぶように。俺の息子だからって特別扱いはせんぞ」

「了解です少佐」

 

無論当然のことだし、俺も特別扱いされたくない。と言うかそんなことする人じゃないって十分理解している。

 

「次にこっちにいるのは、お前が所属するASTの隊長である日下部燎子大尉だ。基本は彼女の指示に従え」

「日下部燎子よ。よろしくね軍曹」

 

父さんの後ろに控えていた女性が、柔らかい笑みを浮かべながら、右手を差し出してきてくれた。

 

「よろしくお願いします大尉」

 

差し出された手を握りながら挨拶をする。異例な形で入隊したけど、思いの他歓迎されている様である。

その後他の隊員の人達とも挨拶したけど、皆さん好印象な様である。

 

「……」

 

彼女を除いて。

鳶一折紙階級は俺と同じ軍曹だが、先任って奴だね。彼女だけ挨拶しても無視されたでござる。

 

「ごめんなさいね。あの子気難しいって言うか、ちょっと変わってるって言うか…」

「気にしないで下さい大尉。これから認めてもらえばいいんですから」

 

寧ろああいった反応されると思ってたし、他の人の反応が良すぎたくらいだろう。

 

「では、挨拶も済んだし、この部隊の特性について説明しよう。そこら辺の椅子に適当に座ってくれ」

 

特性?テロリストの鎮圧とかだけじゃないのかな?取り敢えず言われた通りに適当に椅子に座る。

 

「説明する前にこれは最重要機密だ。万が一外部に漏らしたら首が飛ぶことを留意しておけ」

「了解しました」

 

滅多に見せない程に真剣な顔をしている父さん。それ程までに重要なことなのか?

 

「ますはこの映像を見てもらおう」

 

父さんがそう言うと部屋の照明が消え、部屋に設置されていたスクリーンに映像が映し出された。

 

「これは、女の子ですよね?」

 

スクリーンに分割されて映し出されたのは、金属なのか判別できない素材でできた、紫色のドレスを纏った俺と近い年齢と見られる少女に。緑色のレインコートに身を包んだ小学生程の年齢と見られる少女だった。

 

「見た感じはそうだが、これは”精霊”と呼称されている異世界に住まう生命体だ。ドレスみたいなのを纏っているのを”プリンセス”、レインコートの方を”ハーミット”と呼称している」

「生命体?人間ではないと?」

「そうだ。空間震のことは知っているな?」

「ええ、突如発生する空間の振動現象ですよね」

 

およそ30年前から確認された異常現象。学校の授業でも普通に教えられているし、しょっちゅうニュースで流れているので、この世界で知らない人はまずいないだろう。

 

「あれは精霊がこの世界に出現する際に起きる、空間の揺らぎによって発生する現象なのだ」

「な!?」

 

マジかよそんな話聞いたことがないぞ!?そんな重大な情報が隠匿されていたのか!?

 

「ま、待って下さい少佐!何故そのことを世間に公表しないのですか?」

 

今ではシェルターの普及や、事前に空間震を感知できる様になり、迅速に避難が可能となっているが、最初に起きたユーラシア大空災で1億人もの死傷者が出ており、その後に断続的に起きた空間震によってかなりの被害が出ている。

さらに、空間震が発生する度に認定特異災害ノイズの出現率は上昇していき、今では生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回るとされていたノイズによる被害は爆発的に増大していた。

なので、世間では空間震の原因を解明できない軍への不満の声が挙がっている。

なのに何故、軍は原因が分かっていながら公表しないのだろうか?

 

「それは、精霊が強すぎるのだ」

「え?」

「今までに数体の精霊が確認されているが、それら全てが人知を超えた力を宿しているのだ。まるで自然災害を相手にしているかの様な力をな。今までに幾度も殲滅作戦を実行しているが、討伐できた精霊は一体もいない」

 

余りの衝撃に言葉が出てこなかった。世界の武力を統合した国連軍が歯が立たない相手がいるとは、確かにそんなことを公表することはできないな。してしまえば軍は無能の烙印を押され、反抗勢力を勢いづかせるだけだ。

 

「ASTは公ではアサルト・ストロング・チームと呼んでいるが、正式にはアンチ・スピリット・チームと呼ばれる対精霊戦を主目的とした部隊なのだ」

 

父さんの説明に隊長を始めとした隊員たちが苦い顔をしていた。精霊を倒せないことに歯痒い思いをしているのだろう。

 

「…精霊は出現してから一定時間経つと消失(ロスト)、つまり自分達の世界に戻るのだ。ちなみにこちらの世界に現れることは現界だ。とにかく、精霊の被害が空間震のみで済んでいるのは、諸君が精霊を消失まで押さえ込んでいるからだ。もっと胸を張りなさい」

 

父さんなりの激励なのだろう。それでも皆さんの表情は優れないけど…。それだけ精霊との戦いは過酷なのか。

 

「――違う」

 

今まで一度たりとも言葉を発さなかった鳶一の声が部屋に響いた。

 

「精霊を倒すのが、ASTの役目」

 

静かにしかし、明確な意思を乗せて父さんの言葉を否定する鳶一。

 

「ちょっと折紙!」

「いい、大尉」

 

上官侮辱罪に問われかねない発言をしている鳶一を、止めようとした隊長を父さんが制した。

 

「現状精霊への有効な対抗手段が無い以上、被害を最小限に抑えるのが最上だ」

「――私は、精霊を、倒す」

 

何がなんでも倒すそんな気迫が感じられた。まるで、自分を犠牲にしてもいいとさえ思っているかの様だった。

 

「君の気持ちは理解しているつもりだ。だが、命を粗末にする様なことをすれば、約束通り除隊させるいいな?」

「――了解」

 

父さんが鳶一に鋭い視線を向けながら言うと、鳶一は軽く頷きながら答えた。それより――

 

「(隊長、約束って何ですか?)」

「(んー詳しくは知らないんだけど。折紙を入隊させる際に、少佐は幾つか条件をつけたそうよ)」

 

隣に座っていた隊長にこっそり聞いてみたけど、当人達しか知らない様だ。まあ、それならそれでいいけどさ、別に無理して知りたい訳でもないし。

 

「あの、少佐。確認したいことがあるのですが…」

「む?何だ」

「精霊との共存は不可能なのですか?そもそも精霊との対話はできないのでしょうか?」

 

俺がそう言った途端周囲がざわつき始めた。あれ?俺変なこと言いました?後、鳶一の奴が物凄い怖い目つきで睨んできたんですけど。

 

「ふむ、精霊との対話は可能なので、確認された当初は共存できないか検討されたが、現界する度に空間震を発生させることと、その余りに強大な力がいつ人類に牙を向くか分からないとのことで不可能と判断された」

「そうですか…」

 

確かに不確定要素の多い相手との共存は難しいか、しかも自分達よりも強大な力を持っていればなおさらか。戦わずに済めばそれに越したことはないんだけどな。

 

「精霊との共存なんて不可能」

「ん?」

 

先程までとは違い、怒気を孕んだ声で鳶一が話しだした。

 

「奴らは人間を虫けらの様に殺す」

 

人形の様に無表情だった彼女が初めて見せた感情は怒りだった。

まるで親の仇に向ける様な憎しみと、自身の無力さを嘆いているかの様な悲しみ。

母さんを失った時の俺と瓜二つの目をしていた。きっとあの時のまま成長していれば、俺もあんな風になっていたのだろう。

別にそれが悪いとは言わない。生き方なんて人それぞれだ、他人に迷惑がかからない程度に好きに生きればいいさ。

 

「――事実、故意に人間を殺害している個体も確認されている。よって精霊は発見しだい殲滅する。これは最優先事項だ、いいな?」

「了解です」

 

父さんも納得しきれていない部分もあるのだろう。でも、隊を束ねる者として、迷う訳にはいかないんだろうな。

戦うしかないなら仕方がないね。大切な人を守るためなら、いくらでも血に染まってやるよ。

 

「ASTは他の隊同様に、テロやノイズへの対処も担当してもらうことになる。最後に、以前の強奪事件の際に出現したアンノウンについての説明を行う」

 

俺が始めてMK-Ⅱに乗った時に現れた連中か、管理局に問合わせてるって言ってたな確か。

 

「奴らの正体について判明したのですか?」

「ああ、管理局からの情報によれば奴らは”インスペクター”と名乗っているそうだ」

「監視者ですか。随分大層な名前ですね。名乗ったと言うことは、操っている連中がいると?」

 

あの場にいたのは全部機械だけみたいだったけど、指示を出している人間がいるってことか。

 

「今のところ人間と思われる存在は確認されていないそうだ。名乗ったのも、人間と同じような知能を持ったAIを搭載したタイプだそうだ」

「しかし奴らが機械である以上、生み出した者がいる筈では?」

「管理局も奴らの全容を把握していないそうだ。奴らが言うには、次元世界の害となりうる文明を監査し、不適切と判断すればその文明を滅ぼすのだそうだ。現に奴らによって、幾つもの世界が消滅させられているとのことだ」

「何ですかそれ!神様にでもなったつもりですか!」

 

奴らの都合で殺されるなんて真っ平御免だ!大体、その監査ってのが正しいって保証がどこにあるんだよ!

 

「いずれにせよ、降りかかる火の粉は振り払わねばならない。最初に現れて以降姿を見せていないが、今後も奴らと交戦する機会はあるだろう。管理局が交戦した分も含めてデータの確認をしておくように。以上で説明を終えるが、何か質問はあるか天道軍曹?」

「プリンセスとハーミット以外の精霊についての情報はありますか?」

「うむ。先の二体含め”ナイトメア””イフリート””ベルセルク””ディーバ””ウィッチ”と七体の存在が確認されている。と言ってもプリンセス以外、まともに交戦したことが無いので情報は大してないがな」

 

父さんの説明に合わせて映像が切り替わるが、どれもボヤけていたり遠くから撮影した物ばかりで、ハッキリと姿を映した物は無かった。映像を撮るだけでこれ程苦労するのだから、倒すのがどれほどの困難なのだろうか?

後、鳶一がイフリートの画像を射殺さんばかりに睨みつけているな。多分その精霊と因縁があるのだろうな。どうでもいいけど。

 

「では、これで解散とする。以降は日下部大尉の…」

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

父さんの声を遮るように警報がけたたましく鳴り響いた。

 

『空間震を感知!繰り返す空間震を感知!総員第一種戦闘配置!――』

「総員戦闘準備!急げ!」

『了解ッ!』

 

先頭を切って飛び出した父さんの後に続いて、俺達は駆け出していった。

初めての精霊戦か、どうなるか分からないけど、やれることをやるだけだ!


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