ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第十話

男の応急手当を終えたキリエは、医療機関を受診することを薦めるが、「面倒くさい」と頑なに拒否されてしまう。

だが、このまま放置することもできず、包帯と消毒液を購入すべく、男ににその場にいる様に言い薬局に向かった。

必要な物を購入し、戻ると男の姿が消えていた。慌てて周りを探すも男を見つけられず、戻ってくるかもと待っていたが戻って来ることはなかった。

 

「どこ行ったのよあいつは!」

 

礼を言えぬまま消えてしまった男に、言いようの無い怒りを覚え、周りをはばからずに叫んでしまった。

既に日は沈み始めてきたいたので、いつまでもここにいる訳にもいかず、もやもやとした気持ちのまま帰るしかなかったキリエであった。

 

 

 

 

 

「……」

 

時は少し遡り、自分を必死で探している女を物陰から見ているヴォルフ。

あの女には悪いが、俺は日陰に生きる者。故に無関係な人間と関わることはできない、その者を危険に晒してしまうからだ。

 

「なぜ、帰らんのだ?」

 

俺のことなど早く諦めて帰ればいいのに、いつまで探し続ける気だあの女は?これも女心と言うやつなのだろうか?やはり分からん。

結局、女が帰ったのは日が沈み始めた頃だった。よくもあれだけの時間を探し回ったものだと感心する。

さて、俺も帰ろうと思った時、キリエの後をつける様に追いかけている二匹の猫が見えた。

 

「ふむ?」

 

なぜかその猫が気になり、後をつけてみることとしたのだった。

 

 

 

 

 

とある公園の広場を歩いていたキリエは、不意に足を止め振り返る。その視線の先には一匹の猫がいた。

 

「さっきから私のことをつけ回してるけど、何?ストーカー?」

 

そう話しかけると、猫が観念した様に溜息を吐いた。

 

「あら、バレてたのね」

「それなりに場数は踏んでるのよ。私のことを甘く見すぎね」

「そんなつもりはなかったんだけどね。もう、カンが鈍ったかしら?」

 

そう言うと猫の体が輝き、女性の姿へと変わっていった。

 

「私はリーゼアリア。管理局から派遣された元魔道師よ」

「元?」

「色々あって辞めたんだけど、人で不足ってことで今回だけ呼び戻されたのよ」

 

やれやれと言った感じに肩を竦めるアリア。

 

「へー管理局って、色んな世界で手広くやってるんじゃないの?」

「最近は魔力適性がある人間が少なくなってね、今じゃ子供の手を借りているくらいよ」

「何そのブラック企業」

「言い返せないわ」

 

ないわーと引き気味のキリエに、頭を抑えて溜息を吐くアリア。

 

「それで、管理局さんが何か用かしら?」

「あなたのお姉さんから捜索願いが出されているんだけど、大人しく付いて来てくれないかしら」

「あーやっぱアミタかぁ」

 

予想通りといった感じで肩を竦めるキリエ。

 

「悪いけど、帰ってアミタに伝えてくれる?私は目的を果たすまで帰らないって」

「そう。でも、『駄々をこねるようなら、多少手荒でもいいんで連れ帰って下さい。迷惑をかけて本当に申し訳ありません』って言われてるの。本当にあなたのことを心配していたわよ?」

「アミタらしいわねぇ」

 

あんなことをしたのにいつも通りの姉の様子に、思わず苦笑してしまうキリエ。何だかんだで心配していた様である。

 

「私としても、あなたのやっていることは正しいと思えないわ。今ならまだ間に合うわ、だから…」

「部外者は黙ってて!もう、他に方法がないのよ、私達の世界を救うにはこれしか無いの!」

 

アリアがどうにか説得しようとするも、聞く耳を持たないキリエ。

 

「そう。じゃあ、仕方ないわね」

 

そう言うとアリアの足元に魔法陣が展開され、周囲が結界魔法に包まれる。

 

「あら、気がきくわね。これで、思う存分暴れられるわ」

「無関係な人達を巻き込む訳にはいかないしね。この世界の軍と余計な揉め事は起こしたくないの」

 

戦闘態勢に入ったアリアに対し、自身の武器であるヴァリアントザッパーを呼び出すと、服装も戦闘用へと変える。

 

「先手必勝!ラピッドトリガー!」

 

先に仕掛けたのはキリエだった。

二丁銃形態となったヴァリアントザッパーから、マシンガンの様に魔力弾が打ち出される。

対してアリアは防御魔法であるプロテクションを正面に展開し防ぐと、ホーミング機能がついた小型の魔力弾を複数発射する。

キリエは回避しようとするも、魔力弾は執拗にキリエを追って来た。

 

「ああ、もう!面倒!」

 

ラピッドトリガーで撃ち落とすと、魔力弾から強烈な閃光が放たれ、動きを止めてしまうキリエ。

その間にアリアが拘束魔法のバインドを発動させ、手足を拘束されるキリエ。

 

「あら?」

「悪いけど、これでチェックメイトよ」

 

身動きの取れなくなったキリエに勝利を確信したアリア。しかし、キリエの表情からは余裕が伺えた。

 

「どうかしらね?アクセラレイター!」

 

アリアが身構えようとした瞬間、目の前にキリエが現れ双剣形態となったヴァリアントザッパーを振るった。

 

「!?」

 

咄嗟に後ろに飛んだことで、ダメージを抑えられたものの苦悶の表情を浮かべるアリア。

 

「なるほど、それが話に聞いていた加速能力ね」

「そ、どうする帰るなら今の内だけど?」

「そのつもりは無いわ!」

 

アリアが再び魔力弾を放つも、アクセラレイターによって軽々と回避されてしまう。

それでもアリアは魔力弾を打ち続けた。

 

「無駄無駄。そんなんじゃわたしは捕まえ!?」

 

余裕の笑みで走り回っていたキリエが、ある場所を踏んだ瞬間地面に魔法陣が浮かび上がる。

咄嗟に空中に飛んだことで回避したキリエ。

 

「トラップ式の拘束魔法ね。私じゃなければ捕まえられたんだけどねぇ」

 

よく見るとトラップが仕掛けられていたのは、最初にアリアが立っていた場所であった。どうやら話していた間に設置していたようだ。

 

「残念。作戦は失敗しちゃったけど、まだ戦う?」

 

ここまで実力の差を見せれば、帰ってくれるだろうと考えていたキリエ。

だが、アリアからは焦りは見られなかった。まるでこうなることが分かっていた様に…。

 

「いいえ、狙い通りよ。ロッテ!」

「え?」

 

アリアが叫んだ瞬間。キリエの背後の茂みからアリアと瓜二つの女性が飛び出してきた。

 

「取ったあああああああ!」

「ぐっ!?」

 

飛び出してきた女性は、キリエの背中を蹴り飛ばし、アリアの隣に着地した。

突然の不意打ちに対処できなかったキリエは、受身も取れずに地面に叩きつけられてしまう。

 

「よっしゃ!上手くいったねアリア!」

「ええ、ロッテ」

 

そう言ってハイタッチするアリアにロッテ呼ばれた女性。違いは髪の長さくらいだろう。

 

「あ、あんた達、双子?」

「そうよ。こっちが妹のリーゼロッテ」

「へへん!どうだい私達の完璧な連携は!」

 

腰に両手を当てて、したり顔で胸を張るロッテに、歯ぎしりするキリエ。

 

「(やられた。派手に戦っていたのは妹のことを気取らせないためってことね。まんまと乗せられて馬鹿じゃない私…)」

 

立ち上がろうとするもダメージが大きく、満足に身体を動かせないキリエ。

 

「やめときな。ロッテの攻撃をまともに受けたんだ、暫くは動けない筈さ」

「私の一撃はヘビー級だからね!」

 

二人の言う通り、逃げることも戦うこともできない程のダメージを受けてしまった。

 

「それでも…!」

 

ここで捕まる訳にはいかない。まだ、自分にはやらなければならないことがあるのだ。

 

「(故郷を救って、お父さんの笑顔を見るためにも、諦めたくない!)」

 

激痛が走る身体に鞭を打ち、起き上がろうとするキリエを見て、いたたまれなくなったのか、ロッテに指示を出すアリア。

 

「ロッテ」

「あいよ」

 

アリアの考えを読み取ったロッテが気絶させようと、キリエに歩み寄っていく。

 

「(あんなに息巻いてたのに、結局自分じゃ何もできなかった。ホント馬鹿だよね私…)」

 

不意に昼に出会った少年のことが頭をよぎった。

今更になって、誰かが助けに来てくれるなんて、都合のいいことなんて起きる筈が無いのに。ただ、彼にお礼を言えなかったのが心残りだったのだろうか?

 

「悪いけど、あんたのやろうとしていることを見過ごせないんだ。恨んでくれていいからさ」

 

ロッテがキリエに触れようとした瞬間、銃声が公園に響いた。

 

「!?」

 

自分に向けて撃ち込まれた銃弾を跳躍して避けると、アリアの隣へと後退するロッテ。

 

「ロッテ!?」

「大丈夫、当たってないから」

 

でも、誰が?っと銃弾が飛んできた方を見ると、ハンドガンを右手に持ったヴォルフが歩いて来ていた。

 

「なかなかに面白いことになっているな」

「あんた!?」

 

予想外の人物の登場に驚愕しているキリエ。それはリーゼ姉妹も同様だった。

 

「ど、どういうことだよアリア!?何で人が入って来てるんだよ!」

「わ、分からないわよ!私の結界はちゃんと機能してるのに!」

 

取り乱している姉妹を放置して、キリエの側に屈み身体を触りだすヴォルフ。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「じっとしていろ。ふむ、骨に異常はないな。む、なぜ顔を赤くしている?」

「セクハラされているからよ馬鹿ァ!!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴ると、心外だと言わんばかりの顔をするヴォルフ。

 

「失敬な触診しただけだ。名誉毀損で訴えるぞ」

「だったら、最初に言いなさいよ!」

 

姉妹そっちのけで、コントを始めるヴォルフとキリエ。

予想外の事態に唖然としていたロッテが、ハッと我に返りヴォルフを指差す。

 

「な、何だよお前!その女の仲間かよ!」

「いや、違う」

 

キッパリと否定したヴォルフに、益々混乱してしまうリーゼ姉妹。

 

「だが、今はこいつの味方だ」

「え?」

「どういうこと?」

 

ヴォルフの糸が読めず、困惑しているキリエとリーゼ姉妹。

 

「こいつへの借りを返すだけだ」

 

そう言って、右手に巻かれたハンカチを見せるヴォルフ。

 

「借りって私のことを助けてくれたんだから、チャラなんじゃないの?」

「助けた?何のことだ?」

「え?私が絡まれてたから助けてくれたんじゃないの?」

 

何やら話が噛み合っていない模様。

 

「いや、いつまでもベンチの前で下らないことをしていた奴らを排除しただけだが?」

「じゃあ、私のことは?」

「どうでもよかった」

 

えー、と衝撃の事実に唖然とするキリエ。

完全にペースを乱されたロッテが、髪を掻き毟りながら叫ぶ。

 

「あーもう!ホント何なんだよお前は!」

「俺か?俺はテロリストだ」

 

そう名乗った瞬間、ヴォルフの身体が粒子に包まれ、鋼鉄の鎧を身に纏っていく。

それは、ヴォルフが先日ブルーアイランド基地より強奪したヒュッケバインMK-Ⅱ1号機だった。

だが、漆黒のカラーリングに包まれ、背面に二つの大型ブースターを背負っていた。

さらに。右腕と脇で大型火器のバスターランチャーを保持し、原型機より装甲を大幅に削られ軽量化される等、ファントムタスクによって様々な改造がなされていた。

 

「ちょうど、この《ハウンド》の実践テストをしたかった所でな。付き合ってもらうぞ」

 

そう言うと、リーゼ姉妹へとランチャーの砲口を向け、トリガーを引くのだった。


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