ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第百三話

試合開始までの待ち時間で、皆思い思いに時間を潰している中、気になることがあったので本音に声をかける。

 

「そういえば、本音達はアリーナで直に観れるのにこっちに来ていいの?」

 

IS学園の生徒なら、会場であるアリーナで直接観戦するこことができるので、こちらに来るメリットはハッキリ言って薄いだろう。

 

「勇さんの手料理が食べられると聞いたので~。ユッキーがよく『兄ちゃんの料理は美味すぎてヤバイ。餌付けされるくらいヤバい』と言ってたので、楽しみにしてたんです~」

「……」

「いダダダダ!?ぐりぐりしないで~~!!宣伝してあげただけじゃんか~~!!」

「餌付けって、お前なぁ!言葉を選ばんかぁ!!」

 

馬鹿妹の側頭部を、握り拳で挟んでぐりぐりと締め上げる。

確かに昼食用にとお弁当を重箱で用意しているし、それを楽しみにしてくれるのは嬉しいが、名誉棄損かましていい理由にはならんわい!!

 

「あ、勇君。一夏君と鈴さんの試合が始まりますよ」

 

アミタの呼びかけにユウキを放すと。締め上げられた部位から、摩擦による煙を発しながら倒れ伏すユウキ。そして、それを本音がお~い、とつんつんしながら心配する。

 

「しゅ~…」

「ユッキー大丈夫~」

 

おバカ妹は放置しておいて、空中投影されているモニターに視線を移すと、それぞれの機体を展開した一夏と鈴が対峙しているのが映し出されていた。

 

『それではクラス対抗戦一年の部。第一試合、一年一組代表織斑一夏選手対一年二組代表凰鈴音選手。試合開始ですっ!』

 

アナウンスと同時に両者突進し、そのまま互いの獲物の雪片弐型と青龍刀の刃がぶつかり合った。単純な出力だと鈴の『甲龍(シェンロン)』の方が上であり、一夏を押し返すと、鈴は二刀の柄を連結させ槍のようなリーチも持たせた青龍刀を、まるでバトンを回すかのように軽快に振り回しながら連撃を浴びせていった。

 

「流石に押されているな一夏」

「ま、経験値が違うからなぁ。寧ろあれだけ戦えてれば十分でしょ」

 

かろうじて雪片で防いでいる弟分の姿に、和人が仕方がないかという様子で呟いたのにフォローを入れておく。

鈴がISの世界に飛び込んだのは1年程度。セシリアに比べれば遥かに短いと言わざるを得ないが、1、2ヶ月程でしかない一夏にとっては雲泥の差と言えるものがあるのだ。

どちらも一般的観点から言えば、短時間と言える期間で実戦に出れるまでに戦えるのだから賞賛されるべきことだろう。

と考えている間に。一度距離を取ろうとした一夏が、目に見えない『何か』に殴られたようにして吹き飛ばされたのだった。

 

「何もされてないのに一夏が吹き飛んだよ!?」

 

見慣れているCNFのメンバーを除く、復活していたユウキや一般の人らが騒然とする。

初見にとっては、魔法でもくらったかのようにしか見えないのだから、当然の反応であろう。

 

「あれがリンリンの甲龍に搭載されている中国の特殊兵装『衝撃砲』だね~」

「何それ本ちん?」

「慣性制御にも用いられているPICを応用して、空間自体に圧力をかけて砲身を生成、それによって生じる余剰の衝撃を砲弾のように撃ち出して攻撃する武装だよ」

 

素人にもわかりやすいように、自前の端末を使い事前に用意していたのだろう絵や文字を交えて説明する本音。その姿は普段ののんびりとしたものとは違う、職人と言える洗練されを感じられた。

 

「流石整備科志望、良く勉強しているね」

「えへへ~」

 

素直に関心すると、本音はそれほどでも~と、照れくさそうに端末で顔を隠してしまった。

IS学園では1年の内は共通で基本的なことを学び、2年からはISの操縦者とそれを支援する整備要員とをそれぞれ専門の科で学んでいく教育が行われるようになり、彼女は後者である整備科に進む予定なのだそうだ。

 

「砲身も弾も大気を利用しているから、従来の装備のように重量も気にしなくていいし、手を使わなくても撃てるから近接戦闘タイプの鈴ちゃんには相性いいね」

 

大の機械好きでもある忍が興味深々に目を輝かせていらっしゃる。

そして彼女の指摘通り、斬り結ぶ間隙に放たれる衝撃砲に一夏は一方的に押し込まれていた。

 

「それに360℃死角なし、か。ISならセンサー類で大気の流れを観測すれば兆候は掴める――いや、それだと先手を取られるか…」

 

メカニック寄りの会話が広がる一方で、和人が眉間に皺を寄せながら考え込んでいた。

どうやら、自分が対峙したらどうするかという仮定で思考の沼に沈んでいるらしい。争いごとは嫌うけど、競い合う分にはバトルジャンキーの傾向があったりするのよね我が次男は。

 

「お前ならどうするよ和人」

「…暫くは防御に専念して、どれくらいの感覚で連射できるかや相手の癖や呼んで反撃に出る、かな?」

「そうだな、俺もそうする」

 

突破口が見えないのなら、相手を分析することで切り開く。戦いの基本と言える要素であり無難とも言える選択肢とも言えことだろう。

 

「さて、我が弟はどうするかね」

 

当然、それだけが正解というわけではないし、はっきりと言うと格下であるあやつがどう答えを出すか楽しみである。

 

 

 

 

「(わかってはいたけど、やっぱり強いな鈴)」

 

何度目になる衝撃砲を受け、崩れそうになる姿勢を気合で立て直すと、頬を伝う汗を手で拭い荒れる息を整える一夏。

CNF内での模擬戦では、対抗戦があるからと直接刃を交えることはなかったが、他者との戦いから彼女が自分よりも高みにいることは明白だった。

切り札の衝撃砲についても、対策は考えてはみたがいい案が閃くこともなく、たどり着いた結論は――

 

「(気持ちでだけは負けないことだ!!)」

 

長兄を始め場数を踏んでいる者は、何度か見る内に対応できるようになっていたが。経験も能力も足りない半端者の自分が、彼らに唯一喰らいつけることはそれしかない。

 

「鈴」

「何よ?」

「本気でいくからな」

 

溢れんばかりの闘志をぶつけるように宣言すると。鈴は何故か狼狽え気味に顔を赤くしていく。

 

「な、何よっ、そんなこと当たり前じゃない…。とっ、とにかく格の違いを見せてあげるわよ!」

 

気合を入れ直すように青龍刀を回しながら構え直すのに対抗するように、居合に近い要領で雪片を腰に添えるようにしながら前傾姿勢を取る。

そして、スラスターから凝縮していたエネルギーを開放――同時にその放出したエネルギーを再び取り込み再度加速すると――大気に押しつぶされかねないと錯覚しかけるまでのGに歯を食いしばって逆らい、その身を砲弾のようにして鈴目がけ突撃していく。

一夏が用いたのは、瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる技術であり、つい最近最低限の形になったばかりの代物で、長兄からは『初見での強襲でしか通用しない』と評された拙いものではあるが、一度だけでも勝機があるなら今の自分には十二分であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何だその情けないって顔は。いいか、この短時間でここまで仕上げられるなら上出来なことだぞ。やろうと思ってやれることじゃないからな。だから、心配するな自信を持ていけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣の道から、途中で逃げ出したこんな自分を誇りに思ってくれる男――天道勇の弟分として恥じない戦いをしてみせる。その意気込みと共に飛び出した一夏に、鈴は相手の姿を一瞬だが見失う。それは戦いにおいて致命的であり、再び視界に捉えた時には零落白夜を発動した雪片の刃が届く寸前で会った。

勝負あった――と誰もが確信した瞬間。アリーナ全体を揺るがさんばかりの衝撃が巻き起こるのであった。

 

 

 

 

一夏の起死回生の一撃に誰もが手汗握る中、突然巻き起こった地響きに誰ともなく悲鳴や困惑の声があがる。

 

「――ッこれは!?」

 

周りの人に怪我人んがいないのを確認すると、現状を把握しようとアリーナに視線を向ける。

異変が起きる直前に、上空から『何か』がアリーナに飛来するが見え、それはISの絶対防御(・・・・・・・)と同等の強度を持つ遮断シールドを難なく突き破り侵入していったのである。

侵入者が着地した際に巻き起こった砂塵が上がるアリーナからは、内部の人々の悲鳴のような喧騒が聞こえてきていた。

そして、同じものが見えていた恭也が叫ぶように声をかけてくる。

 

「勇ッ!!」

「わかってる!!お前はユウキ達を連れて避難しろ!!」

 

こういった事態に慣れている恭也に妹ら非戦闘員を任せると、次に美紀恵に指示を飛ばす。

 

「美紀恵っ、君は俺達と一緒に来てくれ!!」

「了解です!」

 

指示を出しながら携帯を取り出し、千冬さんにかけるとすぐに反応がある。

 

『勇、今どこにいる?』

「一夏達のいるアリーナのすぐ側です。そちらの状況は?」

『侵入者は1人、おそらくISだ。それと、アリーナのシステムがハッキングされてしまい遮断シールドが最高レベルまで引き上げられた上に、扉は全てロックされてこちらからは避難誘導もままならん。だが、お前の部隊なら力づくでシールドを破れる筈だ』

「了解すぐに対応します」

 

通話を終えると、ユウキが不安そうな顔で声をかけてきた。

 

「兄ちゃん…」

「大丈夫、ちゃんと帰って来るから。アリサやすずか、それに本音達を頼む」

 

安心させるように頭を撫でると、願をかけるようにギュッと抱き着いてくるユウキ。

 

「うんっ、気をつけてね」

 

すぐに離れて見送るように笑顔を見せると、同じように心配そうにこちらを見ていたアリサやすずかの元へと駆け出し避難していった。

それを確認すると、ムラサメを展開し千冬さんから送られてきているデータから、作戦を立てていく。

 

「勇、指示を」

 

それぞれ装備を展開し終えていたCNFメンバーの中から、折紙が促すように声をかけてくる。

 

「シールドを破りアリーナに突入。内部の観衆の避難と一夏と鈴の援護に別れる。人員は――」

 

俺の言葉を遮るようにアラートが鳴り響くと、全員その場から飛び退く。

その直後、上空からビームらしき光の奔流が降り注いで今までいた地面を焼き払っていく!

 

「新手かッ」

 

撃ち込まれた方角を向くと、アリーナに侵入したのと同系統の所属不明機が複数機おり。発射口から煙を噴き出している長大な砲を脇に挟むようにして保持した、他のとは異なる形状のトリコロールの機体が、それらを引き連れるように集団の先頭で佇んでいるのであった。


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