PCの調子が悪いので故障しないか非常に不安になってます。
再来
目の前で忙しなく動き回る妖精さんを見つめながら、私ことコンゴウは艤装の点検を受けていた。
今日は艦娘の点検日で、艤装が破損していないかを調べたり、起動時の不具合を調整する日である。
基本的に艤装は入渠施設で燃料や鋼材を使って修理を行うのだが、それでも完璧な整備ができているわけではないのだ。そのため、月に一度の割合で全員が専門の妖精さんの検査を受けている。時間は一時間程度なのだが動くことができないので正直暇なのだが……。
「はい、終了です〜。異常なしですよ〜」
「うん、ありがとう」
「いえいえ〜、お疲れさまでしたぁ〜」
眠そうな糸目の妖精さんから終了の合図を受けてベッドから起き上がる。寝ていてもよかったのだが妖精さんは見ていてとても面白いので観察している方が楽だし楽しい。
固まった関節を伸ばしてから部屋を後にする。
すると、丁度同じタイミングで私の両隣の部屋の扉も開いて中から二人の人影が現れた。
「あら、皆さんも点検終わったんですね」
「ええ、特に問題は無かったわ」
「大井さんも加賀さんもお疲れ様です」
中から出てきたのは少し前に艦隊に加わった大井と加賀であった。二人とも点検と調整が終わった直後だからか心なしか嬉しそうにしている。艤装も磨いてもらったのかピカピカである。
「あ、加賀さん。工廠の妖精さんに頼んでいた新型の艦載機の開発なんですが、さっき完成したらしいですよ」
「……そう、わかったわ。今から行ってみる」
「大井さんの頼んでいた酸素魚雷は明日になりそう」
「そうですか、仕方ないですね。明日を楽しみにするわ。ここの妖精さん達の腕は確かだから、心配はいらないし」
「……ええ、みんな優秀な子達ですから」
いつも通りにクールな笑みを浮かべて工廠へと向かう加賀さんを見送り、私と大井は食堂へと向かうことにした。実は検査のために今日はまだ何も食べていないのである。
そういえば、私は大井とはまだ話をした回数も少なくて彼女のことをよく知らない。丁度いい機会だし、色々と話をしてみるのもいいかもしれない。そんなことを考えながら私は食堂の扉を開いた。
「そういえば、提督は?朝から姿が見えないのだけれど……」
「……そういえば、私も見てませんね」
食堂に入った時、昼食を食べていた扶桑さんと神通の声が聞こえてくる。たしか、今日は緊急の会議があるとかで朝から会議室に行くと言っていたかな……。
……何か、嫌な予感がする。悪い事じゃないといいのだけれど……。
◇◇◇
鎮守府内にある会議室。そこは特別な会議や緊急時の避難場所として指定されている鎮守府の端にある部屋である。
そこでこの鎮守府の提督である七海が椅子に座ってスクリーンへと視線を向けていた。近くにはビデオカメラのような機械も設置してあり、恐らくはテレビ電話であろうことがわかる。
スクリーンには複数の人間が映っており、全員が白い制服を身に纏っている。
『提督の皆さん、忙しい中時間を割いていただきありがとうございます』
メンバーの中で一番年輩の提督が深く頭を下げた。
それを見た他の提督達が慌てて声をかける。
『佐々木さん、頭を上げてください!!』
『そうです、貴方は我々の中でも最も長く奴らと戦ってきた方です。若輩の私達に簡単に頭を下げるなど……』
『……いや、所詮私も艦娘に頼ってばかりの一人の提督にすぎない。君達と何ら変わらんさ。……さて』
佐々木と呼ばれた提督は姿勢を正すと真剣な顔で全員の顔を見回した。七海も他の提督もその真剣さに思わず背筋が伸びる。
佐々木提督は手元の書類へと目を向け、しっかりと内容を確認してから顔を上げる。
『……先日、北方海域にて〝姫〟の存在が確認された』
『『『……』』』
「……姫」
彼の言葉に他の全員の顔が強張るのが七海にはわかった。
直接出会ったことのない七海は自らの知る知識から対象の情報を思い出す。
深海棲艦の中でも驚異的な力を持つ個体。量産型のように同じ見た目を持つ彼女達の中で、突然変異とでもいうかのように他にない独自の容姿になる個体がいる。それが〝姫〟または〝鬼〟と呼ばれる個体だ。
全体的に異形な形の通常の個体と違い、限りなく人間に違い容姿を持ち、真っ白、又は黒い髪の絶世の美女、又は美少女とも言える姿をしている。それとは裏腹に艦娘とは違う巨大で禍々しく悍ましい艤装を使用し、圧倒的な火力を有する。深海棲艦が現れてから今日まで僅かしか確認されていない個体だ。
姫が現れた際の艦娘の被害は甚大で、これまでの報告でも多くの犠牲が出ているという。
『……うむ、報告によれば以前にも現れた飛行場姫の姿が確認されたそうだ』
『飛行場姫……奴がまた現れたんですか……』
『生きていたとは……』
『アイアンボトムサウンドの悪夢……』
ざわざわと落ち着かない提督達を見回しながら、七海は一人思考の海に沈んでいた。
彼女の頭には既にこれからの出撃メンバーの編成が始まっていた。
◇◇◇
暗く、冷たい海底のとある場所に不気味な形の建造物があった。
一体どんな物質で作られているのか、壁は黒くて凹凸が多く、奇妙に発光する部分もある。広さは民家三軒分程で、室内にはどういうわけか空気があり、燃料缶や弾薬、齧りかけの鋼材が乱雑に散らかっていた。
その部屋の奥、一人の少女がガラクタの上に座り込んでいた。足を組んで座る姿はどこか妖艶で、無造作に広がる純白の長い髪がより少女の姿を妖しく浮かび上がらせる。瞼は閉じられているが、少女は別に睡眠をとっているわけではない。単純に、今の彼女にはやることがないだけの話だった。
その少女の耳に、別の部屋から聞こえてくる音が届く。まるで木の枝を折るかの様なパキパキと乾いた音。次に何か湿ったものを引き摺る様な音が聞こえ始め、それは少女の部屋の前で止まった。
少女の瞼がゆっくりと開く。その瞳は宝石のような美しい紅色をしていた。部屋のドアへと視線が向くのと同時にガチャリとドアが開かれ、再び引き摺る音を立てながら何かが部屋の中に入ってくる。
部屋に入った小さな影は無造作に掴んでいたモノを少女の前に投げ捨てた。
ビチャ、と音を立てて転がったのはもはや原型を留めていない赤黒い〝何か〟であった。それは今も赤黒い液体を床に広げながらそこに転がっている。
「……アア、マタ壊シタノネ」
少女は転がったモノを一瞥しただけで入り口に立つ影に声をかけた。しかし、その影は何も答えずに無言で部屋を小走りで出て行く。少女……飛行場姫は溜息をつきながら視線を外して床に投げ捨てられたモノを見下ろした。
投げ捨てられた肉片からは白い骨がいくつも混じっていて、それが何か動物の一部であったことがわかる。
「ヤッパリ……弱イヤツハ脆イノネ。マタ、新シイノヲ探サナクチャ……」
彼女は目の前の肉片が何かを知っている。そもそもこれは彼女自身が連れてきたのだから。
一度完膚なきまでに破壊された飛行場姫は死んだと見せかけ、長い時間をかけて深海で傷を癒していた。まともに動けるようになったのもつい最近で、まだまだ艤装の修復は完了していない。主砲や滑走路はともかく、副砲や対空砲などがまだまだ使えないのだ。
だがある時、彼女が体を慣らそうと再び水面に立った際に偶々自分と同じ〝姫〟と出会った。
まだ生まれたばかりで自我も未発達だったが、その小さな姫を飛行場姫は非常に気に入っていた。無邪気ながらも残酷な一面を持つ小さな姫。それを育て、戦力にしようと一緒に行動するようになったのだが、いかんせん小さな姫は力加減をまだ知らなかった。すぐに壁や床を破壊してしまうので、せっかく建設した隠れ家を滅茶苦茶にされそうだと悩んだ飛行場姫は力加減を覚えさせようとたまたま近くを巡回していた艦娘の艦隊から適当に弱い駆逐艦を三人程攫って小さい姫に〝玩具〟として与えた。
結果は……言うまでもない。
「次ハ……戦艦……ガイイカシラ。……本人ニ選バセレバイイカ……」
口元を歪めながら、飛行場姫は暗闇の中で静かに笑っていた。
イベント始まりましたね。皆さん頑張りましょう!!