普通のデュエリスト   作:白い人

8 / 14
4.5 激突する世界

「ナッシュ」

「ドルベか、すまなかったな」

「いや……」

 

 青山遊里とのデュエル後、凌牙は、いやナッシュはバリアン世界へと戻っていた。

 そこに声をかけてきたのはドルベ。

 バリアン世界に転生する前からの友であり、ナッシュが不在の時にバリアン世界を守っていた人物である。

 

「あれは俺の我侭だからな、悪いな時間をかけて」

「それはいいさ。メラグからも聞いた。必要な事だったのだろう」

「……ああ」

 

 ナッシュが頷く。

 ドルベの優しさが身に染みるようだ。

 

「だが1つ気になる事がある」

「なんだ?」

 

 ドルベの抱く疑問。

 それはなんなんだろうかとナッシュが内心で首を傾げる。

 

「……最後の場面、何故あれを使わなかった?」

「……何の事だ?」

 

 その言葉の意味をナッシュは正確に理解しながら惚ける事にした。

 しかしドルベには通用しなかったようだ。

 

「ナッシュ。君はあの場面、シャーク・ドレイクではなくあれを呼ぶ事だって出来た筈だ」

「……」

「そう、本来の切り札。オーバーハンドレッド・ナンバーズを」

 

 オーバーハンドレッド・ナンバーズ。

 バリアン七皇の切り札であるカード達。

 ナンバーズは本来、アストラルの記憶の結晶であるのだがこれは違う。

 バリアン世界に伝わりし、七皇に授けられているカード達だ。

 その効果は絶大であり1度でも出せば戦場を制圧出来る程のスペックを持っていると言ってもいい。

 そして、先程のデュエル。

 最後の場面、ナッシュは死者蘇生で《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》を蘇らせた。

 だがもし、あの場面で《ダブルフィン・シャーク》を出していたら?

 そうしたら呼べたであろう。

 ナッシュの切り札、《No.101 S・H・Ark Knight》を。

 呼び出せば後は簡単だ。

 効果を使えば、相手の場にいた《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を処理し、他にカードがなかった遊里のライフを一瞬にして0に出来ただろう。

 それを理解しているからこその疑問である。

 

「……奴とのデュエルは神代凌牙として戦いたかった。だから、な」

「しかしその結果敗北してしまった。それで良かったのか?」

 

 ドルベの言いたい事も分かる。

 確かにS・H・Ark Knightを出せば勝利の女神はナッシュに微笑んでいただろう。

 だがそれを理解した上で出さなかったのだ。

 

「ああ、いいんだ。これで俺はナッシュとして戦う事が出来る」

 

 と、言いつつもやはり全てを断ち切れないでいるのをナッシュ自身も理解していた。

 本当の意味で断ち切るのはきっと、ナッシュとして遊馬達の前に立ち誰かを倒す事でしか出来ないだろう。

 

「そうか。それならばもう何も言う事はない」

「助かる」

 

 やはりこの友人はありがたいとナッシュは礼を言う。

 そして次にはナッシュの表情はバリアン七皇の長の顔になっていた。

 

「ドルベ、他の連中を全員集めろ」

「ではついに?」

「ああ。人間世界を攻め、九十九遊馬とアストラルを倒す」

「分かった」

 

 ナッシュの言葉に頷くとドルベは他の七皇を集めるべく、姿を消す。

 1人になった所でナッシュは大きく息を吐いた。

 

「……ナッシュならば勝てていたか」

 

 それはもはや確認の言葉だ。

 既に終わったデュエル。今更である。

 ナッシュならば勝てた。だが逆に言えば神代凌牙としては青山遊里には勝てなかったという事だ。

 それがやはりどうしても悔しいのだ。

 あの超えるべき壁を結局越える事が出来なかった。

 遊里は言った。何度でもかかってこいと。

 だがその機会は2度と訪れないだろう。

 もはや青山遊里や九十九遊馬が知っている神代凌牙は死んだ。

 ここにいるのはバリアン世界を守るべく剣を取ったナッシュなのだから。

 

「……遊里、お前はどう動く?」

 

 バリアン七皇が本格的に動く。

 そうすれば気持ちがどうであれ遊馬達は戦うだろう。

 その時、遊里はどうするのだろうか。

 少なくとも今まで遊里は自分からバリアンの戦いに介入した事はない。

 遊馬達に乞われて特訓に付き合ったりはしたが、積極的に動いた事は1度もなかった。

 そこまで考えてナッシュは1つの考えが浮かんできた。

 どうしてこうまで遊里の事を考えるのか。

 今回も遊里には動いてほしくないのだ。

 そしてそれは巻き込みたくないとかそんな甘っちょろい感覚ではない。

 

「奴がきたらどうなるか分からん……」

 

 勿論、ナッシュ自身は勝てる自信はある。

 だけど本当に?

 自分が真の意味で本気でなかったように、遊里もまだ隠しているものがあるのではないかと思ってしまうのだ。

 だが遊里の考えなど分かる筈もない。

 動かないでくれと祈るぐらいしか出来ないのだから。

 しかし。

 

「悪い予感程、当たりやすいか……」

 

 嫌な予感がする。

 それが当たって欲しくないと願いながらも、当たってしまうという確信がナッシュの中にはあるのであった。

 

 

 

 

 

「……遊里?」

「ん、愛華かどうしたんだ?」

 

 花添愛華がふと見かけた先にいたのはバイク型の乗り物にのった幼馴染である青山遊里の姿であった。

 既に空は暗く、異常気象が起きているし、世界は人々の暴動が起こったりしていると大混乱を起こしている。

 愛華は家族達と共に避難をしようと話していたのだ。

 だと言うのにこの幼馴染は何処かに行こうとしているのだ。

 少なくとも避難をするという様子ではない。

 家族を大事にしている遊里が1人で避難するなど考えられないからだ。

 

「どうしたじゃありませんわ。何処に行くつもりなのです?」

「ああ、ちょっくら世界を救う手助けをしてくる」

「はぁ?」

 

 遊里の発言に思わず愛華らしからぬ言葉が出てしまう。

 何処か頭でもぶつけたのだろうか。

 

「真面目な話さ」

「真面目な話って……」

 

 何処をどう考えたら世界を救うとか考えるのだろうか。

 

「この世界に侵略してくる奴等がいて、それを迎え撃とうとしている連中がいる。俺は脇役だがまっ、手助けぐらいは出来るさ」

「何を言って……」

「愛華は避難しな。ついでに父さん達も一緒に連れて行ってくれ」

「ま、まってください!」

 

 与太話と愛華が切り捨てるが、遊里の表情は未だに真剣そのものだ。

 ここの段階に来て、遊里は本気なのだと理解する。

 その内容さっぱり分からないが、本当に世界を救うつもりなのだろう。

 

「一体何をする気なんですの?」

「ああ」

 

 愛華が質問をすると遊里の表情が変わる。

 思わず聞かなければ良かったと思う程、獰猛な顔つきになる遊里。

 

「ちょっとしたリベンジと足止めさ」

 

 

 

 

 

「ふん、たいした事がない奴等だ」

 

 遊馬の師匠だという爺とその弟子らしき男の2人組みを倒したギラグはふん、と息を吐き出した。

 確かに途中まではそのコンビネーションの前に苦戦したが、所詮はただの人間。

 バリアン七皇の1人である己に勝てる筈もなかったのだ。

 だが多少の時間稼ぎをされてしまったのは事実だ。

 既に遊馬達は遠くへと逃げ出している事だろう。

 急いで追わなくてはならない。

 そう考えて、足を動かそうとした時。

 

「よう、会えて嬉しいぜでかぶつ」

「……なんだ、テメェは」

 

 後ろから声をかけられた。

 まるで長年会えなかった友人に再会した時のような声だ。

 しかしギラグはその声の中に隠された殺気を感じ取っていた。

 だからこそ、こうして足を止めてしまったのだ。

 振り向くとそこにいたのは1人の男。

 そしてこの男にギラグは見覚えがあった。

 青山遊里。

 かつて自分が洗脳した男である。

 

「どうしてここに?とか聞くんじゃないだろうな。用件なんてたった1つだろう」

「遊馬達を逃がす為の足止めか。そんな無駄な事はやめておきな。人間のテメェじゃ」

「はぁ、遊馬達を逃がす?」

 

 ギラグの言葉に驚いたような様子を見せる遊里。

 それを見て逆に言葉を失ってしまうギラグ。

 遊里の様子からそれが本心だと理解してしまったからだ。

 ならば何故、こんなビルの上にやってきて、ギラグの前に立つというのだ。

 

「おいおい、理解してないのかよ。やる事なんてたった1つだろう」

「何……?」

 

 デュエルディスクを構える遊里。

 その表情には隠しきれない程の歓喜と狂気が交じり合っている。

 それを見て、思わず後ずさるギラグ。遊里の威圧に負けたのだ。

 

「俺はテメェをぶっ潰して借りを返しに来ただけだ」

「……ハッ!」

 

 遊里の威圧を無視するようにギラグも大声を上げた。

 確かにその気迫は驚嘆するべき点だが、所詮は人間。

 先程の2人組みと同じように倒してしまえばいいのだ。

 そしてそれを可能にする新たな力をナッシュから与えられている。

 負ける要素など何処にもないのだ。

 

「だったら返り討ちにしてやるぜ!」

「さぁ、デュエルだ!」

 

 ギラグと遊里。

 その2人が激突。

 そして……。

 

 

 

 

 

 その数分後、ハートランドシティにギラグの断末魔が響く事になる。

 ギラグは負けたのだ。




124~125話あたりの話。

犠牲になったのだ……。後、ギラグ戦はやりません。

20141031 誤字修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。