青山遊里は転生者である。
それも所謂、地雷に相当する『神様転生系』だ。
とは言え、遊里自身はそのカミサマに会ったという記憶は非常に薄い。
今でも覚えていると言えば、遊戯王OCGのカードをやる、と言った内容ぐらいなものだ。
後は何一つ覚えている事はない。
気がつけばとある夫婦の子供として生まれていて普通に成長していた。
違いがあるとすれば、この世界はあまりにもデュエルモンスターズで決める事が多すぎたという事ぐらいだろうか。
そのおかげもあって俺はここが遊戯王の世界だという事に気づく事が出来たのだが。
この時点ではカミサマの事は完全に忘れており、どうしてここにいて若返ったのかも覚えていなった。
それを思い出したのは小学校に入ってからの事だ。
ちょうどその頃に正式に遊里にデュエルモンスターズのカードが買い与えられた日である。
その時にだ。
遊里の手元に大量のカードが現れたのだ。
これこそがカミサマが言っていたカードをやる、という事なのだろう。
当初は苦労したものだ。
これ程、大量のカード。しかも超高額カードが大量に現れたものだから両親にそれを隠すのは非常に大変なものであった。
無事に隠し通す事が出来た遊里が次に行ったのはこの世界を調べる事であった。
無印なのかGXなのか5D'sなのかZEAXLなのか、はたまたまったく関係ないのか。
調べた結果、分かったのはハートランドシティがあるという事でZEAXL、とある程度、断定したのであった。
確信に変わったのは、それから随分と後の事である。
たまたま大会で神代凌牙を見つけた時である。
アニメか漫画か、と更に面倒であったが八雲という名前を見つける事はなかったのでアニメ版と確信したのであった。
さて、世界が分かったのはいい。
では遊里自身が何がしたいか、という事になる。
遊戯王の世界に行きたいのかという事。
デュエルは楽しい。今も昔もその気持ちは変わっていない。
しかし幾つか困った事があった。
一つは周りが弱すぎた、という事だ。
何せカードが多すぎて強力なパワーカードを所持している人が少なく、タクティクスも微妙なものばかり。
おかげでデュエルを初めて1年もすれば遊里はこの辺りでは負けなしの決闘者として名を馳せるのには十分すぎたのだ。
そのせいか両親はそっちの道に進むものだと思っている。
遊里の本心としては、まだ決まっていないのだから少し困ったものである。
相手が弱いという事はデュエルのやりがいがないという事だ。
勿論、最初はARビジョンによるデュエルが非常に楽しかったのだが時間が経つにつれて強い相手を求めるようになるのは必然だったのだろう。
なので大会にも出場するようになり、強い相手を求めたのだが残念ながら遊里の求める相手ではなかった。
そこで遊里は根本的な方法を変える事にした。
強い相手がいないなら、自分が回りを強くすればいい。
普通に考えれば傲慢な考えだったのかもしれないが、遊里は思考はすぐにそちらの方向へ向いていった。
勿論だが教師の経験などない遊里にものを教える事は非常に大変である。
なので最初は幼馴染の愛華を強くしてみようと思った訳だ。
つまり先日行われた、神代璃緒とのデュエルはその結果があらわれた事になる。
それ以外にも、何度も何度も挑戦してくる神代凌牙も強くなっている筈だ。原作がどう進んだかは関わっていない遊里には分からないのだが。
さて、それ以外にも周りが強くなれるように何をすればいいのか。
遊里はそこまで考えてようやく一つのある事実に気づいたのである。
それは非常に重要で、どうして今まで気づかなかったのかと問い詰めたくなるレベルの大問題である。
遊里が気づいた事、それは……。
「この世界、wikiがねぇ」
これである。
なんとデュエルモンスターズのwikiがないのである。
正直、この事実を知った時、ぶち切れそうになったのは内緒でもなんでもない。
それで一つ理解できた事があった。
他のデュエリスト達がカードの効果を知らない事が多いのはこれのせいであると。
しかもこの世界、ルールにはちゃんと墓地などは公開情報と書かれているのに誰も教えないし聞こうとしないもんだから更に切れそうになる。
更に言えばこの世界はパワー志向が強い。
除去カードは少なく、モンスターを強化するカードを好む傾向がある。
愛華もモンスター強化を多く積んでいる時があったのだが、強化したモンスターを手札に戻していたら睨まれた、解せぬ。
閑話休題。
そういう訳で遊里が次に行ったのは、なんとwikiの製作である。個人でやるものではないと正直に言いたい。
とりあえずサーバーを設置する事から始めなければならなかったので、金がかかるという事実。ここは昔出場していた大会の賞金や一部のカードを処分する事でどうにかこうにかして纏まった金を用意する事が出来たのだが。
次にwikiの原型を現■世界のものを参考にして作り、データを入力していく事。だが作業するのは1人。辛いとかそういうレベルではない。
しかも遊里はまだまだ学生なのだ。日中は学校に行かなければならないし、他にも色々やる事は多い。
その合間を縫って作業していたのだが、自分が持っているカードを全部入力するのに1年近くかかってしまったのは仕方のない事かもしれない。
そんな努力のかいもあって公開されたwikiなのだが……どうにも回覧者が少ない、というかほぼ皆無である。
実質個人サイトなのだから仕方のない事かもしれないが、あまりカードについて調べたりしない事が多いらしい。
それに加えて、データが完全でないせいかもしれないと思い、毎日のように新しいカードを見つけては情報を更新し続けている。
その鬼気迫る様子に愛華がどん引きしていたのを遊里は知らない。
「……眠い」
先日、バリアンに洗脳された遊里ではあるが現在は体調に変化もなく普通に過ごしていた。
眠いと言っているのは昨日は夜遅くまでデッキの調整などを行っていたせいである。
もう少し眠っていても良かったのだが、今朝になって後輩である観月から連絡があったのだ。
なんでも凌牙と遊馬が山で大怪我をしたとの事。
ここまで聞いて思い出したのは、バリアン七皇の1人であるミザエルである。
■作でも初めてミザエルとデュエルした時、2人が大怪我していた。観月からもバリアンのせいという事も聞いたので確信に変わったのだが。
そういう訳で眠気をおして、見舞いの品など購入して病院に向かっている所であった。
購入したのはお馴染みのフルーツの盛り合わせ。多分、あの2人に花なんて持っていっても意味はないだろうし。
最初はバイク型の乗り物で行こうかと思ったのだが、雨が降ってきたので歩きに変更。
雨の音を楽しみながら街中を歩いていたのだが、面倒ごとがついてきたな、とある光景を見て思ってしまった。
「は、離してください!」
「俺の……俺のモノになれぇ……!」
「ひっ!」
少し年上かと思われる女性に血走った目で迫っている男。
どう見ても犯罪の現場である。
どうしたものかと思ったが、さすがに見て見ぬ振りという訳にはいかないだろう。
Dゲイザーを使って警察に連絡。
時間を稼ごうと、割って入ろうしたのだがどうにも嫌な予感がする。
所謂、直感とかそういうものではない。
明確な敵意というか悪意が血走った男から出ているのだ。
遊里はそんな初めての経験を受けながらどうにか無視して2人の間に割ってはいる。
「おい、嫌がっているだろう」
「え?」
「なんだテメェは!?」
「だから嫌がっているだろう。ナンパしたいならもうちょっとまともな手段を選びなよ」
遊里が女性の前に立ち、正論を吐きながら男を睨みつけると男の目が更に酷くなる。正直、薬か何かやっているのではないかと思うぐらいにだ。
そして嫌な予感の大本に気づいた。男が腰にぶら下げているデッキからだ。
あのデッキの中から不味い感じがして仕方がない。
先程から遊里の背中は汗がびっしょりである。
「ぎぎぎきさまぁ!そいつの騎士かぁ!?」
「騎士かどうかは知らないが、あんたの敵なのは間違いないよ」
「ならデュエルだぁ!勝ったらそいつは俺の女だぁ!」
「その理論はおかしい」
ていうか女性の意志は無視かよ。
既にデュエルディスクがセットされDゲイザーでロックされている。
勿論、逃げようと、正直逃げたいだがあの嫌な予感を放置するのは危険な気がする。
遊里はそう覚悟を決めると、後ろにいる女性に逃げてもいい事と警察を呼んでいる事を伝える。
が、どうにも逃げる様子がない。
まさかと思うが彼女もデュエル脳に侵され、賞品になる事を是としているのだろうか。そうだとしたらさっさと逃げろと言いたい所である。
まぁ、いいか。と他人事のように遊里は後ろの女性について考えるのを放棄した。
とりあえず勝てばいいのだ勝てば。
『デュエル!』
あっ、この手札なら1キルルート行けるや。
遊里はドローしたカードを見ながらそう呟いた後、相手の展開を見た後に。
「フォートレスとギアギガントX、ハルベルトのダイレクトアタックで終わり」
大嵐とブラック・ホールぶっぱからの展開であっさりと終了してしまった。
聖騎士デッキのようだったが、関係なかった。
しかし嫌な予感はなんだったのだろうか。
そう遊里が思った瞬間、倒れた男のデッキから何故かカードが飛んできて遊里の手元にやってきた。
それを思わず手に取った瞬間、冷や汗が止まらなくなる。
そのカードは……。
「な、ナンバーズ……!?」
《No.23 冥界の霊騎士ランスロット》。
遊馬達やバリアン達が求めているアストラルの記憶の結晶。
なるほど、と納得する。
確かにこのカードならば男の奇妙な様子にも説明がつく。ナンバーズに取り付かれたのだろう。
そして勝利した遊里の手元にやってきたという事だ。
しかしそれを受け取った遊里の気分がどんどんと悪くなっていく。
頭がガンガンするし、吐き気がする衝動に襲われていく。このままでは不味い。
そう判断すると、これをさっさと遊馬達に渡すべく病院へと走り出す。
女性が何か言っている様子が見られたが、今はそれ所ではない。
今は平気そうで全然平気ではないのだが、とりあえず平気だとしてもこのままでは遊里自身がナンバーズに取り付かれる可能性が高い。
女性にも迷惑をかける可能性があるし、ここは早く行くべきだろう。
遊里は具合が悪くなっているのを感じながら病院に向かって爆走していった。
それを呆然とした様子で見つめる女性。
お礼が言いたかったのだが、突然走り出した彼に何も言えずにいた。
倒れて気を失った男を見てどうしたものかと思っていると、よく知った声が女性にかけられた。
「……どうしたんだ瑠那?」
「あっ、カイト君」
女性――瑠那が目を声がした方向に目を向けると傘をさし、どうにも似合わないフルーツの詰め合わせを持った天城カイトの姿があった。
「よ、よう2人とも……元気そうだな……」
「おっ、遊里ってう、うわあぁぁぁ!?」
「お、おい!?どうしたんだ!?」
尚、遊里は顔を真っ青を通りこして真っ白な状態になっていた為、遊馬と凌牙に盛大に心配されたとの事。
ナンバーズは一般人が持つには危険極まりないカードである。
84話での事。
20140923 誤字など修正。
20141002 一部修正。
20150712 誤字など修正。