そしてあの日から数ヶ月が経った。
遊馬はいつも通りの日常を謳歌している。
変わった事と言えば、やはり神代凌牙や天城カイトをはじめとするあの戦いで犠牲になった人々が帰ってきたという事だろうか。
バリアン七皇も人間として蘇り、学生になったり研究者になったりとそれぞれの道を歩み始めている。
遊里もまた日常に戻っていた。
いつも通り、デュエルを楽しみ、挑んでくる連中を返り討ちにしたりしていたりする。
そして今日、遊里は学園を卒業する事になった。愛華も一緒である。
進学先は色々悩んだのだろうが、結局デュエルアカデミアに進学を決めた。
両親がそちらの道を望んでいたのもあったが、本人にもやりたい事が出来たらしい。
そして進学するのはデュエルアカデミアの本校だ。
孤島にあり、非常に厳しく大変な所だと聞いている。
だが遊馬や凌牙達は誰も心配はしていなかった。
遊里がそんな学園で折れるという事はないだろうと思っていたからだ。
それに愛華も何かしら思う所があったのか、遊里と同じくアカデミアの進学を決めていた。
普通の学園に進学すると思っていたものだから、遊里も驚いていたのを覚えている。
しかし愛華もまた有力なデュエリストなのだ。
女性陣ではトップクラスだし、遊里の手ほどきを受けていたのだ。弱い訳がない。
その遊里も未だに負け星は非常に少ない。
なんとか凌牙や遊馬、カイトと言ったメンバーが1、2勝出来たぐらいなのだから。
そして遊里と愛華が旅立つ事になり、あっという間にアカデミアに向かう船へと乗り込んでいた。
「あー、風が気持ちいい」
「本当ですわね……」
船の甲板で空を見上げる2人。
今日は運もよく快晴である。
何処を見渡しても雲1つない蒼穹が広がっていた。
「しかし愛華もアカデミアに来るとは思わなかった」
「ふふ、わたくしも色々考えたのですわ」
困ったような遊里の言葉に愛華が微笑む。
しかし遊里は未だに愛華がどうしてアカデミアに進学する事を決めたのか聞いてなかった事を思い出した。
準備で忙しかった、というのもあったがのらりくらりと答えるのをよけられていたような気がしていた。
そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかと思ったが、素直に答えてくれるだろうかとも思う。
「なぁ、愛華」
「そういえば遊里。最後に小鳥さんに渡していたあの大きな箱はなんだったんですの?」
いざ質問、という所で愛華が逆に質問してくる為、出鼻を挫かれる。
おのれ!と思いつつも遊里は律儀に質問に答える事にした。
「あー、うん」
しかし何処か答えにくそうな様子である。
一体何を渡したというのか。
「変なものじゃありませんわよね?」
「ああ……」
んー、と腕を組んで考え出す。
それを見て何を渡したのやら、と愛華は思っているとポツリと遊里が言葉を発した。
「カード」
「へ?」
「あいつらにぴったりなカードさ」
ぴったりなカードとはなんだろうか、と思うがその瞬間、手持ちのDゲイザーから着信音が鳴り響く。
一体誰からだ、と思うと連絡してきたのは小鳥だ。
いった何の用なのだろうかと思い、連絡しようとすると横から遊里の手が伸びて愛華のDゲイザーを奪い取ってしまった。
「ゆ、遊里!?」
「暫く連絡しないでくれ、頼むから」
困ったような遊里の表情にやはり何かあるな、と愛華は思う。
奪い返そうと息をまこうとした時、再び遊里がポツリと言葉を発した。
「変な物は渡してないよ」
「……遊里?」
「さっきも言ったけどあいつらにぴったりなカードさ」
愛華は知るよしもないが、小鳥の手に渡された箱の中に入っていたのはナンバーズだ。
ホープやシャーク・ドレイク、更には銀河眼の光子竜皇、S・H・Ark Knightといったオーバーハンドレッドナンバーズ、カオス化したモンスター達もだ。
勿論これはアストラルが持つオリジナルなどではなく遊里が持っていたOCGカードな訳だが。
その為、特殊な力などはないので、安心して使えるカード達である。
中に入れておいた手紙には好きに使えと書いておいたのだが気に食わなかったのかなぁ、とさっきから引っ切り無しに連絡が来ているDゲイザーから目をそらしながらそう思った。
真相は何でこれを持ってるんだ、この野郎とかなんで効果が違うんだこの野郎とか色々あるに違いない。
だが今は答える気はなかった。
とりあえず遊馬にだけはメールを送っておこう。
知りたきゃ俺に勝ってみろ、と。
そんな遊里の様子に愛華は困ったもんだとため息だけ吐くと遊里の傍による。
なんとなく傍にいたいな、と思ったからだ。
「遊里は……どうしてアカデミアに?」
「ん、そんなにおかしいか?」
「正直、遊里が行くとは思っていませんでした」
「あー」
元々遊里は今のデュエリストはたいした事がないという評価を下していた。
最近は凌牙や遊馬と言ったデュエリストと楽しくやっているようだが、一時期本当につまらなそうにしていた事があるのだ。
そんな中、アカデミアに行くとはあまり思えなかったのだ。
「デュエルアカデミアを卒業しないと資格が取れないからな」
「資格……?」
「ああ。卒業したら先生になろうと思うんだ、デュエルの」
「先生ですか……」
「周りが弱いなら、俺が育てればいい。未だに変わってないよ、この思いは」
そして楽しいデュエルをする。
確かに遊里は愛華にデュエルを教える時、そんな事を言っていた事を思い出す。
「そしたらきっと俺よりも強い奴がいっぱいいるようになるさ」
「遊里、らしいですね」
きっと遊里は満足の行くデュエルがしたいのだろう。
だからその道を選んだに違いない。
「んで、愛華は?」
「え?」
「愛華はどうしてアカデミアに?」
遊里の素直な疑問であった。
花添愛華は確かに遊里にデュエルを教え込まれたが、そちらの道に進むとは思っていなかったのだ。
彼女には他に沢山の道があっただろう。
「……分かりませんか?」
「え?」
「貴方の傍にいたかった……からでは駄目ですか」
そんな愛華の言葉を聞いて固まってしまう遊里。
まさかそんな言葉を言われるとは思ってもいなかったのだろう。
暫くうーん、と悩む頭を掻き毟ると、愛華に向き直る。
「……マジで?」
「マジですわ」
冗談抜きの真顔で発せられる言葉に絶句する遊里。
好意を持たれているという自覚はあったがまさかそこまでは思ってもいなかったのだろう。
真剣な表情になり、息を整えると遊里は愛華の正面に立つ。
「……俺、結構なデュエル馬鹿だぞ」
「知ってますわ。それでもいいんですの」
「恋愛とか実はよく分からないんだ」
「それでもわたくしは貴方の隣にいたいんです」
本気である。
これ以上にないレベルの本気である。
「……なぁ、愛華」
「どうしました遊里」
すっと遊里は愛華の手を握る。
愛華は驚いた表情を見せるが、すぐに穏やかな表情になると、そっと遊里の手を握りなおした。
「これからもよろしくな愛華」
「はい」
答えはそれだけであった。
でもそれで十分なのだろう、この2人には。
きっとこれからも大変な事があるだろう。
また今回のような世界の命運をかけた事件に巻き込まれるかもしれない。
だけど大丈夫だ。
こんなにも己を思ってくれる人が隣にいるのだから。
これにて最終回。
短い話でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
20141110 誤字修正
20150713 誤字修正