予告短編集   作:TRcrant

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―あらすじ―

魔法という存在が認められるようになった時代。
そんな時代の日本に存在する『スズノネ魔法学園』に通う少年には、”魔力があるのに魔法が使えない”という問題があった。

これはそんな魔法が使えない魔法使いである少年の物語である。


スズノネセブン!~魔法が使えない魔法使い~ プロローグ

魔法という力が存在する日本某所。

夜の帳が下りた住宅街。

本来であれば、そこは閑静な場所で犯罪などとは全く持って無縁といわれるような場所だった。

 

「た、助けてくれー!!」

 

そんな場所に響き渡る男性の悲鳴。

男は息を切らしながら走っていた。

時折後ろを振り向くことから、何かから逃げているのは明らかだった。

 

「っぐ!」

 

何かに足を取られたのか、男性は地面に倒れた。

男は立ち上がろうとするが足首をくじいたのか立ち上がることができなかった。

だが、男の助けを求める声に反応する者は誰一人もいなかった。

人がいないというわけではない。

男の周囲にある住宅には明かりが点いており、人がいるというのは一目瞭然だった。

だが、誰も助けようとしないのは薄情という理由だからではない。

 

「そこまでだ」

「ひ、ひぃっ!?」

 

まるで幽霊のように音もなく男性の後ろに立っていた人物の冷たい声に、男性は慌てた様子で逃げようとする。

だが、足をくじいているために走って逃げることはできず、両腕を使って体を引きずるようにして逃げるしかなかった。

 

「お、俺だけじゃねえ! 俺以外のやつだって言ってたじゃないか!!」

「言ったことは認める訳か」

 

男性の言葉に、(声色から男の物と思われる)男は冷たく答えた。

街灯がないため、男性は男の姿を見ることはできない。

だが、それだけに恐怖は増していく。

 

「それじゃ、裁きの時間だ」

「や、やめてくれ」

 

男がつぶやいた瞬間、雲に隠れていた月光が、彼らを照らした。

銀色の髪によって目元は見えず、その服装は黒いマントのような恰好をしていた。

不気味さを感じさせる男の容姿だが、より一層拍車をかけているのは手に持っているものだろう。

それは鎌だった。

その鎌を男は上空に向けて振り上げた。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

――その数秒後、住宅街に断末魔が響き渡った。

翌日、男性は首が切断されているという、変わり果てた姿で発見されることとなった。

そして、それは人々に”またか”という感想を抱かせるのに十分だった。

犯人である男の姿を見たことがある人物によって、男はいつしかこう呼ばれるようなった。

 

”死神ジャック”と

 

毎夜現れては、魔法が使えない人間の命を奪っていく鎌を持った男の姿は、まさしく死神であった。

そんな死神ジャックだが、ある時からぴたりと被害がなくなるようになった。

それと同時に死神ジャックの存在自体が目撃されなくなったのだ。

他の犯罪者によって消されたのか、それとも改心したのかと様々な憶測を呼ぶ中、依然として死神ジャックの行方をつかむことはできなかった。

そんな謎多き存在である彼が、最初の魔法犯罪者ということで犯罪史に記されることとなったのは少し後の時代のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急がなくちゃ!」

 

僕、高月(たかつき) 浩介(こうすけ)はとても急いでいた。

それというのも

 

「早くしないと、次の授業に間に合わない!」

 

というものだった。

 

(どうして実験ドームと教室はこんなに距離があるんだ!)

 

この学園を創設したあの人に心の中で文句を言うが、決してそれを口にすることはできない。

そうすれば、どうなるかは僕にでも理解できる。

そんなわけで、僕は残り2分で魔法の授業を行う実験ドームへと向かっているのだ。

ちなみに、理由は友人のその友人の話に付き合っていたからという自業自得なものだったが。

 

(あの角を曲がればすぐそこだっ!)

 

実験ドームまですぐそこだという目印でもある曲がり角を前に、僕はさらに足を速めた。

 

「きゃ!?」

「うわ!?」

 

だが、それがまずかった。

出会いがしらで誰かとぶつかってしまったのだ。

声からして女子だろう。

パンを加えていたら確実にあれなことになっていたなーと、どうでもいいことを考えながら、僕は慌ててぶつかった衝撃で尻餅をついている女子学生に駆け寄った。

 

「ご、ごめんっ。大丈夫!?」

「は、はい。大丈夫で―――――っ!」

 

後ろ側に紫色のリボンが付いた帽子をかぶっている長めの銀色の髪をした女子学生は、僕の姿を見た瞬間その眼が大きく見開かれた。

その表情には驚きの色が感じられた。

それは僕とて同じことだった。

 

(すみれお嬢様)

 

ぶつかった女子学生がすみれお嬢様であることに気付いた僕は、慌てて混乱する心を落ち着かせる。

 

「ど、どうかしたかな?」

「い、いえ。なんでもありません」

 

僕から視線を逸らしたすみれお嬢様は声を震わせながら謝ってきた。

 

「いや、こっちも廊下を走っちゃってたから。けがは……なさそうだね」

 

すみれお嬢様の手を取って立ち上がらせた僕は、その姿から怪我はしていないと判断した。

内面的なことは分からないが。

そんな時、僕はふとどうして急いでいたのかを思い出した。

 

(あと1分!?)

 

気づけば時間はかなり切羽詰まったものとなっていた。

ここから実験ドームまで走ってぎりぎり1分ぐらいだろうか。

ならば僕のすることは決まっている。

 

「それじゃ、僕はいくからすみれお嬢様も早く実験ドームに来てくださいね!」

「は、はい」

 

僕はすみれお嬢様に遅れないように告げると、さらに速度を速めて実験ドームへと向かっていった。

ちなみに、僕がドームに入ったのと同時にチャイムが鳴ったので、見事遅刻せずに済むこととなった。

余談だが、担当教師の話を聞いている時に、すみれお嬢様の姿を探すと、いつの間にかドーム内に入っていた。

 

(ここのドア、開けると音が鳴るはずなんだけど)

 

金属特有の音はドアが開いたことを知らせるのに十分なものだ。

それゆえに、遅刻すると全員の目がそこに集まってしまうわけで生徒からは遅刻者撲滅の砦と言われていたりする。

今思えば、すべての始まりはここからだったような気がする。

それに気づくのは次の日のことだった。




一話目からかっ飛ばしていますが、そこはご愛嬌ということで(汗)

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