『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

74 / 107
どうもこんばんは。
本編更新! と、いきたいところですが先に番外編になります。
本編とはいっさい関係ありません。
時系列とかも、関係ないです。
書きたいから書いた。
後悔はしていない。
反省はしてる。


では、どうぞ。


突発的番外編シリーズ
連載1周年記念! 突破的番外編。ロア達の野球大会……


「野球大会?」

 

「そう、野球!」

 

 

それはある昼下がりだった。

俺の席までやってきた女の子が、爽やかな明るい声で得意げに告げた。

愛くるしい瞳は猫を思わせるようにクリクリっとした輝きを放っており、やや洋風っぽく整った顔立ちは、多少高貴な面影すら感じさせる。

この子の名前は仁藤キリカ。短いスカートを履いているので綺麗な脚線美が見えてしまっている。風に煽られたらスカートの中が見えそうなくらい短い。指摘しようと思ったがすぐに思い直す。下手に刺激して「モンジ君なら……見てもいいんだよ♡」なんて返されたらたまらんからな。『美少女』で『裕福な家庭で育ったお嬢様』、『才色兼備』で『社交的』、それが周りから見たキリカの評価だ。それ故にヒス持ちの俺にとっては要注意である美少女だ。

まあ……それは表の顔なんだかな。

その正体は『ロア喰い』、『最悪な魔女』、『魔女喰いの魔女』などと呼ばれる存在で。

伝説や噂話が実体化した存在。

『ロア』と呼ばれる、いわゆる『都市伝説のお化け』なのだが。

 

「来週、私みたいな人達が集まる恒例のイベントがあってね。その一つに野球大会があるの」

 

そんなお化けの存在なキリカはこれまたクラスの男共が喜びそうなくらい特大な笑みを浮かべて俺に話しかけてきた。

 

「キリカみたいな人達って……やっぱあっち系の人達か?」

 

「うん、そっち系の人達。あ、でも安心して!

全員モンジ君の知ってる人達だから」

 

それは安心できるのだろうか。

あっち系というだけで俺的には関わりたくない奴らという認識になるのだが。

 

「大丈夫だよ? ちゃんとチーム分けは平等に行なうし、報酬もちゃんと出るから」

 

キリカは俺の心配を、チーム分けや報酬がきちんとされないのが原因だと受け取ったようだ。

 

「そんな心配はしてない。むしろ、報酬が出るならやってもいいと思い始めてる」

 

ここんところ、非日常な事に時間が割かれていたからな。

たまには息抜きというか、普通の日常を送ってみたいと思うのは普通の高校生として当然だ。

 

「やった! じゃあ、決定だね! 日時はまたメールで知らせるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

______それが三日前の事だった。

 

 

試合当日。

試合場所として指定されたのは俺の、というか。

一文字疾風がかつて通っていた中学校。市立十二宮中学校の野球部が練習場所として使っているグランドだった。グランドと言っても名門野球部ではないので、他の部活……サッカー部などとの兼任で使う普通の中学校にある普通の校庭だ。

そこに俺を含めて20人弱の人達が集まっている。

 

ちなみにオーダーはこんな感じだ。

 

Aチーム。

 

一、(ファースト)スナオ・ミレニアム

 

二、(ライト)六実 鳴央

 

三、(セカンド)口裂け女のロア(名前は貞子さん)

 

四、俺。(センター)一文字疾風(遠山金次)

 

五、綴 梅子(サード)(なんでいるの?)

 

六、アリサ(レフト)

 

七、三枝さん(ショート)

 

八、遠山金三(キャッチャー)

 

九、キリカ(ピッチャー)

 

 

 

 

Bチーム。

 

一、ライン(ショート)

 

二、七里詩穂(ライト)

 

三、須藤理亜(ファースト)

 

四、一之江瑞江(キャッチャー)

 

五、六実音央(センター)

 

六、氷澄(セカンド)

 

七、リサ(レフト)

 

八、遠山金女(ピッチャー)

 

九、ツクモ(サード)(金三が呼んだ……)

 

 

 

……うん、いろいろ突っ込みてえ。

個性豊かなイロモノばかり集まった気がするな。

大丈夫か? この大会?

 

ちなみにこの大会の正式名称は、集まれロアっ子達!

みんなでワイワイ楽しく存在を世界にアピールしようぜ!

ロアとロアとで親交! ガチバトルで友情を深めあおう!

もちろん殺しもありだよ! ベースボール大会!

……という。

 

(長え______よ⁉︎ ロアっ子って何だよ!

何だよガチバトルって、野球はスポーツだろ! 殺し合いを認めんなよ、馬鹿野郎! )

 

……それが俺の感想だ。

 

「さて、参加者も揃ったし始めようかー?

あ、今回は(・・・)きちんと審判役もいるから安心してね♡

じゃあ、紹介するねー! 今回審判役を買って出てくれた」

 

キリカの紹介で現れたのは。

 

「はーい、みんなのヤシロだよ?

みんなこんにちわー」

 

神出鬼没な全身白ずくめの美少女。

ヤシロちゃんだった。

いつも通り、白いワンピースに、白い帽子。白い傘を差している。

 

「正々堂々と戦……わなくてもいいから、きちんと存在をアピールしてね?

世界に存在をアピールできればしばらくは消えないから!

もっとも……殺されて消えなければだけど」

 

不吉な台詞を放つヤシロちゃん。

そんなヤシロちゃんをよそにキリカの元気な声が聞こえた。

 

「さあ、ロア達の野球大会を始めようー♪」

 

 

 

 

 

 

一回裏。

Bチームの攻撃。

 

え? Aチームの攻撃はどうしたかって?

三者凡退だが、何か?

詳しく話せば長くなるので割略するが。

トップバッターのスナオちゃんは見逃し三振だった。

「さあ、勝負よ! メリーズドール!

野球でもあたしの方が上手いってとこ、見せてあげるんだから!」とか、キャッチャーの一之江に宣言してバッターボックスに立ったのだが。

結果は見逃し三振。

遠くから見たからよくわからないがバッターボックスに立つなり、ブルブル震えていたのは見えた。

……緊張し過ぎて震えたのかな。

スナオちゃんに聞いても……。

「打ったら殺される……打ったら殺される……打ったら殺さ……」というかなり心配な台詞があったが、緊張したから出たんだよな! うん、深く考えるな!

感じろ金次!

 

次の打者は鳴央ちゃんだった。

野球の経験はない。

かと思いきや……音央と入れ替わるまで男子に混じって遊んでいた幼少期があるせいか、草野球程度の経験ならあるとのこと。

これは期待出来る!

と思いきや……バッターボックスに立つなり。

泣き出した。

え? 何が起きたんだ?

キャッチャーミット目掛けて飛んできたボールにバットが当たることはなく。

スナオちゃんに続く2人目の見逃し三振となった。

目にゴミでも入ったんだよな?

うん、そうだよな。たまたま、だよな?

三人目。貞子さん。

バッターボックスに立つなり、マスクを外して「私、綺麗?」と言って後ろを振り返った。

その瞬間。

貞子さんは光の粒子となって消えてしまった。

……見逃し三振。

スリーアウト。

 

「スリーアウトはチェンジだよ? お兄ちゃん」

 

かなめに言われて我に返ったが……何やってんの貞子さん⁉︎

わずか数行、それも一言しか話さないで(物理的に)消えるとか……何しちゃってくれてんの⁉︎

まだ一回なんだけど!

もうすでにチームメイトが一人いなくなったんだけどー⁉︎

 

「ありえん」

 

ありえないだろ。こんな展開。

 

「モンジ君、もうチェンジだよ?

早く守備についてね?」

 

キリカに言われ、渋々守備位置であるセンターのポジションについたが……

 

「ふふふっ、本当は少し遊ぼうと思ったけど……少し本気で行くよ!

『消える魔球』!」

 

キリカが投げたボールは打者の目の前で突然消えて無くなった。

一瞬の出来事だった為、何が起きたのかわからなかったが。

 

「ストライク!

ミットの中にボールはあるよ?」

 

ヤシロちゃんの声が聞こえ、キャッチャーを見ると。

キンゾーの手にはしっかりボールが握られていた。

 

「ケッ、こんな(モン)も打てないのか。

この国の野球はレベルが低いぜ」

 

イヤイヤイヤイヤ。

目の前でボールが消えたら誰も打てないだろ⁉︎

何言っちゃてんの?

キリカの力投……というか、ほとんど反則といっていい『魔球』により三者三振で終える一回の裏。

そして始まる二回表。

最初のバッターは……俺だ。

 

「フレー、フレー、お兄ちゃん♪」

 

敵チームなのに応援してくるかなめ。

味方を敵に回していいのか?

と思いながらファーストを守っている理亜と目が合うと。

 

「頑張ってくださいね、兄さん」

 

などと呟いていたのが聞こえた。

普段の俺ならば絶対に聞こえないくらい小さな声だったが。

今の俺ならバッチリ聞こえる。

そう。なっているからだ。

なんでなっているのかというと。

一回裏が終わった直後。

「お兄ちゃん、妹ハグしてぇー」などと言われ。

敵チームのピッチャーであるかなめに抱きつかれたからだ。

汗を掻いた半分血の繋がりがある美少女に抱きつかれる。

それはなんというか。

そう。かなめ的に言うとまさに……背徳感がある。

結果、ヒスってしまった。

 

「やったー! 今度はお兄ちゃんが相手だ! やっと本気で投げれるよ」

 

「ははっ! お手柔らかに、ね?」

 

「わかりました。お手柔らかに殺します」

 

背後から物騒な声が聞こえたので思わず振り向きそうになり……。

 

______ピピピピッ!

 

『もしもし、私よ。今貴方の後ろにいるの』

 

一之江の声がユニホームのポケットに入れたDフォンから聞こえてきたので堪える。

 

「背後を振り向いたらウッカリ殺してしまいますのでぜひ振り向いてくださいね?」

 

「そこは『後ろを振り返かないで気をつけて』っていうのがセオリーなんじゃないかな?」

 

「私は過去の人を振り返らない主義なんです」

 

「過去の人扱いされた!」

 

などといつものやり取りをしながらバッターボックスに立つ。

 

「じゃあ、行くよー!」

 

かなめが第1球目を投げた。

外角いっぱいストレートだ!

バットを振ったが予想以上に速い!

 

「ストライク!」

 

ヤシロちゃんの声を聞きながら、俺は今の球の攻略を考える。

想像以上に速いな。

球速は140km/hってところか。

女子にしてはかなりというか、めちゃくちゃ速くないか?

……打てるかな。

アメリカ生まれ、アメリカ育ちとだけあって、かなめはかなり上手い。

球の出どころが見えにくいフォームに、スピンがかかる球。

スタミナは武偵をやっていただけあってかなりあるだろうし、コントロールもいい。

これはちょっとやそっとじゃ打てないぞ。

それにさらに打てない原因がある。

それはかなめの真正面。

要は俺の背後にいる存在。

『月隠のメリーズドール』こと、一之江瑞江が原因だ。

一之江は俺がバッターボックスに立ったその瞬間から。

 

「打ったら殺します……打ったら殺します……打ったら殺します……打ったら殺します……打ったら殺します……打ったら……」

 

そう囁き続けていた。

 

恐い。

ヒステリアモードの俺でも一之江のこの囁き声には恐怖を覚える。

 

「ちょ、ちょっと待て! ヤシロちゃん、審判! これは反則じゃ……」

 

「反則? ただの囁き戦術ですよ?」

 

嘘だ! 絶対違う。

 

「うん? ルール上は問題ないよ?」

 

審判役のヤシロちゃんに確認を取ってみたが……そんな答えを言われてしまった。

いや、大アリだと思うぞ。

 

「偉大なるノ◯ラ元監督も言ってました。

キャッチャーは相手をイラつかせたら勝ちだって」

 

「嘘だ。そんなことノ◯さんが言うわけないだろ‼︎」

 

「言ってましたって。

月見草でも枯れた向日葵には勝てるって言ってましたって」

 

「アウト! 一之江その発言はいろいろアウトだ!」

 

問題発言連発の一之江に突っ込みを入れていると。

 

______バンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

気づけば見逃し三振していた。

チームのみんな……ごめんよ。

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんだあり。

試合は進んで9回表。Aチームの攻撃。

ノーアウトランナー一塁。

打席には四番の俺が立っていた。

前の攻撃ではキャッチャーをしているキンゾーに向かって、ラインが『音速境界(ライン・ザ・マッハ)!』を放ちキンゾーを吹き飛ばすなど些細な乱闘騒ぎがあったが。

まあ、おおむね順調に試合は進んでいる。

三番には代打でタッくんが入った。

こんな子供にクリーンナップが務まるのか? と思ったが予想に反してタッくんは野球のセンスがあった。

タッくんが作ったこのチャンス無駄にはしない!

子供が頑張ってるんだ、俺が打てなくてどうする?

それに……

 

「お兄ちゃん、あたしの球を打とうとするなんて……非合理的〜!」

 

「妹にカッコ悪いところばっかり見せられないからな。打つさ」

 

そう。可愛い『妹』が見てる試合で情けない姿ばかり見せられない!

たとえ、その妹が敵チームにいようと。そんなことは関係ない。

『兄は妹の前では、大切な女の子の前ではカッコいいヒーローでいないとダメ』だからな。

ヒーローなんて本当はいないけど。俺はヒーローにはなれないけど……それでもせめて、大切な人達の笑顔は守れる男でいたいから。

 

一之江の囁き声が背後から聞こえているが気にしない。

囁き声と共に、ツンツン、グサッと何か硬い金属が当てられているが気にしない。

……気にしたら負けだ!

 

「打ったら針千本突き刺______す! 打たなければ千回斬ります。

どっちにしますか?」

 

「それ選択肢ないよな?」

 

どちらに転んでもバッドエンドしかない。

詰んでいる。

だがそれがどうした?

将棋だって、詰んだら詰んだで盤をひっくり返せばなかったことになるんだ。

打てなくても、点さえ取られなければ負けないんだ!

かなめ相手にそれやったし。

ここまでお互い一安打のみ。

このまま九回を終えれば延長戦。

 

だけど一点でも取れれば、必ず勝てる。

 

なら……打つ!

 

「さあ、来い!」

 

俺はかなめが投球動作に入るのをヒステリアモードの目でじっと見た。

かなめが投げる球種は5つ。

ストレート、カーブ、縦スライダー、チェンジアップ、カットボールだ!

カーブは曲がりが微妙に違って速さも違うものが2種類ある。

大きく弧を描くカーブと、スロー気味であまり曲がらないカーブだ。

ここまでのかなめの投球動作を見ていると。

ストレート21%、スライダー12%、チェンジアップ7%、カーブ系60%だ。

カーブを多用する傾向が高い。

なら狙うのはカーブだ!

……なんて思うのはあかさかってやつだ。

だって俺の時にはカーブ系はほとんど投げてこないからな。

俺に投げる球種でもっとも多く投げるのはストレートだ!

それも140km/h後半の、な。

かなめは本当に女子なのかと疑いたくなる。

生まれる性別間違ってませんか?

 

「今、お兄ちゃんに凄く馬鹿にされた気がする……非合理的ー」

 

……鋭い。

 

「気のせいだ。それより速く投げてくれ」

 

「……まあ、いいや。じゃあ、お兄ちゃん……本気で行くよ?」

 

かなめが大きく振りかぶって投げた。

 

______ドゴォォォォォンッ‼︎!

 

大砲が放たれたような大きな音が鳴り響き。

 

放たれたボールは一之江のキャッチャーミットに収まっていた。

 

「は、速い……」

 

いや、速いなんてもんじゃない。

ヒステリアモードの俺でも見るのがやっとだった。

亜音速に至ってたぞ、今の。

 

「う〜ん、まあまあかな?

球は走ってるから……上出来だね!」

 

「……」

 

あんな球を普通に投げたかなめも、かなめだが……それよりも。

 

「……あれを……捕った、だと⁉︎」

 

一之江のハイスペックに驚きを隠せない。

亜音速に至る白球。それを一之江は眉ひとつ動かさずに掴み捕っていた。

 

「大丈夫なのか、一之江?」

 

「別に平気ですが?

なんたって私ったら、『最強』ですからね!」

 

亜音速の物体を掴み捕るなんてどんな超人だよ。

さすがは一之江だ。

 

「……まあ、捕れたのはモンジのおかげですけど」

 

「うん?」

 

「貴方が前にやった、銃弾を素手で掴んで止める技。あれを参考にしました」

 

ああ、『銃弾掴み(ゼロ)』か。確かにあれならできるかもな。

 

「お兄ちゃん、二球目行くよ______!」

 

かなめの声で現実に戻った俺は。

真正面を向いて。

迫る白球目掛けてバットを高速で振り抜いた。

 

(桜花______ッ!)

 

亜音速気味に桜花を放つ。

バットの先が何やら重くなり。

そして。

______キンッ! というバットとボールが当たった際に起きる音が鳴り響いた。

 

(いっ______けぇ______ぇぇぇ!)

 

弾き返された白球は大空高くへ舞い上がる。

 

 

どこまでも。どこまでも。遠くに……。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。