『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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更新遅れましたー。
5500文字書くのに、かなり時間かかりました。
次回はもっと早く更新を……できたらいいなー。


第二話。恐怖の転入生

「それじゃね!」

 

「おうよ」

 

キリカとの電話を終えて通話を切った。

時計を見ると電話を切った今の時刻は夜中の3時だった。

耳が熱くなるまで電話してしまったが、会話が思ったより弾んだ事に自分でも驚いた。

前世でも女子とこんなに電話する事なんて任務以外になかったなあ。

長電話で疲れた俺はそのままベッドに入って寝る準備を始めた。

風呂は明日入ればいいや。

 

「……そういえば」

 

ごそごそと枕の下を探り、Dフォンを取り出す。

これが本当に「8番目のセカイ」に繋がるのだとしたら、キリカが話した蒼青学園の女生徒の話なども解明出来たりするのかもな。

Dフォンを見るとライトの部分が着信を示すかのようにチカチカっと光っていた。

 

「なんだ?」

 

俺がDフォンを開いて見てみると……。

 

『着信100件』

 

と不在着信表示がされていた。

 

「ひゃ……百⁉︎」

 

あまりの多さにビックリしつつ、慌てて着信履歴を開いた。

履歴は全て非通知設定でこちらから折り返すことはできなかった。

 

「……ヤシロちゃん、って事は……ないだろうな」

 

あの謎の少女からだったとしたら……100件もかけてくるなんて、かなりホラーだ。

前世の知り合いに1人、長文かつ要領の得ないメールとか大量に送ってくる武装巫女はいたが……。

(白雪ならともかく、あの子は見た目の割に聡いイメージがあるから、連絡は別の手段を使ってきそうだしな。

だとしたら、別の誰かとなるわけだが……いかんせん、今日突然こっちの世界にきたばかりで、しかもこの端末は貰ったばかりの物だからさっぱりわからん)

ならこういう時の……。

遠山憲章4条。

『触らぬ神に祟りなし』だ……。

 

「誰だかわからないけど……悪いな」

 

俺は手に持っていたDフォンを机の上に置きベッドに戻り横になり目を瞑って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

2010年5月11日。午前8時15分。

 

 

 

 

 

 

翌朝。

俺は学校に向かう途中にある急斜面で長い坂〈夜坂〉(やさか)を上っていた。

この坂の名前をとって学園名に『夜坂学園』と付けられたとされている。

坂の周囲は自然に囲まれた静かな坂だが、ほぼ全ての生徒がこの坂を上らないと学園にはたどり着くことができない……と記憶では知っている。

実際に上るのは今日が初めてだけどな。

坂から階下を見下ろすと街並みが一望できるほど景色を楽しむのには最適だ。

だが毎日この坂を上ることを考えると元々低いテンションがさらに引くくなった。

まあ、強襲科(アサルト)の訓練に比べたら準備運動にすらならないけどな。

(強襲科といえばアリアや不知火、蘭豹とかどうしてんだろうな……蘭豹やアリアを懐かしむなんて俺、どうしちゃったんだ……)

ホームシックにでもかかったのか、アリアやその周囲にいた奴らの事を考えて落ち込んで気分をさらに悪くした俺が坂を上っていると……。

俺の眼前で動く女子の太ももが目についた。

あの綺麗な後ろ脚は……。

 

「キ、キリカ……」

 

「あっ、モンジ君、おはよう!」

 

昨日の夜、俺が珍しく苦に感じずに電話越しとはいえ会話ができたクラスメイトの二藤キリカが俺の呟きが聞こえたのか、くるりと振り返り朝から元気な笑顔を向けて挨拶してきた。

 

「ああ、おはよう、キリカ。朝から元気だな」

 

昨日の電話でも高かったがキリカのテンションは朝だというのにかなり高い。

 

「元気が一番だからねっ!モンジ君は眠そうだねっ!」

 

「ああ。今日の授業は睡眠時間に充てる……」

 

「あははは!あんまりサボッたらテストの時ピンチだよ?」

 

「……そういやテストとかあったな」

 

武偵高にもあったが、武偵高の場合は一般科目より専門科の試験の方が重要視されてたからほとんど聞く奴なんていなかった。俺は単位を取って一般高校に転入する為にそこそこ聞いてはいたが武偵高の授業レベルが元々偏差値50の学校だった事もあり、進学校である夜坂学園の授業にはついていけてないというのを昨日の授業中に痛いほど感じた。

(このままじゃ……留年かもな……最後の手段で遠山家に伝わる秘術があるけど日本国内での使用は禁止されてるしな……)

 

「どうしたの、モンジ君?」

 

キリカが心配そうな表情で俺を見つめてきた。

 

「何でもない……」

 

「そう?調子悪かったら言ってねっ!私でよければ癒してあげるからっ!」

 

「キリカたんを独り占めさせるものか!」

 

と、そんな会話をしていた俺達の間に割り込んできた男がいた。

同じクラスのアラン・シアーズだ。

金髪碧眼で長身なイケメンなのだが見た目はいいのに、性格がアホなせいで女子からは面白い人としか認識されていない。

つまり、見た目だけがいい三枚目、それがアランだ。

 

「おりょ、アラン君おはよっ」

 

「グッモーニン、キリカさん。今日も美人だね?」

 

「あは、ありがとうー!アラン君も、今日も素敵だよっ」

 

「はっはっはっ、いやあ、それほどでもあるよ!」

 

(あんのかよっ⁉︎)

ナルシストっぽく髪の毛をかきあげながら得意げにしているアラン。

こいつは本当に見た目はいいので、そういう仕草が絵になるのは確かだが。いかんせんアホっぽいせいで、微笑ましさの方が際立ってしまう。

 

「さっきモロにキリカたんって言ってたろ」

 

「そこは、当人を前にすれば切り替えるものだろ」

 

したり顔で言うアランを見て、キリカは目をキラキラさせて俺を見上げる。

 

「モンジ君も私がいない時はキリカたん、って呼んでくれたりするの?」

 

そう期待が混ざった瞳で見つめてきたキリカ。

今まで、気づかなかったが今日のキリカからは甘い匂いがしている。

ヤバい、危険な雰囲気だ。

そう思って視線をキリカの顔から逸らしたが逸らした先が悪かった。視線の先にはキリカの豊富な胸元があった。

デ、デカイ。

って馬鹿、見るな!

 

_____ドク、ドクンドクン。

 

ああ。手遅れだ。

また、(・・)なってしまった。(・・・・・・・)

 

「ふっ、そうだね……キリカ。君が望むなら今からキリカたんと呼ばせてもらおう。

だけどアランが呼ぶ呼び方でいいのかな?もっと可愛いらしい呼び方もあるかもしれないよ。可愛い娘には可愛いらしい呼び方がたくさんあるものだからね。

キリちゃん……は子供っぽいかな。ならキリンとかはどうだい?」

 

「あはははっ!それじゃあ私、首が長い草食動物になっちゃうねっ!」

 

「じゃあ……キリリンとかはどうだい?」

 

「う〜ん、やっぱりモンジ君にはキリカって名前で呼んでほしいな」

 

「わかったよ。ではキリカ。もう学校に着くけど手に持っている鞄を貸してごらん。

持ってあげよう。可愛い女の子に荷物を持たせたままでは紳士失格だからね」

 

「えへっ!ありがとう」

 

キリカから鞄を受け取りその鞄を手に持つと、アランが驚愕したような顔をしているのが目についた。口をパクパクと金魚のように開いたり閉じたりして動かしている。

 

「モ、モモ……」

 

桃?

 

「モンジがキリカたんの鞄を持っている……だと?」

 

なぜだか物凄く驚いているが何故だ?

 

「女の子好きでも行動ができないヘタレモンジが紳士になった……だと?

モンジ、大丈夫か?なんか変な物を拾い食いしたとかないよな?」

 

アランが心配そうな、なんだか残念な人を見る目で見つめてきた。

残念なアランに残念な人認定されたら俺の人生は終わるのでここはきっぱり否定しとこう。

 

「そんな理由(ワケ)あるかー。女性に優しくするのは当たり前だろ!」

 

「うんうん。紳士モンジ君、とっても素敵だよっ!」

 

キリカが同意してくれた。

キリカが頷いたせいか、アランは俺とキリカの顔を交互に見てから視線を俺に向けて言葉を放った。

 

「僕だって紳士だ!紳士といえば僕。アラン・シアーズは本日から紳士になる!」

 

まるで某海賊が俺は海◯王になる!と宣言したみたいに坂の途中で周りにたくさんの生徒がいるにもかかわらず大声をあげて宣言した。

(本当、アホだな。武藤よりもアホだ)

周りは皆、アホのアホ発言で引いたが本人は気づいていない。

 

「あははっ……そうなんだ。頑張ってねー」

 

「うん、だから僕もキリカたんに優しくするよ」

 

「結局、キリカたんって呼ぶのかよ!」

 

「当然!キリカたんは可愛いからね!」

 

「あは、どんな時に呼んでくれるの?」

 

「それは勿論!皆でキリカたんを褒め讃える時さ!」

 

「ありがとうね!私も女の子達と、アラン君って顔はいいよねーってお話してるよっ」

 

「おおおお、マジでか⁉︎」

 

超嬉しそうにアランが食いついた。

だが、俺は女子の容赦なさに気づいていた。

 

『顔は』という事は、……まあ、うん。女の子って強いよなー。

 

「ええと、そうだ!キリカたんが話していた、都市伝説についても僕は調べたぞ!」

 

「お、そうなんだ?」

 

キリカが俺を見たので「俺は知らない」と首を横に振って答えた。

 

「うむ!昨今流行っているのは、『月隠のメリーズドール』と呼ばれるものらしい」

 

メリーの、人形。昨日、俺とキリカが話していた『メリーさん電話』の事なのか、と納得した。

 

「捨てられた人形が、復讐の為に電話をかけまくり、時間も空間も超えて必ず相手の所に辿り着き逃がさない!そして最後は背後に立ち、宣言と共に振り向いた対象を確実に抹殺する!まことにファンタスティックでエレガントな物語というわけさ!」

 

アランが両手を広げて「凄いだろ!」といった仕草をしたが、今の話のどこにエレガントがあったのか疑問だ。

キリカの方を見てみると、意外にもちょっと真剣な顔をしていた。

 

「キリカ?」

 

「あ、うん。そっか、今だとそんな風に広がっているんだね、隣街では」

 

ほっぺに人差し指を当てて、首を傾げて考え込んでいる。

 

「アラン君、そのお話ってどんな風に聞いたの?」

 

「フッ、やっと食いついてくれたねキリカたん。僕は君の為ならどんな話であろうと調べまくってあげよう」

 

「えへ、ありがとうっ♪」

 

キリカの小悪魔スマイルにアランがメロメロになり、アランは誰から聞いた話でどんな噂がされているのかを語りだした。

 

「ふむふむ、つまり月隠ではその『メリーズドール』が有名になっている、と」

 

キリカは納得するように何度も頷いている。

アランはドヤ顔で俺を見た。

その顔には「やったか?やったよな、僕⁉︎」というような表情が出ている。

アホな奴だがキリカにとってはいい情報だったようなので頷いてやった。

 

「うーん……しかし、月隠だと、かあ……」

 

「どうしたんだい、キリカ?」

 

「あ、うん。都市伝説ってくらいだから街単位で広がっている噂って違うんだけどね。月隠市の『メリーさん電話』はすっごい怖いものになってるんだなあ、って思って」

 

そう言われればそうだな。

時間や空間も超える、とか。確実に抹殺する!とか、ホラーが強めになってるな。

 

「怖い話って広まるとどんどん強い逸話がついちゃうからね……」

 

キリカはその噂をあまり快く思っていないのか、どこか憂いを秘めたような瞳に、俺はドキっとしてしまった。

血流が強まりヒステリアモードも強化された。

 

「まあ、そんな感じなんだな。あっ、そうだアラン。

教室で男子に何かを言われても誤解だから本気にすんなよ!」

 

なんとなくこの会話を続けるのはよくないと思った俺は無理矢理締めて、話題逸らし(スラッシュIII)を使い話題も逸らした。

アランは「うん、なんの事だ?」とまだ聞いていなかったのか、首を傾げて不思議そうな顔を浮かべたがキリカは俺を見上げると、どこか真剣な眼差しを向けて。

 

「もし何かに追いかけられたら、絶対に振り向いて、相手を見ちゃダメだよ?」

 

そんなアドバイスをした。

 

 

 

 

 

 

2010年5月11日。午前8時40分。2年A組教室。

 

三人で教室に入る頃には、ちょうどチャイムが鳴る時間だった。

割と坂道で時間を費やしてしまったらしい。

 

「ホームルームの前に、転入生を紹介します」

 

担任の安藤先生がいつもの生真面目な声で教室に入ってきて、いつもと違う言葉を告げた。転入生と聞いて、俺は視線をドアに注目した。

安藤先生に促されてやってきた小柄な少女は……まるで日本人形のように綺麗な黒髪と白い肌で、いかにも『清楚!』な雰囲気を持っていた。

だが、どこかその顔には西洋の雰囲気もあるような気がして、なんとも言えない不思議な魅力を醸し出している。

身につけている制服は私立蒼青学園(そうせいがくえん)のものだ。

 

「蒼青学園から、両親の都合でこの学園に転入する事になりました、一之江瑞江(いちのえみずえ)です」

 

ぺこりと丁寧にお辞儀する仕草はたおやかで、その顔は怜悧と言える瞳と無表情なクールな振る舞いを感じさせた。

 

「座席は、窓際の……彼、一文字君の後ろにお願いします」

 

「わかりました」

 

安藤先生の言葉に従い、俺の方に歩みよってきた転入生。

朝にヒステリアモードにかかったことにより、ヒスりにくくなっているとはいえ、極力女子との接触は避けたかったが担任の指示なら仕方ない、と諦めて彼女が俺の後ろに座るのに了承した。

 

「よろしくな、一之江さん」

 

挨拶くらいはしとくかと、礼儀で声をかけたが。

彼女はそんな俺をひと睨みしただけで、特に返事をする様子もない。

……人見知りするタイプなのか?

もしくは、レキみたいな無口キャラを通しているのだろうか。

どちらにしろ、あまり深く関わりたいタイプではないな。

そう思って前を向くと。

カタン、と後ろで席に着く音が聞こえた。

 

後ろに座る気配を感じながら何故か彼女の事が気になった。

彼女みたいなタイプは経験上直接関わるとロクな目にあわない。

だから彼女みたいなタイプと関わる時は誰か間に入れてワンクッション置こう。

となると、誰がいいか。

脳内に浮かんだのはアラン、先輩、隣りのクラスの腐れ縁な友達、キリカ。

やっぱりこの中だったら……。

人見知りなタイプには、理子やキリカみたいなタイプの方が心を開きやすいだろう。

と考えていると。

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

 

背中から恐ろしいほどの寒気を感じると共に、胸ポケットとズボンのポケットに入れていたDフォンが、痛いくらいに熱を帯び始めた。

 

「っ⁉︎」

 

慌てて出そうな声を押えながら、背後から感じる冷たい『視線』に戸惑いと動揺を隠せない。Dフォンが熱くなっている事が、まるで危険を告げているようで怖かった。

 

Dフォンを取り出して確認してみるか!

そう思った俺がポケットに手を入れた正にその時。

俺にだけ聞こえる声で、一之江が囁きかけてきた。

それは……俺の魂を鷲掴みするかのような、全身の冷や汗を全て吹き出させるような、恐ろしく冷たさと恐怖の色を含んだ声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、電話に出なかったのですか?」って、な……。

 

 


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