『101番目の哿物語』   作:トナカイさん

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前半はちょっとオリジナル展開。
時間出来たら改稿するかも……です。
前世の妹がキター、というご都合展開です。
後半は原作遵守。


第十四話。再会と神隠しの噂……

2010年6月2日。午後19時20分。境山山道。

 

 

 

一之江と境山にある『境山ワンダーパーク』からの帰り道。

俺達は一之江が呼んだタクシーで山道を下っていた。

『人喰い村』が起こす『神隠し』は解決した、という判断を下した俺達だが、何処かモヤモヤを感じたままで、スッキリしない気分で織原さんの運転する車の中で考え事をしていると、突然車が激しく揺れ、急停車した。

 

「痛てぇ……何だ?」

 

「っ⁉︎」

 

対面に向かい合うように座っている一之江の方を見ると、彼女は俺の背後、運転手側を真剣な眼差しで見つめていた。

 

「……やられました」

 

一之江の呟きが聞こえ、背後を振り返ると、フロントガラスの向こう側、車のエンジンがあるボンネットが黒煙を上げていた。

 

「故障か……まいったな」

 

こんな山道で故障してしまうなんてツイてないな。

なんて思いながら一之江の表情を見ると、一之江は真剣な眼差しをしたまま、首を横に振って囁いてきた。

 

「……解らないんですか?」

 

何をだ?

という疑問を湧いた俺は当然のように首を横に振った。

すると一之江は小さく溜息を吐いて、「仕方ありませんね……」などと言いながら説明を始めた。

 

「織原さんが運転する車は、当然のように安全に、安全を重ねた車です。

毎日、織原さんや専属の整備士により点検をされていて安全性を確認されています。

万が一に備えて週一で車検までされている『特別な人しか乗れないタクシー』なのです。

そのタクシーが山道を走っていただけで『偶然』故障なんてするでしょうか?」

 

「いや、故障なんて……それこそ『何時起きるか解らない』ものだろ?

どんなに安全性を高めていたって起こる時には起こっちまうものだろ?

『絶対』なんていうものなんてないんだからな!」

 

「ええ、確かにモンジの言う通り、この世に『絶対』なんていうものはほとんどありえません。

ですが、忘れたのですか……それが世界に『認識』されたら起こらないはずのものが、『絶対に起こる事がある』存在がいるという事を……」

 

「……ロアか」

 

歪んだ世界により認識された事で起きる存在。

様々な人の噂や逸話、伝説などによって存在してしまう歪んだ存在。

 

「確かにモンジの言う通り、さっき起こった車の故障は偶然かもしれません。

ですが……その偶然起きた出来事を人々が噂してしまった場合、『自動車を故障させるロア』が発生してしまいます」

 

「いるのか……そんな存在が」

 

「はい。自動車ではありませんが飛行機などの機械を狂わせて破壊、或いは墜落させられる存在なら知っています。

外国。特にイギリスでは有名なロアです」

 

飛行機などの機械を狂わせて、破壊出来る存在。

そんな事が出来るロアが存在する。

 

「……それって」

 

「はい。『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』です」

 

「グレムリン……っ⁉︎」

 

俺がその名前を呟いたその時。

車外から強烈な視線を感じた。

胸ポケットとズボンのポケットに入れておいた、Dフォンが熱くなっていた。

______これは……

 

「来ましたね……」

 

鋭い目付きを(フロント)ガラスの向こう側、俺達がいるタクシーが止まっている正面。

ちょうどガードレールが右に曲がって大きくカーブする辺りにそれはいた。

黒いフードを被り、そのフードはまるでお伽話に出てくる魔法使いが羽織るマントやロープみたいになっていてマントの先はボロボロに引き裂かれている。

背中には黒くて小さな羽根のようなものが見えて、フードの先は尖った耳のような形をしている。

そのフードを被ったヤツの手には刀剣のようなものが握られているが……何故だろう。

その刀剣に、見覚えがある気がしてしまう。

その刀剣……刀は……日本刀やタクティカルナイフのように見えるが違う。

鎬や樋の部分に、筋のような蛍光ブルーの発光が見られ、ただの刃物ではない感じがする。

そう……前世での俺の妹が使っていたあの武器のようにも見える。

刀剣だけではない。

初めて会うはずなのに……俺はこの子(・・・)よく知っている(・・・・・・・)ような気がするのだ。

知っている……知識ではなく、血が知っている。そんな感じがする。

 

(いや、待て……ありえん。ありえないだろ⁉︎

そんな馬鹿な事が……)

 

だが、俺の記憶は、血筋は知っている。知ってしまっているんだ。

近い______この子と俺は近い(・・)

 

(アイツが……アイツがこの世界にいるはずがない!

いるはずがないんだ……)

 

いないはずの人物。

目の前に佇むその人物を見つめていると、一之江が先に動いていた。

 

「……すみません、モンジ」

 

信じられない事に、一之江の小さな口から謝罪の言葉が漏れた。

 

「え?」

 

と尋ね返す間もなく、俺の背後の座席に座っていた一之江の姿が突然消えた。

慌てて、『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』の方を振り向いたその時には……一之江の手に一本のナイフが握られていて、一之江はグレムリンの、そいつの前にいた。

 

「一之江ッ⁉︎」

 

静止する暇もなかった。

一瞬で一之江はナイフをソイツの胸に突き刺そうとして。

 

「やっ、止め……」

 

止めろ、という言葉が終わる前に……。

その子の姿が忽然と消えた。

まるで、何もない空間の中に引きずり込まれたかのように忽然と……。

 

「え?」

 

「っ……モンジ、後ろ⁉︎」

 

一之江の声が聞こえた、その時。

俺は背後から誰かに抱きつかれた。

ぶわぁと、広がるキャラメル(・・・・・)の匂い。

驚いた俺は背後を振り返って思わず固まってしまう。

抱きついた拍子に、或いは一之江に斬りかかれた拍子にフードが取れたのか、その子の素顔が現れたからだ。

その素顔は______息を呑んでしまうほどの、美少女だった。

パッと見た感じでは、見た目は俺が知るその子よりも1、2歳年上の15、16才くらいのような印象で高校生くらいに見える。

栗色のボブカットの髪、自信に満ちる目はパッチリとしていて、瞳は青みがかった深海色で、鼻筋はスラッとしていて唇はピンク色だ。

胸は重巡洋艦級から成長していて、戦艦級になっている。

全体的に……俺が知る彼女よりも少しだけ成長して(・・・・)いる。

 

「会いたかったよ、お兄ちゃん(・・・・・)

 

そう。

何故だか、俺の前世の妹。

遠山金女(かなめ)が目の前にいた。

 

 

 

 

 

2010年6月2日。午後8時。一文字家。

 

今、俺の目の前にはありえない光景が広がっている。

何故だか帰った直後から不機嫌な理亜。

顔は笑っているが目が笑っていないリサ。

不機嫌な態度を隠す気がまるでないかなめ。

……そして、何故だか俺の家のソファーでアイスを咥えて寛いでいるアリサ。

 

……何だこれ?

 

 

 

……よし、まずは状況を整理してみよう。

今日、俺は一之江と境山に行って『境山ワンダーパーク』で『神隠し』が起きないか、確認しに行った。

ここまではいい。

それで帰り道に、突然乗っていた車が故障して、Dフォンが赤く光ったかと思ったら『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』の格好をしたかなめに抱きつかれて、一之江に白い目で見られて、一旦、キリカの家に寄ったらリサとかなめが何やら話して仲良くなって……。

で、家に帰って来たら何故だか女子達がみんな怒り出したわけで……。

 

……ダメだ、わからん。

 

解るわけないだろ⁉︎

なんでキレてんだよ、この3人は。

 

「あー、お前ら……」

 

「だから言った通りです。

兄さんは疲れていてゆっくりしたがっているんです。

兄さんの疲れを癒せるのは長い間、兄さんと一緒に暮らした私以外にいません。

ですから明日からも兄さんのお世話は私がします!」

 

「いえいえ、遠……一文字様のお世話をするのはメイドである私の担当です。

おはようからおやすみまでご主人様専属の使用人であるリサがします」

 

「2人とも何、勝手な事言ってんの?

お兄ちゃんのお世話をするのは妹の私に決まってんじゃん。妹こそ最強なんだから黙って引き下がりなよ?非合理的ィ」

 

「わ、私も妹です」

 

「はぁ? ただの従姉妹が真の妹に勝てるわけないじゃん。

血が繋がっている私こそ、最強の妹なんだから」

 

「いえ、やはりここは年上が一番かと。

私の一族は代々『便利な女』を極めた一族ですので、ご主人様にご奉仕するのならやはり私こそ……」

 

「絶対、駄目ですー‼︎」

 

「野良犬は引っ込んでろー‼︎

お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんなんだー」

 

 

……何だこれ?

 

この日の争いは深夜まで及んだ。

この間、色々な話し合いが彼女達の間であったようだが、途中で寝ちまった俺はその内容を詳しく教えてもらう事は出来なかった。

翌朝には……『兄さんはまだ知らなくていい事です。普通に日常を送れるように私がきちんと身の回りのお世話しますから』と理亜に言われ、『お兄ちゃんは私が守るから知らなくても問題ないよ?大丈夫! お兄ちゃんの周りに群がるハイエナは私が退治するから……だから私だけを見て?』とかなめが言い、『ご主人様、ご自宅の家事などは私が担当しますからねっ!ご主人様が気持ちよく過ごせるように最適な環境を作ってみせますから』とリサが言ってきた。

どうやら3人の中で役割分担が出来たようだ。

理亜が俺の身の回りの世話係りで、かなめが護衛役、リサが家事担当のようだが……なんでだろう。

なんとなく、不安になるな。

特にかなめが……。

かなめにどうやってこの世界に来たのか、と聞いたがはぐらかされた。

『今はまだ言えない』の一点張りだった。

一之江の攻撃を回避した手段についても『そういうロアだから……』というだけで、詳しくは教えてくれなかった。

 

 

と、まあ。こんな感じで日常を過ごした俺はその翌日。

俺は1人で生徒会室にいた。

 

 

 

 

2010年6月3日。夜坂学園生徒会室。

 

音央や一之江と一緒に『富士蔵村』に入ってから、2日が過ぎた。

 

「念のため昨日も、日没と同時に入りまくっても何もありませんでした」

 

と昨日、一之江と確認した内容を、詩穂先輩に報告した。

 

「そっかー、良かったぁ……モンジくんやみずみずがいなくなっちゃったら、と思うともう、夜も眠れなかったよー、ぷはぁー」

 

詩穂先輩は胸に手を当てて、安堵の息を吐いた。

豊か過ぎるその胸に手を当てた先輩を見てしまったせいで……また、血流が昂ってきた。

 

(くっ、あれは先輩じゃない。先輩じゃない。

ジャガイモ、ジャガイモだ。断じて先輩の胸じゃねえぇぇぇ‼︎)

 

ヒステリアモードを防ぐため、先輩をジャガイモと思って会話を続ける。

 

「既に新聞部には手配済みです。翌日か、翌々日には校内に張り出されるはずですよ」

 

「お、ありがとうね、音央ちゃん」

 

「いえ。モンジ達のおかげですから」

 

音央は先輩にペコッと、頭を下げてから告げた。

因みに一之江は欠席だ。彼奴が頻繁に休むのはいつもの事で慣れているが、昨日あんな事があったせいで、その原因が俺やかなめにあるのではないかと不安になってしまう。

 

「ふぅー……安心するとくったりするねぇ」

 

べたー、と詩穂先輩が机に突っ伏した。

そんなちょっとした仕草や様子も可愛らしくて、思わず見惚れてしまう。

 

「やはり可愛い先輩の姿を見ると、とても安心するね!

先輩の姿を切り取って部屋に飾りたくなってきたよ」

 

かかりは甘いが、若干ヒステリアモードになってしまっていた俺は思わずそんな事を言ってしまった。

 

「ふんっ、変態っぽいわよモンジ」

 

「あ、わ、悪い」

 

どうも最近の音央は機嫌が悪い。

無事に助かって、キリカの家(の浴室)から出た直後からだろか。

普段からツンツンした性格だったが、最近はさらにキツくなっていた。

 

「んもう、バカっ」

 

音央は腕を組んだまま、俺と視線を合わせようとしない。

なんとなくタイミングが掴めないせいもあって、まだ色々な説明が出来ていないのだが……やっぱりまだ様子を見た方がいいのだろうか?

 

「それにしても、本当に良かったよモンジくんが無事で」

 

詩穂先輩はそう言って、俺を見つめてきた。

俺も先輩の顔を見つめ返した。

 

「詩穂先輩の為なら黄泉の国からでも戻ってきますよ」

 

「あははっ! 今のモンジくんなら出来るかもねっ!

音央ちゃんも無事で良かったよ?」

 

「え、あ……ありがとうございます、会長」

 

自分も言われるとは思ってなかったのか、音央は少し動揺しながら先輩を見つめた。

 

「えへへ。はふぅー……もう、最近怖い事が多いから疲れちゃって……」

 

「怖い事が多い?」

 

「そうなんですか、会長?」

 

一つの事件が解決したから安心していたが、詩穂先輩は他にも何か情報を知っているのだろうか?

昨夜の『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』の事も……かなめが隠す能力についての噂も……。

 

「うん。いっぱいあるけど今流行ってるのは、『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』と『夜霞の隙間女(スリットガール)』。

それに……『神隠し』だね」

 

「『神隠し』……」

 

俺と音央は顔を見合わせた。

『破滅の悪戯妖精(グレムリン)』や『隙間女』も気にならないと言えば嘘になるが、それよりも『神隠し』の噂があるという事に驚いた。

確かに、『富士蔵村のロア』である『人喰い村』の詩乃ちゃんは『神隠し』に名付けられたと言っていた。

だが、こうも早くまた噂になるなんて……。

そう思っていると、詩穂先輩が続けた言葉に俺はさらに衝撃を受ける事になった。

 

「夢の中に、女の子が出るんだって」

 

「っ!」

 

心臓が早鐘を打つ。

 

『夢の中に出る女の子』。

 

それは、俺が今まさに体験しているもので。

 

「で、その子の夢を何度か見ているうちに、その女の子が、彼女のいる世界に連れ去っていっちゃって、二度と戻って来ないー、みたいな」

 

「………」

 

詩穂先輩の声を聞きながら、俺は夢の中の記憶を断片的に思い出していた。

とても安らいだ気持ちになって。

このままそこにいたい気分になって。

そして……。

 

「連れ去られちゃうと、どうなるんですか?」

 

記憶を頼りに思い出していると……。

音央が恐る恐る、と言った声で詩穂先輩に尋ねていた。

詩穂先輩は眉を寄せて、ちょっと不安そうに呟いた。

 

「みんなの記憶から消えて、綺麗サッパリいなくなるみたいなの」


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