金次「いきなりなんだ?」
一之江「一ヶ月以上出番なし。メインヒロインのはずなのに……この扱い。許しません。
八つ当たりしたいじゃないですか。こうザグザグっと」
金次「さらりと物騒な物出して物騒な発言すんな。久しぶりに見た読者や新規の読者がドン引きするだろう!」
一之江「大丈夫ですって。この作者の作品読んだことのある人ならどんな物騒な発言しても、どんなメタ発言してもどんだけ更新遅れても笑って許してくれますって」
金次「問題発言するな!」
一之江「仕方ないですね。ではやり直して。
メリーズ・クリスマス!」
金次「そのネタやめろー」
メリー苦しめます。(メリークリスマス!)
リア充には死を。(よい、クリスマスを)
『ほらね。やっぱり知らないんだよ』
そう言ったキリカちゃんとアリサちゃんは二人だけで何か納得している。
そんな二人の顔を見ていると、それだけで得体の知れない不安感に押しつぶされそうになる。
「ええと……」
「あ、ごめんね詩穂先輩。気にさせちゃいました?」
「性格悪い魔女はこれだから困るよなぁ。気にさせるように言って確かめるし」
「意地悪な魔女だって、わざわざ『今の』とかつけたくせに」
「わはは。ならば言い争いは先手必勝だぜ! そりゃっ」
ビュッと指で水鉄砲を作ってキリちゃんにお湯をかけるアリサっち。
「ひゃっ! 仕返しだよっ!」
キリカちゃんも器用に指で作った水鉄砲で応戦する。
お湯が飛び交う昼間の大浴場で、わたしは二人が言った言葉の意味を考えていた。
今の『管理人』、つまりわたしに二人が敵わない?
確かにわたしは本当にあった都市伝説を纏めるサイト。『8番目のセカイ』を管理する『管理人のロア』で、その能力はちょっとエグイものだけど、だとしても色んな魔術を駆使する魔女に。それも一癖、二癖もある最悪な魔女の彼女達に対抗できるなんて思えない。
「ええい、タイダルウェイブだぜ!」
両手でバシャバシャとアリサちゃんがお湯をかける。
「わぷっ! んもう、タイダルウェイブ返し!」
キリカちゃんは負けじとお湯を両手でかけ返した。
二人の間にいたわたしに当然お湯は降りかかり。
「ふ〜た〜り〜と〜も〜!」
考え事を中断させられたわたしは二人に対してお仕置きを決行することにした。
わたしが人差し指を立てると、その指先に青い光が灯る。この二人が相手だと、勝てる気がしないけどそれでも一撃くらいは入れたい。
「わっ。ストップストップっ」
指先に力を込めていると、慌ててキリカちゃんが手を振って制止してきた。
「正直すまんかった」
アリサちゃんもぺこりと頭を深く下げてくる。
「キリカがいけないんだぜ! 悪の魔女はそいつだ!」
そして、キリカちゃんを指差し、責任を擦りつけ始めた。
「アリサちゃんがいけないんだよ! 死の予兆とか告げるいかにも悪い魔女はそっちの方だし!」
キリカちゃんもキリカちゃんで、アリサちゃんを指差し責任の押し付け合いを始める。
こうして見ていると、二人とも本当に仲がいいまるで姉妹のように息のあったコンビなんだけどねぇ〜。
「んもうっ。ご飯抜きにしちゃうよん!」
「本当にすみませんでした管理人様」
「ごめんなさい詩穂先輩。死んじゃうからそれだけは……」
ご飯抜きにしただけじゃ死なないと思うんだけど……ああ、もう! わかったからそんな涙目で見ないのキリカちゃん!
あと、湯船の中で正座するのはいいけど、二人に正座させたわたしを冷めた目で見るショートカットちゃんの視線が痛いよぉ!!!
ち、違うからね! 普段からこんなことさせてるわけじゃないんだよ〜!
「気になること言ってすぐに脱線しないでっ」
「あ、それもそうでしたね」
「うむ。やっぱり悪い魔女はキリカだな」
アリサっちの責任転換は聞いてて面白いんだけど、それを当事者としてされるとその対応に困っちゃうなぁ、なんて思う。指先の光を収めて、唇を尖らせていると、キリカちゃんパタパタ手を振ってくれた。
「流石に『8番目のセカイ』の『管理人』とガチでぶつかりたくはないですよ」
「まあ、それ以外のナニカだったとしても、そもそも『管理人』ってだけで厄介だしな」
魔女の二人はそんな反応を返してきた。
つまり、まるで反省していないらしい。
まあ、『魔女』という性質上こうやってすぐに脱線したり遊んだりするのも仕方ないのかもしれない。彼女達はあくまでも研究者。『魔の道を歩む女の子』、『魔女』という存在なんだから。
『人間の意識や道徳』なんてものには一切縛られない存在なんだから。
「あ、でも。ちょっとは見てみたかったよね。『
「そりゃ見てみたいが、お前の
「今は困るなぁ。アリサちゃんならいいんじゃない?」
「そうやって平気で人に押し付けるなよな。適当な敵でも呼び出して見せて貰えばいいじゃないか。そういう召喚も得意だろ?」
「アリサちゃんの使い魔の方が良くない?」
「私の可愛い使い魔を捨て駒には使いたくないんだよ」
「私も可愛いロアたちだから使いたくないなあ」
縛られないから自由。人間らしさなんて全くなく、だからこそ逆に最も人間に近いロア。魔女というのはほとんどのロアが持つ制約はなく、長い、無限に近い年月をただひたすら、自身の研究に費やす少女たちなのだ。
だからこそ、魔女の逸話は多い。一度滅ぼしたくらいでは倒せたとは思えない、というのでも有名で。とてもじゃないけど、
そのはず……なのに。
「『今の』わたしは『やっぱり』って言われる何かがあって、それを知らないってことなのん?」
ロアは噂から生まれるもの。
自分でも知らない自分の噂が流れていてもおかしくない。
「それについてもお話ししないとなーと思ってたのです」
「私たち……ってか、『
「詩穂先輩。これから話すのはモンジ君のことと____」
「これからどうするのか、って話しだな」
「モンジ君との、これから……?」
「うん、その認識で正解」
「告白されたんだろ? あいつに。あいつのことをこれからどうするつもりなのかを考えてから、返事してやればいいじゃないか」
そう言った二人の言葉を聞いて、思わず小さな溜息を吐いてしまう。
二人はモンジ君の『物語』。
だから、わたしと彼の物語がどうなるのかも、気になるのは当然のこと。
普通の告白をされていたのなら、わたしはこんなにも悩んでいないのに。
よりによって『あの』告白だったから簡単に返事が出来ない。
そこまで考えて。もしかして?
とある可能性に気づく。
____もしかしてこの二人が、わたしが『8番目のセカイ』の管理人であることをバラしたのかな?
でも、だとしたらそのメリットは何だろう?
モンジ君の魔女になったからって、わたしの正体を話すメリットはない。
そりゃ、『8番目のセカイの管理人』を物語の一つにするっていうのもある意味最大のメリットなのかもしれないけど。『管理人』であるわたしを取り込んだくらいでは、モンジ君が使える技が物凄く増えるわけではない。強いていうならばサイトでの情報収集能力が強化されて検索速度とかが上がるくらいだ。
でもそんなのは『魔女』の方が得意だろうし。
それに。
それに彼がわたしに恋心とかがあるとしても、キリカちゃんはそのことをどう思っているんだろう?
「……えっと、その告白のことなんだけどね」
「うんうん! モンジ君から、どんな風に言われたんですか、詩穂先輩っ!」
すっごい目をキラキラさせて近いて食いついてきたよ。この食いつきの良さは、流石はロアをむしゃむちゃ食べることで有名な魔女なだけあるなぁ。でも、嫉妬とかしないのかな?
やっぱり……恋心というより、獲物。捕食者と獲物みたいな関係。そういう気持ちみたいなものもあって、純粋なロアであるキリカちゃんには恋心はないのか、それとも……本心は別にモンジ君のことをそれほど好きじゃないとか?
うーん、どうなのかな?
「あの男はオーソドックスか、無駄にキザっぽいかどっちかだろうな」
アリサちゃんは腕を組んで偉そうにしながらも、とても興味深そうに聞いている。
「二人とも、どんな風に彼が告白したのかまでは聞いてないんだ?」
「うん。私は告白したんだろうなー、と思ってそっとしといたんだよ」
「私はむしろどんな告白をしたのか気になって聞きに来たってのもある。私のマスター……ああ、リアの方だが、あいつが気にするに違いないからな」
二人の顔を見ていると本当に純粋な気持ちで恋愛トーク、いわゆる恋バナをしに来ただけっていう気がしてきた。いろいろ警戒していたわたしが馬鹿みたいに思えてくる。
でも、だとすると……。
「実はね」
モンジ君は一体誰に聞いたんだろう?
____わたしがただの人間じゃないってことを。
どう知ったんだろう?
____わたしがロアになった経緯を。
いつ知ったんだろう?
____わたしがロアだと、気づいたのは。
そう思ったから、もう包み隠さず話しちゃうことにした。
「『俺の、俺達の物語になってください』って」
「えっ⁉︎」
最初に驚きの声をあげたのはキリカちゃんだった。
「ヒュー。なんだバラしたのか?」
アリサちゃんが意外そうな顔をしてわたしに尋ねてきた。
わたしは静かに首を横に振るって否定する。
「ううん、全く気づいてなさそうだったのに、テスト前にいきなり言われたから……驚いちゃって。わたし、二人がバラしたのかと思ったよ」
ずっと昔から生きている『魔女』なら、わたしの正体に気づいてもおかしくない。
何故なら『管理人』の交代は古いロアならみんな知ってるから。
十年くらい前に交代した『8番目のセカイ』の管理人。その正体を、情報戦に長けた『魔女』が突き止めていないというのは考えづらいし、現にこうしてバレている。
「私は、そんなことをしたらキ……モンジ君が気にしちゃうから、話してませんよ」
「私は、それを話してやる義理がまだあいつにはないからな」
「……だよね。だったら……」
だったら。
どうして。
____モンジ君は、わたしが人間側の存在じゃない、って知ってたんだろう?
温度の高い湯気の中でぼんやり座りながら、わたしはキリちゃんとアリサっちにわたしの過去を話すことにした。
わたしがこの『管理人』の立場……ハーフロアになったのは、丁度十一年くらい前だった。小学生の女子にありがちな話だけど、怖い話であったりスピリチュアル的なものにハマったりしていて。そこで、わたしは色んな都市伝説を集めては、それをお父さんが作って放置していた
お父さんはプログラマーとして凄い腕前を持っていて、お母さんもコンピュータ関係のエンジニアをしている人で、そんな凄い両親を持ったわたしはコンピュータにとても詳しい女子小学生として近所で評判だった。
だから、まだ6歳とか7歳のうちにパソコンの使い方は覚えたし、ピアニストの家系にとってピアノが当たり前のコミュニケーションツールであるように、わたしの家では生活の中心にパソコンが当たり前に存在する。そんな家庭だった。
だからその頃、ホームページに都市伝説や噂話、ちょっとした伝承、おまじないや占い、世界中で流行っていた予言とかを載せて友達に見せたり、ネット上でいろんな人が閲覧するのを見て楽しむ。
そんなちょっとした遊びを当時のわたしはしていた。
やがて、わたしのサイトが大手の掲示板でも注目を浴びるようになって、たくさんの知らない人達から注目されるようになった。どんどん増えていくカウンターの数字。
当時盛り上がっていた掲示板やチャット。そこでわたしを小学生だと知らない人達が、顔も名前もわからない人達がわたしのサイトを訪れては様々な都市伝説を話して、議論し、広めてくれた。
わたしは楽しかった。
そんな人達が集まる場所の『管理人』をやることが。
とても誇らしかった。
現実ではなんの力もないただの小学生であったわたしがネットの世界では様々な人がもたらす情報を『管理』できる立場にあることが。
小学生のわたしは、わたし自身、とても偉い、お姫様か何かになったんだとそう錯覚するくらいに増長してしまっていた。
『管理人』が決めたことにはみんなが従う。そんなわたしのルールを嫌がったり、歯向かったり、荒らそうとした人達は、わたしが何もしなくても他の人が勝手に追い出してくれていた。
サイトでちょっと困ったことがあればお父さんやお母さんが対策してくれたし。
そうやって、わたしの都市伝説情報交換サイトはどんどん有名になり。
気づけばオカルト好きの間では知らない人はいないくらいの大手サイトになっていた。
わたしのサイトが発した噂がたちまち広がって、それが有名になったりしたこともあった。
中には世界規模で広がる噂とかもあって、余計にわたしのサイトはその名を轟かせていた。
だから、わたしが小学二年になる頃には、もうわたしは『管理人』としての存在性を確立していたともいえる。
そんな時、一通のメールが届いた。
『貴女のサイトで『8番目のセカイ』という名を引き継いでくれませんか?』
『8番目のセカイ』。
それはオカルト好きの間では知らない人はいないくらいの伝説的なサイト。
『本当にあった都市伝説しか載ってないサイト』。
それまでのわたしのサイトには作りものの逸話が多かった。いや、どれも信憑性が低いただの噂レベルの話しが中心だった。わたし自身、信用していなかった。
だから、そんなメールが来た時、わたしは迷った。
本当にわたしが『8番目のセカイ』の管理人になっていいのか、と。
だけどいつしか、わたしのことを『8番目のセカイを管理する人』。そう噂する人が現れた。
わたしのサイトこそが真の『8番目のセカイ』で。
その『管理人』こそがこのサイトの作成者なのではないか、と。
……だったら。
だったら、わたしが、わたしのサイトが『8番目のセカイ』だと名乗ってもいいのではないかな?
そう思ったわたしは、それがどんな意味をもつのかも良くわからないまま。
サイトのタイトルを『8番目のセカイ』に変更した。
してしまった。
それが全ての始まりだった。
サイトの名前を変えた次の日。わたしは同じクラスメイトの『三枝さん』という子から黒い携帯電話を渡された。シンプルな作りでシンプルなデザインだけど、どこか引き寄せられる。そんな携帯電話を。
「はい、詩穂ちゃん! これがあなたのDフォンですよ!」
「ディー……フォン?」
「ええ、あなたの運命を導く、あなただけの端末です。
ロアならみんな持ってるものだから、詩穂ちゃんも大切にしてくださいね」
「 ロア?」
最初は何を言われているのか、わからなかった。
どうしてそれを貰ったのかも解らなかった。
そもそもごく普通のクラスメイトで、一緒に遊んだことのある三枝さんがどうしてこんな物を手渡してきたのかも解らなかった。
「それはこれから詩穂ちゃんを守ってくれるものです! あ、でも……もしかしたら、逆に怖い目に遭わせるものかもしれませんけどね。ふふっ!」
三枝さんがとても楽しそうに話したものだから、わたしはきっとこれも新しい『遊び』なんだと。
そう思ってしまった。
でも、実際は本当のことで。
その瞬間からわたしは『管理人』のハーフロアとなって。
この『8番目のセカイ』を管理する者になってしまっていた。
「そのわたしが、別の何かかもしれないってことなのね?」
わたしは過去を振り返り、そして話しを締めくくる。
全部話しちゃったのは、こうなったら、疑問点は全部解いちゃった方がいいと思ったからだ。
「その流れは全然問題ないんですけどね」
キリカちゃんがちょっと困ったような顔をして切り出してくる。
言うか、言わないか……迷うように。
「管理人になれるのは『ロア』か『ハーフロア』じゃないといけないんです」
「え?」
「つまりだな。その話が確かなら……お前さんはとっくに別のロアになっていた、ってことになるんだよ。なんか覚えないか?」
「覚え……」
ロアの運命はDフォンを受け取ってから始まるとも言われている。
つまり、わたしはあの時に『ロア』になり、そしてその時にほぼ同時のタイミングで『管理人』になったということに……?
「例えば『三枝さん』は何か言っていなかったか?」
『詩穂さんは私の知っている中でも飛び抜けてイレギュラーなロアなんですよ』
そんな言葉を聞いた気がした。
あれは『いつ』、『どこで』会った『三枝さん』の言葉だったかな?
ズキンッ!
「……痛っ⁉︎」
頭の奥が痛み出す。
『ぶっちゃっけ、このDフォンも三つくらいあげたいんですけどね! あははは!』
「う、うあっ……い、痛っ……!」
「わわっ。ここまでにしておこう、アリサちゃん!」
痛む頭の中でわたしは考える。
Dフォンを三つあげたい。
『三枝さん』は確かにそう言ってた。
一つは管理人のロアとしてのDフォンだとしても。
あとの二つは何のロアとして、渡そうとしてたんだろう?
しまった。どこぞのスナイパーさんが空気になってしまった。
出番入れたいけど、入れる間が……。
レキュ「……私の出番……」
一之江「私の出番……」
音央「私の出番……」
かなめ「……私、忘れられてる」
出番クレクレ勢が催促してきてるが仕方ないね!
だって101番目の百物語のメインヒロインはキリカだもん。(問題発言)
完結まで___残り97話。