女神を腕に抱く魔王   作:春秋

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神話解体難しい。
原作丸写しは芸がないので、自分で調べて付け足したりするんですが、うまく編纂して文章に纏め上げるのがイマイチ……





 

サンタ・ルチア地区にある有名な観光名所。

その見晴らしのいい半円形の場所の名は、プレシビート広場。

 

周囲にはサン・フランチェスコ・ディ・パオラ聖堂、ナポリ王宮たるパラッツォ・レアーレ・ディ・ナポリという歴史的建造物を始め、イタリア三大歌劇場のひとつであるサン・カルロ劇場、中世の王城カステル・ヌォヴォなど、そうそうたる建築物が軒並み揃っている。

 

アテナより神の来歴を教授された護堂は、彼女に案内されてまつろわぬペルセウス――少なくとも自己申告に曰く――の待つその場所に向かった。

文字通りに雷霆の如き速さで、いつかと同じくアテナを抱えて。

 

先ほどの名残(なごり)か、移動の途中で胸元に指を這わせたりしてきたので少しばかり困惑したが、何とかペルセウスと顔を付き合わせる頃には意識を戦闘用にシフト出来た。

 

神速で駆け付けた護堂は、広場の中央に佇むペルセウスの前に降り立つ。

アテナを下ろして周りを見渡し、不思議に思った。

 

(こんな早朝だっていうのに、えらく人気(ひとけ)が多いな……)

 

今は夏真っ盛りであり、昼の時間が長い時期だ。

当然のように日の出は早く、日の入りは遅い。

 

だというのに、周りには人が溢れかえっている。

これは……

 

「この派手好きめ、よくもここまで集めたものだ……それほど人目が恋しいならば、石像にして衆目に晒してくれようか」

 

呆れたようにため息を吐く女神。

要するに、リリアナにやったように英雄の支配力で観客を集めたということか。

 

英雄の活躍は大衆に知らしめなければ、などと(のたま)っていたがそこまでとは。

 

「おっと、あなたに言われては冗談で済みませんな。私も御身の箴言(しんげん)を受け止め、弁えると致しましょう」

 

胸に手を当て一礼、作法に(のっと)った優雅な礼だった。

流石は玉座に着いただけあって、所作は心得ているらしい。

 

しかし、彼の言葉はそこで終わらなかった。

 

「ですが、今回ばかりはお許し願いたい。あなたと彼を前にして観客の一人もいないようでは、私も英雄として奮い立たぬというものです」

 

護堂は辟易を通り越してむしろ感心すら覚えた。

これほど拘わるのだから相当なのだろう。

 

それとも、彼の隠すもうひとつの名前に付随する性質(・・・・・・・・・・・・・・・)なのかも知れない。

女神から受け取った叡智を思い起こした。

 

戦いの算段を立てていく護堂を横目に写し、アテナは潔く身を引いた。

 

「では、これより先はあなたに任せる。見事あの慮外者を討ち取ってみせよ」

「ああ、もちろんだ!」

 

力強く頷いた護堂に笑みを送り、女神はその姿を隠す。

 

感覚では周囲にいることこそ分かるが、位置まではもう掴めない。

闇に属する彼女だからこその所業だ。

 

護堂としては、自分の戦いを見ているという事実さえ分かればそれでいい。

それだけで彼はこれ以上ない程に奮い立つ。

 

「ほう、いい気迫を感じるぞ。決戦のとき来たれりだ!」

 

喜色の笑みを浮かべた英雄神は、腰の剣を抜き天に掲げた。

同じく護堂も知らずして好戦的な笑みを浮かべ、敵へ向け高らかに宣言する。

 

「それじゃあ始めようかペルセウス――いや、ミトラス!」

 

神殺しの呪力が急速に高まり、手に黄金の光が現れた。

それが何の権能であるかを瞬時に悟り、ミトラスと呼ばれた神は微笑する。

 

「なるほど、封じられる前に我が神格を斬り裂くつもりだな――!」

 

以前の戦いがよほど堪えたらしい、と。

秘めたる名を暴かれた英雄は、やられる前にやれと言わんばかりに突っ込んで行く。

 

東から来た男(ペルセウス)を筆頭として不敗の太陽(ソル・インヴィクトス)、ヘリオガバルスと、多くの称号を持つアンタが隠していた名はミトラス! 冬至の日に生まれる太陽神、光の英雄ミトラスだ!」

「我が出自を暴き立てる言霊、敵に回すと厄介極まりないものだな!」

 

いつかの護堂と同じような感想を述べるペルセウス=ミトラス。

やはり考えることは同じかと、護堂はどこか共感染みたものを感じた。

 

そうしている間にも光は手の内だけに収まらず、護堂の周囲にも現れ始める。

黄金に輝く光球は、言霊に合わせて数と輝きを増していく。

 

「ミトラス――古くはミスラという名で崇められた太陽神、古代ペルシアにおいてウルスラグナの主とされた契約の神だ。アンタがウルスラグナの権能を封じられる理由は、太陽神ミスラとしての神性を持っているからだ!」

 

契約の神ゆえに第三者を招き衆目に晒そうとする。

太陽の神ゆえに威光で照らすべき民を集めたがる。

 

それが彼の演出過多に繋がるのではないかと、護堂は推理していた。

 

「アンタの原型となったペルセウスはシンプルな英雄だったはずだ。大蛇から王女アンドロメダを救う異邦人、蛇殺しの屈強な剣士だった。そして蛇や竜はかつて支配者だった大地母神の落魄した姿。それを討つ新時代の開拓者こそが、ペルセウスとしてのアンタが負った役割だ!」

 

この典型的な英雄譚は、ユング心理学においても母の支配を抜け出して妻を娶るという暗喩の物語であるとされ、つまり神話の竜とは母親の影と解釈される。

 

地母神こそを最高神と崇めていた原初の時代、女性を頂点とした権力社会を破壊し、鋼鉄の武具による戦士たちの世界を創造することこそが、《鋼》の英雄が背負う定めなのだ。

 

「だが、ミトラスとしてのあなたは違う。彼は契約を意味する司法神であり、正義を成す太陽神だった。この神が栄えていたのは古代ローマ帝国。ローマの東に位置するペルシアから流れてきたミトラスと、東に宮殿を持つギリシアの太陽神ヘリオス、そして東方より来たりし英雄ペルセウス。当時のローマ人たちはその神々をひとつの神として纏め上げた!」

 

数十、数百と数を増やした光球は、剣となりペルセウス=ミトラス=ヘリオスへ殺到する。

黄金の剣で斬りかかって来るものだと思っていた彼は、自身を取り囲む刃の檻に度肝を抜かれた。

 

咄嗟に太陽の神性を発揮し、黄金の剣の神力を振り払う。

 

「日輪の加護よ! この一矢に宿りて、盟友の荒ぶる御霊を鎮め給え!」

「太陽は東から昇るもの、故にその名は東から来た男(ペルセウス)――あなたは蛇殺し(ギリシア)の英雄じゃない! ローマ帝国で崇められた新興の英雄神、東より昇る太陽(ペルセウス)だ!」

 

剣群を振り払うのが最後の足掻きになった。

太陽の光と黄金の輝きは拮抗し、相打ちに終わったのだ。

 

およそ半数もの『剣』を持って行かれたが、これで太陽の神性は斬り裂いた。

あとに残る彼は、ただのペルセウスという英雄だ。

 

「光はより強き光の前にかき消されるのが世の(ことわり)。ウルスラグナの輝きが、太陽王に(まさ)ったか……何とも味な真似をするものだ」

 

清々しくあるが、苦笑とも取れる笑みを浮かべたペルセウス。

今までを思うと意外だが、これこそが余計に付随する要素を削ぎ落とした彼の素顔なのではないかと。

 

自己顕示欲や名誉欲を満たしたがるが、同時にそれらを煩わしくも思う無法者。

それこそが根底にあるこの英雄の真実なのではないかと、護堂はなんとなくそう思った。

 

(まぁ、どっちにしてもめんどくさい奴だ)

 

だが、思ったより嫌いじゃないかも知れない。

第一印象を覆し、護堂もまたニヤリと笑った。

 

「さぁ、まだウルスラグナの剣は終わってないぜ?」

「フフッ、愉しませてくれるっ!」

 

広場を踊る黄金の光は、まだ半数が健在のままだ。

対するペルセウスも、まだその肉体には傷一つ負っていない。

 

これからが本命の戦いだ。

 

 





みんなペルセウスの事をDQNと呼ぶので少し救済措置というか、彼もウルスラグナのように性格が変わってるんだよと補足的なものを入れてみました。
まぁそれでもスミス的な要素が抜けただけで、ドニ的な要素は残ってるんですが……

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