女神を腕に抱く魔王   作:春秋

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とある神座の永劫破壊(エイヴィヒカイト) とか
副葬処女(ベリアルドール)は傷つかない とか、書けないというのに余計なネタばかり浮かんでくる。誰か代わりに書いてくれたりしないかなぁ|ω・`)チラ

そして眠いのに寝れない゚(゚´Д`゚)゚

15/1/8
「副葬処女は傷つかない」という作品が、このハーメルンにて投稿されている事が判明しました。作者様と読者の方々に謝罪申し上げます。




 

 

つい先刻まで周囲に散らばっていた瓦礫や倒木はもはや欠片も見当たらない。

アテナとウルスラグナの激突により、一帯は更地となってしまっている。

 

「流石は音に聞こえた軍神よ、完全ならざるこのアテナでは敵わぬか」

 

既に息も絶え絶えのアテナ。

いつもなら神聖さを際立てる純白の衣も、粉煙に塗れてその輝きを失ってしまった。

決定的な事にはなっていないが、敗北必至の状況といっていいだろう。

 

「アテナよ、メティスよ、メドゥーサよ、我と我が名を恐れるがいい! ウルスラグナを恐れよ、闇の女王アテナ!」

 

言霊によって攻撃のことごとくを打ち砕かれ、防御すらまともに出来ないアテナ。

せめてゴルゴネイオンを手にした後であったなら、アテナ=メティスとメドゥーサとの相違点から神格を分ける事も出来たかもしれないが、今となってはもう叶わぬ事でしかない。

 

息を吐いて呼吸を整え、仕方がないとばかりに脱力する。

 

「くくっ、諦めたかアテナ?」

「ああ、今の妾ではあなたを打倒せしめる事は出来まいよ」

 

アテナを屠るための黄金の剣を掲げるウルスラグナ。

しかし、絶体絶命なアテナの顔に浮かぶは笑み。

 

「そう、妾ではな……」

 

瞬間、直感に従い剣をアテナのそれより切り替えたウルスラグナは、己に向かう飛来物を切り伏せる。

ウルスラグナを襲ったもの、それは雷を纏った棍棒であった。

 

「これは、メルカルト王の――」

 

ヤグルシにアイムール、工芸神コシャル・ハシスの生み出した武器。

古代都市ウガリットに保存されていた神話において、バアル=メルカルトが所有していた物だ。

 

「選手交代だぜ、ウルスラグナ!」

 

再び振り返れば拳を振りかぶる宿敵、神殺しの姿。

認識と同時に剣で払うが、通常速度のそれでは神速の域にある雷を捉えるには足りなかった。

 

護堂は剣が届く範囲の外まで距離を置いて構える。

 

黄金の切っ先を向けながら周囲を見渡すが、既にアテナは力の届く位置にはいない。

ウルスラグナは護堂に任せ戦線を離脱、自分は代わりにメルカルトの元へ向かったからだ。

 

当滅の寸前で逃げ(おお)せられた状況だが、ウルスラグナに憤りはない。

強者との生死をかけた戦い、その先にあるかもしれない敗北こそが彼の求めるものなのだから。

 

「良かろう、次の相手はおぬしか!」

 

軍神は再びその戦意を高めていく。

黄金の剣は、その容貌を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『小僧の次はおぬしが向かってくるか、アテナ!』

「うむ、妾の神威を示す礎としてくれる」

 

再び向かい合う古き女王と古の神王。

互がかつては王として君臨した者同士、尊厳な弁舌は衰えを知らない。

だがその口調と裏腹に、アテナは眼前の敵に勝算を見い出せないでいた。

 

英雄神ウルスラグナは強敵だった。

敗北寸前まで追い込まれた直接の要因たる黄金の剣にしてもそうだが、それ以外の部分でも彼の軍神は厄介の一言に尽きる。

 

強風、雄牛、白馬、駱駝、猪、少年、鳳、雄羊、山羊、戦士。

十種類の化身を持つという権能の多様性には、まさに開いた口が塞がらないほど。頭が下がる思いとはこのことだ。

いくら猪の化身を倒し力を欠いているとは言え、《鋼》の英雄神は蛇の属性を持つアテナの天敵として君臨している。

 

その彼と凌ぎを削っていたのだから、それなりに消耗もしている。

 

そして、目の前に堂々と佇むメルカルトもまた、ウルスラグナに劣らぬ強さを誇る。

こちらはこちらで、アテナにとって不都合が多い。

 

メルカルトは嵐と雷を象徴する天空神であり、同じく天空神たるゼウスにまつろわされたアテナでは分が悪い。

いかに神話にまつろわぬ身とは言え、その縛りは深く根付いている。

 

更にメルカルトは先ほど自分で言っていたように、バアルという呼び名も持つ神だ。

近年ではグリモワールに記された悪魔としての知名度が高くなっているが、元はカナン人に信仰されていた高位の神。

 

そのバアルだが、神話においてアナトという勝利の女神を妹、あるいは妻に持つ伝承がある。

アナトは戦場において多くの血を浴びた好戦的な戦女神だったが、一方でバアルへの従順さと熱愛でも知られる二面性を持つ。処女性の信仰も得ている彼女のその情愛は、死したバアルの肉を喰らい血を飲み込む程に苛烈で深いものだ。

 

そんな凄惨な印象を受ける彼女だが、処女性を持つ戦女神という共通点からだろうか、名前の響きも近いアテナと同一視される事がある。

天空神の妻という服従の意味を持つその地位からしても、アテナとメルカルトの相性はやはり良くないものだと言っていい。

 

『どうした、向かっては来んのか女神よ』

 

メルカルトもアテナの不利を理解しているのだろう。

焦燥を煽るように問いかけてくる。

 

「無粋な事を申すな、あなたが攻撃を仕掛けるのを待っているのだ」

 

しかしアテナも然る者。

メルカルトの言い草に薄ら笑いすら浮かべて挑発を返す。

 

()かしおるわ、やはり戦女神だけあって気丈である』

 

その安い挑発に乗ってやると言わんばかりに、メルカルトは攻勢に出る。

再び黒雲を呼び集め、アテナを焼き潰さんと稲妻を襲いかからせた。

 

守勢に回るしかないアテナは、しかし簡単に倒れるほどに柔な乙女ではない。

即座に呪力を掻き集め、自らに許された権能を行使する。

 

「父たる神の威光を此処に! アイギスの楯よ、妾を守護せよ!」

 

召喚したのは青銅の楯、主神ゼウスが鍛冶神たるヘパイストスに作らせた防具である。

天空を司り雷を操るゼウスの性質から、空を揺蕩(たゆた)う雲を象徴する代物だ。

 

そして天の怒りたる稲妻は、澱んだ黒雲より落とされる。

その性質を帯びた嵐の楯に、雷が防げない訳が無い。

襲い来る雷撃を受け止め、流し、徐々にメルカルトへと迫っていく。

 

「冥府の刃よ!」

 

もう数歩で手が届くという位置まで距離を詰め、アテナは楯の姿を変える。

形を成したのは長柄の白刃、蛇の口から刃が伸びる大鎌(デスサイズ)だった。

 

鎌は農業において稲を刈る道具。

つまり、生命を刈り取るためのもの。

そこから魂の管理者たる死神の印象が濃い。

 

生命の巡りを司る地母神であるアテナのそれは、(まさ)しく死神の鎌そのものだ。

 

死の空気を纏った刃を、上段に大きく振りかぶる。

そのまま刹那の間も置かずに一閃。躱され、もうひと振り。

 

今度はいつの間にか手の中に戻っていた棍棒で防がれる。

振るい、振るわれ。躱し、躱され。防ぎ、防がれ。

戦女神であるアテナと英雄神であるメルカルト、両者共に戦いの伝承を持つ神ゆえに、その剣戟――交わすのは鎌と棍棒だが――は鮮烈で過激なものとなる。

 

「しぶとい奴め」

『ぬぅ、粘りおる』

 

そんな攻防を続け、乱れてきた呼吸を整えるべく距離を取る。

 

互いの挙動を監視しつつも体を休め、再び切り結ぶべく集中を高めていく。

そうして睨み合いにも限界が訪れようとした時、戦況が一気に傾く。

 

「護堂――!」

 

ただし、もうひと組の方がであるが。

呪力(神気)霧散(昂ぶり)に気が逸れたのはアテナだけでなく、メルカルトの方も興味深げに様子を伺っている。

 

言葉もなく休戦の意思を共有し、戦闘の行方へ意識を向ける。

女神の闇を秘めた瞳には、数多の黄金が(まばゆ)く映る。

 

そして、決着の時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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