女神を腕に抱く魔王   作:春秋

10 / 73
戦闘描写難しい。
臨場感が出てる気しない。





 

 

 

護堂とルクレチアの邂逅から数日。

太陽神の眷属である神と、嵐の支配者たる神。

二つの巨大な神力がぶつかり合い、雲の切れ間から曙光が挿す。

 

「傷はまだ癒えきっておらぬようじゃのう、メルカルト王よ!」

『おぬしこそ化身の一つを滅ぼされたようではないか!』

「覗き見ておられたか、卑しい真似をなさることよ」

『ふん、儂を叩き起した不埒者を見張るのは当然であろう』

 

立ちはだかるのは野性味溢れる大男と、象牙色の肌をした黒髪の少年。

フェニキアの天空神メルカルト、ペルシャの英雄神ウルスラグナ。

二柱の神が立ち会い、決戦の時が近付いていた。

 

「さて、良い時ごろじゃ! 雌雄を決しようぞ!」

『応とも! 此度でカタをつけてくれる!』

 

戦意の高まりに準じて、互の神力がうねりを上げていく。

恐ろしいまでの神威が場を満たし、食い合っている。

 

風が雄叫びを上げ、雷鳴が轟く。

いざ激突!

 

と、思われたとき――両者の間に稲妻が降り注いだ。

 

「その勝負!」

「暫し待て!」

 

雷光と共に大地から現れたのは二匹の蛇。

背を向け合って威嚇(いかく)する双頭の上に、少年少女が佇んでいる。

 

「カンピオーネ、草薙護堂だ」

「まつろわぬ女王、アテナである」

「この勝負、俺たちが預かった」

「文句があるならば申すがよい」

 

神々の戦場に、とある夫婦が降り立った。

 

「カンピオーネ、我ら神に歯向かう愚か者か!」

『アテナとは西欧の女神のはず、何故(なにゆえ)神殺しと意を共にしておる!』

「アテナは俺の嫁だっ、文句あるか!」

「草薙護堂は我が伴侶である、然と心得よ」

 

乱入者を問い質す闘神組に、戦場で大いに惚気る夫婦たち。

普段なら絶対に人前では言わないような事を叫ぶ護堂、やはり神々を前に昂っているからだろうか。

 

「ふははははっ、これは面白い! 良き(かな)、良き哉。おぬしらもまた良き戦士、強者を求めし我には好都合よ!」

『戦場に女を連れ立つとは、腑抜けと言いたいが戦女神とあらば話は別よ! 全員纏めて葬り去ってくれようぞ!』

 

横槍を入れられて憤るどころか哄笑を上げる神々。

元は守護神として祀られる二柱だが、まつろわぬ身では人的被害など気にしないだろう。

 

エリカとルクレチアの口添えで、事情を知った魔術師たちが島民たちを避難させている。

護堂とアテナの役割は、出来るだけ速やかに神々を討伐すること。

 

その為にまず、護堂が動いた。

 

「王の威光たる稲妻よ! 我に牙を剥く愚かなる者に、天の怒りを知らしめよ!」

 

毅然とした口調で唱えるは聖句、神々より簒奪した権能を行使するための宣言にして誓言。

天空神ゼウスより簒奪した権能で、雷霆ケラウノスを行使する。

 

それによって落雷が二柱に降り注ぐが、それぞれが雷を操る者たち。

頭上より襲い来る雷撃を、大した苦もなく制御し叩き返す。

 

「天を支え、大地を広げる者よ。勝利を与える我に、正しき路と光明を示し給え!」

 

ウルスラグナは山羊の化身にて護堂諸共メルカルトに放電して焼き尽くさんとする。

 

『嵐よ、雲に乗る者の召し出しに応じ、疾く来たれ!』

 

メルカルトは雷雲を呼びそれを吸収させ、同じく護堂とウルスラグナに向けて解き放つ。

 

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおお――!」

 

護堂はそれを気合で受け止め、制御を奪い返して支配し、自らの内に招き入れる。

 

「大いなる雷霆は、大いなる神の威光と成らん!」

 

ゼウスの権能の応用。

雷を操るだけでなく、体に呑み込み帯電して神速となる。

 

ただし護堂は未熟ゆえ、落雷に撃たれなければ神速の領域には入れない。

 

この場合は雷神の類が相手だったのがいい方向に働いた。

とは言え――

 

「三者共に雷の申し子とは、興味はそそられるが不毛じゃな」

「そんなこと分かってるよ!」

 

だからこそ、アテナと共にやって来たのだ。

 

「死を(うた)え。死を誘え。死を踊れ。――アテナの下僕(しもべ)は、即ち冥府より来たりし死の御使いなれば!」

 

女王の禍歌(まがうた)が響き渡り、数多の蛇と梟が戦場を埋め尽くして行く。

軍神も神王も、黒く遮られる視界に戦況の動きを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は最強なり! 我は最強にして、あらゆる障碍を打ち砕く者なり!」

 

勝利の聖句によって強風が巻き起こり、闇に染まった視界が晴れ渡って行く。

ウルスラグナが視力を取り戻したとき、目の前にいたのはアテナただひとりだった。

 

「メルカルト王も神殺しの小僧もおらぬ、引き離されたということじゃな」

「然り、あなたを相手取るに妾では不足か?」

「ははっ! 無論、不足である! 我を負かすならば、後の二人も連れて来るのじゃな!」

「減らず口を申すな、妾の相手はあなたには荷が勝ち過ぎている」

「それでは役不足となるか我の力が及ばぬか、試してみるのも悪くない!」

 

折れた木々の散乱する荒地で、静かだが荒々しい戦争が始まった。

 

「木々よ女神を貫くがいい」

「我が翼たち、軍神が尖兵へ向けて矢と翔けよ」

 

まず現れるのは少年の化身。ウルスラグナの言霊に呼応して、倒木が浮き上がりアテナへ殺到する。

アテナもそれに応じ闇を広げ、飛び出た梟がそれを迎撃に向かう。

 

衝突し、木々は砕け猛禽は闇へ還る。

砕け散った木片が更なる猛威となって襲いかかるが、アテナの背で羽ばたいた翼が風を巻き上げ、無数のそれらに宿った神力を祓う。

 

次はアテナが仕掛ける番だ。

 

「我が下僕よ、地より這い出て牙を突き立てよ」

「木々の枝葉よ、空を舞踊り切り刻め」

 

ウルスラグナの足元の地面が蛇に変生して噛み付きに行く。

そうはさせるかと、散らばった葉が回転して大蛇を解体してしまう。

 

周囲の自然を兵隊として扱う天然の戦争という趣向。

そこに愉しみを見出した二名だが、やはり千日手になってしまう。

 

「となれば、いつもの手で行くべきか」

「来るか、あなたを象徴する化身が」

「我は勝利を齎らすもの。これらの呪言は雄弁にして強力なり。我が敵を斬り裂く知恵の剣なり!」

 

ウルスラグナ第十の化身。

黄金の剣を持つ人間の戦士。

神格を斬り裂きまつろわす言霊の剣。

 

最強の武器を持つ勝利の軍神が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

分断されたもうひと組の方といえば。

 

『儂とおぬしの一騎打ちとは、舐めてかかったツケを払わせてやろう!』

「そうは行くかよ!」

 

護堂は帯電による神速状態で果敢に飛びかかっていく。

 

同じ雷の神速ではあるが、アレクサンドル・ガスコインの権能と護堂のそれとでは差異がある。

彼の電光石火(ブラック・ライトニング)が肉体を雷そのものに化身するのに比べ、護堂は帯電するだけで肉体の質量自体は変化しない。だからこそ神速で肉弾戦をして打撃を与えることができる。

 

とは言えど。

 

『貴様如きの拳打など、飛礫(つぶて)と何ら変わらぬわ!』

「くっ」

 

そう。いくら神速の拳と言えど、素人の護堂では大したダメージになり得ない。

神速とは高速で動く加速ではなく、時間を引き伸ばす停滞こそが本質である。

神速のスピードが乗っていれば話が違ったのかも知れないが、それは土台無理な話なのだ。

 

既に幾十と拳を叩きつけたが、メルカルトはビクともしない。

号砲が如き殴打を躱しつつ尚も抗う護堂に痺れを切らしたのか、一気に決着を付けようと奮起する。

 

『早々に幕引きとしよう。ヤグルシよ、アイムールよ、バアルたる我が汝らを求めるぞ!』

 

メルカルトの求めに応えて一対の棍棒が飛来する。

護堂は雷光の如き速さで回避するが、稲妻を纏った棍棒もまた神速となって追い縋る。

 

『ふはは! どうした神殺し、逃げ回っていてもどうにもならんぞ!』

「どうにかなるんだなこれが!」

 

護堂の向かった先では、ウルスラグナが黄金の剣を振りかぶっていた。

 

 

 

 

 




神速(アイン・ファウスト)とは高速で動く加速(オーベルテューレ)ではなく、時間を引き伸ばす停滞(フィナーレ)こそが本質である。
ってルビ入れたかった。
それもこれも三つ巴ルート見たさに買ったAmantes amentesのせいだ。
まだシュピーネさんの死亡までしかやれてないけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。