退き佐久間   作:ヘッツァー

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お気に入り30突破!もうすぐ40!ってコメントを本当なら第八話の時点で書くつもりでしたが、訂正などですっかり忘れていました(笑)申し訳ないm(_ _)m


第九話

「着いたわ、ここが日ノ本有数の貿易都市、堺よ!」

 

元気いっぱいに信奈ちゃんが叫ぶ。

 

「やっと着きましたか・・・。」

 

長秀ちゃんがため息混じりにそう呟く。

 

「疲れた・・・。」

犬千代ちゃんもぐったりしている。

 

そりゃそうだ。1日に十里、kmに直すと40kmを移動しつつ、俺達三人は夜の護衛も交代でやっていたんだから。

堺は尾張から約50里あるそうだ。

馬で行くと遠いな、50里って。

約200kmじゃん。ん?移動の描写?割愛。

 

「では、姫様!」

 

俺は気力を振り絞って元気良く呼びかける。

 

「何?元気ねぇ、どうしたの?」

「俺は宿で寝ておくので終わったら声をかけて下さい。」

 

俺はサラッとそう告げると堺から踵を返して宿へ行こうとした。

 

「なんでよ⁉︎あんたねぇ、堺なんて中々来れるものじゃないのよ?ほら、さっさと南蛮人を探しなさい!」

「は〜い。」

 

はぁ、どうしたものかな。取り敢えず、信奈ちゃんの護衛は昨日の夜に最後の見張りの当番だった俺を抜いて2人が厳戒態勢を敷いてくれるそうなので、俺は南蛮人捜索を任ぜられているのだ。ただ、俺だけに任せるわけにもいかないので、三人は情報収集の為有名な商人達を当たるそうだ。

 

「じゃあ俺いらねえじゃん・・・。」

 

はぁ、と1人ため息をつく。

うーん、取り敢えず人が集まるところに行かないとな。そうして俺は港へ向かうことにした。なんで港かって?

勘。

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港へ着くと、かなり賑わっていた。今の時代、冷蔵庫なんて言葉すら存在しないから生の魚とかは現地でなければ食べられないから、みんな買うんだよな。良く見ると、蛸が置いてあった。蛸ってこの時代から獲れたんだ。そう感心しているとふと思った。この時代って蛸をどんな風に食べてたんだろう?そうして俺は蛸を売ってたおっさんに聞いてみた。

 

「なぁ、おっさん。蛸ってどんな風にして食べたら美味いかな?」

「あ?そりゃニイちゃん刺身も良いがやっぱり茹でてからしと一緒に酒の肴とかだな。」

「てことは、たこ焼きはないんだ。まぁ仕方ないか。」

 

時代が時代だしな。

 

「たこ焼きって、まぁ、焼いてもうまいけどよ。」

「あー違うんだ、ただ焼くんじゃ無くて、えーと、そうだ、少し待ってて下さい。」

「は?」

「あ、すみません、こんな感じの竈を作って火をおこしておいて貰えます?」

「おいニイちゃん何言って、ニイちゃん?おーい!」

「頼みましたよー!」

 

俺はそれをシカトして材料と鉄板を探しに行く。

しばらくして俺が戻ると、本当に竈を作ってくれていた。まさかあの短時間で本当に仕上げるとは、何者だこのおっさん。

 

「おい、何をするつもりなんだ?そんなデコボコした鉄板で?」

 

そう、俺が持っていたのは鉄板で出来た即席のたこ焼き用のプレートだ。

 

「まぁ、見ててくださいよ。あ、蛸貰っていいですか?」

 

そう言いつつ、俺は生地を混ぜ始めた。材料、割と高かったなぁ・・・。

 

「図々しい奴だな、まあいいよ、どうせ水揚げから時間が経ってるから売り物にはならないし、半額でいいぜ。」

 

金は取るんだ、当たり前かぁ。

そうしてプレートを竈にセットし、軽く油を引いて十分に熱を持ったところで生地を流し込み、蛸の切り身を入れてあとはひっくり返すだけ。そうして出来たたこ焼きを皿に移し、ソース、青のり、鰹節をかけて盛り付けていく。驚いたのは、もうすでにソースが輸入されていた事だった。まさかこの時代にソースが存在していたとは・・・。材料費の半分はソースだったと言っても過言ではない。南蛮商品だからね。むしろ安く仕入れられたと思う。

 

「はい、出来上がり〜!熱いうちにどうぞ!」

 

手作りのプレートのせいで形が不揃いだけど。

 

「なんだこの丸っこい玉は?」

「いいからいいから、食ってみてよ。」

 

言いつつ俺が毒味も兼ねて最初に食べる。うん、俺にしては上出来だと思う。

そうしておっさんに視線を向けると、おっさんは俯きながら震えていた。そ、そんなにお口に合いませんでしたか?

 

「お、おっさん?」

 

恐る恐る俺が尋ねると、おっさんはようやく顔を上げた。

その顔は、涙と鼻水でグチャグチャになっていた。

汚ねえ。

 

「お前、なんて美味いもんを作るんだ・・・。」

「よ、喜んでもらえて何よりです。」

 

俺は若干、というかガッツリ引きつつ答えた。

 

「もう俺ァ、いつ死んでも構わねえ・・・。」

 

そこまで⁉︎

「俺ァ、今まで自分さえ良ければ良いと思ってたんだ。でも、それは間違ってたんだな。それに気付かされたよ・・・。」

「まさかたこ焼きに人生観を改めさせる力があったとは・・・。」

 

世界中の人にたこ焼き食わしたら争いは無くなるじゃないだろうか?

そんなことを考えていると、側で事の顛末見ていた人達から次々と、

 

「俺にもそれを食べさせてくれ!」

「それはいくらで売っているの?」

 

と声が上がった。

 

「いえ、これは売り物では・・・。」

 

そう答えていると、不意におっさんに肩を掴まれた。

 

「売ってやってくれ、頼む。竈の恩返しだと思って。」

 

それを言われると、こう、言い返せないよね・・・。

 

「じゃあ、材料が切れるまでは売りますよ。あと、おっさん、手伝って下さい。」

「任しときな!」

 

そうして、俺達のたこ焼き奮闘記が始まった!

何か忘れている様な・・・。何でもないか。


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