退き佐久間   作:ヘッツァー

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少し書き換えました。


第六話

信辰ちゃんに腕をへし折られてから、俺は腕が治るまでの間、信晴さんから兵法とかばっかり習っておりました。

いつまでも知らぬ存ぜぬじゃいけないしね。

も、もちろん、鍛錬自体はしてたよ?

ランニングとかね?あとジョギングとか、散歩、そして散策。

歩いてばっかだな。

信辰ちゃんも信晴さんも、明鏡止水の状態と戦ってよくそれで済んだねって感じだったけど、やっぱり悔しかった。

本当はすぐ明鏡止水の稽古に入りたいとこだったけど、流石に怪我のある状態だと支障が出るらしいんだよね。

まぁ良い機会だし今のうちに兵法習っといてってなったんだ。

 

「はぁ〜、暇だな〜。」

 

俺は、ランニングも終わって一人、尾張領内を散歩していました。

いつまでもここの地理に疎い訳にもいかないし。

 

「ん?」

 

みると、大きな木のところで二人の子供が遊んでいる様だった。

木から何かぶら下がって、ん?あれは・・・子供⁉︎

 

「え〜、何をしてるんだ?」

 

整理しよう。まず、ぶら下がっていない方の子供から。

一人は金髪の子供でいかにも気が強そうだ。恐らく首謀者。

もう一人、紺色の髪の子供。金髪の方よりちっさくて、木にぶら下げられてる子供を哀れむ様な目で見てる。

最後に、ぶら下げられてる子供。緑の髪で、メガネをかけており、いかにもイジメられそうな感じ。

よし、整理完了、イジメだ。

 

「ああいうのは本当は関わりたく無いんだけど・・・。」

 

あれじゃ流石に可哀想過ぎる。

すると、金髪の方が走って何処かへ行ってしまった。

よし、今だ!

俺は縄を解いてやるために近くへ行く。紺色の方がこっちに気付くが、止めようとしない。

緑の方はよく見ると猿ぐつわもされており、かなり本格的に捕縛されていた。可哀想に。

つーか、片腕だから外しにくいな、しかもむーむー言いながら動くから余計に。

 

「ごめん、この縄を解くの手伝ってくれない?」

 

紺色の方は少し迷ったが、すぐに、

 

「わかった、手伝う。」

 

と言ってくれた。良い子だなぁ。

そうして格闘すること五分、やっと縄を解くことが出来た。

 

「ありがとうございます〜、助かりました〜。このご恩は七代末まで忘れません〜。」

「うん、もう捕まるんじゃないぞ〜。」

 

気分は鶴と恩返しだった。

そうして緑の方(竹千代と言うらしい。そう、後の徳川家康だよね!)が去ってから、紺の方が話しかけてきた。

 

「あなた、大丈夫?」

 

そう心配する様に言ってきた。凄く無表情だったけど。

 

「ん?何が?」

「姫様の遊びの邪魔して。」

「え?姫様って、えっと、君、名前は?」

「犬千代。」

 

って、後の前田利家じゃないか!てことは・・・

 

「犬千代ちゃん、もしかして、さっきの子って・・・。」

「尾張の領主、織田信秀殿の娘、吉姫様。」

 

マジか!あれが後の織田信長⁉︎

でも、言われてみると、織田信長を女の子にしたらあんなだろうな、と容易に想像出来る。なんというか、ヤンキーっぽい。パツキンだしね!(←関係ない)

 

「ところで、あなたの名前は?」

「え?ああ、まだ名乗ってなかったね、俺は佐久間信盛って言うんだ。よろしくね。」

「うん、よろしく。」

 

すると、金髪の方、もとい吉ちゃんが戻ってきた。

何故か大きな鍋を持って。

 

「あれ?ちょっと犬千代、ちゃんと見張ってなきゃダメじゃない、折角狸鍋を作ろうとしたのに。」

 

すげえ、開口一番それか。竹千代ちゃん可哀想過ぎる。

 

「ごめん、姫様。この人が。」

 

えっ?そりゃ無いよ犬千代ちゃん!事実だけども!

 

「何?あんた誰よ?」

「あ、俺?俺はこの度新しく士官した佐久間信盛って言うんだよ、よろしく。」

「あぁ、あんたが。で、新しく士官したてのあんたがなんで怪我をしてるのよ?」

「あぁ、これは、その、稽古で・・・。」

「あんたそれで大丈夫なの?」

 

うぅ、ごもっともです・・・。

 

「まぁ、いいわ。今日、私の初陣だから、うん、丁度良いし、あなた、一緒に出陣なさい。」

 

えぇ⁉︎俺腕折れてるんですけど⁉︎

俺が嫌そうなのを感じたのか、若干不機嫌になりつつこう続けた。

 

「何よ、文句がある訳?これは、私の遊び道具を勝手に逃がした罰よ。」

「でも、俺腕が・・・。」

「大丈夫、無理矢理にでも出陣させるから。」

 

うわ、これはまずい事になった。

待って犬千代ちゃん!吉ちゃんの後ろで俺に向かって手を合わせないで!俺これから死ぬみたいじゃん!

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さて、その夜。俺は腕を気にしながら鎧を着て吉ちゃんが待つ那古野城へ向かうと、(片手で馬に乗るのは本当にしんどかった。)既に出陣の準備が整っていた。

 

「吉率いる八百は、吉良大浜の砦にこもる今川軍へ向けて出陣せよ!」

「「はっ!」」

 

下知を飛ばす信秀さんと、それに応える吉ちゃん(元服して織田信奈と名乗ったらしい。少し歴史と違うね。)ともう一人お爺さんが。

あれは多分信奈ちゃんの教育係の平手政秀さんだな。

いかにも好々爺って感じの人だ。

よく見ると犬千代ちゃんや万千代ちゃんもいた。万千代ちゃんは元服して長秀って名乗っているらしい。二人とも信奈ちゃんの小姓になったんだってさ。

そして俺らは吉良大浜を目指して出陣した。ああ、乗馬の練習しといて良かった。本当に良かった。

馬で駆けていると、横に平手さんが寄ってきた。

 

「すまぬ、信盛殿。姫のわがままで・・・。」

「あ、いえ、お気になさらず・・・。」

 

どうやら信奈ちゃんは軍議の際老臣達の意見を一蹴していたらしく、老臣達も同盟を組んでいた水野氏の領内で今川家の領内との境にある吉良大浜ならとなんとか承諾したのだとか。

一発で分かった。この人苦労してるわ。

 

「そして、過ぎた願いかも知れぬが、どうか、姫を後押ししてあげて欲しい。姫は、今織田家内でうつけと呼ばれ厳しい立場にある。何卒、何卒お頼み申す!」

 

ポッと出の俺にすら頼む所を見ると、相当ヤバイみたいだね。

 

「うん、分かった。もとよりそのつもりだよ。」

「そ、それは誠か!」

「大丈夫、というかそれよりまずは俺がちゃんと武将になれるように後押ししてよ。」

「む、そうでしたな。これは失敬。ちと早計すぎました。」

 

そうして平手さんと話しているうちに吉良大浜に着いていた。

すると先頭から丹羽ちゃんが駆けつけて、

 

「姫様!今川軍は大浜羽城に立て篭りました!」

 

と報告した。すると信奈ちゃんは迷いなく、

 

「火矢を放ち、その後すぐ撤退するわよ!」

 

と下知を下した。俺は知っていたんだけど、平手さん達は面食らっていた。

 

「姫様、何故到着してすぐ撤退など・・・?」

「分からない?敵は援軍を待っているのよ?挟撃される前に撤退するわ!」

 

そこで平手さんはハッとした様に目を見開いた後、

 

「はっ!」

 

と言い、丹羽ちゃんと共に兵に指示を下しに行った。

そして撤退の時、平手さんの目は来る前と違って自信に満ち溢れていた。まるで自分の目に狂いは無かったと語る様に。

そして俺は家に帰ってから、初めてに帰りが遅い事を怒られた。

そういえば、出陣のこと言ってなかったな・・・。


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